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2023年10月10日火曜日

書評『戦争プロパガンダ10の法則』(アンヌ・モレリ、永田千奈訳、草思社、2002)ー 「常識」にしなくてはならないのは、第1次世界大戦で英国が実行したプロパガンダの分析から得られた「教訓」

 
また戦争があらたに始まった。今度は中東である。イスラエルである。


それは一昨日、西暦でいえば2023年10月7日早朝のことだ。

イスラエルはシャバト(安息日)で、ユダヤ教の祝祭日である「シムハット・トーラー」であった。「律法の感謝祭」と日本語で表現だされているこの祝日は、1年かけて読み上げたトーラー(=モーセ五書)があらたな一巡が始まる日である。

そんな安息日に、ガザ地区の武装勢力ハマスによる陸海空の武力攻撃が行われたのだ。


■イスラエルの「9・11」(Israel's 9/11)

3000発を超えるロケット攻撃に鉄壁だったはずの防空システム「アイアン・ドーム」が機能不全、検問所を突破してイスラエル領内に1000人を越える戦闘員が潜入、野外コンサート会場を襲撃、このほか複数箇所で一般市民を人質にとり、あるいは殺害したのである。許しがたい蛮行である。卑劣としかいいようがない。

2023年10月10日現在、イスラエル側の死者は900名を越え、2000人以上が負傷しているという。この数字は、さらに増大する可能性がある*。兵士を含めた数百名の市民が人質として捕らえられたままになっている。

*2023年10月12日現在、イスラエル側の死者は1,300人まで増えている。

暫定的に October 2023 Gaza−Israel conflict と命名されている今回の軍事衝突*は、イスラエル側の虚を突かれた形となり、イスラエルでは大きな衝撃となっている。イスラエルの「9・11」だとする声もあがっている。磐石な防衛体制を敷いていたはずのイスラエルがなぜ?

2023 Israel–Hamas war と変更された(2023年10月13日 確認)

即座に首相が「戦争状態」を宣言、ガザ地区に対して報復としての空爆が実行され、テロリストのハマスの指導者が殺害されたことは当然というべきだが、不幸なことに一般市民も巻き添えになって数百人が死んでいる*。いつの時代も、戦争当事者双方にとって犠牲となるのは一般市民である。

*イスラエル側の死者とほぼ同数が犠牲になっている。

イスラエルではただちに予備役が招集され、30万人が動員されている。まずは人質を奪還することが最優先になるが、大規模な戦争に発展する可能性が高い。すでに北部国境にはレバノンからヒスボッラーの攻撃が始まっている。

2022年2月から始まった「ウクライナ戦争」に加え、黒海の南側からさほど遠くないイスラエルでの戦争。このほか小規模な軍事衝突を含めたら、いま世界全体が戦争の脅威にさらされつつある。

この日本もまた、中東に劣らぬ危険地帯である。中国共産党による台湾侵攻がいつ始まるかわからない状態であり、日本の西側の大陸にはロシアと北朝鮮を加えた「シン悪の枢軸」が形成されているからだ。

戦争はこちらが望んでいなくても、いきなり始まる。「サプライズ・アタック」だけは避けなくてはならない。スキを見せてはいけないのだ。


■「サプライズ・アタック」で「戦争プロパガンダ」のフル回転が始まる

こんなときだからこそ、想起しなくてはならないのは戦争のプロパガンダ十戒である。武力をともなわないプロパガンダは、「宣伝弾丸」として「実弾」と表裏一体の関係にある。

ハマスを支持するアラブ諸国からも、イスラエルは言うまでもなくイスラエルを支持する米国を初めとする先進諸国からも、どちらの側からもフル回転する「プロパガンダ・マシーン」から、陰謀論も含めてつぎからつぎへと政治宣伝が行われ、プロパガンダが流されることになるだろう。

すでにその影響は現れている。米国の仲介で、イスラエルとの関係正常化に向けての話し合いが進んでいたサウジアラビアが交渉中断を発表している。「アラブの大義」を前面に出されてしまったら、「アラブの盟主」にはその世論には抗すべくもないということだろう。

そして、その双方において、識者なる者がつぎからつぎへと、まことしやかな言説を垂れ流すことになるだろう。さまざまな印象操作が行われることになるだろう。なんといってもSNS時代だ。ニセ情報も簡単に拡散される。日本国内においても、それは容易に想像されることだ。

今回のハマスによる攻撃は、イスラエルにとっては「9・11」というべき「サプライズ・アタック」であった。

22年前の「サプライズ・アタック」であった、「9・11」が起こった2001年に原著が出版され、その翌年に日本版がでた『戦争プロパガンダ10の法則』(アンヌ・モレリ、永田千奈訳、草思社、2002)という本で紹介されたものだ。それ以来、この本はさらに文庫化されて読み継がれている。

まずは「戦争プロパガンダ10の法則」を掲示しておこう。

1.「われわれは戦争をしたくない」
2.「しかし敵が一方的に戦争を望んだ」
3.「敵の指導者は悪魔のような人間だ」
4.「われわれは領土や覇権のためではなく偉大な使命のために戦う」
5.「われわれも意図せざる犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる」 
6.「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」
7.「われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大」
8.「芸術家や知識人も正義の戦いを支持している」
9.「われわれの大義は神聖なものである」
10.「この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である」


『戦争プロパガンダ10の法則』は、それぞれの法則について、2001年現在での過去の事例を引いてきて解説を加えたものだ。22年後の現在では、さらに事例を加えなくてはならないだろう。

著者はベルギーの歴史家で、本来の専門は宗教史とマイノリティの歴史である。イタリア系である。ブリュッセル自由大学で「歴史批評」の授業で取り上げられたテーマだという。

ベルギーのブリュッセルで出版された原著は、フランス語の Principes élémentaires de propagande de guerre. Morelli, Anne, 2001 である。日本語版は原題の直訳となっている。




先にも触れたように、「戦争プロパガンダ10の法則」は、英国貴族のアーサー・ポンソビー卿(1871~1946)の「戦争プロパガンダ十戒」(ten commandments of propaganda)にインスパイアされたものだ。『戦時のウソ』(Falsehood in War-Time)という著書に掲載されているという。

参考のために英語の原文を掲載しておこう。太字ゴチックにした単語に注目して欲しい。evil(悪)、cause(大義)、traitor(裏切り者)などのキーワードがでてくる。

1. We do not want war. 
2. The enemy alone is to be blamed for the war. 
3. The enemy is inherently evil, resembling the devil. 
4. We defend a noble cause, not our own interest. 
5. The enemy commits atrocities on purpose; our mishaps are involuntary. 
6. The enemy uses illegal weapons
7. We suffer small losses, those of the enemy are enormous. 
8. Artists and intellectuals back our cause
9. Our cause is holy, it has a sacred character. 
10. Whoever doubts our propaganda, is a traitor.


『戦争プロパガンダ10の法則』の冒頭の「ポンソビー卿への感謝」で著者はこう書いている。

ポンソンビーは平和主義者であり、当然のことながら、戦争を残虐きわまりない、暴力的で野蛮な行為として捉えている。だが、彼が自著で語っているのは、それだけではない。第1次大戦中、イギリス政府は、あらゆる国民に義憤、恐怖、憎悪を吹き込み、愛国心を煽り、多くの志願兵をかき集めるため(当時、イギリスでは兵役が義務ではなかった)、「嘘」をつくりあげ、広めた彼はその「嘘」を暴こうとしたのである。(・・・中略・・・)中心となるのは、ノースクリフ卿の指揮のもと、母国イギリスが行った戦争プロパガンダの分析である。


『プロパガンダ戦史』は、戦争プロパガンダをつくる側の立場から、『戦争プロパガンダ10の法則』はプロパガンダを見破る側の立場から書かれたものだ。その意味では、この2冊は対(つい)として読むべき本である。

なぜなら、戦争を仕掛けてくる「侵略側」だけでなく仕掛けられた側にとっても「防衛戦争」の必要から「戦争プロパガンダ」を唱える必要がでてくるからだ。

したがって、一概に「戦争プロパガンダ」は悪であるとは言えないのである。重要なことは、それがプロパガンダであることを認識し、自分が取るべき言動を見極めることにある。

戦争が状態下しつつある状況では、それが「戦争プロパガンダ」であることを認識するために、「戦争プロパガンダの十戒」を知っておく必要がある。戦争であろうと、テロであろうと、それはおなじである。

現代社会に生きるわれわれにとって、メディアリテラシーを高め、SNSなどネットの海で溺れることなく身を処すための「常識」となっていなくてはならない。




目 次 
また戦争プロパガンダが始まったーー日本語版に寄せて
ポンソビー卿への感謝
第1章 「われわれは戦争をしたくはない」 
第2章 「しかし敵側が一方的に戦争を望んだ」 
第3章 「敵の指導者は悪魔のような人間だ」 
第4章 「われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う」 
第5章 「われわれも意図せざる犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる」 
第6章 「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」 
第7章 「われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大」 
第8章 「芸術家や知識人も正義の戦いを支持している」 
第9章 「われわれの大義は神聖なものである」 
第10章 「この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である」 
ポンソビー卿からジェレミー・シェイへ
原註

著者プロフィール
アンヌ・モレリ(Anne Morelli)
歴史学者。1948年ベルギー生まれ。ブリュッセル自由大学歴史批評学教授 
Anne Morelli (born in 1948, also known as Anne Mettewie-Morelli) is a Belgian historian of Italian origins, specialized in the history of religions and minorities. She is currently assistant director of the Interdisciplinary center for study of religion and secularism ("Centre interdisciplinaire d'étude des religions et de la laïcité") of the Université Libre de Bruxelles (ULB), where she is a teacher.

日本語訳者プロフィール
永田千奈(ながた・ちな) 
1967年、東京生まれ。翻訳家。
(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


・・テロリストにはかれらなりの大義はあるとはいえ





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2023年10月9日月曜日

書評『プロパガンダ戦史』(池田徳眞、中公文庫、2015 初版1981年)ー 戦時の宣伝工作であるプロパガンダは英国に生まれソ連に継承された


『プロパガンダ戦史』(池田徳眞、中公文庫、2015)を読むと、プロパガンダは第一次世界大戦の英国から始まり、ソ連を中心とする共産圏へと継承されていったことがわかる。

初版は1981年に出版された中公新書だが、ながらく入手不能となっていた。ようやく2015年に文庫化されて入手が容易になった。

それ以後、先駆的な取り組みを行った「日本人による、日本人のためのプロパガンダ入門」として、古典としての位置づけを与えられたわけである。

著者の池田徳眞(いけだ・のりざね)氏は、第2次大戦中には外務省ラジオ室で諸外国の短波放送を傍受する仕事を統括し、陸軍参謀本部駿河台分室で英米の捕虜を使った対敵謀略放送「日の丸アワー」を指導した人物である。

まさに生き字引というべき存在であるわけだ。

5年前に読んだがブログにアップし損ねていた。あらためて今回書いてみることにする。


■近代のプロパガンダは英国生まれ

冒頭に著者が参考にした英国のプロパガンダの原典ともいうべき『クルーハウスの秘密』からの引用が記されている。

宣伝とは、他人に影響をあたえるように物事を陳述することである

「対敵宣伝の3冊」として著者が紹介する本の3番目のものである。第1次世界大戦における宣伝本部「クルーハウス」の活動を、その責任者が大戦後の1920年に公表したものだという。この本については「第3章 対敵宣伝の教科書」でくわしく解説されている。

このように、対敵宣伝を意味するプロパガンダは英国で生まれ、英国で発達したものである。

さすが、エリザベス1世女王の寵臣であった17世紀のウォルシンガム卿が元祖スパイマスターとされる英国である。近代的な意味におけるプロパガンダが第1次世界大戦時の英国で生まれたのは、当然というべきかもしれない。

著者があげている『是でも武士か』は、第1次世界大戦時に日本人向けに出版されたプロパガンダ本である。「イギリスの秘密宣伝本部が日本を狙って撃ち込んできた、恐るべき宣伝弾丸である」と著者はいう。

大戦中の1916年に丸善から出版されたこの本は、その目的は「日本人のもつ親ドイツ感情を叩きつぶ」すことにあった。著者は「戦時の残虐宣伝の不朽の名著である」とする。3万5千部も売れたというから驚くべきことだ。

実際に、第1次大戦時の日本はドイツの租借地であった青島(チンタオ)を攻略、一般庶民にいたるまで反ドイツ感情が高まっている英国のプロパガンダは大成功を収めたわけである。ちなみにこのプロパガンダ本の翻訳者は柳田國男だという。柳田の知られざる側面を見るような気がする。

「宣伝者は質問を出し、結論は相手に考えさせる、という原理をよく守っている」と著者は指摘している。「宣伝とは質問である」と。

ヒトラーが英国を礼賛していたことは、『わが闘争』を読むとよくわかる。わたしは数年前にはじめて通読して、それをつよく感じた。第1次大戦における英国の対外宣伝を知り、英国をリスペクトしていたヒトラーは、ほんとうは英国とは戦争したくなかったのだ。


■プロパガンダには国民性が反映される

「第4章 各国の戦時宣伝態度」では、先進各国のプロパガンダの特性が分類されていて興味深い。

「ドイツは論理派」「フランスは平時派」「アメリカは報道派」「イギリスは謀略派」「ソ連はイギリスの亜流」とある。

おなじ英語圏といっても、本家本元の英国とくらべると、米国は英国の極意を学んでいないのが不思議だという。どうやらある種の「国民性」の違いがクセとして現れているようだ。

よく調べてみると、イギリスは第1次大戦でも第2次大戦でも、初めから敵の崩壊過程を頭に描いていて、その線に沿って宣伝をしている。(・・・中略・・・)イギリス人の宣伝態度を煮詰めていくと、イギリスは「謀略派」ということになる。

近代的なプロパガンダは第1次世界大戦の英国から始まり、ソ連を中心とする共産圏へと継承されていったわけである。

第1次世界大戦中に起こった「ロシア革命」で生まれたソ連体制が、共産主義の宣伝を行ってきたわけだが、ソ連については、著者は「プロパガンダが上手かというと、そうでもない」という。

その理由は、英国から学んだにもかかわらず、英国が得意とする臨機応変さを欠いており、「イギリスの宣伝者には、次にどんな手を打ってくるかわからないという気味悪さがある」が、ソ連のそれにはないからだ、と。

2020年代に生きているわれわれは、ロシアによる「情報工作」にさらされているわけだが、1981年が初版の本書で指摘された点が、現在のロシアにどこまであてはまるのか、よくよく考えてみる必要がありそうだ。

もちろん、歴史的な発展プロセスを踏まえた比較検討が必要なことはいうまでもない。


■プロパガンダは日々進化している

「戦時における宣伝工作」について扱った内容だが、もちろん戦時以外の平時でも応用可能である。プロパガンダをつくる側の手の内を知っていれば、容易にだまされるはずはない

とはいえ、プロパガンダの原型は変わらないとしても、手を変え品を変えあらたなものが投入されつづけている。

人をだますのはよくないとしても、すくなくとも自分がダマされないという心構えをもつことは現代社会に生きるうえで不可欠である。

いかにダマされないか、いかにダマされた振りをしているか、これまた日々の精進が必要であるな、と。





目 次 
第1章 外務省のラジオ室 
 ロンダヴァレーへの旅
 ラジオ室の大活躍
 敝之館(へいしかん)の人びと
 アメリカ国内放送の傍受
 対敵宣伝の3冊の名著
第2章 第一次世界大戦の対敵宣伝
 初期のプロパガンダ
 フランスのプロパガンダ
 ドイツのプロパガンダ
 イギリスのプロパガンダ
第3章 対敵宣伝の教科書
 『武器に依らざる世界大戦』
 『是でも武士か』
 『クルーハウスの秘密』 
 『対敵宣伝放送の原理』のヒント
第4章 各国の戦時宣伝態度
 ドイツは論理派
 フランスは平時派
 アメリカは報道派
 イギリスは謀略派
 ソ連はイギリスの亜流
 対敵宣伝の適格者 
第5章 第二次世界大戦の対敵宣伝
 各国の放送宣伝戦
 ドイツ映画『オーム・クリューガー』 
 アメリカ作の日本語新聞と伝単
 平時の激烈な宣伝戦
 ヨーロッパ破壊株式会社
付録 『対敵宣伝放送の原理』 
参考書
あとがき
解説(佐藤優)

著者プロフィール
池田徳眞(いけだ・のりざね)
1904(明治37)東京に生まれる。徳川十五代将軍徳川慶喜の孫にあたり、旧鳥取藩主池田氏第十五代当主。東京帝国大学文学部を卒業した後、オックスフォード大学に留学、旧約聖書を研究。帰国後、外務省、陸軍参謀本部、日本赤十字社等に勤務。外務省ラジオ室では諸外国の短波放送を傍受する仕事を統括し、陸軍参謀本部駿河台分室では、英米の捕虜を使った対敵謀略放送を指導した。1993年(平成5)没。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


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2020年8月9日日曜日

書評『日本人はなぜ自虐的になったのか ― 占領とWGIP』(有馬哲夫、新潮新書、2020)― 敗戦後75年にも及ぶ日本の病理を考える



暑い日が続いている。夏だから当然だとはいえ、暑い夏にはほんとうに消耗させられる。そんな夏の暑い日に広島と長崎に原爆が投下され、日本は「敗戦」したのだ。今年2020年で75年前のことになる。

この時期にふさわしいテーマが戦争ものだ。『日本人はなぜ自虐的になったのか-占領とWGIP』(有馬哲夫、新潮新書、2020)を読了。占領時代のものもまた、広い意味で戦争ものといっていいだろう。 

日本人の主観的意識においては「終戦」であるが、「敗戦」によって「終戦」したことは否定しようのない歴史的事実である。だが、その「敗戦」の仕方がまずかったのだろう、なぜか現在に至るまで日本人から自虐意識が抜けない。これは病理現象というべきだろう。

なぜそんな状態が続いているのか? その根源は「敗戦」後の米国による7年間に及ぶ占領時代にある。1945年から1952年までの7年間だ。

本来は「条件付き降伏」であったにもかかわらず、「無条件降伏」だと思い込まされてきた日本国民戦争に罪悪感をもち、侵略戦争と防衛戦争の区別もなく戦争を悪とみなす思い込みをもつ日本国民。こういったマインドセット(=精神のあり方)が形成されたことの背景にあるのはなにか。

著者は、それを米軍による「心理戦」に求めている。二度と米国に刃向かわないように、日本人のマインドを改変すること。そこまでやらなければ、戦争目的が遂行されたとは見なさない。そういう姿勢である。米国による「日本改造」が、そのミッションであった。それはほぼ成功したといってよいだろう。

「終戦の詔勅」によるポツダム宣言の受諾は8月15日だったが、正式に降伏文書に署名したのは9月2日である。この事実までは、比較的知られていることだろう。だが、それですべてが終わったわけではないのだ。戦闘は終わったが、戦争は継続していたのだ。

日本の占領統治にあたったのは、連合国軍のなかでも米軍が中心であったが、その米軍の「心理戦」の中核にあったのが WGIP である。War Guilt Information Program の略だ。「戦争を罪悪(ウォー・ギルト)と思い込ませる情報プログラム」とでもなるのだろうか。「プロパガンダ」である。「洗脳プログラム」である。米国の都合のいいような日本を作り上げるプログラムである。

WGIP については以前から取り上げられ、糾弾的な姿勢で論じられてきたてきたが、賛否両論にわたって論争がかまびすしい。存在そのものを否定する論もあるが、著者の有馬氏は米国の公文書館に保存されている第1次資料に基づいた調査研究を行った。その成果が本書である。

マスメディア(当時は、新聞・ラジオが中心、しかもラジオはNHKしかなかった!)と映画の活用、その後に導入されたTVもまた「反共」を目的に米国が積極的に普及させたものだ。繰り返し視聴することで、知らず知らずのうちに価値観が刷り込まれていく。

日本政府が正式に命名した「大東亜戦争」を使用させず、「太平洋戦争」だと思い込ませるようマスメディアをつかった刷り込んだのはその一例だ。太平洋戦争はあくまでも米国の観点にしか過ぎないのに、このネーミングのせいで日本人は「先の大戦」における中国大陸と東南アジア(当時は南洋)について忘却しがちである。

そして極めつけが学校教育であった。教育ほど「洗脳」が効果的に行われる場所はないからだ。マスコミュニケーション理論の「回路形成理論」(チャネリング)が活用されたのである。

「回路形成」とは、著者の表現をつかえば、「やわらかい土の上に水を流すと、溝が形成され、そのあと何度水を流してもおなじ溝を流れることになる」ことである。事実の解釈の枠組みが脳内に回路として形成され、しかも固定してしまうのだ。

アタマがまだ柔らかいうちに回路が形成されてしまうと、ほぼ一生にわたって、おなじ回路を情報が流れることになる。その最大の「被害者」ともいうべきなのが、団塊世代(1947~1949年生まれ)である。

だが、無意識レベルで刷り込まれているので、その世代の人びとは自分たちが「被害者」であることはもちろん、「加害者」であるという意識すらない。繰り返し蒸し返される慰安婦問題などの負の遺産は、そもそも問題そのものを作り出したのは日本人であって、韓国人はそれを利用しているに過ぎないのだ。

慰安婦問題もそうだが、原爆報道もそうだし、尖閣問題という「いま、そこにある危機」が迫っているにもかかわらず、相も変わらず戦争反対を唱える平和ボケの敗北主義者を生み出している根源には、占領時代の米軍による心理戦とWGIPがあったことは、歴史的事実としてしかと認識すべきであるのだ。

著者の立ち位置は、あくまでもファクトベースのものであって、特定のイデオロギーに立脚するものではない。

「WGIPコミンテルン陰謀説」を主張する「歴史戦」論者たちとは一線を画していることは、特記しておくべきだろう。朝日新聞だけでなく産経新聞もまた批判しているのは、フェアな態度だというべきである。


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目 次 
まえがき 
第Ⅰ部 今ここにあるWGIPマインドセット 
第1章 日本のマスメディアと教育は歴史的事実を教えない 
第2章 なぜいまWGIPなのか 
第3章 WGIPマインドセットの理論的、歴史的証明 
第Ⅱ部 占領軍の政治戦・心理戦はどのように行われたのか 
第4章 ボナー・フェラーズの天皇免責工作と認罪心理戦 
第5章 ケネス・ダイクと神道指令 
第6章 ドナルド・ニュージェントと国体思想の破壊 
第7章 心理戦は終わらない 
第Ⅲ部 WGIPの後遺症 
第8章 原爆報道に見る自虐性 
第9章 慰安婦問題に見るWGIPの効き目 
第10章 WGIPマインドセットの副産物「平和ボケ」 
あとがき 


著者プロフィール
有馬哲夫(ありま・てつお)
1953(昭和28)年生まれ。早稲田大学社会科学総合学術院教(公文書研究)。早稲田大学第一文学部卒業。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得。2016年オックスフォード大学客員教授。著書多数。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)




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