『奪われる日本の森-外資が水資源を狙っている-』の単行本初版がでたのは 2010年、じつによいタイミングで文庫化されたといえる。いま日本は、ほんとうに危機的状況にあるからだ。
離島、そして山間地。人知れず「外資」によって買収が進んでいるという。けっして、尖閣諸島だけではないのだ!
狙いは資源、とくに山間地の場合は、人間の生存に致命的な意味をもつ水資源だ。山間部に存在する水源である。
「外資」とはチャイナマネーが中心のようだが、経済原則がはたらく以上、需要と供給があえば取引が成立するのはあたりまえだ。しかし、そんなことを黙ってで見ていていいわけがない。
文庫版によれば、2010年に刊行された単行本初版が引き金となって、急速に自治体レベルで危機感が表明され、自治体のワクを越えて危機感が共有されるようになってきているという。
2010年には沖縄県の尖閣諸島で事件が発生した。周辺の海洋資源をめぐってといわれているが、かならずしもそれだけではなさそうだ。この問題はふたたび2012年に再発した。これによって、ようやく日本人にスイッチが入ったようだ。
そんなさなか、タイミングを見計らったわけではないだろうが、本書の文庫版が出版されたわけだ。
明治維新、敗戦、そして第三の敗戦。近代合理主義にもとづく市場原理主義の猛威の前に、日本の国土は食い荒らされるばかりである。そして加速する中国マネーの流入。
江戸時代と違って、明治維新の際の新政府の財源確保のための地租改正によって、私権が極大化してしまった土地取引。日本の土地所有制度には、ほとんど何の規制もないのだ。
これに対して、諸外国は土地所有には厳しく対処している。社会主義国やかつて植民地として辛酸をなめたアジア諸国が外国人の土地所有を厳しく禁じているのは当然として、英米でも土地所有に対する私権制約は当たり前なのだ。
明治時代に日本がモデルとしたフランス民法においてすら、この50年で私権を制約する方向に向かっているという。しかも、ドイツでは山林は国境警備の軍隊の管轄下にあるというではないか。
経済原則がはたらく以上、カネに困った土地所有者が二束三文であろうと手放してしまうこともある。この行為を非難するのはたやすいが、そうさせない制度的な取り組みこそが不可欠だろう。そのためには、本書で提言されているような、さまざまな対策が必要だ。
しかし、国の対応は政治家も官僚も無作為に等しいのはなぜか? なぜ有効な対抗措置がとられることなく放置されたままになっているのか?
問題は買う側よりも、意識の低い日本政府と官僚にあるのではないか? これはいま日本が抱えているすべての問題に共通する。
離島だけでなく、山間地の水資源も、いったん奪われてから取り戻すのは至難の業である。
目を醒ませ日本人! みなさんも、日本国民の一人として問題を共有してほしいと思う。
目 次
Ⅰ. 日本を買え(平野秀樹)
外資に買収されていく日本
狙われる日本の森
日本の水が危ない
森が買われることの何が問題なのか
日本には国家資産を衛るためのルールがない
日本の森と水を衛るのはだれだ
外資が国土を占有する日
Ⅱ. ニッポンの漂流を回避する(安田喜憲)
縄文が一万年以上持続した理由
稲作漁撈文明の持続性に学ぶ
欧米文明による日本人の心の破壊
グローバル市場原理主義による破壊が始まった
著者プロフィール
平野秀樹(ひらの・ひでき)
1954年生まれ。九州大学卒業。国土庁防災企画官、大阪大学医学部講師、環境省環境影響評価課長、林野庁経営企画課長、農水省中部森林管理局長を歴任。博士(農学)。現在、東京財団研究員。森林総合研究所理事。日本ペンクラブ環境委員会委員(本データは単行本初版が刊行された当時に掲載されていたもの)。
安田喜憲(やすだ・よしのり)
1946年生まれ。東北大学大学院理学研究科博士課程退学。理学博士。現在、国際日本文化研究センター教授。スウェーデン王立科学アカデミー会員。2007年紫綬褒章受章(本データは単行本初版が刊行された当時に掲載されていたもの)。
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