「離米従中」する韓国という認識を日本国民は一日も早くもたねばならない。東アジア情勢は急速に変化しつつあるのである。
韓国は朝鮮半島にある「半島国家」である。半島の地政学的条件とは大陸と陸続きであるということだ。地政学的条件は変えられないのである。たとえ大統領があたらしくなろうと、大陸国家の動向は無視できるものではない。韓国の命運を握っているのは中国だと韓国人が認識したとき、「離米従中」は不可避の動きとなる。
著者は前著 『朝鮮半島201Z年』(鈴置高史、日本経済新聞出版社、2010)では、まだ不確定な要素もあるので、「思考実験」の結果は近未来シミュレーション小説という形にするしかなかった。だがこの本をすでに読んだ人なら、朝鮮半島問題とはつまるところ中国問題だということが十分に理解できるだろう。
もちろんシミュレーション小説とは異なり、北朝鮮の金正日が突然死して金正恩が継承することは予想はできなかったが、地政学的条件を前にしたら政権トップが誰であろうがさほど大きな意味をもつものではない。
ウィットフォーゲルをもとにした社会科学者・湯浅赳男氏の「中心・周辺・亜周辺」フレームワークにおいては、「中心」に位置する中国、中国の「周辺」に位置するコリア(韓国・北朝鮮)にたいして、日本は「亜周辺」に位置するだけでなく、海によって「中心」から隔てられた「海洋国家」を本質とする。
韓国と日本とは、そもそも地政学的条件が違うだけでなく、価値観においても乖離(かいり)が始まっていることに注意しなくてはならないのである。
本書は、日経ビジネスオンラインの「早読み 深読み 朝鮮半島」というコラムですでに発表されているものを一冊にまとめたものだが、あらためて通読してみると、朝鮮半島問題とは中国問題なのであると痛感する。
「離米従中」する韓国は、米韓関係、中韓関係だけでなく、なんといっても米中関係という枠組みのなかで見なくてはならない。半島国家をめぐる状況はつねに複雑であり、それを見る視点も複眼的でなくてはならないのだ。
はたして韓国は日本と価値観を共有する国家といっていいのだろうか? 国家と国民のサバイバルは、その国家と国民じしんが決めることであるが、その結果が日本と日本国民にも降りかかってくる以上、注視しなくてはならないのである。
われわれにできることは、「離米従中」する韓国という認識を基本に据え、希望的観測は捨ててリアリズムに徹することである。
しかし、同時に忘れてはならないのは、中国も韓国もともに人的関係ということでいえば移民のネットワークをつうじて米国との関係が深いということだ。
米国か中国か二者択一となりがちな日本人的単細胞な発想では世の中を理解することはできないということは肝に銘じておかねばならない。
目 次
プロローグ 中国の空母が済州島に寄稿する日
第1章 「中国」ににじり寄る「韓国」の本音
1. 米国に捨てられてきた韓国の覚悟
2. 中国から "体育館の裏"に呼び出された韓国
3. 「日本と軍事協定を結ぶな」と中国に脅された韓国
4. 「尖閣で中国完勝」と読んだ韓国の誤算
5. 【対談】漂流する韓国を木村幹・神戸大学大学院教授と読み解く
第2章 「日本」を見下す「韓国」の誤算
1. 「7番目の強国」と胸を張る韓国のアキレス腱
2. 「日本病に罹った」とついに認めた韓国
3. 【対談】『老いていゆくアジア』の大泉啓一郎氏に聞く
4. 【対談】真田幸光・愛知淑徳大学教授と「金融」から読み解く
第3章 「米国」と離れる「韓国」の勝算
1. 韓国、「ミサイルの足かせを外せ」と米国に刃向かう
2. 「明清交代」を受け入れる韓国人
3. 中国包囲網目指し、米朝が野合する日
4. 【対談】池上彰さんと語る朝鮮半島、そしてアジア
第4章 『妖怪大陸』を見つめる日本の眼
1. 韓国は中国の「核のワナ」にはまるのか
2. 【対談】「反日国家に工場を出すな」と主張し続けた伊藤澄夫社長に聞く
エピローグ 結局は「中国とどう向き合うか」だ
著者プロフィール
鈴置高史(すずおき・たかふみ)
日本経済新聞社編集委員。1954年、愛知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。1977年、日本経済新聞社に入社、産業部に配属。大阪経済部、東大阪分室を経てソウル特派員(1987~1992年)、香港特派員(1999~2003年と2006~2008年)。04年から05年まで経済解説部長。1995~96年にハーバード大学日米関係プログラム研究員、06年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)ジェファーソン・プログラム・フェロー。「中国の工場現場を歩き中国経済のぼっ興を描いた」として02年度ボーン・上田記念国際記者賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
PS 続編の 『中国という蟻地獄に落ちた韓国』(鈴置高史、日本経済新聞出版社、2013)が、11月30日に出版されました。
目 次
プロローグ 米中両属の韓国
第1章 北京にひた走るソウル
第2章 「北の核」が背中を押した
第3章 よみがえる「華夷意識」
第4章 日韓は米中の代理戦争を戦う
エピローグにかえて 近未来予測・米中首脳会談
半島の「非核・中立」化で手打ち 韓国はパキスタン目指し、カンボジアに
<関連サイト>
緊迫する朝鮮半島、韓国新政権はどうなる、日本はどうする『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』の著者、鈴置高史氏に聞く
「中国傾斜」が怖くなり始めた韓国韓国の識者が語る韓国人の本音(1)
「中国傾斜」が怖くなり始めた韓国韓国の識者が語る韓国人の本音(2)
(日経ビジネスオンライン 2013年7月18日・19日)
<ブログ内関連記事>
書評 『朝鮮半島201Z年』(鈴置高史、日本経済新聞出版社、2010)-朝鮮半島問題とはつまるところ中国問題なのである!この近未来シミュレーション小説はファクトベースの「思考実験」
「中国傾斜」が怖くなり始めた韓国韓国の識者が語る韓国人の本音(1)
「中国傾斜」が怖くなり始めた韓国韓国の識者が語る韓国人の本音(2)
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書評 『日本文明圏の覚醒』(古田博司、筑摩書房、2010)-「日本文明」は「中華文明」とは根本的に異なる文明である
書評 『醜いが、目をそらすな、隣国・韓国!』(古田博司、WAC、2014)-フツーの日本人が感じている「実感」を韓国研究40年の著者が明快に裏付ける
書評 『悪韓論』(室谷克実、新潮新書、2013)-この本を読んでから韓国について語るべし!
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書評 『日本近代史の総括-日本人とユダヤ人、民族の地政学と精神分析-』(湯浅赳男、新評論、2000)-日本と日本人は近代世界をどう生きてきたか、生きていくべきか?
書評 『「東洋的専制主義」論の今日性-還ってきたウィットフォーゲル-』(湯浅赳男、新評論、2007)-奇しくも同じ1957年に梅棹忠夫とほぼ同じ結論に達したウィットフォーゲルの理論が重要だ
書評 『100年予測-世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図-』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、早川書房、2009)-地政学で考える
(2014年4月8日 情報追加)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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