2012年5月13日日曜日

マンガ 『はいからさんが通る』(大和和紀、講談社、1975~1977年)を一気読み


『はいからさんが通る』(大和和紀、講談社、1975~1977年)を一気読みした。

マンガは一気読みに限ると思っているのだが、さすがに講談社漫画文庫の一冊は400ページ近くもあり、全4巻もある『はいからさん』も一気読みするとなると、かなりの集中力と体力を要するものだ。文庫版サイズはオリジナルの2/5くらいになってしまうので、小さくて読みにくいという難点もある。

第1回講談社漫画賞を受賞した『はいからさん』は、すでに古典的名作といってよいマンガだが、じつは今回はじめて通読した。文庫本を古本で入手したが、積ん読のままになっていたのが長く気にかかっていたからである。

どういう作品かというと、wikipedia の記述をつかえば以下のようなものである。

大正時代を主舞台とし、設定年代当時の様々な民間風俗や漫画連載当時のサブカルチャー(「宇宙戦艦ヤマト」、「科学忍者隊ガッチャマン」、「ロッキー・ホラー・ショー」、「ゴジラ」シリーズなど)を由来としたギャグなどを取り混ぜながら大正デモクラシー~シベリア出兵~関東大震災を駆け抜けて結ばれる一組の男女とそれをとりまく人々の恋愛模様を描くラブコメ作品。
『週刊少女フレンド』(講談社)に1975年7号から1977年10号まで連載された(本編は1977年の7号まで。8・9・10号は番外編)。番外編を含めコミックス全8巻、文庫版全4巻が出版されている。
1977年(昭和52年)度、第1回講談社漫画賞少女部門受賞。

名作マンガであるのは、講談社漫画文庫版となった1995年からも、コンスタントに売れ続けていることからもわかる。

連載は、1975年から1977年だったというから、それはまさにわたしの中学時代に該当する。周囲にはマンガを描くのが大好きという集団がいたが『はいからさん』のことは耳にしたことはないし、クラスの女の子たちからもその話題を聞いた記憶がないことから考えれば、歴史もからむので中学生にはすこし難しかったということなのだろうか。

その後、TVドラマ化されたらしいことも耳にしていただ見ていない。

というわけで、初出からすでに37年、ずいぶんむかしのことになるわけだ。

描かれた当時すでに「過去の話」であった大正時代を舞台にしたマンガを2012年に読むのもなんだか不思議な感じもするが、1975年から1977年にかけての流行り物はある程度は知っているので、作者の独白や告知なども、まったく理解できなくもない。

あらすじも wikipedia の文章をそのままつかわせてもらうと、こんな感じだ。


時は大正。「はいからさん」こと花村紅緒(はなむら べにお)は竹刀を握れば向かうところ敵なし、跳ねっ返りのじゃじゃ馬娘。ひょんなことから知り合ったハンサムで笑い上戸の青年将校・伊集院忍(いじゅういん しのぶ)が祖父母の代からの許嫁と聞かされる。忍に心ときめくものを感じながらも素直になれない紅緒は必死の抵抗を試みて数々の騒動を巻き起こす。伊集院家に招かれ、花嫁修業をすることになった紅緒だったがそこでも相変わらず騒動を起こしてゆく。しかし、やがて紅緒と忍はお互いをかけがえのない存在と思うようになるのだが、非情な運命によって引き裂かれてしまう。
忍の戦死の公報が届いたことにより、未亡人同然となった紅緒は没落しかけた伊集院家を支えるべく働きに出る。上司の青江冬星(あおえ とうせい)に支えられながら雑誌記者となった紅緒だったが、革命に揺れるロシアから亡命したミハイロフ侯爵の姿に我が目を疑う。侯爵は容姿・性格ともに亡くなったとされる忍に瓜二つであった。忍を忘れ去ることなど出来ぬまま、それでも力強く生きる紅緒の姿に女嫌いの青江も心動かされる。
やがて明らかになる真実。忍を恋慕いつつも、皆の幸せのため紅緒の下した苦渋の決断。そしてその先に待ち受ける運命とはいかに…


マンガでは跡無女学館というのがでてくるが、女子教育の先駆である跡見学園がモデルになっているようだ。紫袴で有名だったという。海老茶袴が一般的ななかでは紫袴はそうとう目立ったらしい。

現在でも、卒業シーズンには目にすることのある女子大生の紫袴。大正時代を偲ぶ唯一の手がかりであろうか。




大正時代のはじめはまだ「秋入学」の時代であった。マンガの冒頭が女学校の春爛漫のシーズンから始まるが、入学式のシーンではないので問題はない。

もちろんラブコメというものは恋愛マンガとギャグマンガの要素を掛け合わせたものだから、かならずしも史実そのものではないが、大正時代を時代背景にすることによって、忘れられた戦争であるシベリア出兵や社会主義運動が視野に入ってくるし、クライマックスは関東大震災に設定されているのは意図していたのかはどうかは別にして見事なものである。

はじめて最後まで読んだのだが、「阪神大震災」や「3-11」を体験して以降は、なんだかけっしてむかしの話ではなないという思いがするのだ。この設定もけっして絵空事ではないような気もする。同じような状況に遭遇した人たちもすくなからずいたのでは・・・と。

こまかい感情の動きを絵と文章で表現する日本のマンガ。『はいからさん』を読んでギャグに笑い、主人公たちのすれ違いやうちに秘めた感情の動きには、大の大人(だいのおとな)でも目頭が熱くなる。「せつない」という感情を抱いたりもする。

こういう感情をコトバで表現できる日本人ならではであり、この日本語に該当する表現は、日本語以外にはないらしい。「甘え」もそうだが、コトバとして存在しなくても感情そのものは、感じることのできる人には感じることはできるようだ。

こうした感覚は、かなり以前に少女マンガから少年マンガの世界にも移植され、日本のマンガでは当たり前のものとなっている。

日本のマンガは、すでに世界的に普及しているわけだが、日本のマンガをつうじて、「せつない」などの細かい感情を感じることのできる人が増えることは、意図せざる国際貢献ということになっているのかもしれない。

膨大な量のマンガが生み出されてきた日本、その一部だけでも読むのはとても不可能だ。

マンガを読む趣味しかない人、マンガ評論を仕事にしている人は別だろうが、あらゆるジャンルを横断し、すべてのマンガ作品に目を通すのは不可能としていいようがない。

古典的名作マンガですら、そのすべてを読み尽くすのは不可能に近いことであるような気がする。

大和和紀のもうひとつの名作、『あさきゆめみし』も読みたいとつよく思っているのだが、いつ取りかかることができるのだろうか。源氏物語をマンガ化したものである。





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