(火渡り修行をする成田修法師)
京成線沿線やその関連路線の沿線に住んでいると目に入ってくるのが、成田山参詣を促すポスターである。
成田山新勝寺は、年始の正月だけでなく、「五月詣」と「九月詣」が重視されている。
「正五九」(しょうごく)といって、節目の季節に参詣すると、 御利益を授かることが大きいとされているのである。これは江戸時代以来らしい。ポスターの絵柄はいつも浮世絵である。
9月28日は、その
「九月詣」(くがつもうで)の月で、かつ28日のお不動様の縁日でもある。ことし2014年(平成26年)の9月28日は、しかも日曜日である。この日には
山伏姿の修法師(しゅうほうし)による「火渡り修行」が行われることを知った。修法師は、成田修験ともいう。
密教と修験道が習合しているのが成田山の面白いところだ。
大本山成田山の公式ウェブサイトに掲載されている内容紹介は以下のとおりである。
成田山の「柴灯大護摩供 火渡り修行」
http://www.naritasan.or.jp/gyoji_sp/hiwatari.html
開催日:平成26年9月28日(日)
時 間:午前11時30分
道 場:成田山大本堂西側広場
(説明)
柴灯大護摩供(さいとうおおごまく)は野外で修する御護摩祈願です。成田山では毎年5月と9月、12月に行い、5月と9月はご信徒の開運厄除と所願成就の護摩木祈願として厳修しています。また、被災地岩手県陸前高田市の高田松原の松材をお焚き上げして、大震災物故者の供養と被災地の復興を祈願しております。ご信徒の皆さまには、お詣りいただいて被災地の復興を共にお祈りください。
山伏の火渡りはテレビなどでは見たことがあっても、実際の火渡りをリアルで見て体験したことがなかった。
火渡りはぜひ一度は体験してみたいと思っていたので、この機会を利用して参加することにした。
本日(2014年9月18日)は秋晴れの青天、絶好の参詣日和となった。
成田山新勝寺に参詣するのは、断食修行以来のことなので約4年ぶりということになる。
■
「柴灯大護摩供」(さいとうおおごまく)に参加する
「火渡り修行」は、正式には「柴灯大護摩供(さいとうおおごまく) 火渡り修行」という。
柴灯大護摩供は、野外で行う護摩法要のことだ。柴(しば)を使って護摩壇を設け、燃え上がる紅蓮の炎に祈願を行う護摩のことだ。
燃えさかる炎のなかに護摩木を投げ込みながら、不動明王の真言と般若心経が読経される。熱さに耐え、煙に耐え、約1時間にわたっておこなわれる護摩である。この護摩が屋外で行われるのである。
「柴灯大護摩供」は午前11時半から開始されるが、わたしは念のため 10時から会場に待機して場所取りすることにした。かぶりつきで見物し祈願したかったからだ。不動尊の不動心を身につけたいという切なる願いをもっていたからだ。そのため、そうとう煙を吸い込んだし、熱さでめまいがしそうになったのだが・・・
野外に設けられた護摩壇には、山野に生えている灌木をかぶせている。なんだか
2005年の中部万博のマスコットのモリゾーとキッコロみたいだ。というより、キッコロが緑の護摩壇に似ているというべきか、緑の護摩壇が森の精霊に似ているというべきか。
稲穂の束を身にまとった存在なら、秋田県のなまはげや沖縄の民俗芸能にもあるが、それは稲作が日本に伝来した弥生時代以降の信仰から生まれたものだろう。
説明にあったわけではないが、柴でつくられた緑の護摩壇は、もしかすると稲作以前の縄文時代の古層につらなる信仰とかかわりがあるのかもしれないと考えてみたりもする。修験道は日本独自の山岳信仰である。
(燃やされることになる護摩壇は森の精霊か?)
この
緑の護摩壇に火が付けられて燃やされるまえに、種々の儀式が行われるわけだが、
護摩壇のまわりにはしめ縄が張られている。山伏姿の修法師たちが入場してくる。
(山伏姿の成田修法師の入場)
当日は儀式の内容にかんする説明が行われていたのだが、内容にかんする正式名称など正確に記憶していないので、一般用語をつかって説明しておきたいと思う。
まずは
先達(せんだつ)が護摩壇の前で鉞(まさかり)を振り下ろす所作が何度も行われる。
(護摩壇に点火する前の儀式 まさかりを振り下ろす)
そのあと、
別の先達が鏑矢(かぶらや)を地面に向けて射る。この所作を東西南北の4カ所で行い、
結界(けっかい)をつくる。これで聖なる空間ができあがることになる。
(護摩壇に点火する前の儀式 鏑矢で結界をつくる)
四方に鏑矢を射たあと、最後に護摩壇に向けて鏑矢が射られる。矢を射られる対象であるということは、やはり
燃やされる前の護摩壇は、森の精霊という魔物なのであろうか。
(護摩壇に点火する前の儀式 鏑矢を護摩壇に向けて放つ)
このあと、
別の先達が、利剣でもって居合いを行い、最後には
護摩壇に向けて剣を突き刺す所作を行う。
(護摩壇に点火する前の儀式 利剣を護摩壇に向けて突き刺す所作)
このあと僧侶が行う護摩の儀式がある。以上で一連の儀式が終わり、いよいよ護摩壇に火を付けることになる。
祭壇からもらい火した青竹の松明(たいまつ)を二人の修法師が抱え持ち、儀式を行ったのち、護摩壇に二カ所から点火する。
(青竹の松明で護摩壇に点火する)
護摩壇のなかから上がってきた炎をあおるため、
二人の修法師がモップのような梵天(ぼんてん)であおいで風を起こす。炎とともに、もうもうたる煙が立ち上がる。このあと、
参詣者の頭上で神道のお祓いのように梵天が振られる。わたしもそのお祓いに与ることができた。
(梵天をつかって火の巡りをよくする)
ときどき、成田山の銘の入った柄のついた枡(ます)で水をかける。延焼をふせぐためであろう。
(延焼しないように水をかけながら)
護摩壇が燃やされているあいだ、「不動明王の真言」と「般若心経」がひたすら唱えられる。参詣者も唱えることがもとめられ、熱さと煙に耐えながら、わたしもクチのなかでブルブツ唱えながら合掌する。
不動明王の真言は以下の通り。
のーまく さんまんだー
ばーざらだん せんだー
まーかろしゃーだー
そわたや うんたらたー
かんまん
火はすべてを浄化する。祭壇に飾られていた将棋の駒のような成田山の「勝守り」を、護摩壇の炎で先達が浄める。この間、信者がもってきた古いお札や護摩木をつぎつぎと炎のなかにくべていく。
(燃えさかる護摩壇の炎でお守りを浄める)
一連の浄めの儀式が終わったあとは、
参詣者のバッグや財布などの持ち物を浄めていただくセッションに入る。わたしも背負っていたデイバッグを浄めてもらった。
(燃えさかる護摩壇の炎でバッグなど信者の持ち物を浄める)
護摩壇が燃え尽きると、いよいよ火渡り修行の準備に入る。
(仁王立ちする修法師 火渡り準備中)
護摩壇が燃え尽きて炭と灰になったら、道具をつかって地面をならして整地する。
修法師たちは白足袋を脱いで裸足となる。足袋を履いていては、残り火が燃え移る可能性があるのでかえって危険なのだ。
整地がおわると前方と後方に枝葉のついた青竹を二本づつ立て、しめ縄をはる。
先頭にたつ先達が利剣でしめ縄を断ち切り、火渡りの先陣を切る。
(火渡り場所の二本の竹にかけたしめ縄を利剣で断ち切る)
炎は消えても、熾火(おきび)が残っているのでまだまだかなり熱そうだ。なかには飛び跳ねて走る修法師もいてたしなめられていた。
(まだまだ熱いなか裸足で火渡り修行する修法師たち)
飛び上がって走るとかえって熱いらしい。
足の裏をしっかりとつけて、下を見ずにまっすぐ前を見て歩ききるのがよいのだという。
(まだまだ熱いなか裸足で火渡り修行する修法師たち)
■
万難を排して「火渡り修行」を体験する
修法師たちによる火渡り修行が終わると、だいたい12時半を過ぎたくらいの時間になっている。
これから先は「一般火渡り修行者」の番となる。参加希望者はすでに長い列をつくって後方に並んでおり、わたしの目の前でつぎつぎと渡し始めていた。まだそうとう熱いのだろうに、気合いが入っているなあ。
「火渡り修行」をじっさいに見たいという気持ちと、
今後の人生を乗り切るためにお不動様の加持力を得たいという気持ちの両方で参加したが、この日はなぜか風邪気味でカラダの節々に筋肉痛が残っていた。
熱さと煙のためだろうか、ずっと立ちつづけていたこともあるが、見学中に目の前に集まってきたる山伏たちが突然真っ黄色に変わっていくのを感じた。「なんだこれは・・」と思っているうちに、くらくらしてきたぶっ倒れるのではないかという気がこみあげてきた。
これは危ないと思って、倒れる前にしゃがみ込んだことで、なんとかやり過ごすことができたのだが、いったいこれは何だったのだろうか・・・。知覚異常という脳内現象かそれとも・・・。
一瞬の出来事だったと思うが、火渡りは断念してそのまま帰ろうとかとさえ思ってしまった。だが、せっかくの機会であるし、
ここで火渡りを行わなければ絶対に後悔するだろうと思い直し、意を決して列に並ぶことにしたのである。
すでに列はながく続いており、火渡りできるまで40分以上待つこととなったが、そのくらい待てばもう熱くないだろうと思ってみたりもする。
(せっかくの機会なのでわたしも火渡り修行に参加)
自分が火渡りするシーンは写真に撮れないのが残念だが、そんな雑念はもたないのが賢明というべきだろう。裸足になってズボンの裾をめくる。火が燃え移るのを防ぐためだ。
じっさいに火渡りしてみると、だいぶ時間がたっていたにかかわらず、まだ熱かった。
最初に踏み出した右足にかなりの熱さを感じたが、なんとか渡り終えた。最後に大先達の前にひざまづき、密教法具の独鈷(とっこ)をアタマにあてていただいて祝福を受けることができた。
火渡りが終了したら水で足を洗い、靴下をはいて靴を履く。
終わってみればあっという間の一瞬の出来事であったが、火渡りを体験できたのはよかった。聞くと見るのは大違い、見るのとやるのはさらに違う。何事も体験してみないと、ほんとうの実感というものはわかないものである。
火渡り修行に参加してほんとうによかった。こういう機会を逃すと、つぎはいつ参加できるかまったく未知数だからだ。
(大本堂の西隣で火渡り修行が行われる)
わたしが火渡りを終えたあとも、まだまだ一般火渡り修行者の列は続いていた。
大本堂の西隣で火渡り修行が行わるので、見学するだけなら大本堂の渡り廊下から眺めるのもよいかもしれない。
成田山に来るのは4年ぶりになるので、
ひさびさに断食参籠道場に立ち寄ってみた。といっても中に入ったわけではない。修行中でないと中には入れない。
参籠道場の二階は成田山修法師の修行道場となっている。一般参詣者がこの参籠道場までくることはめったにないと思うが、成田修験とも呼ばれる山伏姿の修法師たちが成田山と密接な関係をもっていることは、アタマの片隅にでも置いておくべきだろう。
「柴灯大護摩供 火渡り修行」もまた日本なのである。
修験道は日本独自の山岳信仰である。こんな日本を日本人自身が知るべきであり、そして外国人観光客にも知ってもらうべきではないかと思うのである。
毎年五月と九月の二回行われているので、ぜひ一度は 「柴灯大護摩供 火渡り修行」に参加してみるとよいと思う。
<関連サイト>
大本山成田山 (公式サイト)
(成田山の九月詣でを促すポスター)
愛・地球博公式マスコットキャラクター 「モリゾーとキッコロ」
http://www.expo2005.or.jp/jp/N0/N2/N2.1/N2.1.26/
<ブログ内関連記事>
庄内平野と出羽三山への旅 (9) 月山八号目から月山山頂を経て湯殿山へ縦走する
・・このご神体は、熱い温泉が湧きだしている、こんもりした山のような巨岩である。・・(中略)・・ご神体の拝礼は、なんとご神体そのものを、ご神体の左脇から裸足で登って、また下りることが求められる。ご神体の上を歩いていいなんて!
ご神体からわき出るお湯は実に熱く、裸足ではとても耐えられないくらい熱い。あまりにも熱いのでやけどしそうだ。立ち止まることは不可能、登り続けるしかない。
ご神体は、目で見て驚くだけでなく、足の裏で感じ取り、匂いを嗅ぎ、森の発する音を耳で聴きながら、五感すべてをつうじて感じ取るものなのである。 だからこそ、直接体験するにしくはないのだ」 成田山とも関係の深い湯殿山信仰
■修験道関連
「庄内平野と出羽三山への旅」 全12回+α - 「山伏修行体験塾」(二泊三日)を中心に (総目次)
とくに
庄内平野と出羽三山への旅 (11) 湯殿山で感じる「出羽三山の奥の院」の意味 の 「成田山新勝寺の成田修験と湯殿山との関係」という小項目を参照。
⇒ 湯殿山信仰と成田山信仰圏の重なり
庄内平野と出羽三山への旅 (7) 「神仏分離と廃仏毀釈」(はいぶつきしゃく)が、出羽三山の修験道に与えた取り返しのつかないダメージ
・・日本独自の山岳信仰である修験道が「神々の明治維新」でいかなる大打撃を受けたかについて
成田山新勝寺「断食参籠(さんろう)修行」(三泊四日)体験記 (総目次)
「シャーリプトラよ!」という呼びかけ-『般若心経』(Heart Sutra)は英語で読むと新鮮だ
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成田と成田山新勝寺関連
不動明王の「七誓願」(成田山新勝寺)-「自助努力と助け合いの精神」 がそこにある!
節分の豆まきといえば成田山、その成田山新勝寺の「勝守り」の御利益に期待
「企画展 成田へ-江戸の旅・近代の旅-(鉄道歴史展示室 東京・汐留 )にいってみた
書評 『京成電鉄-昭和の記憶-』(三好好三、彩流社、2012)-かつて京成には行商専用列車があった!
月島で生まれて初めて「もんじゃ焼き」を食べてみた-もんじゃ焼きの味は食べてみないとわからない!
・・東京都江東区の門前仲町駅前には成田山別院がある
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「複数の日本」を知る
書評 『日本力』(松岡正剛、エバレット・ブラウン、PARCO出版、2010)-自らの内なる「複数形の日本」(JAPANs)を知ること
「かなまら祭」にいってきた(2010年4月4日)-これまた JAPANs(複数形の日本)の一つである
・・外国人観光客にもよく知られた奇祭
(2015年7月28日 情報追加)
(2021年11月19日発売の拙著です)
(2021年10月22日発売の拙著です)
(2020年12月18日発売の拙著です)
(2020年5月28日発売の拙著です)
(2019年4月27日発売の拙著です)
(2017年5月18日発売の拙著です)
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