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2024年4月2日火曜日

書評『シン・日本の経営 ー 悲観バイアスを排す』(ウリケ・シェーデ、渡部典子訳、日経プレミアシリーズ、2024)ー 自分自身を虚心坦懐に観察するのが難しい。だからこそ外部の目で見ることが大事

 


「シン~」なんて、なんだか流行り物風のタイトルだが、内容はいたってまともだ。米国の大学のMBAコースで教えているドイツ人研究者によるもの。再興 THE KAISHA』(2022年)の内容を、日本の読者向けに書き直したものだそうだ。 

内容は一言でいえば、副題の「悲観バイアスを排す」にあるといっていいだろう。とかく日本人は悲観論を口にしがちだが、実体はかならずしもそうではない。 

「失われた30年」と日本国内では言い続けられてきた。だが、マクロ経済の状況は別にして、ミクロの個別企業の注目すれば、意外と日本企業は強いのである。 

「グローバルな最先端技術の領域で事業を展開する機敏で賢い数多くの企業」について取り上げた「第4章 優れたシン・日本企業に共通する「7P」がとくに興味深いものがあった。

取り上げられた企業は、上場企業が中心であるが一般にはあまり知られていない企業が大半である。これらの企業について知ることは、日本人にとっては意味あることだといっていい。著者は言及していないが、B2B(=法人向けビジネス)に特化したハイテク企業、いわゆる「京都モデル」の企業と重なるものがある。 

本書のキーワードは、軸足を中心に方向を変える「ピボット」(pivot)である。これはバスケットボール用語を援用して、国際政治の世界でつかわれはじめた概念だが、経営学で言い換えれば、主力事業を深化させながら新規事業の探索を行う「両利きの経営」(ambidexterity)となる。これらの経営概念をつかった説明も明解だ。 

もちろん、言うは易く行うは難し。実行することは容易ではないだろう。企業経営についての議論だが、個人のキャリア戦略にも応用可能だろう。そんな読み方もできるのではないか。 

このほか「ディープテクノロジー」(deep technology)という概念も興味深い。この概念でハイテク分野を分類すると、日本やドイツは、米国やイスラエルとは対照的な存在であることが示されている。後者は「シャローテクノロジー」(shallow technology)となる。「深くて遅い」に対して「浅いが速い」。

つまるところ、ことさら日本を前面に出す必要はないが、日本には日本のやり方があり、みずからの特性にもとづき、強みを活かすべくみずからの道を進むべきであって、シリコンバレーの猿真似などする必要はまったくないということだ。当然といえば当然である。

本書は、日本褒め本ではない。日本人自身が気づいていないが、変化に向けての大きな動きが進行していることを、日本人自身が知ることが大事だと述べている本である。 

自分自身を虚心坦懐に観察することはきわめてむずかしい。だからこそ、他者の目、とくに外部の目をつうじて観察することの意味がある。もちろん、それが絶対にただしいものではなくても、参考にする意味はあるだろう。

ただし、帯に記された「これは21世紀版「ジャパン・アズ・ナンバーワン」だ」という推薦のことばはミスリーディングのような気がする。著者の意図とは異なるのではないか? 

エズラ・ヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(1979年)が「褒め殺し」本だったことを忘れてはいけない。結果として日本人の増長を招いて自滅を誘発した本だったことを。

むしろ引き合いにだすべきは、アベグレン博士だったのではないか?



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目 次
はじめに 本書のメッセージ 
第1章 再浮上する日本 
第2章 2020年代は変革の絶好の機会である 
第3章 「舞の海戦略」へのピボット 
第4章 優れたシン・日本企業に共通する「7P」 
第5章 「舞の海戦略」の設計 
第6章 日本の「タイト」なカルチャー ― なぜ変化が遅いのか 
第7章 日本の企業カルチャー ― タイトな国でいかに変革を進めるか 
第8章 日本の未来はどうなるのか ― 日本型イノベーション・システムへ 
第9章 結論 「シン・日本の経営」の出現

著者プロフィール
ウリケ・シェーデ(Ulrike Schade) 
米カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル政策・戦略大学院教授。日本を対象とした企業戦略、組織論、金融市場、企業再編、起業論などが研究領域。一橋大学経済研究所、日本銀行などで研究員・客員教授を歴任。9年以上の日本在住経験を持つ。著書に The Business Reinvention of Japan (第37回大平正芳記念賞受賞、日本語版:『再興 THE KAISHA』2022年、日本経済新聞出版)など。ドイツ出身。



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2024年2月17日土曜日

書評『トヨタ 中国の怪人 ー 豊田章男を社長にした男』(児玉博、文藝春秋、2024)ー トヨタの中国ビジネスを軌道に乗せた男の壮絶な前半生とビジネスマンとしての生き様

 
 
『トヨタ 中国の怪人 ー 豊田章男を社長にした男』(児玉博、文藝春秋、2024)が面白いので一気読み。ことし2月にでたばかりのビジネス・ノンフィクションだ。  

「中国の怪人」こと遠藤悦雄、それが本書の主人公である。トヨタ中国事務所総代表として、ホンダや日産などのライバル企業に遅れに遅れた中国ビジネスを起死回生の秘策で軌道に乗せた男。 

そして、その結果として、御曹司の豊田章男を社長に押し上げた最大の功績者だが、公式の記録からは見えない存在にされてしまった男。 

そうか、そんな男がいたのか、そんなことが内部で進行していたのか・・・。リアルタイムの企業内部ものではないが、そんな驚きを歴史もののビジネス・ノンフィクションとして堪能できる。 

だが、それだけではない。なんといっても、この遠藤氏の前半生があまりにもすさまじいのである。想像を絶しているといっていい。 




満洲に赴任した技術者の父のもと、日本統治下の満洲で生まれた遠藤氏は、日本の敗戦後に父が中国共産党に「留用」されたため一家は中国に残留を余儀なくされ、中共統治下で凄絶なまでの人生を送っている。

日本に「帰国」できたのは、なんと27歳になってから、しかも1970年のことであった。大坂で万博が開催された年である。高度成長期の絶頂にあった日本は、同時期の中国とは雲泥の差があった。まさに別世界といってもよい状態であった。日中国交回復は1972年のことである。

中国で育ち、中国人とおなじ苦難の日々を送り、しかも日本人であるがゆえに、中国人以上の辛酸をなめている。中国と中国人を知り尽くしているといってもいいのである。

そんな遠藤氏が「中国人の本質」だとして著者に示したのが「好 死 不 如 懶 活」という漢字6文字の中国語。意味は、「きれいに死ぬよりも、惨めに生きたほうがまし」

まさに遠藤氏の生き様そのものである。中共統治下の過酷な時代を生き抜いた日本人の口から発せられることばの重みが違う。 潔さに美学を見いだす日本人とはまったく違うのである。 

そんな個性的クセの強い遠藤氏の能力を見抜き、使いこなした数少ない人物が、トヨタ中興の祖ともいうべきサラリーマン社長の奥田碩氏であり、世襲で経営者となった豊田章男氏であった。ともに遠藤氏のネイティブとしての中国語力と豊富な人脈をフルに使い切っている。 

トヨタとは直接関係ないわたしだが、大学の後輩(ただし、学部も部活も違う)として、一部上場企業の世襲を阻止しようとする奥田氏には大いに共感を感じていたものだ。残念ながら、豊田ファミリーへの「大政奉還」が実現して現在に至る。その影にいたのが遠藤氏だったのか・・・。 


今回の『トヨタ 中国の怪人』もまた、日本企業にとっては異質なバックグラウンドをもちながら、日本のビジネス社会で孤軍奮闘しながらも、最後は刀折れ矢尽きていった男の人生を描いている。

時代と運命に翻弄されただけでなく、晩年にいたっても、日本人でも中国人でもないようなアイデンティティの揺らぎを抱き続ける人生。

それほど数奇で濃厚な人生を送った、そんなひとりの「日本人」の聞き書きをもとにした作品である。 読ませるノンフィクションである。それだけでなく、事例としてさまざまな教訓を導きだすことも可能だろう。


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目 次
序章 中国人の本質
第1章 豊田章一郎の裏切り
第2章 日本の子鬼
第3章 毛沢東の狂気
第4章 零下20度の掘っ建て小屋
第5章 文化大革命の嵐
第6章 悲願の帰国
第7章 日米自動車摩擦の代償
第8章 豊田英二の危惧
第9章 はめられたトヨタ
第10章 起死回生の秘策
第11章 豊田章男の社長室
主要参考文献・映像作品

著者プロフィール  
児玉博(こだま・ひろし)
1959年生まれ。早稲田大学卒業後、フリーランスとして取材、執筆活動を行う。月刊「文藝春秋」や「日経ビジネス」で企業のインサイドレポートを発表。著書に大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)の受賞作を単行本化した『堤清二 罪と業 最後の「告白」』など。(本データは2017年の『テヘランから来た男』が刊行された当時に掲載されていたもの)


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2023年10月24日火曜日

書評『イーロン・マスク 上・下』(ウォルター・アイザックソン、井口耕二訳、文藝春秋、2023)― 人類の未来を憂い、資本主義とビジネスの枠組みでフロンティア開拓に突き進むクレイジーな天才。その軌跡をオープンエンドの現在進行形で中継

 

『イーロン・マスク 上・下』(ウォルター・アイザックソン、井口耕二訳、文藝春秋、2023)をようやく読了。ことし2023年の9月13日に「世界同時発売」された本だ。

上巻の帯に「悩める天才」とあるが、それもさることながら「進軍の巨人」というべきかもしれない。

長い、じつに長い本であった。上下あわせて900ページ超。読み終えるまで3日かかったが、正直いって、読むのにくたびれてしまった。イーロン・マスク(Elon Musk)という「超人」が、止まることなく「進軍」している、そのエネルギーの熱量のせいだろう。

上巻の途中からぐんぐん面白くなってくるが、読者は最後の最後までイーロンに振り回されっぱなしである。

レオナルド・ダヴィンチから始まり、アインシュタインからスティーブ・ジョブズまで、「天才の伝記」を書かせたら右にでる者はいないという、伝記作家で経営者のアイザックソン氏。2年間にわたって密着取材を行ったとのことだが、それはおなじだったのではないか? 

イーロンの下で働いてきた人たちにとっては、言うまでもない。いや、現在進行形で振り回されている。

上下あわせて全95章。ほぼ時間軸に沿って進行していく形式になっているのは、イーロンがスペースX や テスラ といったハイテク製造業だけでなく、それ以外のニューラルリンク、さらにはまた昨年2022年からはSNSのツイッター(現在はX)まで同時進行させているからだ。


(とある書店の店頭ショーウィンドウに飾られているもの)


下巻は、2020年から2023年まで、足かけ4年の現在進行形の出来事を、リアルタイムで中継しているような記述である。

とりあえず、2023年4月で中継が終わっているが、まだまだ現在進行形で進軍がつづいている。オープンエンドなのである。


■かつてのモーレツな日本企業と日本人のような

「ひとつの事業に全集中して、すべての資源をその事業に投入せよ」というのは、伝説の大富豪アンドリュー・カーネギーの成功セオリーだ。

だが、そんな「常識」をはなから無視しているのがイーロン・マスクだ。現時点で、全部で6つの会社を陣頭指揮しているのである。

「超人的」というよりも、「超人」そのものではないか!

1971年生まれで、現在52歳のイーロンは、まさに「知力・体力・気力が一体」となって、「前へ前へと進軍」をつづけているディスラプターである。ディスラプターとは、既存事業という過去をスパンと断ち切ってしまうディスラプション(disruption)の実行者のことである。

「撃ちてしやまん」という、日中戦争下の日本のスローガンを想起させるものがある。敵を打ち破るまで戦いはやめるな、というマインドセットである。

しかも、徹底した「現場主義」であり、「コスト削減の鬼」といってもいいマイクロマネジメントの実行者である。まるでかつての日本の製造業のようだ。

経営者が現場で寝泊まりするのも当たり前朝から夜中まで働きづめで、いきなり深夜に部下に召集をかけることもたびたびである。昔風にいえばモーレツ社長そのものだ。現在の日本なら、ブラック企業だとして糾弾されることだろう。

無茶ぶりに見えるが、生産管理の世界でいう「ムリ・ムダ・ムラをなくせ」というセオリーどおりである。その実現のためには無茶も必要だということだ。

マーケティング依存の「マーケットイン」ではなく、製品そのものが魅力的ですばらしければ、かならず売れるはずだという「プロダクトアウト」の発想。ビジョンの実現と危機感の解決のためには、目に見えるカタチとしての、魅力ある製品がなければ説得力がないという哲学。

需要はつくるものだという信念であり、そのためには徹底して設計と製造の融合を実行させる。サプライチェーンは短ければ短いほうがいい。だからアウトソーシングや系列化など論外で、部品からすべて内製化すべしというの姿勢。

製品ユーザーとの距離は、近ければ近いほうが開発には都合がいい。だから、工場は市場の近くにつくる。米国と中国とドイツである。

アイデアはおなじ空間で働いているほうが生まれやすいから、リモートワークはダメだ、全員出社せよ。まるでホンダの「ワイガヤ」だな。

考えてみれば、自分自身の経験を振り返っても、日本企業も昔はこんなこと当たり前だったような気もする。それだけ、日本企業にも、日本製品に魅力がなくなってしまったということか。日本は進むべき方向を間違っているのかもしれない。

だからこそ、イーロン・マスクのような存在は、日本にも必要だ。こんな超人と付き合うのは、それこそミッション・インポッシブル(=実行不可能なミッション)であろう。とはいえ、過激にみられがちなイーロンの言動だが、日本企業にとってもヒントになることは多いのではないか?

たとえば、ミニカーなどおもちゃが量産プロセス構築において参考になるという話や、部品点数はできるだけ減らしてミニマムにする、マテリアル(素材)への注目などなどである。

そんなヒントが、イーロン自身の発言として、この本のなかには無数にちりばめられている。ディテールにも注目してほしい。


(Author Walter Isaacson talks new Elon Musk biography)


■イノベーションはクレージーな人間の意思と行動なしには生まれない

ミッション・インポッシブルであればあるほど燃える男。困難や苦難はエネルギー源なのだ。アドレナリン出しっ放しである。

飽きてしまうことをなによりも恐れている男何もしていないことに耐えられない男。無理矢理にでも問題をつくりだしては、みずからをむち打つだけでなく、関係する人びとを巻き込んで尻を叩きまくる。

超絶的なワーカホリック。「ワーク・ライフ・バランス」などということばは、イーロンの辞書にはないのだろう。「ワーク・イズ・ライフ」なのだ。

どう考えても実現不可能としか思えないデッドライン設定して公表し、自分とチームを崖っぷちに追い込む修羅場。切迫感。無茶ぶり。実現不能と思える高い目標を設定して、みずからが先頭にたってチーム全体を追い込む姿勢。

たしかに、そうでもしなければイノベーションなど生まれないこともたしかだ。人間は追い詰められて、追い詰められて、はじめて局面打開の知恵が生まれてくる。いや、降ってくるというべきか。



Falcon Starship 英語版の裏表紙。日本語版は下巻の裏表紙に)


火星ミッション実現のための第一歩である、民間企業のスペースX が存在しなければ、米国の宇宙開発は過去の話になってしまっていたことだろう。

「スターリンク」がなければ、ウクライナは戦いつづけることなどできなかっただろう(*ただし、イーロン・マスク自身は、スターリンクはあくまでも民生利用に限定したいようだ)。

いまだ道半ばとはいえ、「テスラ」が存在しなければ、ロボタクシーなどの自律走行の自動運転など夢のまた夢というところだろう。

アイザックソン氏が巻頭に記したイーロン・マスクとスティーブ・ジョブズのことばは、説得力をもって迫ってくる。

最後まで読み終えて、ふたたび巻頭にもどってその2つのことばを読むと、心の底から納得しないわけにはいかない。




感情を逆なでしてしまった方々に、一言、申し上げたい。
私は電気自動車を一新した。
宇宙船で人を火星に送ろうとしている。
そんなことをする人間がごくふつうでもあるなどど、
本気で思われるのですか、と。(イーロン・マスク、2021年5月8日)

 




自分が世界を変えられると本気で信じるクレイジーな人こそが、
本当に世界を変えるのだ。(スティーブ・ジョブズ)
 

ただし、イーロン・マスクとスティーブ・ジョブズには決定的な違いがある。

ジョブズはデザインには、それこそクレイジーなまでのこだわりがあるが、製造は外部にまかせてもかまわないという姿勢であった。

これに対して、イーロン・マスクは真逆である。デザインだけでなく、製造も自分でやらなくてはダメだという姿勢である。

その意味では、同類でありながらも、イーロン・マスクはスティーブ・ジョブズのアンチテーゼであり、かつての日本企業のデジタル時代における「超進化形」といえるかもしれない。

日本の企業人も再考が必要だろう。



■本人は人間にはあまり関心がないが、その人物そのものは好奇心を誘発する存在

イーロン・マスクという「人間」は、事業以外の側面でも面白い。

ビジネス活動をつうじて、「人類」を救うという壮大なビジョン実現には邁進するが、個別の「人間」関係にはほとんど関心がない。アスベルガーを自称していることもあり、脳の配線がどうも一般人とは違うようだ。


(イーロン・マスクがモデル?といわれる映画『アイアンマン』2008年)


複数の女性とのあいだに子どもを何人もつくっているが、その多くが人工授精や代理母をつかっている。人類の数を減らすなという理由もあるようだが、どこまで本気なのかでまかせなのかわからない。

浴びせられてきた金持ち批判に嫌気がさして、不動産をすべて売却してしまい、転々と住む場所を変えながら生活している。コレクションや所有には関心はないのである。

そもそも金儲けじたいが目的ではなく、しかも慈善事業にもほとんど関心がない。かれにとっては、ビジネス活動そのものが、人類への貢献なのである。その意味では、松下幸之助にも通じるものがあるというべきかもしれない。

みずからが信じる「フロンティア開拓」に全財産をつぎ込む姿勢掛け金をずべてぶち込む「オールイン」型の新事業投資。のるかそるか、である。

リスクテイカーなんていうレベルではない。ほとんどギャンブルである。リーマンショックの2008年には、それこそ破綻すれすれまでの財務的綱渡りを演じている。それにしても壮絶だが、もしかすると無意識レベルでは破滅願望があるのかもしれない。




「AIが人間を凌駕させないための戦い」はドンキホーテ的でさえあるが、こういう人は世の中には必要だろう。

2023年に突然に始まり、急激に進化する「生成AI革命」で、2045年に想定されていた、AIが人間の能力を凌駕してしまう「シンギュラリティ」(特異点)が一気に早まってしまったといわれる。

わたし自身は、AIが人類を凌駕してしまうかもしれないが、残念ながらなってしまえば、それはそれで仕方ないだろうと思っている。だが、それは「絶対にダメだ」と論陣を張るだけでなく、実際の製品(モノ)をつうじて世の中に訴えかけるイーロン・マスクの姿勢は希有なものである。


(Optimus, aka Tesla Bot Wikipediaより)


テスラで開発をつづける「人型ロボットのオプティマス」もまたその一つである。

遠隔操作するロボットではなく、ロボット自身に人間の言動を「学習」させるヒューマノイドを開発するという姿勢。さすがである。「学習」という点にかんしては、わが子の X の成長ぶりも参考になっているようだ。

そんなイーロンにとって、機械学習のデータ源として、テスラによる動画だけでなく、ツイッターに投稿される文章や画像や動画もつかえることがわかったというのは、予期せぬ副産物だったようだ。

現在は、データを握った者が、すべてを握る時代なのである。だからこそ、その競争に勝つことは、イーロン・マスクにとって至上命題なのである。負けてはいけないのだ。





■はたして火星にコロニーが建設されるのはいつの日か?

壮大なビジョンと強い危機感。最初から最後まで振り回されっぱなしで、ついていくのはたいへんだ。アイザックソン氏によるこの評伝は、まさにイーロン・マスクそのものである。

「撃ちてし止まん」タイプの超人。こんな人間こそイノベーターとして、「フロンティア開拓」を行うのである。サイエンス・フィクション(SF)から、フィクションを取り除くとのがかれのミッションだ。

はたして、かれが生きているうちに火星にコロニーはつくれるのか? いつまで走りつづけることができるのか?

おそらく、というより間違いなく、枯れるということはないだろう。ある日、突然バタンと倒れて終わる。そんなことになるのだろう。まさに「撃ちてしやまん」である。

とはいえ、現在進行形のイーロン・マスクは、まだまだ当分のあいだ目が離せない存在であり続けることは間違いない。

すでに70歳を超えているアイザックソン氏に、続編を書くことはあるのだろうか? 文庫化される際には多少の追補がなされるであろうが・・・。


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<関連サイト>



(南アフリカでの子ども時代のイーロン) 





「講談社の書籍紹介」より
驚異的な頭脳と集中力、激しすぎる情熱とパワーで、宇宙ロケットからスタイリッシュな電気自動車まで「不可能」を次々と実現させてきた男――。シリコンバレーがハリウッド化し、単純なアプリや広告を垂れ流す仕組みを作った経営者ばかりが持てはやされる中、リアルの世界で重厚長大な本物のイノベーションを巻き起こしてきた男――。「人類の火星移住を実現させる」という壮大な夢(パーパス)を抱き、そのためにはどんなリスクにも果敢に挑み、周囲の摩擦や軋轢などモノともしない男――。いま、世界がもっとも注目する経営者イーロン・マスクの本格伝記がついに登場!イジメにあった少年時代、祖国・南アフリカから逃避、駆け出しの経営者時代からペイパル創業を経て、ついにロケットの世界へ・・・・・・彼の半生が明らかになります。(講談社BOOK倶楽部『イーロン・マスク 未来を創る男』
 



<関連記事>



(2023年12月20日 情報追加)


<ブログ内関連記事>




■先行する「天才」起業家。同類のモーレツなディスラプター





■イノベーションとディスラプション





・・本業に専念し、それ以外はアウトソーシングするという「京都モデル」は、サプライチェーンを極限まで短くするために内製化を徹底するというイーロン・マスクの製造業哲学とは真逆の立場


■宇宙ビジネスと火星移住




■人型ロボット




■イーロン・マスクの原点である南アフリカ


(2025年2月22日 情報追加)


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2016年8月25日木曜日

書評『韓流経営LINE』(NewsPicks取材班、扶桑社新書、2016)』-メッセンジャーアプリの LINE は 「ステルス戦法」によって日本市場を足がかりに国際化


 「LINE(ライン)は日本発のメッセンジャーアプリだ」みたいな言説があふれかえっているが、じっさいのところはどうなのか。

そんな疑問を感じていた、「週刊ダイヤモンド」出身の経済記者たちが徹底取材で解き明かしたのが。『韓流経営LINE』(NewsPicks取材班、扶桑社新書、2016)。面白い内容の本だ。

 親会社の「NAVERまとめ」で知られる NAVER(ネイバー社)は、「純韓国製」のIT企業。その100%子会社だったのが LINE(ライン)。現在は日米同時上場を実現したので、親会社の持ち株比率は80%に下がっているとはいえ(・・その出身比率の謎も本書のテーマの一つ)、それでも経営支配権が韓国サイドにあることには変わりない。

ではタイトルにある「韓流経営」とは何か?

韓国は1997年のIMFショックで経済がガタガタになり、その後、逆転を図るために、国家主導で一気にネット化を進めた国。IT化にかんしては日本より先行しているからこそ生まれてきたのが、NAVER や LINE のような技術志向の強い会社だ。

少子高齢化とはいえ、日本のようにまだ人口が1億人以上もいる市場とは違って、韓国は人口がすでに5千万人を切って市場規模の小さな国成長路線をとる以上、どうしても海外市場を視野に入れなければならないのは、韓国企業にとっては必然というか宿命だ。

そこで、文化的に近いと考えられる日本市場をあしがかりにして国際展開を進めようとしたのが、LINEというわけなのだ。2011年の「3・11」がキッカケになって普及が一気に進んだことは事実であるが、「純和製アプリ」ではないことも本書で明らかにされている。

韓国企業にとっては追い風であるはずだった「韓流ブーム」は、日本では一時期の流行のあと現在では消えてしまい、「嫌韓ムード」さえ強まるばかりの日本では、韓国企業であることを前面出したのではビジネス展開が難しい

ではどうするか? その答えが、「ステルス戦法」となったわけなのだ。著者たちは「ステルス」とは表現していないが、ある意味では日本人ユーザーを「純和製」といったイメージを前面に出すことで目くらましをしてきたわけであり、「ステルス戦法」といっても間違いではないだろう。

韓国企業のグローバル戦略(国際戦略)のケーススタディとして興味深い事例でもある。関心のある人には一読を勧めたい。





目 次

プロローグ 上場前夜、韓国人トップが語った言葉
第1章 LINEを司る謎に満ちた男
第2章 海の向こうにあるもう一つの本社
第3章 開発秘話の「真」と「偽」
第4章 LINEに流れるライブドアの遺伝子
第5章 上場をめぐる、東証の本音
エピローグ なぜLINEは日本から生まれなかったのか?
あとがき

著者プロフィール

NewsPicks取材班
経済情報に特化したニュース共有サービス「NewsPicks」は、ニュースに対する専門家や業界人らのコメントを読むことができる。2016年4月に企業や産業に焦点を当てたオリジナルコンテンツを制作する調査報道チームを新設。後藤直義、池田光史、森川潤の3人が立ち上げメンバーとなり、独自のテーマで取材執筆活動を展開している。


<ブログ内関連記事>

書評 『韓国のグローバル人材育成力-超競争社会の真実-』(岩渕秀樹、講談社現代新書、2013)-キャチアップ型人材育成が中心の韓国は「反面教師」として捉えるべきだ
・・サムスンなどはイノベーションというよりもキャッチアップ型で巨大化したが、ベンチャーのなかには技術志向のきわめて強いものもある

書評 『醜いが、目をそらすな、隣国・韓国!』(古田博司、WAC、2014)-フツーの日本人が感じている「実感」を韓国研究40年の著者が明快に裏付ける


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