2010年10月4日月曜日

「もの知りしょうゆ館」(キッコーマン野田工場)の「工場見学」にいってみた。「企業ミュージアム化」が求められるのではないかな?





 昨日(2010年10月3日)、キッコーマン野田工場の工場見学にいってきた。「もの知りしょうゆ館」という名称のもと、企業博物館的要素の強い、観光客向けの見学コースが設定されている。


「大人の社会科見学」としての「工場見学」

 最近は、工場見学が流行りらしい。テレビの報道番組でもときどき取り上げられている。

 従来は子供向きであった「社会科見学としての工場見学」、最近は、「大人の社会科見学」は、けっして珍しいものではなくなっている。子供連れの家族というわけでは必ずしもなく、大人が大人の関心から工場見学にいくのも増えているらしい。

 私の場合は、仕事柄、クライアント企業の工場を魅せてもらうことが多かったので、一般見学を前提としない工場も、内外を問わずかなりの量を見てきた。

 企業博物館タイプの工場見学についても、昨年の秋にキリンビールの横浜工場に団体で「大人の工場見学」にでかけたほか、長野県小諸のマンズワイン工場見学(・・ちなみにマンズワインは山梨県勝沼のワイナリーが観光地としては有名。マンズワインは現在キッコーマン傘下)に出かけている。

 食品は、もっとも消費者に近い一般消費財であるので、一般見学を前提とした工場見学ツアーは多くの会社で実施している。工場見学は広報のなかでも双方向性で費用対効果の高いものであるからだ。
 工場見学の終わりにお土産をもらっても、持って帰って食べてしまえば場所をとらないというのも好ましい。しかも、お土産は無料の試供品のようなものだから、顧客サービスとしての位置づけはもちろん、新たな顧客開拓の意味合いももつ。
 工場見学者にとって、売店でお土産を買うのも楽しみの一つである。

 今回「もの知りしょうゆ館」にでかけた直接のキッカケは、下総航空基地の一般公開で千葉県柏市までいったので、ついでに千葉県野田市まで足を伸ばしたということである。東武野田線の新親鎌ヶ谷駅から野田市駅までは40分かかり、しかも柏駅で乗り換えなければならない。埼玉県と
県境に近い野田市までいく用事はあまりない。

 私にとっては、醤油工場見学は長年の懸案事項であった。


東武野田線の野田市駅前はキッコーマンの「企業城下町」。利根川流域の野田は江戸時代以来の醤油の一大生産地帯

 東武野田線の野田市駅で下車。ここはキッコーマンの「企業城下町」である。

 利根川流域で物流の観点から一大消費地の江戸に近いこの地は、同じく利根川河口の銚子と並んで醤油製造の一大生産地であった。野田の醤油産業にrついては、『野田の醤油史』(市山盛雄、崙書房ふるさと文庫、1980)という、千葉県の地方出版の本が参考になる。この本は帰りの電車のなかでざっと目を通したが、概略をつかむことができる。ちょっと入手しにくいのが難点だが。


 野田市駅は、キッコーマンの工場以外、これといってめぼしいものはない。ここで昼飯を食べようと思ったが、コンビニしかなく、ファストフードもないので断念、とりあえず工場見学にいってから考えることとした。工場までは駅から徒歩3分。


「もの知りしょうゆ館」の工場見学

 事前に予約すれば、計60分のガイド付き工場見学ツアーがあるが、団体客と一緒に行動するのもうっとおしいので、単独で回ることにした。個人客は予約がなくても見学することはできる。

 ちょうど時間があっていたので、醤油製造の映画15分を見てから、自由に見学する。
 醤油醸造の製造工程そのものは、映画を見れば十分に理解できる。基本的に発酵食品である醤油は、発酵のプロセスそのものは生物にまかせるので製造プロセスはそれほど複雑ではない。複雑なことはすべてこうじ菌がやってくれる。単純な食品であるだけに、難しいのは材料の選定である。

 醤油たまりを布で絞る工程が以前は人手に頼らなければならないので大変だったようだが、現在では完全に自動化されているので、工場見学としてはそれほど面白いものではない。


 あっという間に見終わってしまうが、途中に醤油を使ったカフェがあるので、ここで軽く昼食をとった。醤油の効き比べようの木綿豆腐は無料、これに醤油生うどん150円を食べる。関東の濃い口醤油のうどんは、私にがちと濃すぎてイマイチであった。

 お土産は卓上の Kikkoman の醤油差し。どこの食堂でも置いてある、瓶入りの醤油である。


 せっかくの機会なので、売店で数量限定という「亀甲萬 御用蔵醤油」(527円)を買って帰る。伝統的醸造方法で醸造された「昔ながらの醤油」。さっそく今夜使ってみたが、関東の濃い口醤油そのもの、という感じの醤油であった。

 ちなみにキッコーマンのロゴマークは、この六角形の亀甲(きっこう:亀の甲羅)のなかに萬(まん:万)の字を象(かたど)ったものだ。「鶴は千年、亀は万年」にあやかったものだと、説明映画のなかで語られていた。

 日曜日だったので製造装置は止まっていたのが残念だが、百聞は一見にしかず、だ。
 今回は仕事ではなく、「大人の社会科見学」として、訪問してみた。


世界最大の醤油メーカーには「企業ミュージアム化」が必要なのでは?

 ただ、「もの知りしょうゆ館」は、企業博物館としての要素が弱いのが残念であった。なんせ醤油は江戸時代以来の伝統産業であるのだから、もっと江戸時代の醸造道具などの民俗学的な展示が欲しかったところだ。現在、展示されているものはごくわずかである。

 東京農大の大学ミュージアム「食と農の博物館」には、日本酒の醸造関係の資料が多数収集されて展示されている。

 日本を代表するというより、世界を代表する醤油メーカーのキッコーマンには、醤油にかんしては世界一のミュージアムを目指してほしいものだ。ただ単に野田の醤油造りだけでなく、銚子や、その起源である紀州を含めた関西の醤油造り、さらには中国のたまり醤油、タイのナンプラーやベトナムのヌクマムに代表される東南アジアの魚醤など、世界の醤油づくりをすべてカバーしたミュージアムが。

 売店には、醤油関係の書籍が一冊もなかったのは、企業ミュージアムとしての意識が欠けていることを示しているのだろうか。
 食品産業のリーダーとして、さらにワンランク上の企業を目指すためには、学芸員もそろえた企業ミュージアム化が必要あると私は思う。それまもた、企業の社会貢献の一つのあり方である。

 




<関連サイト>

「もの知りしょうゆ館」工場見学(キッコーマンのサイト)


<ブログ内関連記事>

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・・「大学博物館」あるいは「大学ミュージアム」(の不在)について考えてみる

味噌を肴に酒を飲む

「まめバス」というコミュニティバスが千葉県野田市にはある-ユニークな外装のミニバスは一見の価値あり

「櫻木神社」という神社が千葉県野田市にある-すべてを「桜花」の意匠で統一した見事なまでの一貫性

(2015年12月7日、2017年5月2日 情報追加)




(2012年7月3日発売の拙著です)








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