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2024年1月26日金曜日

書評『日本製鉄の転生 ― 巨艦はいかに甦ったか』(上阪欣司、日経BP、2024)― 大企業も経営者次第で変わることができる!

 

 出版されたばかりの『日本製鉄の転生 ー 巨艦はいかに甦ったか』(上阪欣司、日経BP、2024)を読んだ。最近には珍しく腹の底から元気がでる本だ。  

先日、米国のUSスティールを買収するというニュースが日本の経済界を賑わせたばかりだが、じつにタイミングのいい出版である。まさに日鉄がどう変身したのか、その内実を知りたいと思っていたからだ。 

記者として日経新聞の産業部で鉄鋼など製造業を追ってきた著者自身も、2022年から6年ぶりに取材を再開したらしいが、日本製鉄の変身ぶりに驚いている。それが読者にもダイレクトに伝わってくる。 

日本を代表する大企業が崖っぷちから2年で「V字回復」したストーリーは、日本航空や日立製作所などに続くものといえよう。要は経営者次第で巨大企業も変わることができるのだ、と。 

JALの場合は外部から招かれた稲盛和夫氏がリードしたが、日立や日鉄の場合は生え抜きの社長による変革の成功事例である。 

しかも、日鉄を崖っぷちから再生させた橋下英二氏は技術畑ではなく、営業畑の出身である点も特筆すべきだろう。学部は違うが大学の先輩にあたる人だが、本書によれば学園祭の実行委員長だったらしい。学生時代から誰もが一目おくリーダーだったようだ。 

動きが鈍くて恐竜扱いされる大企業といえども、経営者次第で変わることができるのである。しかも、日本人が強みを発揮できるのは製造業であろう。ものづくりであろう。

日鉄の成功に続く大企業が、1社でも多くでてきてほしいものだ。 ひさびさに腹の底から元気がでる本であった。 


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目 次 
はじめに 
プロローグ 
 【コラム】よく分かる日本製鉄 
第1章 自己否定から始まった改革 ー 5つの高炉削減、32ライン休止の衝撃 
第2章 「値上げなくして供給なし」ー 大口顧客と決死の価格交渉 
第3章 異例のスピードで決断 ー インドで過去最大M&A 
第4章 動き出すグローバル3.0 ー「鉄は国家なり」の請負人に 
 【コラム】インド発、踊る製鉄所見聞録 
第5章 国内に巨額投資の覚悟 ー 高級鋼で勝ち抜く「方程式」 
 【コラム】石油会社が認める高級鋼「油井管」の謎 
第6章 脱炭素の「悪玉」論を払拭せよ ー 鉄づくりを抜本改革 
第7章 「高炉を止めるな!」ー 八幡の防人が挑む改革後の難題 
第8章 原材料戦線異状あり ー 資源会社に巨額出資 
第9章 橋下英二という男 ー 野性と理性の間に
 【コラム】日本製鉄社長 橋下英二氏 
おわりに 



PS ついに日鉄による米鉄の100%買収が決着(2025年6月14日)

発表からなんと1年半。ようやく、ここに決着した。トランプ大統領の英断を讃えたい。

・・「日本製鉄は14日、米鉄鋼大手USスチールの買収を巡り、米政府との間で安全保障上の懸念を 払拭 する国家安全保障協定を結び、トランプ大統領が両社の「パートナーシップ」を承認したと発表した。日鉄は、USスチールの普通株100%を141億ドル(約2兆円)で取得して買収が成立し、「完全子会社化が実現する」と説明している。一方、USスチールは米政府に対し、少数の保有で企業の重要な決定への拒否権を持つことができる「黄金株」を発行する。 
トランプ米大統領は米国時間の13日、買収計画について、米政府と安全保障協定を結ぶことなどを条件に、「取引による国家安全保障の脅威は十分に軽減できると判断する」と明記した大統領令に署名した。」(・・・後略・・・)

これでようやく長い旅が終わった。めでたし、めでたし。今後は、いかに日鉄が設備投資に見合った利益を確保していくかにある。今後の検討を祈るとともに、日米同盟が盤石化する経済的基盤が確立する要素の一つとなることに安心する。

(2025年6月14日 記す)


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橋本会長 「私もまもなく卒業だが、次世代に残したいのはビジョンと選択肢だ。選択肢とは社員一人ひとりに成長の機会を与えること。困難だったUSスチールの買収、これで終わりではなく、これからも勝負で、それに挑戦するということだ。成長ありきの会社にしていく、社員のポテンシャルを最大限に引き出していくためにも、今回の買収に挑戦していくべきだと思った。もちろん失敗もあるかもしれないが、挑戦しないで理不尽な結果に甘んじて諦めるよりは、1%でも可能性があるなら、それにかけようと思いやってきた」

(項目新設 2025年7月17日)


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2023年10月24日火曜日

書評『イーロン・マスク 上・下』(ウォルター・アイザックソン、井口耕二訳、文藝春秋、2023)― 人類の未来を憂い、資本主義とビジネスの枠組みでフロンティア開拓に突き進むクレイジーな天才。その軌跡をオープンエンドの現在進行形で中継

 

『イーロン・マスク 上・下』(ウォルター・アイザックソン、井口耕二訳、文藝春秋、2023)をようやく読了。ことし2023年の9月13日に「世界同時発売」された本だ。

上巻の帯に「悩める天才」とあるが、それもさることながら「進軍の巨人」というべきかもしれない。

長い、じつに長い本であった。上下あわせて900ページ超。読み終えるまで3日かかったが、正直いって、読むのにくたびれてしまった。イーロン・マスク(Elon Musk)という「超人」が、止まることなく「進軍」している、そのエネルギーの熱量のせいだろう。

上巻の途中からぐんぐん面白くなってくるが、読者は最後の最後までイーロンに振り回されっぱなしである。

レオナルド・ダヴィンチから始まり、アインシュタインからスティーブ・ジョブズまで、「天才の伝記」を書かせたら右にでる者はいないという、伝記作家で経営者のアイザックソン氏。2年間にわたって密着取材を行ったとのことだが、それはおなじだったのではないか? 

イーロンの下で働いてきた人たちにとっては、言うまでもない。いや、現在進行形で振り回されている。

上下あわせて全95章。ほぼ時間軸に沿って進行していく形式になっているのは、イーロンがスペースX や テスラ といったハイテク製造業だけでなく、それ以外のニューラルリンク、さらにはまた昨年2022年からはSNSのツイッター(現在はX)まで同時進行させているからだ。


(とある書店の店頭ショーウィンドウに飾られているもの)


下巻は、2020年から2023年まで、足かけ4年の現在進行形の出来事を、リアルタイムで中継しているような記述である。

とりあえず、2023年4月で中継が終わっているが、まだまだ現在進行形で進軍がつづいている。オープンエンドなのである。


■かつてのモーレツな日本企業と日本人のような

「ひとつの事業に全集中して、すべての資源をその事業に投入せよ」というのは、伝説の大富豪アンドリュー・カーネギーの成功セオリーだ。

だが、そんな「常識」をはなから無視しているのがイーロン・マスクだ。現時点で、全部で6つの会社を陣頭指揮しているのである。

「超人的」というよりも、「超人」そのものではないか!

1971年生まれで、現在52歳のイーロンは、まさに「知力・体力・気力が一体」となって、「前へ前へと進軍」をつづけているディスラプターである。ディスラプターとは、既存事業という過去をスパンと断ち切ってしまうディスラプション(disruption)の実行者のことである。

「撃ちてしやまん」という、日中戦争下の日本のスローガンを想起させるものがある。敵を打ち破るまで戦いはやめるな、というマインドセットである。

しかも、徹底した「現場主義」であり、「コスト削減の鬼」といってもいいマイクロマネジメントの実行者である。まるでかつての日本の製造業のようだ。

経営者が現場で寝泊まりするのも当たり前朝から夜中まで働きづめで、いきなり深夜に部下に召集をかけることもたびたびである。昔風にいえばモーレツ社長そのものだ。現在の日本なら、ブラック企業だとして糾弾されることだろう。

無茶ぶりに見えるが、生産管理の世界でいう「ムリ・ムダ・ムラをなくせ」というセオリーどおりである。その実現のためには無茶も必要だということだ。

マーケティング依存の「マーケットイン」ではなく、製品そのものが魅力的ですばらしければ、かならず売れるはずだという「プロダクトアウト」の発想。ビジョンの実現と危機感の解決のためには、目に見えるカタチとしての、魅力ある製品がなければ説得力がないという哲学。

需要はつくるものだという信念であり、そのためには徹底して設計と製造の融合を実行させる。サプライチェーンは短ければ短いほうがいい。だからアウトソーシングや系列化など論外で、部品からすべて内製化すべしというの姿勢。

製品ユーザーとの距離は、近ければ近いほうが開発には都合がいい。だから、工場は市場の近くにつくる。米国と中国とドイツである。

アイデアはおなじ空間で働いているほうが生まれやすいから、リモートワークはダメだ、全員出社せよ。まるでホンダの「ワイガヤ」だな。

考えてみれば、自分自身の経験を振り返っても、日本企業も昔はこんなこと当たり前だったような気もする。それだけ、日本企業にも、日本製品に魅力がなくなってしまったということか。日本は進むべき方向を間違っているのかもしれない。

だからこそ、イーロン・マスクのような存在は、日本にも必要だ。こんな超人と付き合うのは、それこそミッション・インポッシブル(=実行不可能なミッション)であろう。とはいえ、過激にみられがちなイーロンの言動だが、日本企業にとってもヒントになることは多いのではないか?

たとえば、ミニカーなどおもちゃが量産プロセス構築において参考になるという話や、部品点数はできるだけ減らしてミニマムにする、マテリアル(素材)への注目などなどである。

そんなヒントが、イーロン自身の発言として、この本のなかには無数にちりばめられている。ディテールにも注目してほしい。


(Author Walter Isaacson talks new Elon Musk biography)


■イノベーションはクレージーな人間の意思と行動なしには生まれない

ミッション・インポッシブルであればあるほど燃える男。困難や苦難はエネルギー源なのだ。アドレナリン出しっ放しである。

飽きてしまうことをなによりも恐れている男何もしていないことに耐えられない男。無理矢理にでも問題をつくりだしては、みずからをむち打つだけでなく、関係する人びとを巻き込んで尻を叩きまくる。

超絶的なワーカホリック。「ワーク・ライフ・バランス」などということばは、イーロンの辞書にはないのだろう。「ワーク・イズ・ライフ」なのだ。

どう考えても実現不可能としか思えないデッドライン設定して公表し、自分とチームを崖っぷちに追い込む修羅場。切迫感。無茶ぶり。実現不能と思える高い目標を設定して、みずからが先頭にたってチーム全体を追い込む姿勢。

たしかに、そうでもしなければイノベーションなど生まれないこともたしかだ。人間は追い詰められて、追い詰められて、はじめて局面打開の知恵が生まれてくる。いや、降ってくるというべきか。



Falcon Starship 英語版の裏表紙。日本語版は下巻の裏表紙に)


火星ミッション実現のための第一歩である、民間企業のスペースX が存在しなければ、米国の宇宙開発は過去の話になってしまっていたことだろう。

「スターリンク」がなければ、ウクライナは戦いつづけることなどできなかっただろう(*ただし、イーロン・マスク自身は、スターリンクはあくまでも民生利用に限定したいようだ)。

いまだ道半ばとはいえ、「テスラ」が存在しなければ、ロボタクシーなどの自律走行の自動運転など夢のまた夢というところだろう。

アイザックソン氏が巻頭に記したイーロン・マスクとスティーブ・ジョブズのことばは、説得力をもって迫ってくる。

最後まで読み終えて、ふたたび巻頭にもどってその2つのことばを読むと、心の底から納得しないわけにはいかない。




感情を逆なでしてしまった方々に、一言、申し上げたい。
私は電気自動車を一新した。
宇宙船で人を火星に送ろうとしている。
そんなことをする人間がごくふつうでもあるなどど、
本気で思われるのですか、と。(イーロン・マスク、2021年5月8日)

 




自分が世界を変えられると本気で信じるクレイジーな人こそが、
本当に世界を変えるのだ。(スティーブ・ジョブズ)
 

ただし、イーロン・マスクとスティーブ・ジョブズには決定的な違いがある。

ジョブズはデザインには、それこそクレイジーなまでのこだわりがあるが、製造は外部にまかせてもかまわないという姿勢であった。

これに対して、イーロン・マスクは真逆である。デザインだけでなく、製造も自分でやらなくてはダメだという姿勢である。

その意味では、同類でありながらも、イーロン・マスクはスティーブ・ジョブズのアンチテーゼであり、かつての日本企業のデジタル時代における「超進化形」といえるかもしれない。

日本の企業人も再考が必要だろう。



■本人は人間にはあまり関心がないが、その人物そのものは好奇心を誘発する存在

イーロン・マスクという「人間」は、事業以外の側面でも面白い。

ビジネス活動をつうじて、「人類」を救うという壮大なビジョン実現には邁進するが、個別の「人間」関係にはほとんど関心がない。アスベルガーを自称していることもあり、脳の配線がどうも一般人とは違うようだ。


(イーロン・マスクがモデル?といわれる映画『アイアンマン』2008年)


複数の女性とのあいだに子どもを何人もつくっているが、その多くが人工授精や代理母をつかっている。人類の数を減らすなという理由もあるようだが、どこまで本気なのかでまかせなのかわからない。

浴びせられてきた金持ち批判に嫌気がさして、不動産をすべて売却してしまい、転々と住む場所を変えながら生活している。コレクションや所有には関心はないのである。

そもそも金儲けじたいが目的ではなく、しかも慈善事業にもほとんど関心がない。かれにとっては、ビジネス活動そのものが、人類への貢献なのである。その意味では、松下幸之助にも通じるものがあるというべきかもしれない。

みずからが信じる「フロンティア開拓」に全財産をつぎ込む姿勢掛け金をずべてぶち込む「オールイン」型の新事業投資。のるかそるか、である。

リスクテイカーなんていうレベルではない。ほとんどギャンブルである。リーマンショックの2008年には、それこそ破綻すれすれまでの財務的綱渡りを演じている。それにしても壮絶だが、もしかすると無意識レベルでは破滅願望があるのかもしれない。




「AIが人間を凌駕させないための戦い」はドンキホーテ的でさえあるが、こういう人は世の中には必要だろう。

2023年に突然に始まり、急激に進化する「生成AI革命」で、2045年に想定されていた、AIが人間の能力を凌駕してしまう「シンギュラリティ」(特異点)が一気に早まってしまったといわれる。

わたし自身は、AIが人類を凌駕してしまうかもしれないが、残念ながらなってしまえば、それはそれで仕方ないだろうと思っている。だが、それは「絶対にダメだ」と論陣を張るだけでなく、実際の製品(モノ)をつうじて世の中に訴えかけるイーロン・マスクの姿勢は希有なものである。


(Optimus, aka Tesla Bot Wikipediaより)


テスラで開発をつづける「人型ロボットのオプティマス」もまたその一つである。

遠隔操作するロボットではなく、ロボット自身に人間の言動を「学習」させるヒューマノイドを開発するという姿勢。さすがである。「学習」という点にかんしては、わが子の X の成長ぶりも参考になっているようだ。

そんなイーロンにとって、機械学習のデータ源として、テスラによる動画だけでなく、ツイッターに投稿される文章や画像や動画もつかえることがわかったというのは、予期せぬ副産物だったようだ。

現在は、データを握った者が、すべてを握る時代なのである。だからこそ、その競争に勝つことは、イーロン・マスクにとって至上命題なのである。負けてはいけないのだ。





■はたして火星にコロニーが建設されるのはいつの日か?

壮大なビジョンと強い危機感。最初から最後まで振り回されっぱなしで、ついていくのはたいへんだ。アイザックソン氏によるこの評伝は、まさにイーロン・マスクそのものである。

「撃ちてし止まん」タイプの超人。こんな人間こそイノベーターとして、「フロンティア開拓」を行うのである。サイエンス・フィクション(SF)から、フィクションを取り除くとのがかれのミッションだ。

はたして、かれが生きているうちに火星にコロニーはつくれるのか? いつまで走りつづけることができるのか?

おそらく、というより間違いなく、枯れるということはないだろう。ある日、突然バタンと倒れて終わる。そんなことになるのだろう。まさに「撃ちてしやまん」である。

とはいえ、現在進行形のイーロン・マスクは、まだまだ当分のあいだ目が離せない存在であり続けることは間違いない。

すでに70歳を超えているアイザックソン氏に、続編を書くことはあるのだろうか? 文庫化される際には多少の追補がなされるであろうが・・・。


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<関連サイト>



(南アフリカでの子ども時代のイーロン) 





「講談社の書籍紹介」より
驚異的な頭脳と集中力、激しすぎる情熱とパワーで、宇宙ロケットからスタイリッシュな電気自動車まで「不可能」を次々と実現させてきた男――。シリコンバレーがハリウッド化し、単純なアプリや広告を垂れ流す仕組みを作った経営者ばかりが持てはやされる中、リアルの世界で重厚長大な本物のイノベーションを巻き起こしてきた男――。「人類の火星移住を実現させる」という壮大な夢(パーパス)を抱き、そのためにはどんなリスクにも果敢に挑み、周囲の摩擦や軋轢などモノともしない男――。いま、世界がもっとも注目する経営者イーロン・マスクの本格伝記がついに登場!イジメにあった少年時代、祖国・南アフリカから逃避、駆け出しの経営者時代からペイパル創業を経て、ついにロケットの世界へ・・・・・・彼の半生が明らかになります。(講談社BOOK倶楽部『イーロン・マスク 未来を創る男』
 



<関連記事>



(2023年12月20日 情報追加)


<ブログ内関連記事>




■先行する「天才」起業家。同類のモーレツなディスラプター





■イノベーションとディスラプション





・・本業に専念し、それ以外はアウトソーシングするという「京都モデル」は、サプライチェーンを極限まで短くするために内製化を徹底するというイーロン・マスクの製造業哲学とは真逆の立場


■宇宙ビジネスと火星移住




■人型ロボット




■イーロン・マスクの原点である南アフリカ


(2025年2月22日 情報追加)


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2015年6月6日土曜日

「フィリピン投資フォーラム」に参加してきた(2015年6月4日)ー 人口1億人を突破したフィリピンの成長性と将来性は高い



「フィリピン投資フォーラム」に参加してきた(2015年6月4日)。日本からの直接投資の誘致を目的としたフォーラムである。今回のフォーラムには、国賓として来日したベニグノ・アキノ大統領と、その経済閣僚が参加している。

会場は、赤坂見附のホテルニューオータニ。主催は、日本貿易振興機構、日比経済委員会、国際機関日本アセアンセンタープログラム駐日フィリピン共和国大使館、一般財団法人フィリピン協会。後援は、外務省、経済産業省、日本商工会議所、中小企業基盤整備機構。主催者も後援者も、それぞれそうそうたる面々である。日本側の気合いも十分といえる。

参加申し込みは1,000人を超えていたというので、日本側のフィリピンの関心度合いの高さがうかがわれる。

今回この投資フォーラムに参加することにしたのは、なんといってもベニグノ・アキノ大統領をナマで見たかったからだ。アキノ大統領のリーダーシップのもとで政治的安定と経済成長が実現しているが、最近は、海洋進出を活発化させ、スプラトリー諸島で無法ぶりを発揮している中国海軍の動きに毅然とした態度で NO を突きつけていることでも知られている。

アキノ大統領は、独裁者と化していたマルコス大統領「ピープル・パワー革命」という市民革命で倒した中心人物で、その後、大統領となったコラソン・アキノ氏の長男である。1960年生まれで現在54歳の独身。

ベニグノ・アキノ大統領は基調講演を行ったが、早口の英語によるスピーチは立て板に水のようで、きわめて迫力あるものだった。投資誘致にむけての熱意と気迫が十分に伝わってくるだけでなく、高い経済成長を背景にした強い自信がうかがわれた。

(基調講演を行うアキノ大統領 Channel Newsasia の映像よりキャプチャ)


このほか、経済閣僚によるプレゼンテーションが行われた。いずれも流暢な英語である。

経済区庁(PEZA)長官 リリア  B.  デ リマ氏(経済学博士)による「フィリピン経済特区において拡大する投資機会」(Invest in the Philippines: A Look at Growing Investment Opportunities in Economic Zone)
基地転換庁 アーネル・パシアノ D. カサノヴァ 長官・CEOによる「クラーク・グリーンシティ・プロジェクト」(Clark Green City Project)
観光大臣 ラモン・ ヒメネス氏による「観光産業における投資機会」(It's More Fun to do Business in Philippines)


リリア・デ リマ博士にかんしては、いまから7年前にASEANセンター主催の投資ミッションで訪問した際に、少人数のミッション参加メンバーとお会いしている。マレーシアの経済大臣もそうであったが、フィリピンのデリマ長官も在任期間が長い女性である。政策の一貫性と継続性を担保する存在であるといえる。


フィリピンに注目すべき理由

投資フォーラムの内容をすべて紹介はしないが、とくに印象に残ったのは以下の諸点である。

まずは、2014年に人口が1億人突破(!)したこと。日本や中国を筆頭に、タイも含めてアジア各国が「少子高齢化」問題に直面しはじめているなか、フィリピンは人口増加だけでなく、若年人口も多く、労働人口という点においては、いわゆる「人口ボーナス」を享受できる点は、きわめて大きなアドバンテージであるといえる。フィリピンは、アジアでもっとも高齢化が遅い国とされている。

そして、高い経済成長率である。2009年はリーマンショックのあおりを受けて1.15%と低下したが、2000年以降は4%台以上を維持しており、2013年には7.18%を記録している(・・2014年は6.10%)。高い成長を維持しつづけていることに注目すべきだろう。

日比経済委員会・代表世話人が、日産自動車株式会社 代表取締役副会長の志賀俊之氏であることも注目すべき点である。いったんはフィリピンから撤退した日産自動車だが、2013年にふたたび進出しているのである。豊富な労働人口は、IT分野やコールセンターなどのサービス分野だけではなく、製造業の分野でも有望であることを示している。

東南アジアでは、シンガポールやマレーシア、タイなどが、いわゆる「開発独裁」によって「産業近代化」を推進したことは「常識」である。フィリピンが経済停滞を長くつづけていたのは、シンガポールの建国の父で国父であったリー・クアンユー氏や、国民から敬愛されるタイのプミポン国王のような、「国民統合のシンボル」となるような求心力を欠いていたことも要因の一つであろう。

ことし(2015年)1月のローマ教皇フランシスコ一世による公式訪問がフィリピンで大歓迎されたことも記憶に新しいが、カトリックが人口の7割を占めるフィリピンでは、バチカンに匹敵する求心力はない。

(聖母マリア像 セブ島の国際空港にて筆者撮影)

さきにコファンコ財閥出身のアキノ大統領が許漸華という中国名をもつ華人系であるのにかかわらず、中国の国際法を無視した無法な海洋進出に毅然とした態度で NO を突きつけていることに言及したが、中国の脅威をフィリピン国民のナショナリズム喚起につなげているのは、意図的なものもあると考えていいだろう。この延長線上に、国民国家としてのフィリピンの成長があると考えるべきか。

近代日本がそうであったように、ナショナリズムによる国民の一体化が産業近代化への大きな推進力となることを十分に承知したうえで、共通の外敵を設定することによる求心力向上を狙って、中国に抗議するという姿勢をしめしているのではないかと推察しているが、いかがであろうか。


アジア開発銀行(ADB)の本部がフィリピンの首都マニラにあることの意味

フォーラムでは言及されていなかったが重要な点を一つ追加しておこう。それは、アジア開発銀行(ADB)の本部がフィリピンの首都マニラにあることである。

いま中国主導のアジア・インフラ投資銀行(AIIB)との関係で注目をあびているアジア開発銀行(ADB)だが、世界銀行のアジア版として、1966年にアメリカと日本の主導で設立されたのがADBである。ベトナム戦争の最中であり、中国は毛沢東による「文化大革命」が始まった年である。

太平洋戦争の日米最大の激戦地がフィリピンであるが、ダグラス・マッカサーとその父アーサー・マッカーサーとも縁の深い、因縁の地がフィリピンなのである。日本ともアメリカとも、きわめて密接な関係にあるのがフィリピンである。そのフィリピンの首都マニラにADBの本部が置かれていることのことのシンボリック意味について、よく考えておくべきだろう。冷戦構造のなか、米国の反共戦略の一環としての位置づけであった。

かつてアメリカの植民地であったフィリピンは、アメリカ企業のコールセンター産業が栄えていることでわかるように、「準英語圏」といってもいい存在である。製造業でも、マネージャーだけでなく、ワーカーと英語でコミュニケーションがとれる点は、フィリピンの大きなアドバンテージである。これは、タイやベトナムでは臨んでもかなわない点だ。

2015年にはASEAN経済統合が実行されるが、とくに「人口ボーナス」という点からいって将来的なさらなる成長が期待されるフィリピンには、大いに注目する必要がある。


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<関連サイト>

フィリピン投資委員会(BOI:Board of Investment)(英語)

2015年6月フィリピン投資フォーラム講演資料 (国際機関ASEANセンター)



<ブログ内関連記事>

フィリピン(Philippines)とポーランド(Poland)、この「2つのP」には2つ以上の共通点がある! (2010年)
・・カトリック人口が7割を超えるフィリピンだが、「カトリックは経済成長の阻害要因」というマックス・ウェーバー以来の一般常識は疑ってかかるべきだろう

修道院から始まった「近代化」-ココ・シャネルの「ファッション革命」の原点はシトー会修道院にあった
・・プロテスタンティズムと起業家精神との親和性を説いたマックス・ウェーバーの仮説には、そもそもほころびがある

書評 『国力とは何か-経済ナショナリズムの理論と政策-』(中野剛史、講談社現代新書、2011)-理路整然と「経済ナショナリズム」と「国家資本主義」の違いを説いた経済思想書
・・ネーション・ステート(=国民国家)とナショナリズムの重要性を肯定的に論ずる

書評 『ナショナリズム-名著でたどる日本思想入門-』(浅羽通明、ちくま文庫、2013 新書版初版 2004)-バランスのとれた「日本ナショナリズム」入門 ・・アジアのなかでいち早く近代化をなしとげた日本におけるナショナリズム

書評 『ヒンドゥー・ナショナリズム』(中島岳志、中公新書ラクレ、2002)-フィールドワークによる現代インドの「草の根ナショナリズム」調査の記録
・・現代インドにおけるナショナリズム

映画 『イメルダ』 をみる
・・フィリピン戦後史そのもののイメルダ・マルコス

ベトナムのカトリック教会
・・アジアのカトリック国はフィリピンだけではない。韓国とベトナムもまたそうである

書評 『ギリシャ危機の真実-ルポ「破綻」国家を行く-』(藤原章生、毎日新聞社、2010)
・・多島国ギリシアとフィリピンの共通性について言及

書評 『「海洋国家」日本の戦後史』(宮城大蔵、ちくま新書、2008)-「海洋国家」日本の復活をインドネシア中心に描いた戦後日本現代史
・・「市場としての中国」を失った敗戦国日本は、冷戦構造のなか、米国の反共戦略の一環として「市場としての東南アジア」での経済活動を許され、「戦後賠償」というひも付き援助によって、日本企業の東南アジア進出を後押ししてゆく。




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2015年5月27日水曜日

書評『チャイニーズ・ドリーム ー 大衆資本主義が世界を変える』(丸川知雄、ちくま新書、2013)ー 無数の「大衆資本家」たちの存在が中国の「国家資本主義」体制の地盤を堀崩す


「チャイニーズ・ドリーム」(=中国夢)というと、どうしても習近平によって大国化を目指して打ち出された政治的スローガンを想起してしまう。

だが、本書のタイトルになっている「チャイニーズ・ドリーム」は、政治的なものではない。経済をつうじて実現したいと願っている一般大衆の「夢」のことである。それが著者のいう「大衆資本主義」というものを支えている「夢」である。アメリカンドリームと同様に、ビジネスをつうじての成功という「夢」である。

中国経済は、かってほどの比率ではないものの、いまでも依然として国有企業のプレゼンスの大きな経済である。中国共産党が推進したい「社会主義資本経済」の主要な担い手が、石油や鉄鋼など主要産業を押さえている国有企業なのである。国内外の株式市場で上場している企業の大半は国有企業グループである。

1989年の「天安門事件」以後、政治的な自由を抑えつける代償として、経済的な自由を開放する政策が行われている中国だが、一般大衆にも経済的に成功するチャンスが与えられている。そこに開花したのが著者のいう「大衆資本主義」だ。

儲かるチャンスがあればそこに殺到する「大衆資本家」たち。規制のスキマを発見したらそこに殺到する「大衆資本家」たち。中国ビジネスというと、不動産や株式投資ばかりが日本のマスコミ報道では取り上げられているが、製造業の分野で事業を立ち上げる「大衆資本家」が存在することを本書は教えてくれる。

中国ではそれをさして山塞(さんさい)型というらしい。山塞とは、山賊の要塞のこと。山塞型とは、つまりゲリラ的な参入のことである。著者が前著の『現代中国の産業-勃興する中国企業の強さと脆さ-』(中公新書、2008)でも取り上げていた携帯電話、太陽電池といった事業分野が、まさにその典型的な実例である。特定の分野に専門特化して一点集中突破を図る戦略である。

「垂直統合」の産業構造が解体して、パーツやモジュール単位で「垂直分裂」した結果、分業化が進んで参入障壁が低くなると、小さな資本でも事業を立ち上げることが可能となったのである。いわゆるモジュール型の製造分野では、市場で購入したパーツやモジュールを組み立てれば、製造の敷居がきわめて低くなる。そして低価格での販売も可能となる。

著者は、こういった「大衆資本家」たちの取り組みを「キャッチ・ダウン型」と命名している。先行技術に「キャッチ・アップ」するのではなく、スペックの要求水準を下げることによって低価格というアドバンテージを手に入れる戦略である。

このほか、規制の網をかいくぐって急成長したのが電動自転車なども、じつに興味深い事例だ。

だが、「大衆資本主義」はときに大暴走することもある。その典型的な例がレアアース採掘である。

供給不足に狼狽した日本側の動きを知って、レアアースが日本揺さぶりの武器になると勘違いした中国政府の対応は、WTO加盟の先進諸国の猛烈な批判を招く結果で終わったが、「大衆資本家」たちが暴走すると規制当局も手をこまねくばかりであることが如実に示された事例としてじつに興味深い。WTO加盟に際して「市場経済国」と認められていない中国である。猛烈なレアアース採掘が環境破壊につながっている点も看過できないことである。 

「大衆資本家」社会の実現には、経営者の共産党参加への道を開いた江沢民の政策の意味も大きい。企業内に共産党員がいるのが中国企業のガバナンスの実情だが、経営者の共産党参加が実現したことにより、民間企業内の二重権力が解消したことがメリットであった。一方では、中国の救いがたい汚職と腐敗体質を招く結果となったのではあるが・・・。

このように、現実の動きに押されて現状追認する傾向にあるのが規制当局の反応であり、国有企業中心の中国経済に風穴を開けているのが実態である。無数の「大衆資本家」たちの動きは、いわゆる「国家資本主義」をくつがえす可能性があるのではないかと著者は指摘している。

そう考えれば、中国共産党以後の中国のカギを握るのは、起業家マインドに満ちた「大衆資本家」たちがその担い手の一部となるのかもしれない。

 『現代中国の産業-勃興する中国企業の強さと脆さ-』(丸山知雄、中公新書、2008)の続編ともいうべき内容。前著同様、というより前著以上に面白い。知的刺激に満ちた一冊である。





目 次

はじめに
第1章 草の根資本家のゆりかご・温州
第2章 ゲリラたちの作る携帯電話
第3章 太陽電池産業で中国が日本を追い抜いたわけ
第4章 大衆資本主義がもたらす創造と破壊
第5章 中国経済と大衆資本主義
おわりに-「中国夢」に日本は何を学べるか?
あとがき
参考文献

著者プロフィール


丸川知雄(まるかわ・ともお)
1964年東京都生まれ。1987年、東京大学経済学部卒業。同年アジア経済研究所入所。2001年4月より東京大学社会科学研究所助教授、2007年4月より同教授。著者に『現代中国の産業-勃興する中国企業の強さと脆さ-』(丸山知雄、中公新書、2008)ほか。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの追加)。



*「山塞企業」モデルについて解説されている


<ブログ内関連記事>

製造業ビジネスモデルの変化

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書評 『アップル帝国の正体』(五島直義・森川潤、文藝春秋社、2013)-アップルがつくりあげた最強のビジネスモデルの光と影を「末端」である日本から解明
・・米国製造業のアウトソーシング先としての、中国における台湾のEMS企業

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中国の科学技術

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書評 『アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?』(ダン・セノール & シャウル・シンゲル、宮本喜一訳、ダイヤモンド社、2012)-イノベーションが生み出される風土とは?
・・一党独裁の共産主義中国とは対極の独創性の宝庫イスラエル


「一党独裁」を支えるチャイナマネー

書評 『自由市場の終焉-国家資本主義とどう闘うか-』(イアン・ブレマー、有賀裕子訳、日本経済新聞出版社、2011)-権威主義政治体制維持のため市場を利用する国家資本主義の実態
・・中国経済の中心は国営企業。ロシアと同様、「国家資本主義」(=新・重商主義)で経済を政治の手段として使用する中国共産党

中国経済の将来

書評 『中国台頭の終焉』(津上俊哉、日経プレミアムシリーズ、2013)-中国における企業経営のリアリティを熟知しているエコノミストによるきわめてまっとうな論

「稲盛哲学」 は 「拝金社会主義中国」を変えることができるか?

(2016年7月24日 情報追加)



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2013年7月26日金曜日

書評『アップル帝国の正体』(五島直義・森川潤、文藝春秋社、2013)ー アップルがつくりあげた最強のビジネスモデルの光と影を「末端」である日本から解明



スマートフォンという概念をつくりだした iPhone の売り上げが鈍ってきているようだ。サムスンなどとの競合も厳しくなってきており、アップルの業績が2四半期連続で悪化していることが昨日(2013年7月25日)ニュースで報道されていた。

ジョブズが死んですでに2年近くたち、アップルの神通力にも陰りが見えてきたのかもしれない。いやスマホというガジェットが普及した結果、市場はすでに飽和状態にあるというのが正確かもしれない。

アップルの業績が上がろうが下がろうが関係ない、ということはないのである。それはアップル製品の熱狂的なファンにとってだけでなく、日本の製造メーカーの多くにとってもそうなのだ。とくに部品製造にかかわる日本の製造業にとってはきわめて大きな問題である。

アップルの各種製品の生産量が減少すると、それはもろに日本のメーカーにはダイレクトにはねかえってくる。アップル製品に日本の部品がじつに多く使用されているだけでなく、生殺与奪まで握られているケースが多いからだ。つまり日本企業はアップルの下請けになっているのが実態なのだ。

いまや時価総額で50兆円を超える巨大メーカーに成長したアップルは、自社だけが高い利益率を確保することができるよう設計された、自社を頂点とする生態学(エコ・システム)を形成してきた

その生態系のなかには日本企業、台湾企業、中国企業などがガッチリと組みこまれており、徹底した在庫管理と販売計画、生産計画の24時間リアルタイム化によってアップルは組立メーカーと部品メーカーを管理している。ジョブズがモデルとしてきたソニーですら、現在のアップルにとってはカメラ用の半導体というキーデバイスの調達先にしか過ぎないのである。

アップルは製造機能をもたないファブレスメーカーであり、受託製造に特化した台湾のフォックスコンなどEMSに大きく依存している。しかも、iPhone や iPad といった少数の品目に絞りこみ、その単品ごとの販売量と生産量がきわめて巨大な「少品種大量生産」モデルとなっている。現在ものづくりの世界では標準となっている「多品種少量生産」モデルの真逆である。

2008年時点ですでに iPhone の累計販売数は1,000万台を突破しており、部品メーカーからみれば膨大な量が販売できるので魅力的だが、一方ではアップルとの「独占供給契約」にしばられて、生産量を自社でコントロールできないというデメリットがある。

まさにアップルという「毒リンゴ」を食べてしまった日本企業の苦悩は深い。それは製造メーカーだけではなく、販売会社や通信会社にとっても同様だ。美しいバラだけでなく、うまそうなリンゴには毒があったわけだ。

本書は、アップル社がつくりあげた最強のビジネスモデルの光と影を日本からみたレポートである。徹底した秘密主義のベールに隠されているアップルの生態系(エコ・システム)を末端からみた内容だといっていい。そう、日本企業はアップルにとっては「末端」なのである。

とくに第1章と第2章をよめば、アップルをアップル帝国たらしめているのはスティーブ・ジョブズという天才肌のビジョナリー経営者がつくりだした神話だけではなく、完璧主義であったジョブズが指示してつくりあげた盤石のビジネスモデルにあることがわかるのである。

アップルの完璧主義は、よくいえばあたかもかつての高度成長期の日本企業のようでもある。完璧や徹底といった基本姿勢は、文字どおりアップルで働く人間にとってはそこで生き抜くためには不可欠のマインドセットとなっているのである。

しかし一方では、悪くいえばアップルは、なんだかいま日本で問題になっている「ブラック企業」そのものようだきわめて過酷な労働環境といっていいだろう。しかも、そのなかで働いている人にとってだけでなく、その生態系(=エコ・システム)にかかわっているすべての人にとってもまたブラックな存在となっているのではないかという気もする。

だが、冒頭に書いたように「アップル帝国」もゆらぎが生じ始めている。「死せるジョブズ」の神通力にも影が見え始めている

普通の会社になりつつあるアップルが今後いかなる状態になっていくか、それはアップルにとってだけではなく、日本企業にとっても関係のない話ではないのである。

ビジンスパーソン以外にもぜひ一読をすすめたいビジネス・ノンフィクションである。





目 次

プロローグ アップル帝国と日本の交叉点
第1章 アップルの「ものづくり」支配
第2章 家電量販店がひざまずくアップル
第3章 iPodは日本の音楽を殺したのか?
第4章 iPhone「依存症」携帯キャリアの桎梏(しっこく)
第5章 アップルが生んだ家電の共食い
第6章 アップル神話は永遠なのか
エピローグ アップルは日本を映し出す鏡


著者プロフィール

後藤直義(ごとう・なおよし)
週刊ダイヤモンド記者。1981年、東京都生まれ。青山学院大学文学部卒業後、毎日新聞社入社。2010年より週刊ダイヤモンド編集部に。家電メーカーなど電機業界を担当。

森川 潤(もりかわ・じゅん)
週刊ダイヤモンド記者。1981年、米ニューヨーク州生まれ。京都大学文学部卒業後、産経新聞社入社。横浜総局、京都総局を経て、2009年より東京本社経済本部。2011年より週刊ダイヤモンド編集部に。エネルギー業界を担当し、東電問題や、シェールガスなどの記事を執筆する
(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



著者の元アップル社員の松井氏がいう「私設帝国」ともいうべき超巨大グローバル企業企業が、ビジネスだけでなく、消費のあり方や労働のあり方を根底から変えていく様子がアップル社での体験を踏まえてよく描かれている(2014年6月20日 記す)。


<関連サイト>

アップルのニッポン植民地経営の深層(1) “リンゴ色”に染まる巨大工場の苦悩(ダイヤモンドオンライン 2013年7月18日)
アップルのニッポン植民地経営の深層(2)キャリアを悩ます“iPhoneブルー”アップル・通信会社支配の裏側(ダイヤモンドオンライン 2013年7月25日)
アップルのニッポン植民地経営の深層(3) クックCEOが抱える時限爆弾 アップルのテレビ開発の深層 


製造を外注しても技術力を失わないアップルの凄み -  欧米モデルを誤解し安易に模倣する日本企業のリスク (ダイヤモンドオンライン 2014年5月7日)


拙著 『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』、iBookstore から「電子書籍化」されました!(2013年10月23日)


<ブログ内関連記事>

書評 『日本式モノづくりの敗戦-なぜ米中企業に勝てなくなったのか-』(野口悠紀雄、東洋経済新報社、2012)-産業転換期の日本が今後どう生きていくべきかについて考えるために

書評 『ものつくり敗戦-「匠の呪縛」が日本を衰退させる-』(木村英紀、日経プレミアシリーズ、2009)-日本の未来を真剣に考えているすべての人に一読をすすめたい「冷静な診断書」。問題は製造業だけではない!

書評 『中古家電からニッポンが見える Vietnam…China…Afganistan…Nigeria…Bolivia…』(小林 茂、亜紀書房、2010)
   
書評 『グローバル製造業の未来-ビジネスの未来②-』(カジ・グリジニック/コンラッド・ウィンクラー/ジェフリー・ロスフェダー、ブーズ・アンド・カンパニー訳、日本経済新聞出版社、2009)-欧米の製造業は製造機能を新興国の製造業に依託して協調する方向へ

書評 『現代中国の産業-勃興する中国企業の強さと脆さ-』(丸山知雄、中公新書、2008)-「オープン・アーキテクチャー」時代に生き残るためには
・・「垂直分裂」というコトバが定着したものかどかはわからないが、きわめて重要な概念である。この考え方が成り立つには、「ものつくり」において、設計上の「オープン・アーキテクチャー」という考え方が前提となる。 「オープン・アーキテクチャー」(Open Architecture)とは、「クローズドな製品アーキテクチャー」の反対概念で、外部に開かれた設計構造のことであり、代表的な例が PC である。(自動車は垂直統合型ゆえクローズドになりやすいが電気自動車はモジュール型)

書評 『中国貧困絶望工場-「世界の工場」のカラクリ-』(アレクサンドラ・ハーニー、漆嶋 稔訳、日経BP社、2008)-中国がなぜ「世界の工場」となったか、そして今後どうなっていくかのヒントを得ることができる本

スティーブ・ジョブズの「読書リスト」-ジョブズの「引き出し」の中身をのぞいてみよう!
グラフィック・ノベル 『スティーブ・ジョブズの座禅』 (The Zen of Steve Jobs) が電子書籍として発売予定

三宅一生に特注したスティーブ・ジョブズのタートルネックはイタリアでは 「甘い生活」(dolce vita)?!

An apple a day keeps the doctor away. (リンゴ一個で医者いらず)

(2014年8月18日 情報追加)


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