2009年5月15日金曜日

「西部邁(にしべすすむ)ゼミナール」と秋山祐徳太子




Tokyo MX という東京ローカルのUHF放送が地デジでも見れるので、最近よく見てるのだが、毎週土曜日に「西部邁ゼミナール-戦後タブーをけっとばせ-」という30分番組があることをついこないだ知った。

 生放送は一回も見てないのだが、ウェブサイトに YouTube を使った動画アーカイブがあるので、過去の番組をパソコンでみると、これが実に面白い。

 私はとくに西部邁のファンではないので、彼が書いたものは実はあまり読んでないのだが、いわゆる「保守思想家」ということになっているようだ。映像で見る限り、1939年生まれで今年70歳の西部は、なかなかいい味出している。

 でも実はこの番組が面白いのは、番組タイトルには出てこないのだが、ホスト役にアーチストの秋山祐徳太子(1935年生まれ)も出ていることだ。R70の二人の老人は飲み友達で親友らしい。「年寄りだから許される」という特権を活かして、好き放題しゃべっているのがこの番組の特色で、「老人力」をうまく利用した好企画である。


 実は、私は秋山祐徳太子のファンで、その昔、東京都知事選挙(二回目)に出馬したときの政見放送をNHKでみた記憶がある。子供心に変な名前だなあ、本名なんだろうか?、と思い記憶に強く焼き付いていた。

 余談だが、同時に立候補した「オカマの東郷健」(・・本人がそう言っている)の政見放送は実に鮮明に記憶として残っている。政見放送は放送コード無視してしゃべれるので、インターネット時代に入るまでは、自らの思想を語るのに、これほど適した放送メディアはなかったのだ。東郷健の政見放送は、NHKアーカイブにあるのだろうか?

 秋山祐徳太子の著者は最新刊のもの以外はすべて読んでおり、アーチストの突き抜けた自由な生き方には限りない共感を感じてきた。とくに『泡沫桀人列伝-知られざる超前衛-』(二玄社、2002)は素晴らしいの一語に尽きる。取り上げられている「泡沫」アーチストは、ボクシング・ペインティングの篠原有司男以外はまったくの無名人で、世の中にはこれほど変わった人がいることにうれしい驚きを感じる。

 現代美術の世界では、ルイ・ヴィトンとのコラボレーションなどで有名になった村上隆のような「戦略性」をもった成功者もいるが、戦略なんてビジネスだけで十分じゃないか。なんだかアメリカ資本主義そのもので、あざとい感じがしていやだね。

 それに比べて、「泡沫」アーチストたちは、はたからみると変人でしかない。とはいえ、本人たちの自意識においては、みな大真面目にアートに取り組んできたのであり、その結果とんでもない方向にいってしまっている。自分しか見てないから世の中の大半とはズレていってしまうのだが、他人の目線を感じることなく、一貫して一本筋の通った生き方をする人間は、芸術家であれ、科学者であれ、たいへんいい生き方ではないか。

 『近世畸人伝』(伴 蒿蹊、森 銑三校註、岩波文庫、1940)に登場する17~18世紀の江戸時代の人たちにも通じるものがある。必ずしもカネにつながらないし、非生産的なことであるとしても、精神衛生的にはたいへんよい

 また秋山祐徳太子の自叙伝である『ブリキ男』(晶文社、2007もいい。パフォーマンスのさきがけである行動芸術、ブリキを使った彫刻、石原慎太郎とともに落選した東京都知事選の話、赤尾敏とチョコレートパフェを食べた話など、明るく笑える話が満載で、精神の自由にみちみちている魅力的な本だ。肩の力が抜けて、しかも生きる元気が湧いてくるのを覚える。

 1970年(昭和45年)の大阪万博に関してはまったく正反対の立場にあった岡本太郎も好きだが、彼の「爆発」的自由・・これは、フランス的個人主義を基盤にした日々戦って勝ち取ってきた自由・・とは違って、秋山祐徳太子の自由は、日本人が昔からもっている、軽さ、つまり俳諧に通じる精神の自由である。どちらの自由もいい。

 「世間」なんかにとらわれず、好きなように生きたらいいではないか。




『泡沫桀人列伝-知られざる超前衛』(二玄社、2002) 
目 次

風船と破壊 "肉体の栄光"-風倉匠氏の巻
タイヤ・アート "足跡を芸術化"-石橋別人氏の巻
葬儀人類学者 "最終芸術を見守る"-山形葬太郎氏の巻
裸の鈴鳴り神社 "狂気なる紳士"-上条順次郎氏の巻
マサカリ画伯 "熊もビックラコ"-池本良三氏の巻
発狂の夜皇帝 "ゴールデン街の泉"-永寿日朗氏の巻
鐘撞きアーティスト "撞けば心の泉わく"-須田鐘太郎氏の巻
ビタミン・アート "すべてが栄養"-小山哲生氏の巻
オープニング・パーティの花 "まず御酒を一杯"-野田勝太郎氏の巻
岩石アーティスト "石の郵送人"-岩倉創一氏の巻
・・以上のほか「純正泡沫烈士」がトータル50名!


秋山祐徳太子(あきやま・ゆうとくたいし)

1935年生まれ。東京都出身。1960年武蔵野美術学校(現大学)彫刻科卒業。1965年岐阜アンデパンダン・フェスティバルに自分自身を出品。大手電機メーカーにて工業デザイン担当。その間ポップ・ハプニング(通俗行動)と称し、ハプニング活動を行なう。1973年初個展「虚ろな将軍たち」(ガレリア・グラフィカ、東京)。1975、1979年政治のポップ・アート化をめざし東京都知事選に立候補。1994年「秋山祐徳太子の世界展」(池田20世紀美術館、伊東)。その他個展、グループ展多数。ライカ同盟、見世物学会にて活動(本データは『泡沫桀人列伝』が刊行された当時に掲載されていたもの)。

(2014年1月16日 書籍情報追加)


PS 秋山祐徳太子氏は、2020年4月3日に老衰のため亡くなった。享年85歳。いい人生を生き抜いた人だと心から思う。合掌。西部邁が入水によって自死した件は、事件として報道されている。2018年のことだ。これで2人とも世を去ったことになる。名物じいさんを惜しむのは私だけではあるまい。この2人は目指すべきロールモデルであった。(2021年3月23日 記す)


<ブログ内関連記事>


・・円空もまた『近世畸人伝』に登場する人物

(2021年3月23日 この項目は新設)





(2012年7月3日発売の拙著です)










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