2012年5月5日土曜日

国立歴史民俗博物館は常設展示が面白い!-城下町佐倉を歩き回る ①


昨日(2012年5月4日)、国立歴史民俗博物館にひさびさに行ってきた。じつに8年ぶりである。

前回は2004年、「明治維新と平田国学」という、きわめつきに興味深く重要なテーマの特別企画があったので訪れたのだが、それからすでに8年もたってしまった。

今回は、「洛中洛外図屏風と風俗画」というテーマを目的に訪れた。国立歴史民俗博物館は、千葉県佐倉市にある。漁師町で宿場町の船橋と門前町である成田を結ぶ街道筋の中間に位置する城下町が佐倉である。

国立歴史民俗博物館は、かつての佐倉城の城址にある。明治になってから、陸軍の佐倉連隊が駐屯するために城郭は撤去されたのdさという。その陸軍駐屯地の跡に国立歴史民俗博物館が建設された。それじたいが歴史の変遷を物語っているわけだ。、





「洛中洛外図屏風と風俗画」展

「洛中洛外図」とは、戦国時代末期の16世紀から江戸時代にかけて、洛中(京都市街)と洛外(京都郊外)を描いた俯瞰図である。ほとんどは屏風絵であるが、初期のものには掛け軸を並べる形のものもある。

初期のものは、上杉本歴博所蔵の甲本と乙本を含めた4作、江戸時代には舟木本をはじめとして100作程度あるそうだ。それだけ人気のあるテーマだったということだろう。

戦国時代末期の戦国大名のテーマは、いかに京都を押さえ天下をとるかということにあったから、洛中洛外図も、最初は京都を支配することになった権力者が書かせたものが中心であったが、そのうち町衆の視点から、権力者には批判的なものもでてくるようになる。

京都という都市の性格がひじょうによくでているというべきだろう。支配者がめまぐるしく変わろうが、一般人の生活は続いていくわけである。応仁の乱からはじまった戦国時代が収束に近づいてきた頃から、活気ある都市が復活してきたわけである。その情景が断面図としてスナップショットのように切り取られた屏風絵が洛中洛外図なのである。

今回の特別展の展示は、歴博所蔵の洛中洛外図が中心なので、一般によく知られた上杉本や舟木本でないのが残念だ。

浮世絵の祖といわれる岩佐又兵衛と推測されている舟木本は、限りなく風俗画に近いので、洛中洛外図から近世風俗画、そして浮世絵へという日本美術史の流れがスムーズに理解できるはずなので、そういう展示であると、さらに理解が深まったであろうと思われるのだが・・・。まあ、美術展ではないので、しかも所蔵本の公開ということでもあるので、よしとすべきであろう。

だが、『洛中洛外図 舟木本-町のにぎわいが聞こえる-』(奥平俊六、小学館、2001)で親しんでいるわたしには、ちょっと物足りない展示であった。舟木本は、細部があまりにも面白いのである。風俗画の領域にかなりの程度まで足を突っ込んでおり、浮世絵風俗画まではあと一歩のところにきている。

舟木本の作者が岩佐又兵衛であることは、美術史の重鎮である辻惟雄氏も最終的に認めるにいたっていることは、『岩佐又兵衛-浮世絵をつくった男の謎-』(辻 惟雄、文春新書、2008)を参照。

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国立歴史民俗博物館(れきはく)は常設展示が面白い

特別展はさておき、むしろ、常設展があまりにも面白いので、あっという間に2時間以上も過ごしてしまった。大人も子どもも楽しめる、知的好奇心をかきたてらるミュージアムである。

「大学共同利用機関法人 人間文化研究機構」である国立歴史民俗博物館は、研究機関であり教育施設でもあるミュージアムの機能が、ひじょうによく発揮されているのが国立歴史民俗博物館(れきはく)であるといっていいだろう。博物館なのである。

今回はじめて気がついたのだが、英文名称は National Museum of Japanese History となっている。直訳すれば「日本史博物館」。日本語の名称に「民俗」が入っているのは、具体的なモノをつうじて、日本人の生活史をフォローすることに重点があるためだ。

同じく具体的なモノをつうじて世界の民族についての理解を深めることを目的とした国立民族学博物館(みんぱく 大阪・千里)と対(つい)になっていると捉えてもいいのではないかと思う。実物教育である。

(江戸橋広小路のジオラマ)

特別展に関連した展示が「近世」の展示室であるので立ち寄ってみた。これがものすごく面白い。とくに江戸中期以降、世の中が安定し都市化が進むと江戸から、産業振興が活発化してくると地方都市や農村から、さまざまな知的な動きが活発になってくる。博物学の誕生である。

知識と技術の急速な発展である。これがあってこそ、第二次グローバリゼーションにおける「開国」後に急速に近代化が進んだ理由がおのずから理解できる仕組みの展示になっている。

日本人の旺盛な好奇心! これはまさにDNAのなかに刻み込まれているものなのだ。

「日本人はすごい!」とおもわずうなってしまうような展示内容である。じっさい、その他の来場者からも同じような感想が耳に入ってきた。

(特別展でも取り上げられた平田国学と平田篤胤の遺品)


あまりにも面白いので、「中世」にさかのぼり、ふたたび「近世」に戻り、「近代」、「現代」と見てしまった。前回も、前々回も見ているはずなのに、はじめて見たような新鮮な驚きを感じたのであった。

しかも、重要なことに「世界のなかの日本」という視点は一貫している。たいへん評価できることだ。欲をいえば、なぜ日本と西欧がお互い無関係でありながら、パラレルに発展してきたのかという視点が欲しいところだ。

「近代」の文明開化、自由民権・・・、「現代」の戦争、戦後大衆社会・・・などじつに見るものが多い。近世の宿屋だけでなく、現代の団地まで再現されているのは楽しい。

現在は「民俗」の展示室が2013年春にむけてリニューアル準備中で閉鎖されているが、再オープンが楽しみである。

また、ミュージアムショップでは、日本全国のミュージアムの図録のバックナンバーが入手できるのも魅力の一つである。今回も、国立民族学博物館の企画展の図録と天理大学付属参考館の図録を一冊ずつ購入した。






<関連サイト>

国立歴史民俗博物館


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国立歴史民俗博物館の常設展示

リニューアルオープンした国立歴史民俗博物館の第4展示室 「列島の民俗と文化」を見てきた(2013年5月3日)-面白い展示もあるがややインパクトに欠ける


ミュージアム(博物館)

ひさびさに大阪・千里の「みんぱく」(国立民族学博物館)に行ってきた(2012年8月2日)

企画展「ウメサオタダオ展-未来を探検する知の道具-」(東京会場)にいってきた-日本科学未来館で 「地球時代の知の巨人」を身近に感じてみよう!
・・国立民族学博物館の生みの親であった、京都人・梅棹忠夫

「今和次郎 採集講義展」(パナソニック電工 汐留ミュージアム)にいってきた-「路上観察」の原型としての「考現学」誕生プロセスを知る
・・具体的なモノにこだわる生活史の視点、考古学ではなく考現学

「幕末の探検家 松浦武四郎と一畳敷 展」(INAXギャラリー)に立ち寄ってきた
・・具体的なモノにこだわる、好奇心旺盛な観察者の視点

(2015年1月22日 情報追加)



(2012年7月3日発売の拙著です)





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