先日、東京・神宮前のワタリウム美術館で開催されている企画展「ルイス・バラガン邸をたずねる」にいってきた。
バラガン邸とは、建築家バラガンが、自分のために建築した自宅である。施主という、クライアントのわがままに疲れ果てたバラガンが、自分自身のために作った建築で、2004年には世界遺産として登録されている。バラガン邸はメキシコシティ近郊にある。
4階建ての美術館のなかに、バラガン邸の一部を空間として再現するという試みで、バラガン邸のなかに入って、書斎、リビングルーム、ダイニング、ベッドルームを体感することのできる展示となっている。
実際に家具や、装飾品、絵画、書籍、レコードなど、バラガンの遺品をメキシコから借りてきて展示しており、建築家の息づかいが感じられるような空間演出がされていた。
バラガンの建築物は、日本ではとくに女性に人気があるようだ。その色彩感覚と部屋ごとの空間構成が、思索と癒しをもたらしてくれるからであろうか。
ルイス・バラガン(Luis Barragán Morfin:1902-1988)は、20世紀メキシコを代表する建築家である。裕福なクライアントの個人住宅の建築を行ったきた建築家で、とくにピンク色の壁面が特徴となっている。
バラガン邸もそれ例に漏れず、外壁も室内にもピンクを使った、日本人の通常の色彩感覚とはやや異なるテイストであるが、ワタリウム美術館に再現されたバラガンの部屋に入って実際に体感してみると、それほど違和感がないのは不思議な感じがする。
バラガン財団(Barragan Foundation:スイス)の公式ウェブサイトもあるので、実際の色彩がどうなっているかは、直接ご覧になっていただきたいと思う。
もちろん、採光を十分に計算した部屋と壁面の色彩であるから、時間帯によって受ける印象が大きく変わってくるのは当然だ。写真集にのっているバラガン邸の写真が非常に濃いピンク色に写っているのは、南国メキシコの日差しが、もっとも明るさを増した時間帯の撮影だからだろう。
また、メキシコは基本的に日本と比べると空気が乾燥しているので、太陽光線はより強いことも関係しているはずだ。
(写真集 『カーサ・メヒカーナ』)
バラガンという建築家が私のアタマのなかに定着したのは、つい最近のことなのだが、ずいぶん以前に米国で購入した写真集 Casa Mexicana(カーサ・メヒカーナ:メキシコの家)を実にひさびさに開いてみたところ、第6章は「バラガン・ハウス」となっていた。迂闊だったなあ、とつくづく思う。
バラガンの建築だけを取り出してみるのもいいが、メキシコの個人建築全体のなかにバラガンを置いてみると、これがまた違和感がない。もちろんバラガン建築の個性は非常にはっきりしているのだが、メキシコ建築のエッセンスがバラガンに取り入れられていることも理解できるのだ。
このブログでもメキシコについてはメキシコ絵画を中心に書いているのだが、個々の建築家についてはまったく関心を払っていなかったようだ。メキシコは18年前にいったきりだが、1991年に訪れた際にはバラガン邸は訪れていない。
あの当時は、日本ではあまり関心はなかったように思う。また自分自身、現代建築にはあまり関心がなかったのも事実である。
米国のサンタ・フェというと、知的な風土をもった町として有名だが、これはニュー・メキシコ州にあることが示しているように、もともとはメキシコの領土であった。乾燥した気候と大地にふさわしい建築物が多く、哲学的、思索的な雰囲気を出している。
メキシコシティのバラガン邸も同じようなテイストを感じるのは私だけではないだろう。
なお、バラガンは戦後すぐの時期に自宅であるバラガン邸を建築したのちは、開発業者(デベロッパー)として高級住宅地開発に携わり、成功を収めたという。金銭的な成功だけでなく、自分の思うような空間設計と建築を行う事ができたということでもある。
ワタリウム美術館でこれまで開催された企画展で、出版物となっているものは何点かもっているが、実際に訪れたのは実は今回が初めてである。岡倉天心や南方熊楠にかんする企画展はぜひ見ておきたかったのだが、時間がとれなかったのだった。本だけはもっているのだが。
ワタリウム美術館では会期中、毎日17時からティータイムがあって、先着10人まで、メキシコ風にハチミツ入りのカモミールティーをいただきながら、バラガン邸から借りてきた椅子に腰掛け、学芸員の方からバラガンについてお話をうかがうことのできる交流会もある。
こういう双方向性の対話が用意されていることは非常によいことだと思う。
企画展「ルイス・バラガン邸をたずねる」は、2010年1月24日まで開催。チケットは何度も入れるパスポート形式になっている。
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