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2015年12月29日火曜日

映画 『完全なるチェックメイト』(2014年、アメリカ)をみてきた(2015年12月27日)-米ソ冷戦時代を背景に世界チャンピオンとなったアメリカ人天才チェスプレイヤーの半生を描いたヒューマンドラマ


映画 『完全なるチェックメイト』(2014年、アメリカ)を東京・日比谷のTOHOシネマズ・シャンテでみてきた(2015年12月27日)。米ソ冷戦時代を背景に、チェスの世界チャンピオンとなったユダヤ系アメリカ人の天才(prodigy)の半生を描いたヒューマンドラマである。

この映画のハイライトは、なんといっても頂上対決となった1972年の世界チャンピオン決定戦。東側世界の代表であるソ連のチェス・チャンピオンのボリス・スパスキーと、西側世界の代表である米国のチェスチャンピオンのボビー・フィッシャーの、チェスボード上の死闘である。

頂上対決が行われたのはアイスランドの首都レイキャヴィク。頂上対決が行われた1972年は、ベトナム戦争末期。世の中は騒然としていたが、チェスプレイヤーには世の中の動きなど眼中にはない。ひたすら対決相手の棋譜を研究し、猛烈な演算スピードで自分の打ち手を考え抜くにもみだ。

原題は、Pawn Sacrifice となっている。チェスには詳しくないとこれだけではピンとこないが、調べてみるとポーン(pawn)とは、チェスの駒のひとつで将棋でいえば「歩」(ふ)にあたるものだ。直訳すると、「ポーンの犠牲」となる。

『研究社英和辞典』には、以下のように説明されている。

【チェス】 ポーン,歩 《★ 1 ますずつ前に進む; ただし最初に動かす時は 2 ます進むこともできる; 斜め前の敵を捕獲する

(チェスの駒のひとつ「ポーン」 wikipedia掲載画像を筆者加工)


主人公のボビー・フィッシャーは、アメリカ生まれのユダヤ人。実際の人物がどうだったのかはさておき、映画の設定では両親は離婚し、母親はロシア出身のユダヤ系インテリで共産主義シンパとなっている。母子間の会話は英語だが、母親とその友人関係の会話はロシア語で行われている。

主人公ボビー・フィシャーのロシア嫌い、ソ連嫌い、共産主義嫌いのルーツがそこらへんにあることを暗示しているようだ。ボビーのチームに、チェス有段者の黒衣のカトリック司祭が同行しているのも、バチカンが反共姿勢をとっていた冷戦時代という時代背景を考えると不自然さはない。

そもそもチェス以外にはほとんど関心がないという天才肌の人物で、日本流にいうならチェスの神様に魅入られた男というべきだろう。つまるところパラノイア(=偏執的)で、限りなく狂気に近い天才ということだ。

日本公開版の公式サイトには、ボビー・フィッシャーは以下のように記述されている。

Bobby Fischer/ボビー・フィッシャー (1943年3月9日~2008年1月17日) アメリカ、シカゴ生まれ。チェスの世界チャンピオンになるも、あえてタイトルを放棄したり、事実上の国家反逆罪で国を追われ、長年にわたり世界を放浪するなど、その謎めいた行動をとり、数奇な人生を送った人物としても有名。2000年代初頭には日本の蒲田でも生活していた。晩年はスパスキーとの世界戦をおこなったレイキャビクで余生を送る。2008年、奇しくもチェス盤の目の数と同じ64歳で死去。

(米国版のポスター)

『ビューティフルマインド』の主人公の数学者ナッシュを髣髴(ほうふつ)とさせるものがある。おなじく米ソ冷戦時代の人物だが、最終的には回復してノーベル賞を受賞したナッシュと比べると、ボビー・フィッシャーは狂気の果てまで言ってしまったのか、とう気がしなくもない。

原題は、Pawn Sacrifice となっているが、犠牲にしたのはポーン(=歩)だけでなく、自らの人生だったのかもしれない。世界チャンピオン獲得の代償はあまりにも大きかったというべきか。

チェスに詳しくないわたしのような人間でも、手に汗握りながらおおいに楽しむことができた。





<関連サイト>

映画『完全なるチェックメイト』公式サイト PAWN SACRIFICE

トビー・マグワイア主演 映画『完全なるチェックメイト』予告編(YouTube)


Jew or Not Jew: Boris Spassky
・・母親がユダヤ系というウワサは本人が否定、とある

Jew or Not Jew: Bobby Fischer
・・母親がユダヤ系なのでユダヤ人なのだが、本人は反ユダヤ的な言動が多い、とある


<ブログ内関連記事>

■チェスと勝負事

書評 『謎のチェス指し人形「ターク」』(トム・スタンデージ、NTT出版、2011)-18世紀後半のオートマトンにコンピュータとロボットの原型をさぐる「知の考古学」

書評 『修羅場が人を磨く』(桜井章一、宝島社新書、2011)-修羅場を切り抜けるには、五感を研ぎ澄ませ!


冷戦時代の米ソ関係

書評 『ランド-世界を支配した研究所-』(アレックス・アペラ、牧野洋訳、文藝春秋、2008)-第二次大戦後の米国を設計したシンクタンクの実態を余すところなく描き切ったノンフィクション

書評 『ソ連史』(松戸清裕、ちくま新書、2011)-ソ連崩壊から20年! なぜ実験国家ソ連は失敗したのか?

書評 『バチカン近現代史-ローマ教皇たちの「近代」との格闘-』(松本佐保、中公新書、2013)-「近代」がすでに終わっている現在、あらためてバチカン生き残りの意味を考える
・・「反共」の立場から、バチカンと米国は同床異夢のタッグを組んでいた

⇒ 映画のなかにでてくるチェスプレイヤーの黒衣の司祭の存在は・・

「JFK-その生涯と遺産」展(国立公文書館)に行ってきた(2015年3月25日)-すでに「歴史」となった「熱い時代」を機密解除された公文書などでたどる
・・ケネディ時代にキューバをめぐって米ソは一触即発の危機を体験した


ロシア系ユダヤ人

書評 『グーグル秘録-完全なる破壊-』(ケン・オーレッタ、土方奈美訳、文藝春秋、2010)-単なる一企業の存在を超えて社会変革に向けて突き進むグーグルとはいったい何か?
・・創業経営者の一人セルゲイ・ブリンはソ連から米国に移住した数学者の息子

資本主義のオルタナティブ (3) -『完全なる証明-100万ドルを拒否した天才数学者-』(マーシャ・ガッセン、青木 薫訳、文藝春秋、2009) の主人公であるユダヤ系ロシア人数学者ペレリマン
・・「数学をつうじて神に近づこうとする姿勢」

書評 『ロシア革命で活躍したユダヤ人たち-帝政転覆の主役を演じた背景を探る-』(中澤孝之、角川学芸出版、2011)-ユダヤ人と社会変革は古くて新しいテーマである

本の紹介 『ユダヤ感覚を盗め!-世界の中で、どう生き残るか-』(ハルペン・ジャック、徳間書店、1987) 
・・プログラミング能力と『タルムード』の議論で培われたユダヤ的発想との親和性


天才の運命

映画 『イミテーション・ゲーム』(英国・米国、2014年)をみてきた(2015年3月14日)- 天才数学者チューリングの生涯をドイツの暗号機エニグマ解読を軸に描いたヒューマンドラマ

最近ふたたび復活した世界的大数学者・岡潔(おか・きよし)を文庫本で読んで、数学について考えてみる
『ビューティフルマインド』の数学者ナッシュのような・・




(2012年7月3日発売の拙著です)








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