東京の築地本願寺で毎月最終金曜日に開催されている 「パイプオルガン ランチタイムコンサート」にはじめていってみた。
前々から気にはなっていたのだが、ウィークデーの金曜日のお昼にいくのはむずかしいので今回まで実現しなかったのである。
お寺でコンサートというのは、現在ではとくに珍しいものではない。そもそも、お寺や神社は本来は開放系のスペースなので、コンサートなどの集客を行いやすい場所である。落語が仏教の説教から派生して誕生したことも、比較的知られていることではないだろうか。
だが、お寺と西洋音楽、それもキリスト教とは切っても切り離せない教会音楽が中心のパイプオルガンとお寺は結びつきにくい。築地本願寺はその例外的な存在だろう。
そもそも近代日本を代表する建築家の一人である伊東忠太(1867~1954)設計の外観がインド風でエキゾチックだとはいえ、黄金色に輝く阿弥陀如来の本尊が安置された本堂は浄土真宗のお寺そのものだし、充満する線香の抹香臭い匂いはお寺以外のなにものでもない。
ところが本堂に入って振り返ると、そこにあるのは本格的なパイプオルガンである。しかも、築地本願寺のサイトによれば、1970年に公益財団法人「仏教伝道協会」から寄進いただいたものだそうだ。現代人に仏教を伝道するための導入手段としては、なかなかのアイデアではないか!
(築地本願寺本堂内のパイプオルガン 筆者撮影)
本日は 「パイプオルガン ランチタイムコンサート」の104回目だそうだ。毎月一回開催されているので、すでに8年以上にわたってつづいていることになる。入場無料であり、息の長い「伝道活動」である。
本日の演奏者は佐藤雅江氏。立教新座中学校・高等学校オルガニスト、聖路加国際大学礼拝堂オルガニストである。
コンサートは入場無料で 12時20分から30分。お昼のひとときである。
今回のプログラムは以下の4曲である。
●J.P. スウェーリング: エコー・ファンタジア イ短調
Jan Pieterzoon Sweelinck (1562~1621): Echo Fantasia in a
●坂本日菜: 南無不可思議光-「しんじんのうた」によるファンタジア
Hina Sakamoto (b. 1968): I entrust myself to the Buddha of Inconceivable Light - Fantasia on "Shinjin no uta" from Hymn book ofor Buddhists
●Ch.M. ヴィドール: オルガン交響楽 第5番 より 第4楽章「アダージョ」
Charles-Marie Widor (1844~1937): Ⅳ. Adagio extrait de Cinquieme Symphonie
●J.S. バッハ: ファンタジアとフーガ ハ短調 BMV 537
Johann Sebastian Bach (1685~1750): Fantasia et Fuga in c BMV 537
ちなみにファンタジアとは「幻想曲」と日本語で表現されているが、音楽の楽曲のジャンルとして即興性の高い作品のことをいう。ディズニーのファンタジアとはニュアンスが違う。
二曲目の「南無不可思議光」は今回のコンサートのために作曲されたものだそうだ。「正信偈」(しょうしんげ)にでてくるシーンを音楽化したものだと解説されていた。なんだか電子音楽のような印象だった。
(築地本願寺本堂内のパイプオルガン 側面からみる)
ヨーロッパの教会で行われるパイプオルガン演奏と比べると、音響の面では劣るのは仕方がない。そもそもオルガン演奏を前提に本堂が設計されているわけではないからだ。天上から音が降り注ぐように、音響を最大限に計算にいれた設計のキリスト教の教会とは違うのである。
とはいえ、お寺の本堂でパイプ椅子に座ってパイプオルガンの演奏を聴くのも、なかなか不思議な経験である。築地本願寺の本堂には雅楽で使用する太鼓もおかれているので、音楽としては和洋双方に対応できるようになっているようだ。
インド風のお寺の、日本風の本堂のなかで、西洋のパイプオルガンの演奏を聴くという摩訶不思議な体験。まだ体験されていない方は、毎月最終金曜日に開催されているので、ぜひ時間をつくって体験されることをおすすめしますよ。
<関連サイト>
お寺で♪パイプオルガンのランチタイムコンサートはいかが (築地本願寺)
築地のお寺でパイプオルガン (築地本願寺の副オルガニストの小島弥寧子氏のブログ)
・・明福寺(みょうふくじ)ルンビニー学園(東京都江戸川区)ではオルガニストをつとめているという。明福寺(浄土宗)のパイプオルガンは1999年設置とのこと。画像で見る限り小型のオルガンである
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