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2015年5月28日木曜日

映画 『アルプス-天空の交響曲-』(2013、ドイツ)を見てきた(2015年5月28日)-360度のパノラマでみる「アルプス地理学」


『アルプス-天空の交響曲-』という2013年製作のドイツ映画を見てきた。ヨーロッパの七ヵ国にまたがるアルプス山脈を上空から撮影した93分の映像作品である。

セリフも効果音もいっさいなくナレーションがあるのみ。しかもナレーションは日本語。女優の小林聡美によるもの。つまりナレーションは吹き替えである。

上空から撮影した映像はまさに360度のパノラマ。ときにズームイン、そしてまたズームアウトする距離の取り方も面白い。登山家ではない圧倒的多数の一般人にとって、アルプスの頂上からの眺めがこんなに素晴らしいのか!と感じさせてくれる。

シネフレックス・カメラというヘリコプター搭載の軍事偵察用カメラで撮影したらしい。軍事技術もこういう活用も可能だということだ。


英語版のタイトルは、A Symphony Of Summit: The Alps From Above(=頂上交響楽-上空から見たアルプス)。ドイツ語のタイトルは、Die Alpen: Unsere Berge von oben(=アルペン-上空から見たわれらの山々)である。

日本語版は英語版から作製したのかもしれない。シンフォニー(=交響楽)というコトバをタイトルに入れた方が、英語圏の人間にも日本語圏の人間にもアピールするものがあると考えたのだろう。たしかに交響楽ともいうべきすばらしい映像だ。

(ドイツ語版ポスター)

だが、ドイツ語版のタイトルに注目してほしい。Die Alpen: Unsere Berge von oben(=アルペン-上空から見たわれらの山々)である。

アルプスは、ドイツ、オーストリア、フランス、イタリア、スロベニア、リヒテシュタイン、スイスの7カ国にまたがるのだが、この映像作品の中心は、スイスとオーストリアである。Unsere Berge(=われらの山々)というのはそういう意味だろう。

ドイツ語版のタイトルにあるとおり、この映像作品は交響楽(=シンフォニー)というよりも、「アルプス地理学」ともいうべき作品だ。

最初は圧倒的な映像の力に感嘆するが、いきなり地球温暖化によって氷河が溶ける危機にあること、そして氷河問題とは本質的に水問題であることを知ることになる。

氷河が消えてゆくことで地面がむき出しになった山岳の崩壊スピードアップ、降雪量が減少していることによるウインタースポーツの危機、水力電力のために建設されたダム湖と下流域の水不足・・・。いかにもドイツ的な環境問題への警告といった内容が随所にちりばめられている。

この映画は、生きた「アルプス地理学」の教科書なのだ。そう見るべきなのではないかと、途中まで見ていて思った。

自然地理学をベースに、人文地理学、経済地理学、産業地理学のテーマが取り上げられている。自然科学をベースとしながらも、自然と人間とのかかわりを水平的に、つまり人間とその環境である自然、そして自然をいかに人間が利用してきたかについて、過去・現在・未来を水平的に取り扱っているのである。

歴史学がディアクロニック(=通時的)なものとすれば、地理学という学問はサンクロニック(=共時的)なものだ。アルプス周辺国にとっては、アルプスとは過去・現在・未来という時間の堆積(=歴史)が刻み込まれた存在である。

そしてヨーロッパ以外の人間にとっては、ヒマラヤ山脈についても想起することになる。急峻な山脈は、アルプスもヒマラヤも、ともにもともと海底にあった地層が褶曲によって地上にせり上がって形成されたものであり、地球温暖化のために氷河が消えつつある問題も共通している。

この映画は、宣伝文句とは違って、環境問題とは自然と人間のかかわりの問題なのだということを、あらためて喚起してくれるものとなっている。もちろん映像はすばらしい!






<関連サイト>

映画 『アルプス 天空の交響曲(シンフォニー)』公式サイト(日本語版)

アルプス 天空の交響曲<シンフォニー> Facebookページ

映画 『アルプス 天空の交響曲(シンフォニー)』予告編(日本語版)

DIE ALPEN - UNSERE BERGE VON OBEN - Trailer deutsch(ドイツ語版トレーラー)
・・ドイツ語版のナレーションは男性による


* この映画では取り上げられていない「アルプスの南側」にあるスロヴェニアの美しい自然は、スロヴェニア出身の思想系バンド Laibach(ライバッハ)のミュージック・ビデオ Laibach - Opus Dei (Life is Life) Official Video を視聴するとよい。

(2015年7月11日 情報追加)


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1980年代に出版された、日本女性の手になる二冊の「スイス本」・・・犬養道子の『私のスイス』 と 八木あき子の 『二十世紀の迷信 理想国家スイス』・・・を振り返っておこう 
・・現在から30年前はまだスイスは観光先としてしか認識されていなかったようだ。そういう現状認識への異議申し立ての内容でもある

書評 『スイス探訪-したたかなスイス人のしなやかな生き方-』(國松孝次、角川文庫、2006 単行本初版 2003)

書評 『ブランド王国スイスの秘密』(磯山友幸、日経BP社、2006)-「欧州の小国スイス」から、「迷走する経済大国・日本」は何を教訓として読み取るべきか

書評 『レッドブルはなぜ世界で52億本も売れるのか-爆発的な成長を遂げた驚異の逆張り戦略-』(ヴォルフガング・ヒュアヴェーガー、長谷川圭訳、日経BP社、2013)-タイの 「ローカル製品」 を 「グローバルブランド」に育て上げたストーリー
・・現代オーストリアを代表する企業の一つとなったレッドブル

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