まさに日本人の枠にはまらない、規格「外」の日本人が淡々とつづるスゴイ物語が本書である。こういう生き方の日本人が「戦後」にもいたということを知ることは意味がある。元気がでる本だ。
著者は、日本の外に出たいという押さえがたい気持ちに促されアフリカに渡って50年。ケニアを拠点にケニア・ナッツ・カンパニーを設立し、マカダミアナッツの世界5大カンパニーの一つに育て上げた日本人経営者である。
「志は高く、目線は低く」を貫き、ポジティブ・パワフル・パッショネットのPPP精神で、ビジネスという手段で社会問題の解決を行ってきた人だ。いまでいうソーシャル・ビジネスを実践してきた人である。
利益がでても配当はせず、すべては再投資と従業員への還元に回すという経営を一貫して続けたという。
しかも著者は、日本人はしょせん現地人ではないという諦観のもと、現地人が自立するためには日本人は去るべきだと考えて、自ら創業して育て上げたケニア・ナッツ・カンパニーはただ同然でケニア人たちに譲渡して、またあらたなビジネスに挑戦を開始している。
引き際の美学といっていいのだろか。あまりにもカッコよすぎる。でも、こういう人になりたい、そんな気にさせられる。
「OUT OF AFRICA」 というのは、デンマークの作家カレン・ブリクセン原作の映画化作品のタイトルだ(日本公開版は『愛と哀しみの果て』)。ブリクセンは本書の著者と同じケニアでコーヒー農園を経営していたが、その時代のことを帰国後に小説にしたものだ。日本では『アフリカの日々』として訳されている。
著者は、このタイトルを借りてマカデミア・ナッツの商品化に際してネーミングしたという。商標権の問題はないということを確認したうえでのことである。本書のタイトルもそこから来ている。
アフリカの草原の風を感じる本である。すがすがしい内容の本だ。
だが、アフリカの現実は、なによりも生き抜くこと、食べることがなによりも最優先される。「マズローの欲求段階説」でいえば最低限の「生理的欲求(physiological need):食欲・睡眠・性欲」を満たすことが最優先される世界である。
「コンフォート・ゾーン」(comfort zone)という、成熟し飽食状態にある日本とは真逆の世界がアフリカだ。そこでは人間はナマの本性をむき出しにしがちである。著者は、みずから体験した事件や見聞きしたアフリカの厳しい現実についても、さらりと言ってのける。
淡々と語られるのは、著者が「起こるべくして起こること」は、それはそれとして受け取るしかないという人生観からくるものであろう。それもまたアフリカで培われたものであるようだ。本書を読んでいれば、それは十分に納得される。
ほかではまったく読んだことのないようなオリジナルな話である。つまり二番煎じではない、この人だけの物語である。それこそが自分史というものでありライフ・ヒストリー(ストーリー)なのだ。
「志は高く、目線は低く」。この姿勢は、わたしも肝に銘じて生きていきたい。
人生の智恵に充ち満ちた本書は、ぜひ多くの人に一読をすすめたい。
目 次
はじめに 桁外れにスケールの大きな日本人(編集部)
序章 風の吹き始める場所
第1章 アフリカへ
第2章 ケニア・ナッツ・カンパニー
第3章 アフリカってところは!
第4章 失敗から学ぶ
第5章 アフリカが教えてくれたこと
第6章 さらに先へ
第7章 新たなるチャレンジ
終章 アフリカから日本を想う、日本を憂う
おわりに
著者プロフィール
佐藤芳之(さとう・よしゆき)
1939年生まれ。宮城県志津川町(現・南三陸町)で幼少期を過ごす。1963年、東京外国語大学インド・パキスタン語学科卒業、同年ガーナ大学に留学。1966年から5年間、ケニアで日系繊維企業に勤務。1974年、「ケニア・ナッツ・カンパニー」を起業。2005年、ケニアでバクテリアを利用した公衆衛生事業会社「オーガニック・ソリューションズ・ケニア」を設立(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
<関連サイト>
Out of Africa Trailer [HQ] (1985年日本公開時のタイトルは『愛と哀しみの果て』) ・・英語版トレーラー。主演は、メリルストリープとロバート・レッドフォード
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