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2020年8月1日土曜日

書評 『日本経済予言の書-2020年代、不安な未来の読み解き方』(鈴木貴博、PHPビジネス新書、2020)-覚悟を決めながらも諦めないという相矛盾するマインドセットが、コロナ後に生きる日本人には求められている


「コロナ後を考える」といっても感染症そのものについてではない。経済についてだ。 

日本の場合は当然のことながら、世界全体を見回しても、たとえ感染爆発が進行しようが、圧倒的多数の人間は生き残るのである。 

だが問題は、パンデミックを生き残ったとしても、経済的に死んだのでは意味がない。失業率と自殺率にはかなり高い相関関係があるとされている。2020年以降の経済がどうなるのか、社会がどうなるのか想定内にしておく必要があるのだ。 

そんな観点から、『日本経済予言の書-2020年代、不安な未来の読み解き方』(鈴木貴博、PHPビジネス新書、2020年7月)という本を読んでみた。

基本的に、新型コロナウイルスによるパンデミックは、それ以前に進行していた諸問題が顕在化する契機となったというスタンスである。

コロナだから問題になったのではなく、コロナによって、もはや避けて通れない問題となったという意味だ。コロナによって問題の進行が加速する、という意味だ。 

目次を紹介しておこう。 

第1章 コロナショックでこれから何が起きるか 
第2章 なぜトヨタは衰退するのか 
第3章 気候災害の未来はどう予測されているのか 
第4章 アマゾンエフェクトが日本の流通を破壊する日 
第5章 確実に起きる人口問題の不確実な解決方法 
第6章 半グレ化する大企業とアイヒマン化する官僚たち 
第7章 日本崩壊を止めるには 

経済社会にかんするものと、ビジネスにかんするものが順不同になっているが、関心のある項目だけ読んでもいいだろう。

とはいえ、ビジネスの変化が経済の変化をもたらし、ひいては社会全体を変化させると捉えるべきであり、それぞれが密接な関係にあることは押さえておかねばならない。

基本的に、どう考えたって世の中は悪くなる、のである。これは避けられないことだ。とくに日本は自然災害大国であり、地球環境問題の影響をモロに受ける立場にある。人口も減少傾向にある。機械化・自動化だけでは対応不可能だ。移民受け入れは避けて通れない。 

だが、こういった事象は、この著者じゃなくても、ある程度までは誰もが考えることだろう。予測の手法に従って、ロジカルな推論を行えば、ある程度までおなじような結論がでてくるものだからだ。 

面白いと思ったのは、「第6章 半グレ化する大企業とアイヒマン化する官僚たち」だ。コンプライアンスを遵守する大企業は自社にとって都合の悪い面は外部化して中小企業に押しつけ、官邸支配下にある官僚は命令にのみ従う「アイヒマン」となっている、その弊害だ。この章だけでも読む意味はある。 

このほか、なかなか面白い分析と指摘がちりばめられているので、一読の価値のある本である。すべてに賛成するわけではないが、まあだいたいのところその通りだろうな、と。ただし、処方箋にかんしては異論も多かろう。 

間違いなくそうなるであろうという「予言」と、人間の意志によって変えることのできる「予言」の2つがある。前者はコントロール不能だが、後者はコントロール可能だ。そう考えて、覚悟を決めながらも諦めないという相矛盾するマインドセットが、コロナ後に生きる日本人には求められているのではないかと思う次第だ。 

いずれにせよ、すべてを想定内にして、事なかれ主義には陥らないことだ。主体的に動かなくては道は開けない。




PS 日本政府が酒の提供制限にこだわり、「1兆の損より10兆の損」を選ぶ謎
(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)

最後にざんげしておきます。5月末でコロナが収束して6月以降、日本経済は回復すると想定したわたしの未来予測は完全に外れました。政府や都がここまで狂ったように経済を止めに来るとはわたしは想定していませんでした。その点でまだまだわたしは未熟です。 

(2021年6月19日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

JBPressの連載コラム第74回は、「繰り返される中国とイタリアの悲劇的な濃厚接触-パンデミックはグローバリゼーションを終わらせるのか」(2020年3月24日)

書評 『ペスト大流行-ヨーロッパ中世の崩壊』(村上陽一郎、岩波新書、1983)-感染症爆発とトビバッタの大発生による食糧危機は同期する!?

書評 『ウイルスの意味論-生命の定義を超えた存在-』(山内一也、みすず書房、2018)-こういう時期だからこそウイルスについて知る

映画『コンテイジョン』(米国、2011)を見た-その先見性の高さに脱帽



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2016年6月6日月曜日

書評『続・100年予測』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、ハヤカワ文庫、2014 単行本初版 2011)-2011年時点の「10年予測」を折り返し点の2016年に読む


『続・100年予測』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、ハヤカワ文庫、2014)という本の凄さに感嘆している。

オバマ政権の外交政策である「オバマ・ドクトリン」が明らかになってきたいま、2011年に出版された「10年予測」(The Next Decade:次の10年)を目的にした本書の内容の正しさが、つぎつぎと実証されつつあることに戦慄さえを覚えるのだ。

2011年の原書出版後、『激動予測-「影のCIA」が明かす近未来パワーバランス-』というタイトルイで早川書房から出版されたものを、タイトルを『続・100年予測』と変更して2014年に文庫化されたものだ。販売戦略として、ベストセラーとなった『100年予測』を意識したものだ。

ただし、100年という超長期の予測と、10年という長期の予測では本質が異なる地政学的要因でほぼすべてが説明可能な「100年単位」の話と、そのときの政治指導者の個性や行動がおおいに影響を与える「10年単位」の話では性質が大きく異なるのだ。

この本を読むと、オバマ政権末期の外交軍事戦略がよく見えてくる。多くの読者もそう思うことだろう。

オバマ政権2期目の末期近くになって実現したのが、宿敵イランとの「核問題の包括的解決」、キューバとの国交正常化など、つぎからつぎへと事態が進展しているが、本書で説かれている内容を後追いしているかのような印象さえ受けるのだ。このほか、復活したロシア、蜜月であったはずのイスラエルとのあいだで拡がる距離感などなど。

オバマ政権は就任当初から核廃絶など理想主義的な姿勢で出発したが、結局は現実主義の観点に至ったというべきだろうか。いや理想は掲げつつ、現実的に実行するという姿勢に落ち着いたというべきか。

その現実的な対応の背景にあるのが、米国が「意図せざる帝国」になっているという著者のスタンスと、世界のいたるところにコミットせざるをえない米国のとるべきスタンスが勢力均衡策(=バランス・オブ・パワー)である。いわゆる価値観外交ではなく、古典的な外交軍事戦略である。

本書は、「意図せざる帝国」となった米国がとるべき戦略について、なぜそのような戦略をとるべきかというロジックを説得力ある議論として展開している。それが本書の読みどころである。


「意図せざる帝国」(Unintented Empire)とは、じつにうまい表現だ。もはやそう簡単には孤立主義をとれないほどの巨大な存在となっている米国は、世界の隅々にまでコミットせざるをえない帝国という「現実」と、共和国という「理念」のコンフリクトに揺れる存在である。

「共和制」であり、「連邦制」である、というのが独立以来の米国の建国理念であり、この基本を守り抜くために南北戦争という内乱や、海外の戦闘で多くの血を流してきたのである。つまり米国は理念国家としての性格がつよい。

理念を守り抜くためには現実的にならざるを得ない。現実的な策を実行するためにはパワーの裏付けが不可欠だ。ただしパワーには限界があり、効果的な資源配分を行う必要がある。

そのためには戦略的に重要なポイントと、かならずしもそうではないポイントを区分し、同盟関係をつうじた合従連衡も行う。そして、この合従連衡は、環境の変化に応じて柔軟に組み直すことが必要となる。

そしてまた、戦略的に重要な地域で強力なパワーが発生して米国の国益を脅かさないように、競合関係にある勢力を互いに牽制させるという勢力均衡策という古典的な手法をとることも必要となる。

ブッシュ・ジュニア政権でテロに直面した米国は、国民の不安感情を抑えるためにテロ対策にのめり込み、戦略の常道から逸脱してしまう。思わずクチにしてしまった「十字軍」という表現が、価値観の戦争であることを無意識に示してしまった。

イラクへの介入がイラクじたいの弱体化を招き、中近東におけるイラクとイランによる勢力均衡を破綻させてしまったのである。アフガニスタンへの介入もまた、インドとパキスタンとの勢力均衡にはマイナス要因として働く。

そのツケをオバマ政権が負うことになったわけだが、オバマ政権もまた理想肌ゆえに対話を重視したものの、結局は勢力均衡策という現実的な対応をとらざるを得なくなったわけだ。

本書で特筆すべきなのは以下の諸章である。じつに読み応えがある。

第6章 方針の見直し-イスラエルの場合
第7章 戦略転換-アメリカ、イラン、そして中東 
第8章 ロシアの復活
第9章 ヨーロッパ-歴史への帰還
 EUの危機とドイツの再浮上 ロシアとの相互補完
第10章 西太平洋地域に向き合う
 日中のパワーバランス
第13章 技術と人口の不均衡


東アジア情勢にかんしては、不安定化を避けながらも日中を競合させる勢力均衡策を米国がとっっている理由もよく理解できるが、韓国を過大評価している印象が残る。これは多くの日本人読者が抱く感想ではなかろうか。オバマ政権も末期になればなるほど、米国と韓国の距離は拡がる一方だ。この点で、フリードマン氏の予測は外れている。


オバマ政権の2期目の末期となった2016年後半のいま、レイムダック視される状態にもかかわらずオバマ政権がじつは戦略の常道を進んでいる。出版後すでに5年を経過した現在は「次の10年」の折り返し点にあるわけだが、予測の正しさがこの時点で実証されたといえるのである。

だが、トランプ大統領誕生となったら、米国はどうなるのか? 米国の圧倒的影響圏にある日本はどうなるのか?

『カミング・ウォー・ウィズ・ジャパン-「第二次太平洋戦争」は不可避だ-』(徳間書店、1991)などの著書をもち、日本に対してシビアな姿勢を崩さないジョージ・フリードマン氏であるが、その見解を欧州情勢だけでなく、日米中の三角関係を中心にみたアジア情勢としてまとめていただきたいものである。的確で厳しい視点こそ日本には必要だからだ。





目 次

日本版刊行によせて-地震型社会、日本(ジョージ・フリードマン)
まえがき
序章 アメリカの均衡をとり戻す
第1章 意図せざる帝国
 アメリカの皇帝
 帝国の現実に対処する
 アメリカの地域戦略
第2章 共和国、帝国、そしてマキャヴェリ流の大統領
第3章 金融危機とよみがえった国家
第4章 勢力均衡を探る
 イラクの賭け
 イランの複雑性
第5章 テロの罠
 テロはどれほど深刻な脅威か
 テロと大量破壊兵器
第6章 方針の見直し-イスラエルの場合
第7章 戦略転換-アメリカ、イラン、そして中東 地域の心臓部-イランとイラク
第8章 ロシアの復活
 ロシアの恐れ
 ロシアの再浮上 アメリカの戦略
 ロシアをどう扱うか
第9章 ヨーロッパ-歴史への帰還
 EUの危機
 ドイツの再浮上 アメリカの戦略
第10章 西太平洋地域に向き合う
 中国、日本、そして西太平洋
 中国と日本 日中のパワーバランス アメリカの戦略-時間稼ぎ
 インド、アジアのゲーム
第11章 安泰なアメリカ大陸
 対ブラジル、アルゼンチン戦略
 メキシコ
 アメリカの対メキシコ戦略
第12章 アフリカ-放っておくべき場所
第13章 技術と人口の不均衡
第14章 帝国、共和国、そしてこれからの10年
謝辞
訳者あとがき
解説 「帝王」への忠言にして、帝国の統治構造の暴露の書(池内恵)



<関連サイト>

The Obama Doctrine The U.S. president talks through his hardest decisions about America’s role in the world. (By JEFFREY GOLDBERG The Atlantic APRIL 2016 ISSUE)

Coming to Terms With the American Empire Geopolitical Weekly APRIL 14, 2015
・・帝国は意図してなるものではない。共和制ローマも、アメリカもまた?

A Net Assessment of Europe Geopolitical Weekly MAY 26, 2015

A Net Assessment of the World Geopolitical Weekly MAY 19, 2015

World War II and the Origins of American Unease Geopolitical Weekly MAY 12, 2015
・・大恐慌とパールハーバーに不意打ちされたアメリカ。核戦争への備えを用意したマインドセット・・・
China's New Investment Bank: A Premature Prophecy Global Affairs APRIL 22, 2015


<ブログ内関連記事>

書評 『100年予測-世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図-』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、早川書房、2009)-地政学で考える
・・「地理的・環境的制約条件という人間が変えることのできない絶対的制約条件からみたら、個々の政治指導者の行動など、長期的にみれば重視する必要はない、というのが地政学の立場に立った著者の基本姿勢である。経済学が個々のプレイヤーに注意を払わないのと同じだ、と。
 1492年のコロンブスの大航海に始まって1991年のソ連崩壊までの500年にわたって続いた、大西洋世界を中心とした西欧による「世界システム」が終わり、大西洋と太平洋の制海権をともに支配する地理的条件にめぐまれ、世界最大かつ最強の海軍力をもつにいたった米国に「世界システム」が始まったという認識
 安価で大量輸送が可能な海上交通を保護するには、海軍力による制海権がモノをいうからである。1980年代に、太平洋貿易が大西洋貿易を上回ったことが、覇権交代を象徴的に物語っている。著者の認識を一言でいえば、「アメリカは衰退寸前であるどころか、上げ潮に乗り始めたばかり」(P.374)ということで
 ユーラシア大陸とは異なり、南北戦争という内乱を例外として、建国以来200年以上にわたって本格的な侵略を受けたことがないという地政学的条件から考えると(・・「9-11」は攻撃だが、侵略ではない)、次の500年続くかどうかはわからないが、少なくとも今後100年は米国の覇権が続くと考えたほうがいいのかもしれない。」

書評 『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる-日本人への警告-』(エマニュエル・トッド、堀茂樹訳、文春新書、2015)-歴史人口学者が大胆な表現と切り口で欧州情勢を斬る
・・「リーマンショック」後のユーロ危機のなかから浮上したのは強国ドイツ

書評 『ドイツリスク-「夢見る政治」が引き起こす混乱-』(三好範英、光文社新書、2015)-ドイツの国民性であるロマン派的傾向がもたらす問題を日本人の視点で深堀りする
・・ドイツとロシアの相互補完関係

書評 『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』(遠藤誉、WAC、2013)-中国と中国共産党を熟知しているからこそ書ける中国の外交戦略の原理原則
・・「本書の特徴は、とかく日中関係という二国関係だけでものをみがちな日本人に、米中関係という人きわめて強い人的関係をベースにした二国関係の視点を提供してくれている点にある。中国問題は、すくなくとも日米中の三カ国関係でみなければ見えてこない。「大型大国間関係」という、G2=米中二国間関係にちらつくキッシンジャーと習近平の親密な関係、アメリカの世論にきわめて大きな影響力をもつ在米華人華僑の存在、アメリカの中国重視政策と日米同盟のズレなど、米国の中国政策を前提にしないと日中関係も見えてこない。」


■未来予測を事後に検証する

『2010年中流階級消失』(田中勝博、講談社、1998) - 「2010年予測本」を2010年に検証する(その1)

『次の10年に何が起こるか-夢の実現か、悪夢の到来か-』(Foresight編集部=編、新潮社、2000) - 「2010年予測本」を2010年に検証する(その2)



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(2022年6月24日発売の拙著です)

(2021年11月19日発売の拙著です)


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2010年3月26日金曜日

『次の10年に何が起こるか-夢の実現か、悪夢の到来か-』(Foresight編集部=編、新潮社、2000) - 「2010年予測本」を2010年に検証する(その2)




『次の10年に何が起こるか-夢の実現か、悪夢の到来か-』(Foresight編集部=編、新潮社、2000年9月30日)をとりあげよう。

 月刊情報誌『フォーサイト』が、2010年4月号をもって休刊することになったことはすでにこのブログにも書いたことである。月刊「フォーサイト」休刊・・フォーサイトよ、お前もか?参照。その後、ウェブで今年夏をメドに再開する計画らしいが、印刷媒体での復活は実現するかどうか不透明である。

 「夢の実現か、悪夢の到来か 次の10年を読み解く80の質問」、と表紙に印刷されている。1990年に創刊し、20年後の2010年に「休刊」することとなった『フォーサイト』、今から振り返れば、ちょうど折り返し地点の2000年に出版された意欲的な出版物が、『次の10年に何が起こるか-夢の実現か、悪夢の到来か-』である。

 この10年で何が発生したか、『フォーサイト』にとっての最大の事件は、何よりもこの本の編者である『フォーサイト』自体が「休刊」に追い込まれたことだろう。これはきわめて象徴的な出来事だ。もちろんこの件は、2000年に出版された本書には書き込まれていないが、「想定外」だったと弁明するのだろうか。

 この本の一番最後に収録された「実践的未来予測のススメ」という、作家・水木楊による論文には次のような文章がある。水木氏は、シミュレーション小説の第一人者として紹介されている。

自分の人生でも、会社のこれからでもいい。できるだけ恐ろしい悪夢を描いてみることをお勧めする。・・(中略)・・最悪のシナリオを描けば描くほど、何をすべきか、してはならないかが見えてくる。・・(中略)・・
シナリオを描けば、未来はやってくるものではなく、選び取るものであることが分かってくる。・・(中略)・・いわば「建設的悲観論」と言ってもいい。予測するとい、意志をもつということである。意志なき予測は、ただの戯れ言でしかない。(P.300)

 最悪の事態は想定していたとは思うが、事業の撤退もまた必要である。採算にのせることが難しいと判断して休刊、とあったから苦渋の決断であったろう。担当責任者にとっては残念なかぎりだろうが(・・この気持ちは痛いほどわかる)、しかしながら経営判断としては間違いとはいえない。

 ただ出版業界で使う「休刊」や、企業スポーツの世界で使われる「休部」というまやかしの表現は好ましくない。実質的に「廃刊」であり「廃部」である。大東亜戦争で「撤退」を「転進」といいかえたような欺瞞を過じるのである。

 本来は、「フォーサイト」の20年、などのタイトルで、20年の歴史を総括すること求められるのではないか。その際には、本書の総括も行っていたっだきたいものだ。


 さて、内容の大見出しだけ紹介しておこう。80の質問すべてを再録していては長くなりすぎるので、割愛させていただく。

●特別インタビュー① 塩野七生-「日本再生のためにローマ人から何を学ぶか」
●特別インタビュー② スティーブ・ケース(AOL会長)-「次に目指すのはインターネットによる“ニュー・プロフィット”だ」)
●次の10年を読み解く80の質問 PART 1
 ①「唯一の超大国」アメリカの行方
 ②日米経済再逆転は起こるか
 ③中国は本当に「21世紀の超大国」となるのか
 ④インターネットがもたらすのは豊かさか格差か
 ⑤日本の改革は成功するか
 「アメリカ編」
 「中国」編
 「ロシア」編
 「ヨーロッパ」編
 「中東」編
●次の10年を読み解く80の質問 PART 2
 「日本」編
 「環境」編
 「生命工学」編
 「科学」編
 「スポーツ芸能」編
●編集長インタビュー①寺島実郎(三井物産戦略研究所所長)
●編集長インタビュー②船橋洋一(朝日新聞コラムニスト)
●編集長インタビュー③ピーター・タスカ(アーカス・インベストメント取締役)
●編集長インタビュー④梅田望夫(ミューズ・アソシエイツ社長)
●次の10年を動かす注目の80人 PART 1
●次の10年を動かす注目の80人 PART 2
●民族宗教世界地図2001
●徹底分析・一年予測「2001年、世界と日本はこう動く」
●実践的未来予測のススメ(水木 楊)
●「未来年表2001‐2010」(監修=水木 楊)


 本書に戻ろう。塩野七生のインタビュー記事が、10年後の現在でもそのまま通用するのは、彼女が2000年単位の話をしているからだろう。元祖「歴女」とでもいうべき塩野七生の発言は、きわめて洞察力のあるものなので、この文章の最後に引用をおこなっておく。 

 一方、作家の木下玲子による、AOL会長スティーブ・ケースのインタビューが収録されているが、いまから振り返るとスティーブ・ケースって誰?ってかんじだな。ドッグイヤーだからというよりも、回線業者がメディアを丸呑みするという戦略仮説が完全に破綻したということだ。一時期AOL TIME WARNER なんて名前の会社になっていたのだが。

 この戦略(仮説)を猿まねした、ライブドアによるフジテレビ買収攻勢や楽天による TBS 買収攻勢も、「♪ そんな時代もあったねと・・・」というようなお話だろう。兵(つわもの)どもが夢の後? 

 もちろん、事業経営は実験室内での実験ができないので、仮説は実際にやってきて検証するしかない。それにしても、だ。回線業者はコンテンツをもつ意味はない。モチはモチ屋、というのがこの巨大な「社会実験」の結論である。結局儲かったのは投資銀行だけか。

 副題の「夢の実現か、悪夢の到来か」、これは悪夢の到来、というべきだろうか。正直いって希望はほとんど失われたが、しかしまだ絶望には至っていないという状況だろうか? いずれにせよ結論は「夢か悪夢か」・・・もちろん人によって異なるだろう。

 それにしても、10年程度でも予測というのは難しいものだと思う。人間は、現在の延長線上にしか将来をみることしかできないから、どうしても現在のホットイッシューに目がいってしまう

 20年どころか10年ですら常識が通用しなくなるわけだ。
 私がこのブログに書いた、書評『100年予測-世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図-』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、早川書房、2009)を読んでいただきたい。こういうことを書いている。

序章で著者が指摘しているように、現在の常識と固定観念に邪魔されて、20年後どうなっているかすら本当のところ想像もできないというのが、ごくごくフツーのことなのだ。「未来に通用しなくなると確実にわかっているのは、現在の常識なのである」(P.22)。

 ということで、私は2010年の現時点において、2020年予測本や2030年予測本は軽くあしらうことにした。どうせ当たらないに決まっているからね。

 それよりも超・長期のトレンドをみたほうがいいと考えている。大きな流れを押さえた上で、目先の行動の是非を判断していく。

 確実に予測できるのは人口トレンドだけである。大前研一のメルマガ『ニュースの視点』2010/3/24 特別号に掲載されていた【20年前にみた日本と今の日本。そして今考える20年後の日本~自分で未来を明るくする努力を!】に、「人口ピラミッドの推移」(1930年~2055年) が紹介されている。国立社会保障・人口問題研究所によるものである。日本の人口分布を1930年から10年きざみ(・・2000年以降は5年きざみ)で2555年まで、アニメーションによってシミュレーションできるようになっている。見るとぞっとしないのだが、怖いもの見たさでクリックして見ていただきたい。現実をしっかりと見据えることからしか、何事も始まらないからだ。

 それはともあれ、10年後確実なことは、私もあなたも10歳余計に年をとっていること。これは20年後も同様、そしてそれ以後は・・・私にはわかりません。



<参考>

 ●特別インタビュー① 塩野七生-「日本再生のためにローマ人から何を学ぶか」から、塩野七生のコトバを抜粋して引用しておこう。「2000年単位」の思考法についての箴言の数々だ。(太字ゴチックは引用者によるもの)

塩野 日本人は垂直(歴史)思考が不得手なために、それ以前の80年代後半、日本経済の調子が少しばかり良かったので舞い上がってしまったところがあります。

塩野 私としては、ごく自然にローマに向かったのです。『ローマ人の物語』を書き始めるまでの20年間、ルネサンス時代を書いてきました。ルネサンスというのは、価値が崩壊した時期の人間が次の価値をどう生み出そうかという運動でした。・・(中略)・・そのルネサンス精神を基盤にして西欧文明が出来上がってから500年がたった。その最後の20世紀末にわれわれはいる。そして再び価値観の崩壊という危機にわれわれは直面しているわけですねある意味で、500年続いたルネサンス人の時代も終わりを迎えたとも言えます

塩野 たとえば、ギボン『ローマ帝国衰亡史』を18世紀の啓蒙主義時代に書いた。・・(中略)・・当時のイギリス人として学ぶべきことは、どうすればローマのように衰退しないですむか、という一事だけだった。そこでギボンは、ローマの衰亡史のみをとりあげたわけ。
---ローマ帝国の後半部ですね。
塩野 ええ。ギボンはイギリスはローマを超えたと思っているので、ローマ帝国の興隆期のことは書く必要などないと思ったのでしょう。・・(中略)・・1848年にはヨーロッパ各地で革命が勃発・・(中略)・・この混迷の時代にモムゼンというドイツ人の歴史家が、建国からカエサルの死までの、ローマの興隆期を書くのです。まだドイツが統一されていない時期でしたから、なぜローマが統一し興隆できたかを、知りたいという痛切な欲求があったんですね。これが、ギボンのものと並んで現代に至るまでのローマ史の名著の一つであるモムゼン『ローマ史』が書かれた背景です。
 モムゼンはローマ建国から、カエサルの死までを書き、ギボンは、五賢帝最後の人であるマルクス・アウレリウス帝の死から西ローマ帝国の滅亡を描いた。なぜか、アウグストゥスからマルクス・アウレリウス帝までの全盛期が抜けているのです。

塩野 日本は、キリスト教文明圏では、一種の辺境に位置しているので、かえって純粋化される傾向がありますね。キリスト教というのは、なにか上等な人々の宗教というイメージが強い。しかし、『ローマ人の物語』で繰り返し書いたように、一神教というのは、諸悪の根源であったと私は思っています。

塩野 日本人はすべてを自前でやろうとし過ぎる。ある種のことは別の人に任せた方がいい。異種、異分子ともっと接触しないと駄目なんですよ。どの時代でも同じですが、純粋培養の組織は必ずつぶれますよ。



<ブログ内参考記事>

『2010年中流階級消失』(田中勝博、講談社、1998) - 「2010年予測本」を2010年に検証する(その1)

書評『100年予測-世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図-』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、早川書房、2009)






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2010年3月25日木曜日

『2010年中流階級消失』(田中勝博、講談社、1998) - 「2010年予測本」を2010年に検証する(その1)




1998年に読んだ本書を、出版から12年たって再読、ざあーっと拾い読みしてみた。

 この12年間に二回大きな金融危機が訪れている。1998年は「アジア金融危機」(1997年)の翌年、この年には前年の三洋証券破綻につづき山一証券が破綻して自主廃業、また長銀(=日本長期信用銀行)が破綻している。

 そして2009年、サブプライムローン問題に端を発した世界金融危機。

 この2つの金融危機を経て、世界はそして日本どうなったか?

 『2010年中流階級消失』は、「金融ビッグバン」後の英国で、英国の証券会社に日本人として勤務していた著者が体験し、つぶさに観察した実情を「鏡」にして、日本の行く末を考察した内容の本である。2010年にむけて進行するであろうシナリオにおいて、日本人が敗者とならないための方策を指南した本である。

 この本が出版された前は、金融ビッグバンはウェルカム、規制撤廃ウェルカム、そしてホワイトカラーのムダをいかに削減するかという「リエンジニアリング」(re-engineering ・・懐かしい響きだな、マイケル・ハマーさん)が流行していたが、1998年は前年から続いていた金融危機が頂点に達していた年である。

 そして、タイトルでもある「2010年」のいまはどうなっているか?

 かつて「一億層中流社会」などといわれた時代があったことすら、日本人の記憶から消えようとしている。著者は「日本は10%富者と90%の貧者に大分裂」するといった。1998年当時の英国がすでにそういう状態になっていたからだ。

 2010年現在、そこまで極端には二分化していないが、「持てる者」と「持たざる者」の格差は急速に拡大を続けていることは確かだ。 大前研一『ロウアーミドルの衝撃』(講談社、2006)が出版されたのは2006年であるが、そのなかで大前研一は、日本人の8割がロウアーミドル、すなわち「中の下」以下になっていると警告するとともに、マーケティングの考え方を根本的にあらためなければならない、と主張していた。

 この流れのなかに、三浦展の『下流社会』(光文社新書、も含めて良いのだろうか。しかし、三浦展の本については、amazon.co.jp のレビューをみるべし。マーケティング・アナリストを自称する三浦展は、調査データの統計処理がきわめて恣意的で、しかも彼が名指しする「下流」へのあからさまな嫌悪感をしめしており、若者世代の論客である後藤和智からは徹底的に論破されている。『若者論」を疑え! 』(宝島社新書、2008)が徹底的に叩いている。後藤和智の本は必読書。

 「格差社会」が流行語となったのは2006年だが、ますます格差は拡大、年収200万円以下の労働者は、労働者全体の約1/4、1,000万人を突破しているだけでなく、生活保護以下の収入レベルのワーキングプアが増大し、貧困問題がクローズアップされるに至っている。

 方向性としては、著者の警告どおりとなっている、といわざるをえない。

 1998年に読んだとき、もっとも印象にのこったのは、著者自身が序章で書いている、少年時代の回想である。両親が離婚して再婚先の継母にいじめぬけれた話である。著者は1964年生まれ、同世代といってもよい人なのに、こんな厳しい経験をしている人がいるのか、という驚きである。

 もちろんこの経験が原動力となって、大学中退後英国で成功をおさめるまでにいたった、ハングリー精神の源ではあるのだが・・・
 
 参考のために、目次を紹介しておこう。

序章 飛行機を手に入れた新聞少年
第1章 日本は10パーセントの富者と90パーセントの貧者に大分裂する
第2章 英国のビッグバンで勝ち残ったのは誰か
第3章 日本人を去勢したものは何か
第4章 中流階級が消失する四つの理由
第5章 大競争時代を支配する10の原理
第6章 資産をつくるための10の基本
第7章 「シミュレーション」2010年の明と暗
終章 日本人よ、群をはなれろ


 著者の基本的主張は、「基本は7%の利回りで資産は10年で2倍」という常識である。

 運用利回りはものの考え方一つなので、消費の際に7%ディスカウントになるように、積極的にネット通販や金券ショップ、ポイントなどを活用しつくすこともよい。これは実際的なアドバイスである。

 本書には、面白いコトバがちりばめられているので、この機会に引用しておこう。

ただし強弱を決めるのは、ノレッジ(知力)、フォアサイト(先見性)、スマート・アクション(賢い行動)、アピアランス(アピール性)、ラック(運)の五点。これらのうち一つでも欠いていれば、淘汰されていった。ビッグバン後に消息を聞かなくなった友人を、私は何人も知っている。(P.20)

英国のビッグバンを経験した私には、その後の10年を観察して、日本は将来、欧米以上に深刻な事態に直面するであろうことがわかる。それはなぜか?国民にリスクをとる気概がないからだ。(P.44)

歴史に倣い、頭を使い、真実を汲み取る――シンプルであるが、これも、上流に仲間入りするための重要な姿勢だ。(P.146)

「無駄な経済」は中流階級とともに消滅する(P.152-153)

 狭い世界のひとつ、確率では、起こりうる事象の確率の和は1になることが前提だ。(中略)
 しかし、確率がすべてでないことを、社会人になって弱肉強食の世界に飛び込んでから知った。勝者として生き残る確率と、敗者として寂しく消え去って確率を足しても1にならないのだ。そのわけは、次のゲームに参加できないほど、つまり再起不能なまでに没落してしまう人間が存在するからである。(P.334)


 参考になっただろうか。

 ところで、著者の田中勝博氏のブログを参考までに紹介しようと思って、久々に検索してみたら、なんとお亡くなりになったらしい。

 享年47歳、あまりにも早い死である。若い頃のムリがたたったのだろうか。相場の世界で生命をすり減らしたのか。切込隊長BLOG(ブログ) Lead‐off man's Blog 2010年2月19日 を参照。株式投資の世界には深入りしていない私は知らなかった。
 
 ご自身の著書の内容を、著者自身が2010年にどう評価しているのか知りたかったものではあるが、まさか本人も自分が「消失」する事は想定すらしなかったことであろう。株式投資家で経済学者であったケインズは、「長い目でみれば人はみな死ぬ」(Like I said, in the long run - we're all dead.)という有名な警句を吐いているが、出版当時34歳であった著者にとって、2010年は遠い将来の話ではなかったはずだ。人の命はまことにもって儚いものよのう。

 この場を借りて、ご冥福をお祈りしたい。合掌。




<参考サイト>

ハンドル名:たなかよしひろ さん
ブログ・タイトル:田中勝博(たなかよしひろ)の法則 (注:現在閉鎖中)
サイト紹介文:孤独なマーケットの世界から抜け出しませんか・・・たくさんの仲間が待っています。
自由文:迷ったときには、遊びにきてください。迷いから抜け出す『ヒント』をご用意してお待ちしております! http://www.blogmura.com/profile/00364772.html


<ブログ内参考記事>

『次の10年に何が起こるか-夢の実現か、悪夢の到来か-』(Foresight編集部=編、新潮社、2000) - 「2010年予測本」を2010年に検証する(その2)

書評『現代日本の転機-「自由」と「安定」のジレンマ-』(高原基彰、NHKブックス、2009)

『フォーサイト』2010年4月号(最終号) 「創刊20周年記念号 これからの20年」を読んでさまざまなことを考えてみる

月刊誌「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2010年3月号の特集「オバマ大統領就任から1年 貧困大国の真実」(責任編集・堤 未果)を読む
                   
書評 『超・格差社会アメリカの真実』(小林由美、文春文庫、2009)-アメリカの本質を知りたいという人には、私はこの一冊をイチオシとして推薦したい

なぜいま2013年4月というこの時期に 『オズの魔法使い』 が話題になるのか?  ・・英国の「サッチャー革命」は英国の中産階級を崩壊させた

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2010年2月16日火曜日

書評 『100年予測-世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図-』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、早川書房、2009)-地政学で考える




「100年予測」に用いられた分析フレームワークは、少なくとも今後20~40年先を予測するにはきわめて有効な方法論だ

 「100年先なんか、どうせ生きていないから関係ない」などと思うなかれ。

 「100年予測」のために本書で使用された分析フレームワークは、少なくとも今後20年先を予測するにはきわめて有効な方法論だ。10年先の「長期予測」でも、5年先の「中期予測」でも、もちろん「短期予測」でもない、「超・長期の予測」である。

 序章で著者が指摘しているように、現在の常識と固定観念に邪魔されて、20年後どうなっているかすら本当のところ想像もできないというのが、ごくごくフツーのことなのだ。「未来に通用しなくなると確実にわかっているのは、現在の常識なのである」(P.22)。

 100年とはいわず、20年先から40年先を予測する方法は、通常の予測方法とは異なるのは当然だろう。著者のアプローチと使用する分析フレームワークは、古くて新しい「地政学」(geopolitics)である。「地政学が扱うのは、国家や人間に制約を課し、特定の方法で行動するように仕向ける、非人格的な大きな力なのだ」(P.25)。

 地理的・環境的制約条件という人間が変えることのできない絶対的制約条件からみたら、個々の政治指導者の行動など、長期的にみれば重視する必要はない、というのが地政学の立場に立った著者の基本姿勢である。経済学が個々のプレイヤーに注意を払わないのと同じだ、と。

 この立場から導き出されるのは、1492年のコロンブスの大航海に始まって1991年のソ連崩壊までの500年にわたって続いた、大西洋世界を中心とした西欧による「世界システム」が終わり大西洋と太平洋の制海権をともに支配する地理的条件にめぐまれ、世界最大かつ最強の海軍力をもつにいたった米国に「世界システム」が始まったという認識である。

 安価で大量輸送が可能な海上交通を保護するには、海軍力による制海権がモノをいうからである。1980年代に、太平洋貿易が大西洋貿易を上回ったことが、覇権交代を象徴的に物語っている。著者の認識を一言でいえば、「アメリカは衰退寸前であるどころか、上げ潮に乗り始めたばかり」(P.374)ということである。(・・この見解は民主党首脳に聞かせてやりたいね)。この見解は、原著が「リーマンショック」発生以後の出版であることに注目しておきたい。

 しかもまた、ユーラシア大陸とは異なり、南北戦争という内乱を例外として、建国以来200年以上にわたって本格的な侵略を受けたことがないという地政学的条件から考えると(・・「9-11」は攻撃だが、侵略ではない)、次の500年続くかどうかはわからないが、少なくとも今後100年は米国の覇権が続くと考えたほうがいいのかもしれない。私自身は最低50年は続くと思っていたが、考えを改めたほうがよさそうだ。地球儀を前に眺めると、その意味がよく理解できる。

 だから、日本語版の表紙カバーの地図(・・左上写真参照)は、著者の意図を反映したものだとはとはいえない。表紙カバーのデザイナーの「日本が中心となった世界地図」という固定観念がそうさせてしまったのだろう。米国では「米国が中心に描かれた地図」が当たり前であり、さらにいえば地球儀で考えたほうが、著者がいわんとすることをより明瞭に理解できるはずだ。アメリカは大西洋と太平洋をともに支配を及ぼせる唯一の存在なのだ。


 本書は予測の内容そのものよりも、著者が提示している「仮説」(・・あくまでも「仮説」だ!)を、著者が根拠としているさまざまな理由づけをもとに、読者自らが思考実験によって「検証」してみることだ。これは何よりもすぐれた知的トレーニングとなるし、また思考訓練の機会ともなる。 

 たとえば、2050年には日本・トルコ・ポーランドが米国と戦争することになる!と予測しているが、 これだけ取り出してみるとセンセーショナル以外の何者でもない。たしかに、2040年以降についてはSF的というか、荒唐無稽と思う人も多いだろう。私も正直いってよくわからないし、現時点では当然のことながら検証のしようもない。

 しかし、少なくとも2040年代までの日本については、過去の日本の行動パターンから類推する限り、著者の推論はけっして荒唐無稽とは思われない。これは人口減少を織り込んだ上の予測である。もちろん、中国が分裂し、ロシアが崩壊するという予測が前提にあるのだが(・・これも可能性としてありえない話ではない。とくにロシアの人口減少スピードが予想以上に早いことはすでに常識だ)。
 
 歴史というものは、いってみれば複雑系であるから、予測どおり直線的(リニア)に進むものではない。さまざまな制約条件のもとで、生き残りを賭けて下した意志決定と行動が、それぞれ互いに影響し合い、影響は複雑な経路をたどって次のアクションにつながっていく。歴史とは、「意図せざる結果」の集積なのだ。これは社会科学的なものの見方である。

 歴史そのものは繰り返すことはないが、同じようなパターンが繰り返されていることは否定できない。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」とはこのことをさしているのだ。

 本書は、出版以来米国内では賛否両論の熱い議論を呼び覚ましているようだが、何よりも読み物として面白いし、「超・長期の予測」を行うための方法論である「地政学」に基づいた、著者の「仮説」を黙殺すべきではないのではないか? 

 この仮説をたたき台にして、少なくとも今後数十年の方向性を考える上で、自分なりの仮説つくりをしてむいるのも悪くない。

 知的刺激に充ち満ちた好著である。ぜひ一読をおすすめしたい。


PS 2014年6月に文庫化された。文庫化されるまでの期間が長かったように思うが、文庫化されたということは、読むに値する本であることの一つの証明であろう。(2014年6月27日 記す)





<初出情報>

■bk1書評投稿「「100年予測」に用いられた分析フレームワークは、少なくとも今後20~40年先を予測するにはきわめて有効な方法論だ」投稿掲載(2010年2月12日)

 *再録に当たって加筆修正と字句の修正を行った。


<書評付記>

著者ジョージ・フリードマンと「ストラット・フォー」などなど

 米国におけるネット上の意見については、amazon.com における George Friedman, The Next 100 Years: A Forecast for the 21st Century, 2009 の Customer Reviews を参照。賛否両論でかなりの数の投稿レビューがある。


なお、書評のなかで述べたように、日本版のカバーデザイン画は本書のメッセージを正確に反映したものとなっていない。原書のカバーと見比べていただきたい。無意識に支配する固定観念、これは日本人だけでなく、米国人も同様だろう。

 しかし、アメリカ海兵隊(USMC)のロゴのような、アメリカ大陸真ん中にもってきたこの地図を見ると、アメリカ大陸、とくに北米、そして米国がいかに地政学的優位性をもっているかがわかる。地球儀でみたほうが、より鮮明に意識できるだろう。

 しかもそのなかの一握りの権力中枢が、米国の命運を握っているのである。いい悪いは別にして、これは否定できない事実である。

 ハンガリーのブダペストで、ホロコースト生き残りのユダヤ人家庭に1949年に生まれた著者は、子供時代に両親とともに米国に移住している。

 「ストラトフォー」(Stratfor)は、Strategic Forecasting, Inc. の略。1996年テキサス州オーステチンにて、同社CIO(Chief Intelligence Officer)ジョージ・フルードマンによって設立された。「世界最強のインテリジェンス企業」と帯には書かれているが、そのとおりであろう。「影のCIA」(The Shadow CIA)ともいわれることもあるらしいが、インターネットで有料会員向けの情報提供を行うのみである。

 公式サイトは http://www.stratfor.com/ ただし英語のみ。有料会員制だが無料で読める記事もある。

 なお、本書『100年予測』の内容については著者本人がビデオで解説しているので、要点をつかむことができるだろう。ご参考まで(音声は英語のみ)。同じビデオ The Next 100 Years が YouTube にもある。人口減少、エネルギー問題、米国、金融危機、中国、ロシアについて語っている。

 米国は衰退過程にあり、一国による覇権の負担に耐え得ないので、実は「隠れ多極派」が米国以外の国々に覇権の一部負担をさせようとしていると主張する田中宇(たなか・さかい)とは、いっけん真逆の見解のように見えるが、さてどちらが正しいのだろう。

 フリードマンの主張は、米国は自分より強い国が出現さえしなければよいというもので、米国はイスラーム世界が分裂したままの状態であればそれで十分であり、それ以上のものを望んでいるわけではない、とする。

 かつて英国が植民地支配の基本方針としていた「分割して統治せよ」(divide and rule)にきわめて似ているといえないだろうか。自ら育成した政権も、言うことを聞かなくなってくると力づくで打ち倒す、というのはわれわれも何度も目撃している。イラクのサッダーム・フセイン政権もその一例であった。

 
 少なくとも「500年単位」の歴史という観点から見るかぎり、フリードマンのいっていることに耳を傾けたくなる。確かに、第一次グローバリゼーションであった、西欧による「世界システム」は20世紀にほぼ終わりを告げている。地中海から大西洋にかけての覇権をほしいままにした西欧世界も、第二次大戦によって大きく疲弊し、植民地を手放して縮小していった。

 第二次グローバリゼーションともいうべき米国主導の「世界システム」は、第二次大戦の勝利によって本格的に始まったといっていいだろう。この勝利によって全世界における英国の覇権は縮小、米国は日本海軍を完膚無きまで壊滅させたことによって太平洋の覇権も手に入れることとなる。大東亜戦争において、日本は西欧によるアジア支配の終焉を促進させる働きをし、米国による覇権確立の途を開いたことになる。敵として戦ったとはいえ、米国からみた日本の功績は大きい。

 現時点において、全世界に11隻の航空母艦(空母)を就航させているのは、世界中で米国ただ一国のみである。英語で aircraft carrier と表現する空母は、海上における航空機動力であり、これを全世界で展開する能力と経済力をもつのは米国だけだといっても過言ではない。かつて冷戦時代に覇権を争ったロシアも現在ではただ1隻のみであり、中国が航空母艦建設構想をぶち上げたが、果たして対抗勢力となりうるかはきわめて疑問である。果たして経済的負担に耐えられるのかどうか。

 こういう状況において、「通商国家」に存在意義のある日本がいかなる戦略をもって生き抜いていくか、答えは自ずから決まってくるというものだ。日本と米国では、チカラの差は歴然としている。
 なんといっても、地理的条件だけは、人間には全面的に変えようがないのである。個人なら移動すればいいが、民族単位での大規模移動が何を引き起こすか、ちょっと想像してみればそれがいかにナンセンスな発想であるかわかるはずだ。

 日本の民主党は、「米国と対等の関係になる」などと、たいへん勇ましいことを主張しているが、国際政治における軍事力の意味、とくに海軍力のもつ意味を理解しているのだろうか。たいへん疑問を感じざるを得ない。対米戦争の覚悟もなしに、米国と中国を天秤にかけ、いたずらに「友愛」をクチにして中国にすり寄るのはやめたほうがいいのではないか。

 食糧もエネルギーも、大半を海上輸送に依存している日本の生存条件と生命線がどこにあるのか、民主党の首脳は真剣に考えたことがあるのだろうか(・・といって、私は自民党を支持しているわけではない)。

 ただ、書評のなかにも書いたが、過去の日本の行動パターンを見ていると、追い詰められると突然急旋回して暴走するということが何度も観察される。人口減少状況で財政悪化の度合いの深刻化している日本は、いったいどこを向いて進んでいるのか。

 人口問題と、食糧・エネルギー問題、つまり広い意味での安全保障について、真剣に考える必要があるのだ。国民の生命・財産を守るのが政治の役目である。


『2020-10年後の世界新秩序を予測する-』(ロバート・J・シャピロ、伊藤真訳、光文社、2010)について

 東京の大型書店では、『100年予測』2020-10年後の世界新秩序を予測する-』(ロバート・J・シャピロ、伊藤真訳、光文社、2010)が平積みになっていた(2010年1月現在)。ついでにこの本についてもコメントをしておきたい。

 原著タイトルは、Robert Shapiro, Futurecast 2020: A Global Vision of Tomorrow, 2008
 エコノミストによる将来予測であるが、「リーマンショック」という金融危機発生以前の出版でもあり、予測がはすでに2010年時点でずれているもの(例えば、ケルトの虎アイルランドの苦境など)も少なからずあるが、韓国の実力の評価など日本人が考慮に入れておかねばならない項目もある。

 著者の論調は、①人口構造の変化―高齢化と労働人口比率の減少、②グローバリゼーションの進展、③米国が、比肩する国のない唯一の世界的軍事・経済大国となった。一国がこれほどの力を握ったのはローマ帝国以来であるという地政学的状況、の3つに集約することができるだろう。

 ただし、はっきりいってこの本は読む必要ない。小見出しと本文の内容が矛楯している箇所も少なからずあるし、とにかく長すぎるのである。同じことグダグダ何度も繰り返している箇所が多いので読んでいて面白くない。

 端折って翻訳したということだが、『100年予測』で分析のキーワードとなっていた「地政学」(geopolitics)にかんする一章が、日本語版ではまるまる省略されている、と訳者あとがきにある。Chapter 6 The New Geopolitics of the Sole Superpower: The Players という章だそうだが、これではこの本の価値を大きく下げる結果となっているのではないか。

 というわけで、この本は途中まで読んだが、最後まで読むのはをやめにして廃棄することとした。カネのムダだが、時間のムダのほうがもっと困る。フランクリンではないが、まさに「時はカネなり」(Time is Money)だ。大枚2,300円も払って購入したのに、まったくもって「高値つかみ」させられた。こういう本はよくレビューで確認してから購入するかどうか決めなければならないと痛感したのであった。古本屋に売っても100円がいいところだろう。
 
 なお、長期予測本では3つの原理-セックス・年齢・社会階層が未来を突き動かす-』(ローレンス・トーブ 、 神田昌典=監修、金子宣子訳、ダイヤモンド社、2007)も面白い。この本には米国のユダヤ人が米国を捨ててイスラエルに移住することになる、という予測?が書かれているが、そういうありえそうもないことを考えてみることも、アタマの体操にはなるといってよいだろうか。ちなみにこの本の著者ローレンス。トーブもまたユダヤ系である。
 


<関連サイト>

The American Public's Indifference to Foreign Affairs | Stratfor Geopolitical Weekly TUESDAY, FEBRUARY 18, 2014 (George Friedman)
・・アメリカは「衰退」しているのではない。第二次大戦時や冷戦時代とは異なり、アメリカを取り巻くコンテクストが変化したため、国民が外交にも内政にも「無関心」になったのだ、という趣旨。Stratfor主筆ジョージ・フリードマン論考。コンテクストは経営用語なら外部環境と言い換えていいだろう (2014年2月18日 追記)


ブログ内の参考記事

「500年単位」で歴史を考える-『クアトロ・ラガッツィ』(若桑みどり)を読む

 戦国時代末期の16世紀、日本は西欧主導の「第一次グローバリゼーション」の波に全面的にさらされた。その本質に気がついていた為政者は、信長も秀吉も、国内統一戦争においてグローバリゼーションをうまく活用、最終的に天下をとった徳川幕府は「世界システム」から日本を切り離すことで、盤石の国内支配体制を確立する。
 そして、西欧主導の「世界システム」の絶頂期であった19世紀に、再び開国して荒波のなかに乗り出していったのが、幕末・明治の日本であったのである。


書評 『続・100年予測』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、ハヤカワ文庫、2014 単行本初版 2011)-2011年時点の「10年予測」を折り返し点の2016年に読む

(2016年6月10日 情報追加) 


 
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