2013年8月29日木曜日

キング牧師の "I have a dream"(わたしには夢がある)から50年(2013年8月29日)ー ビジョンをコトバで語るということ

(wikipedia より。"I have a dream"演説をするキング牧師)

本日(2013年8月28日)は、黒人解放運動のリーダーであったキング牧師の名言 "I have a dream" (わたしには夢がある)から50年となる記念すべき日です。

1963年8月28日、キング牧師(=マーティン・ルーサー・キング・ジュニア: 1929~1968)は、「ワシントン大行進」において演説を行います。その後半で、"I have a dream" (わたしには夢がある)というフレーズがなんども繰り返されるのです。

人種差別のない世界を夢見て表現した名文句としてよく知られています。わたしはすでに生まれていましたが、もちろん幼児でしたので残念ながら当時の記憶はありません。

同時代のアメリカ大統領ジョン・F・ケネディの就任演説もまた名言をのこしています。Ask not what your country do for you, ask what you can do for your country. (国があなたにしれくれることではなく、自分が国のために何ができるか尋ねてほしい)。これは1961年のものです。

ケネディーもまたアメリカでは歴史上初のカトリックの大統領です。しかもアイルランド系です。WASP(=ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)といわれる支配階層以外の出身者なのです。歴史的な一歩前進であったわけですね。

理想肌のリーダーが多数存在した時代は、また現実の過酷さがきわめて厳しい時代でもありました。現代もまた現実の過酷さが日に日に増していますが、はたして理想肌のリーダーはどれだけいるのでしょうか?

理想肌で改革派の人たちはかつてリベラルといわれてましたが、現在ではネガティブなイメージがついてしまっているのは残念なことです。リベラルとはもともと「自由主義」を意味するコトバなのですが・・・


キング牧師の名言の効果

理想をビジョンとして視覚的に把握し、それをコトバにして自分の声で相手の聴覚に訴える

聴衆はそのコトバでビジョンを視覚的にイメージし動かされる。人を動かすコトバはまた人から人へとリレーされながらおおきく拡がっていく

とくにキング牧師の名言はそのメカニズムをおおいに発揮しているといってよいでしょう。


(wikipedia より。「ワシントン大行進」におけるキング牧師)

"I have a dream"と言い、その夢の中身を述べ、またさらに"I Have a Dream"と繰り返して夢の中身をさらに具体的に述べなんどもなんども同じフレーズを繰り返して、聴衆の耳に訴え、記憶に残るようにしむけるレトリックですね。


「兄弟」という水平意識が理想形態

20歳代の終わりにアメリカに留学していたときのことですが、キャンパスではしばしば黒人から声をかけられたものです。わたしもまたアメリカにおいては黄色人種のアジア人であったからでしょう。

黒人学生たちからの呼びかけは "Hi Bro !" というフレーズ。ブロー(bro)とはブラザー(brother)の略ですので、「よお、兄弟!」とでもなるのでしょう。親しみを込めた呼びかけですね。

兄弟や姉妹という水平的な関係、これは人間関係としてはもっとも心地よい距離感のある関係でしょう。上下関係ではない、"All men are created equal"(すべて人間は平等につくられた)という理念を反映したものです。

カトリック教会が、修道士をブラザー(兄弟)、修道女をシスター(姉妹)と呼んできたのはそういう関係を示しているわけです。絶対者である神のもとでは、人はみな平等であるのだと。実際がどうであるかはさておいて。

米国ではどこの大学にもフラタニティー(fraternity・・女子はソロリティ sorority)という親睦組織がありますが、は中世ヨーロッパのフラテルニタス(=兄弟団)に由来するものです。ΦΒΚ(ファイ・ベータ・カッパ)など、ギリシア語の大文字3語で表記されていますが、秘密結社の名残でしょう。

フランス革命の理念である「自由・平等・博愛」の『博愛」は「友愛」ともいいますが、フランス語でフラテルニテ(fraternite)といいます。ラテン語のフラテルニタスからきたものです。

はたして現在のアメリカでは黒人も白人もみな「兄弟」となれたのでしょうか? 

MBAの人事管理の授業でアファマティブ・アクションについてディベートをすることになり、黒人学生と組むことになりました。アファマティブ・アクションとは、少数派が不利を是正するために行われる措置のことです。

アファマティブ・アクションは差別是正のためには必要悪だがまだ不可欠な存在だというのがわれわれの立場でした。1990年頃の状況です。

2013年のいま、キング牧師の「夢」はすべて実現したのでしょうか?


非暴力といえば・・・

そういえば、これもまたアメリカ留学中のことですが、サンフランシスコでアメリカ人と会話しているときに話題が非暴力(Non-violence)に及んだことがあります。リベラルな風土のサンフランシスコならではということもあったことでしょう。

「非暴力といえばマハトマ・ガンディーだ」とわたしが言うと、そのアメリカ人は「いやまず思い浮かべるのはマーティン・ルーサー・キングだ」と返してきました。日本人とアメリカ人の歴史感覚の違いかもしれません。

キング牧師とはそういう存在としてもアメリカ人の記憶に焼き付いているのです。

2013年のいま、キング牧師の「夢」はすべて実現したのでしょうか?


(wikipedia よりキング牧師)



"I Have a Dream" キング牧師演説から50年、オバマ大統領も式典に (2013年8月29日)

Greeks Celebrate Brother and Sisterhood
Greeks という総称でフラタニティ(fraternity)とソロリティ(sorority)について。わが母校の RPI のホームカミングデーのサイトに一覧紹介がある。ここでいう Greeks にはギリシア人という意味はない。





『感動する英語』(近江誠、文藝春秋、2003)には、キング牧師の演説などの英文対訳と解説がある



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