「汲み取り」といっても最近の若い人はわからないだろうなあ。
下水道が完備している現在は想像もつかないだろうが、むかしは水洗トイレなどなかったのだ。サラリーマン川柳の名作に、「このオレに温かいのは便座だけ」というのがあるが、温水のでるウォシュレットなど想像しようもなかった。
水洗トイレなどないから、たまった汚物は汲み取りが行われないと貯蔵タンクは満杯になってしまう。
原発問題にかんして、原発廃棄物の処理が問題になるが、「トイレのないマンション」のようなものだという比喩がつかわれるが、より正確にいえば「汲み取りがこないトイレのあるマンション」、あるいは、「汲み取っても捨てるところのない自治体」といったほうがいいのではないかと思う。
すくなくとも、わたしが小学生の頃は、東京都の郊外ではまだ水洗トイレというものはほとんど普及していなかった。エアコンもなかったが、水洗トイレもなかったのだ。
『三丁目の夕日』という映画が流行ったそうだが、バキュームカーは登場しているのかな? 昭和30年代をノスタルジーにひたるほど老けているわけではないので、べつに見たいとは思わなかった映画だが。
昭和30年代から40年代にかけて、つまり1950年代後半から1970年頃までの日本を体感したかったら、東南アジアにいくのがいいだろう。
そんなふうにいつも思っているのだが、先日ひさびさにバキュームカーを目撃して、さっそく写真に収めることができた。
バキュームカーは、下水道が整備される以前の「昭和時代」の遺産である。世界遺産かどうかは別にして、せめて日本の社会遺産として「昭和遺産」の認定をしてあげたい。すべてを廃車にしてしまわないで、保存していただきたいものだ。
小学生の頃は、「バッキュームカー」とガキどもは言っていたが、「バッキューム」が何を意味するのかかはまったく知らなかった。意味を知ったのは高校生になってからだろう。
バキュームとは真空のことだ。vacuum である。人為的に真空をつくりだすことによって気体や液体を吸い込む実験は、学校の理科で体験したことはあるだろう。
強力な吸引力で吸い上げる比喩として「バキューム」というコトバがつかわれることがあるが、ほんとうはただしくないことは、それでわかっていただけるだろう。
wikipedia で調べてみると、バキュームカーは和製英語のようだ。英語では、cesspool emptier というようだ。説明文の冒頭はこうなっている。
A cesspool emptier is a vacuum truck which removes contaminated water from hollows such as cesspools and sewage tanks and carries it to a disposal point.
あえて訳さないが、バキュームカーの説明そのものである。
ところで、親の世代では「昭和時代」であっても、「昭和初期」には、このバキュームカーすらなかったようだ。農家が肥料としてつかうためリヤカーに桶をつんでし尿を買いにきたらしい。だから、野菜に寄生虫がついているのは当たり前だったということ。
いまのような無菌生活では考えられないような話だろうが、人間がひ弱ではなかったということでもあるわけだ。もちろん、対策はしっかりとられていたということでもある。
駐車場にとまったバキュームカーを見て、「昭和も遠くなりにけり」、と思ったのであった。
PS. ちょろっと調べてみたら、タカラトミーから「昭和レトロ」シリーズとして、バキュームカーのチョロQが発売されている。さがせばあるものだなあ、と。アマゾンで購入できます。
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(2012年7月3日発売の拙著です)
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