「蛇頭」(スネークヘッド)の全盛期、森田靖郎という中国専門のジャーナリストがさかんに取材して本を書いていた。
わたしは当時、森田靖郎による関連本を片っ端から読んでいるが、最近は「蛇頭」がニュースバリューになることもなくなっていた。本書本の存在を知ったのは、古田博司の『「紙の本」かくかたりき』(ちくま文庫、2013)である。その最新改訂版である。
「通訳捜査官」としての8年間に、のべ1,400人(=一日あたり約5人)の中国人犯罪者の取り調べに立ち会ってきた著者が語る実像はきわめてリアルである。学者や研究者、またエリートが語る中国人とはかなり異なる、「素の中国人」像が浮かび上がってくるからだ。
なにもかつての蛇頭のように、命がけで木造船で密航し密入国することもない、というのが現在の実態なのだ。「いかに効率よく日本で稼ぐか」から、「いかに住み心地の良い日本に定着するか」にシフトしたのが、現代の在日華人や中国人犯罪者の実態である。そう、中国人は中国が嫌いなのである。
もちろん中国人といっても、同じ国民としての意識は乏しい。中国人に存在するのは、同族か同郷のよしみというつながりだけだ。東北人と上海人、福建人とではもちろん、容貌も性格も特性もかなり異なる。これもまた、教科書的な知識ではなく実体験からの記述がリアルである。
フツーの中国人が犯罪者となるのは、そもそもそれが犯罪であるという意識が低いことと、同族や同郷であるがゆえに断れないことも原因としてあるようだ。
キーワードのひとつは「男気」(おとこぎ)。中国語では「義気」(イーチー)というが、まさに『三国志』の世界である。『友を選ばば中国人』(篠原 令、阿部出版、2002)にも「義兄弟の契り」というシーンがでてくるが、誘われたり頼まれごとを断るのは「男がすたる」という意識がつよいという。
そしてまた「親孝行」。日本人よりもこの意識がきわめてつよいのは、やはり中国人には儒教意識が潜在意識のなかまで徹底しているということだろう。そういえば、病気の父親のために自分の腿肉を食べさせたという説話があるが、日本人にはグロテスクとしか思えないような話が中国では美談として語られてきたのが儒教の本質である。
同じ漢字語でありながら、日本語とはまったく意味の異なるコトバの数々が著者によってあげられている。規則、約束、反省、謙虚、ウソ・・・。これは直接に本文にあたってほしいが、規則は破るためにある、ウソはつくためにあるというのは、それだけ中国人の生存競争がすさまじいということの反映であろう。
なぜ中国人が日本にきて犯罪者となるのか、この本を読むとよくわかる。逆にいうと、中国人というプリズムをとおすと、日本という国も、日本人がどういう存在であるかも浮かび上がってくる。
犯罪被害にあわないためにも、犯罪の手助けをしないためにも、日本国民必読書といっていいだろう。ドラマの刑事ものとはちがって派手さはないが、まさに「事実は小説よりも奇なり」、ですな。
たたきあげの警察官が中国語を学んで「通訳捜査官」となったという、著者自身のキャリアそのものが興味深い。そういうキャリアが警察内部にあるのか、と。
目 次
プロローグ 天国から地獄と化すガサ入れ
第1章 通訳捜査官が見た中国人
第2章 リトルチャイナの拠点を作った密航者たち
第3章 追い詰められた犯罪者たち
第4章 取調室の戦い
第5章 危ない国・日本
著者プロフィール
坂東忠信(ばんどう・ただのぶ)
宮城県出身。警視庁巡査を拝命後、交番機動隊勤務を経て、通訳捜査官・刑事として捜査活動に従事。勤続18年で退職。現在は外国人犯罪対策講師、外国人雇用防犯コンサルタントとして活躍している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
<関連サイト>
坂東忠信 公式サイト
- キャッシュ共有中国人犯罪対策・防犯セミナー講師である坂東忠信の公式サイト。中華思想と中華社会の実態を知り、生活を守る情報を。
盗みは人のためならず 中国庶民的泥棒「予防心得」十箇条 (福島香織、日経ビジネスオンライン、2015年12月16日)
・・『盗みは人のためならず』(劉震雲、水野衛子訳、彩流社、2015)の紹介。中国の下層階級では騙しは当たり前
(2015年12月16日 情報追加)
<ブログ内関連記事>
ひさびさに宋文洲さんの話をライブで聞いてきた!-中国人の「個人主義」について考えてみる
・・この記事で触れておいた『友を選ばば中国人』(篠原 令、阿部出版、2002) と 『小室直樹の中国原論』(小室直樹、徳間書房、1996)は必読書である
『中国美女の正体』(宮脇淳子・福島香織、フォレスト出版、2012)-中国に派遣する前にかならず日本人駐在人に読ませておきたい本
書評 『中国は東アジアをどう変えるか-21世紀の新地域システム-』 (白石 隆 / ハウ・カロライン、中公新書、2012)-「アングロ・チャイニーズ」がスタンダードとなりつつあるという認識に注目!
書評 『中国台頭の終焉』(津上俊哉、日経プレミアムシリーズ、2013)-中国における企業経営のリアリティを熟知しているエコノミストによるきわめてまっとうな論
書評 『中国ビジネスの崩壊-未曾有のチャイナリスクに襲われる日本企業-』(青木直人、宝島社、2012)-はじめて海外進出する中堅中小企業は東南アジアを目指せ!
「脱・中国」に舵を切るときが来た!-『中国がなくても、日本経済はまったく心配ない!』(三橋貴明、ワック、2010)はすでに2年間に出版されている
書評 『「紙の本」はかく語りき』(古田博司、ちくま文庫、2013)-すでに「近代」が終わった時代に生きるわれわれは「近代」の遺産をどう活用するべきか
書評 『日本文明圏の覚醒』(古田博司、筑摩書房、2010)-「日本文明」は「中華文明」とは根本的に異なる文明である
(2015年2月6日 情報追加)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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