■組織ではなく個人を出発点にして、楽しんでビジネスに取り組もう、という熱い呼びかけの本■
本書はビジネス書だが、いわゆるノウハウ本ではない。
ビジネス書というよりも、働くことの意味をもう一回根本的に考え直してみよう、そのためには組織ではなく、個人を出発点にして、楽しんでビジネスに取り組もう、という熱い呼びかけの本である。
著者の今北純一氏はパリ在住の国際ビジネスマン、日米欧でずっとチャレンジを続けてきた人だ。
『欧米対決社会のビジネス』(新潮社、1988)以来、国際ビジネスの場で組織に頼らない生き方を追求し、孤軍奮闘する今北氏の本はずっと愛読してきた。
とくに『欧米対決社会のビジネス』は何度も繰り返し熟読し、ときには叱咤され、またときには大いに励まされてきた。今北氏には直接お会いしたことはないが、なんだか人生の先達、人生の師のような存在と思ってきた。
文庫版の解説を執筆している梅田望夫氏も同じ思いを共有しており、本書を実にうまく紹介しているのでぜひご一読されたい。
著者は、ミッション、ビジョン、そしてパッションの重要性を説いている。
ビジネス・パーソンが組織でなく、個人を出発点にするときパッション(=情熱)は重要だ。ミッションで何を目指すかを明確にし、ビジョンで具体的なあるべき到達点への道筋を明らかにし、パッションをもってそれに取り組む。これは今北氏が一貫して追求してきた生き方そのものだ。だから説得力はきわめて強い。個人なくして、組織はないのである。
著者が本書のなかで主張する、無形資産の国際化、カスタマー中心への思考転換、資本の意味を根本的に考えてみること・・・これらはみなこれからの時代に必要なテーマだが、特に目新しく見えないかもしれない。しかし、すべて個人を出発点としてこれらの課題に取り組めば、必ずこれからの時代の突破口になることは間違いない。
著者は意外なことに、"沖仲仕(おきなかし)の哲学者"として知られた米国の哲学者エリック・ホッファーを紹介している。「個人としての軸」がぶれない生き方を送った実例として取り上げているのだ。ホッファーは、自分が本当にやりたいことだけやって、お金持ちにはならなかったが、実に幸せな人生を送った人である。
ホッファーのように、また著者が本書で紹介する靴磨きのおじさんのように、鮨屋のおやじのように、個人として楽しんでビジネスに取り組みたいものだ。著者の呼びかけは、読者をそういう気持ちにさせてくれる。
本書はビジネス書であるが、ビジネス・パーソンの生き方の本に分類すべき内容である。
いまのような時代、方向性に迷う現役のビジネス・パーソンにはぜひ読んで欲しい本だ。間違いなく、借り物でない、本当の意味の元気がでてくるはずだ。
■bk1書評「組織ではなく個人を出発点にして、楽しんでビジネスに取り組もう、という熱い呼びかけの本」投稿掲載(2009年11月17日)
<書評への付記>
『欧米対決社会のビジネス』(新潮社、1988)は、何度も繰り返し読んだ、かつての愛読書である。
この本のあとにでた『国際マヴェリックへの道』(ちくまライブラリー、1990)は、今北氏が学んだ恩師である、東大工学部の西村肇研究室出身者が、それぞれの道で道を切り開きつつある姿を熱く語り合った本で、これも同じく何度も繰り返して読んだ愛読書である。その後、絶版になったままなのは残念なことだが。
マヴェリック(maverick)とは今北氏が愛用していたコトバで、一人で生きていける人間のことを指す。一匹狼(lone wolf)ではない。協調性もないわけではないが、群れとはスタンスを保ちつつ自ら選んだ道を歩く人間。
何を隠そう、今北氏の本を読んで以来、私もこういう存在に憧れてきた。
それ以来20年、久々に今北氏の本を読んで熱くなる思いをする。
20年前の著書には、これから世界相手にチャレンジしていくといった、いい意味での気負いが感じられて、読者もその熱い思いに巻き込まれたものだが、20年後の本では、現役でまだ走り続けるトップランナーが、先達として後輩たちに熱いエールを送りつつ、自分もまだまだ走り続けるぞ、と宣言しているような内容の本になっていた。
書評でも触れたが、『ウェブ進化論-本当の大変化はこれから始まる-』(ちくま新書、2006)の著者・梅田望夫(うめだ・もちお)氏も同じ思いを抱いているのだろう。
単行本のタイトルは、『ビジネス脳はどうつくるか』(文藝春秋社、2006)だったそうだ。
これだと何かエセ脳科学本のような響きがないわけでもない。私が単行本を手に取らなかったのはそのためだろう。出版されていたという記憶もないのだ。
書評でも触れたが、今北氏が本書のなかでエリック・ホッファーに言及しているのは、正直いって驚いた。「個人としての軸」がぶれない生き方、という捉え方も新鮮であった。いわれてみればたしかにそうである。
最前線にいる国際ビジネスマンがホッファーを引き合いに出す、また楽しからずや、である。ホッファーについては私もこのブログで紹介しているので、ぜひ参照されたい。
文庫本表紙に印刷されている Carpe Diem(カルペ・ディエム)というラテン語の金言は、英語では Seize the Day と表現される、ローマの詩人ホラティウスの詩句の一節である。
『この日をつかめ』という日本語タイトルで翻訳されたアメリカ文学もある。『今を生きる』という日本語タイトルで公開されたハリウッド映画もある。前者はソール・ベローの作品、後者はロビン・ウィリアムズ主演のプレップ・スクールものである。
よく引用される慣用句なので覚えておくとよい。
資本主義の行方がどうなろうと、ビジネスがなくなるわけではないし、もちろん仕事がなくなるわけではない。
「個人としての軸」がぶれない、確かなミッション(=使命)をもったビジネス・ライフを、そしてライフそのものを送りたいと願うのは決して私だけであるまい。
ビジネスマンにとって、それがほぼ唯一の"悔いのない生き方"なのではないだろうか。
PS 読みやすくするために改行を増やした。内容には手は入れていない(2014年7月12日 記す)
<関連サイト>
このブログの姉妹編の 「個」と「組織」のよい関係が元気をつくる! では、「個と組織」のテーマを中心にビジネスとマネジメント関連について考えていることを記事として書いていますので、ぜひご覧になっていただけると幸いです。
<ブログ内関連記事>
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クレド(Credo)とは
『僕の死に方-エンディングダイアリー500日』(金子哲雄、小学館文庫、2014 単行本初版 2012)は、「死に方」はイコール「生き方」であることを身をもって示してくれた流通ジャーナリスト最後の著書
(2014年7月12日 項目新設)
(2014年9月9日 情報追加)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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