(東京・お台場のテレコムセンターから)
クレーンとは重量のあるモノをつり上げて、所定の位置におろすための機械のことだ。日本語で起重機というが、一般的に使用されるコトバではない。
一般人がふだん目にするのは、工事現場や建設現場の大型クレーンだろう。一般にラフタークレーンが使用されているが、このタイプのクレーンは、車輪がついた自走式である。クレーン自体を運転して移動させることができる。
港湾施設で活躍しているクレーンは、正式にはガントリークレーンという。コンテナヤードで貨物船とのあいだでコンテナの積み替えを行うための機械である。このタイプのクレーンは据え付け型であり移動はできない。
クレーンはすっかり日本語として定着しているが、そもそもクレーンはどういう意味なのか、どういうスペリングなのか考えることはあまりないのではないだろうか。英語だとクレーンは crane とつづる。Crane を辞書で調べてみよう。
まずでてくる意味は動物のツルだろう。そう、クレーンとはツルのことなのである。起重機のクレーンは、形がツルに似ているので一般名詞でクレーンと命名されたようだ。アナロジーによる命名である。
アナロジーとは類推や類比という意味で、ひらたくいえば、「~のような」を表現するレトリックのことだ。クレーンの例でいえば、起重機は「クレーン(=ツル)のような」形をしているからクレーンとよぶ、ということになる。
身近な例でいえば、コンピュータのマウスは、形がマウス(=ネズミ)に似ているので、マウスと命名されている。実験用のマウスは日本でもマウスとそのまま呼ばれている。
ほかにもさまざまなケースがあると思うので、探してみるといいだろう。
マウスについては、いまでは日本人はネズミのことだとすぐにわかるが(・・ただし、マウス mouse とラット rat の違いまでは認識していないかも)、クレーンがツルのことだとは、なかなか思いつかないかもしれない。
とはいえ港湾のコンテナヤードに設置されているガントリークレーンは、クレーンではあるものの、どう見てもツルという感じではないなあ。
わたしはガントリークレーンを見ると、いつもタカアシガニ(=高脚蟹)を連想してしまうのだが・・・。
この記事を書いたときには想起していなかったが、日本語には鶴嘴(つるはし)という名称の道具がある。工事現場などで硬い地面などを砕くために使用されるが、先端がとがった形状は、たしかにツルのくちばしのようである。
高度成長期を代表するスポ根アニメの名作 『巨人の星』で、星飛雄馬の父親の星一徹が土木現場で汗水たらしながら働いているシーンを想起するが、現在では重機を使用して掘削を行うのがあたりまえなので、鶴嘴(つるはし)の出番も少なくなった。だが、それでも狭い場所を掘る時には人間の手で鶴嘴を使用することもある。
英語ではツル(=クレーン)のくちばしは吊り上げ機器として、日本語ではツルのくちばしは道具として名称に活かされているわけだ。こういう異文化論(?)は雑学として面白い。
(2015年10月15日 記す)
<関連サイト>
港のエース、ガンマンの絆 クレーン運転士・上圷(かみあくつ)茂 (NHK プロフェッショナル 仕事の流儀) (2014年4月21日 放送)
・・コンテナ輸送に不可欠の業務であるガントリークレーンの操作を行う運転士の仕事
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(2015年10月15日 情報追加)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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