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2012年6月24日日曜日

書評 『ヤシガラ椀の外へ』(ベネディクト・アンダーセン、加藤剛訳、NTT出版、2009)-日本限定の自叙伝で名著 『想像の共同体』が生まれた背景を知る




名著『想像の共同体』の著者で東南アジア比較政治学者アンダーセンの日本限定の自叙伝

社会科学の古典的名著 『想像の共同体』で有名な、東南アジア比較政治学者ベネディクト・アンダーセンの「日本限定」の学問的自叙伝である。

タイトルの意味は、「大学や母国といった "ヤシガラ椀" の外に出よ」ということ。「ヤシガラ椀のなかの蛙」ということわざは、日本の「井の中の蛙」に似ているがニュアンスがやや異なるらしい。しかし、著者によれば、東南アジアのインドネシアとタイでは、ほぼ同じ意味の表現があるというのも興味深い。

この自叙伝が「日本限定」なのは、英語圏では学者が自伝を書くことはほとんどないため、英語で発表することは著者自身が望んでいないためだという。だから、オリジナルの原稿は英語であるが、日本語版だけが出版されたのである。

欧米では政治家はかならずメモワールを書き残すが、それは政治家にとっては「歴史に対する義務」であるとみなされているためである。学者による自叙伝が当たり前の日本語環境ではなかなか想像しにくいことだが、欧米においては学者はそうではないらしい。

弟子であり訳者でもある加藤氏と編集者に口説き落とされて、なんとか重い腰をあげて、日本の若い研究者のためになるとして英語で執筆したものであるという。日本語がよめる読者はじつに幸いだ。

「何かが違う、何かが変だという経験は、私たちの五感を普段よりも鋭くし、そして比較への思いを深めてくれる。実は、フィールドワークが、自分が来たところに戻ってからも意味がある理由は、ここにこそある。フィールドを通して観察と比較の習慣を身につけ、やがて自分の文化についても、「何かが違う、何かが変だ」と考え始めるように促され、あるいは強いられるようになるからだ。前提になるのは、注意深く観察し、絶え間なく比較し、そして人類学的距離を保つ、ということだ」(P.143)

比較による観察については、これほど明確に書かれたものはないのではないかと思われる一節である。

また、ナショナリズム論の名著『想像の共同体』が書かれた背景を明らかにしている箇所がじつに興味深い。先行するナショナリズム論の多くは、戦後英国に集まっていた左派のユダヤ系知識人によってなされたものが大半であったというのは、意外と知られてない話だろう。

アイルランド人の血を引く著者の大英帝国に対するつよい違和感国民統合の原理であるナショナリズムに対する一筋縄ではない思いが、ただたんに学問的な関心である以前にアイデンティティそのものに由来するものであることが理解される。

東南アジア、とくにインドネシアを中心にして、タイやフィリピンに知的な関心を抱いている読者にとっては、研究者以外もぜひ読んでおきたい内容の本だ。

繰り返すが、こんな内容の濃い学問的自叙伝を読める日本語読者は、じつに恵まれているのだ。日本語限定だからこそ書けた内容なのかもしれなからだ。


(ヒシャクとしてつかわれるヤシガラ椀 タイで筆者が購入)


<初出情報>

■amazon書評「名著『想像の共同体』の著者で東南アジア比較政治学者アンダーセンの日本限定の自叙伝」投稿掲載(2012年4月4日)

*再録にあたって大幅に書き直した







<書評への付記>

『想像の共同体』など

本来はインドネシア研究者であった著者は、スハルト体制のもと入国拒否となり、仕方なくタイやフィリピンとの比較研究を余儀なくされるが、しかしこれが名著を生み出すことにつながったのである。

訳者による補足もあわせて読むと、英国と米国の大学のあり方の違いなどインサイダー的な情報もじつに興味深く読むことができる。

この自叙伝を読んでいると、アンダーセンが受けたギリシャ語とラテン語の古典語教育がいかに大きな意味をもっているかがわかる。けっして現在の米国や日本の大学からはでてこない学者であることが理解されるのだ。そして、もはやでてこないであろうことも。

いまさらながらではあるが、ナショナリズム論の古典的名著、『想像の共同体』(Imagined Communities)について簡単にふれておこう。

すでに社会学の古典的名著として定着している『想像の共同体』は、内容をかいつまんで要約すれば、「国民」というものは自明の存在ではなく、構築されたものだということである。「国家」があるから「国民」があるわけではなく、「国家」という社会的機構に意味を与えるものが「想像された共同体」である「国民」なのだ。

これは日本にあてはめて考えてみればよく理解できることだろう。江戸幕府が倒れて明治維新体制が成立した時点に、「日本国民」が存在したわけではない。義務教育と徴兵制を実施し、日清戦争と日露戦争という二度の対外戦争をつじて、ようやく「国民」意識が形成されたのである。

こうして形成された日本国民であるが、しかしながら実体として「国民」が存在するわけではなく、あくまでも自らがそう思うからそうである過ぎないのだ。国家による国籍と国民意識がかならずしも一致しないのはそのためである。だから「国民国家」(nation-state)というのは、「国家」と「国民」の合成語なのである。

だからこそ、イスラームの少数派であるシーア派が過半を占めるイラクでは、宗派を越えた「国民国家」が定着しなかっただけでなく、アメリカによる軍事介入によって開いてしまった地獄の蓋は依然として完全に閉まることなく、現在に至るまで情勢が落ち着かない原因となっている。むしろシーア派の中核国家であるイランの求心力がつよく、サッダーム・フセインのもとにおいても完成にはほど遠かったイラク国民の形成は、ふたたび振り出しに戻ってしまったわけである。            
あまりにもおおざっぱな説明であるが、『想像の共同体』(白石隆・白石さや訳、書籍工房早川、2007)については、ぜひ読んでほしいと思う。それがむずかしいのであれば、『新・現代歴史学の名著-普遍から多様へ-』(樺山紘一編、中公新書、2010)に、『想像の共同体』の翻訳者の一人であるインドネシア研究者の白石隆教授が『想像の共同体』について簡潔な紹介文を寄稿しているので、ご覧になっていただきたい。

米国のコーネル大学がなぜ、東南アジア研究の中心になっているのか、この自叙伝では書かれているが、アメリカにおける社会科学と政治の関係という観点からも興味深い。コーネル大学には、日本の大企業からも東南アジア要員が研修生として送り込まれてきたことは、意外と知られていないようだ。









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(2014年5月22日 情報追加)





(2012年7月3日発売の拙著です)









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