2015年3月19日木曜日

映画『博士と彼女のセオリー』(英国、2014)をみてきた(2015年3月19日)ー 車イスの天才物理学者ホーキング博士の人生をラブストーリーで描くヒューマンドラマ


映画 『博士と彼女のセオリー』(英国、2014年)をみてきた(2015年3月19日)。主人公は車イスの天才物理学者ホーキング博士とその妻であったジェーン。この二人の愛の物語ともいうべき伝記スタイルのヒューマンドラマである。
    
原題は The Theory of Everything、つまり「万物を説明可能とするセオリー」のこと。ホーキング博士の究極の探求テーマのことだ。
 
『博士と彼女のセオリー』だと、なんだかロマンティック・コメディ(・・日本でいう、いわゆるラブコメ)みたいなタイトルだが、この映画にかんしては日本語訳は悪くないと思う。というよりも、むしろ日本語版のタイトルのほうが内容をよく表現しているのではないか、と。もちろん、この映画の「ラブ」とは、すべてを引き受けるという意味の「愛」であるわけだが。

(日本版チラシの裏)

ブラックホールの特異点(=シンギュラリティ singurality)についての理論を発表した理論物理学者で、しかも無神論者であったが、けっしてアタマでっかちの堅物ではなかったホーキング博士。
  
愛情豊かな家庭に育ち、ワーグナー好きで、ボート部でコックスをつとめたり、ダンスパーティに参加したりなど大学時代には青春を謳歌、ユーモアやウィットに富み、人生を楽しみ、家族を愛し、男女間の微妙な機微にもけっして無縁な人ではなかったのだ。じつに人間くさい側面をみせているホーキング博士は、日本では同日に公開された『イミテーション・ゲーム』のチューリング博士は、おなじくケンブリッジ出身の天才だが、かなり異なるキャラクターだ。



ホーキング博士が苦闘してきたALS(=筋萎縮性側索硬化症)は、頭脳活動にはまったく影響がないにもかかわらず、全身の筋肉が萎縮して思うようにカラダを動かせなくなっていくという難病である。

不治の難病にかかっていたことがわかったのは、ケンブリッジ大学の学生だった21歳のとき。まさにこれからが人生の本番というときに余命2年(!)を宣告されたスティーブン・ホーキング青年の精神的な苦悩は、いったいいかなるものだったか・・・。

(英語版チラシ)

このホーキング博士の人生を支えてきたのが、愛ゆえに決意して妻となったジェーンであった。無神論者の夫と英国国教会の信者の妻というカップル。ホーキング博士の人生を、配偶者の視点からもあわせて描いている点が、この映画をヒューマンドラマだけでなく、ラブストーリーにもしている。だから、よくできた日本語タイトルだと思うのだ。

つねにギリギリの状態で頑張ってきたジェーンがもらした "I have loved you. I did my best." というセリフがずしりと重く響く(・・過去分詞を使用した英語表現のニュアンスに注目)。この映画のテーマは人間にとっての「時間」の意味についてでもあるのだ。それは最期までみたら理解できることだろう。

著名人とはいえ、72歳でいまだ健在の人物を映画で描くというのは、想像以上に大変だったのではないかと思う。この映画をみてホーキング博士のすべてがわかるわけではないが、断片的な記事をつうじてしかホーキング博士を知らなかったわたしのような者にとっては、見るべき映画だ。

主人公を演じた主演男優はもとより、出演者すべての演技が素晴らしい、お勧めの映画です。





PS 無神論者のホーキング博士が死去 

ホーキング博士が、2018年3月14日に亡くなった。享年76歳。無神論者であったので、死後の世界は信じていない人であったが、ご冥福を祈る。合掌。(2018年3月15日 記す)



<関連サイト>

映画 『博士と彼女のセオリー』(日本版 公式サイト)

The Theory of Everything - Official Trailer (Universal Pictures) HD (英語版公式トレーラー)

スティーヴン・ウィリアム・ホーキング (Stephen William Hawking 1942年1月8日~) wikipedia日本語版



<ブログ内関連記事>

ケンブリッジ大学関連

日本語の本で知る英国の名門大学 "オックス・ブリッジ" (Ox-bridge)
・・20世紀のオックス・ブリッジをインサイダーとして体験した日本人が書いた本の数々

映画 『イミテーション・ゲーム』(英国・米国、2014年)をみてきた(2015年3月14日)- 天才数学者チューリングの生涯をドイツの暗号機エニグマ解読を軸に描いたヒューマンドラマ
・・ホーキング博士よりも一世代以上前のケンブリッジ大学が生んだ天才数学者



科学的探求精神と変人性

書評 『人間にとって科学とはなにか』(湯川秀樹・梅棹忠夫、中公クラシック、2012 初版 1967)-「問い」そのものに意味がある骨太の科学論
・・科学者という人間類型を突き動かしてきた知的衝動とは?

書評 『ヨーロッパ思想を読み解く-何が近代科学を生んだか-』(古田博司、ちくま新書、2014)-「向こう側の哲学」という「新哲学」
・・「向こう側」は「あの世」ではない!「見えない世界」への感受性を高めることが重要だ


ALSや声を失った難病との苦闘

書評 『トラオ-徳田虎雄 不随の病院王-』 (青木 理、小学館文庫、2013)-毀誉褒貶相半ばする「清濁併せのむ "怪物"」 を描いたノンフィクション

書評 『対話の哲学-ドイツ・ユダヤ思想の隠れた系譜-』(村岡晋一、講談社選書メチエ、2008)-生きることの意味を明らかにする、常識に基づく「対話の哲学」 
・・人生の絶頂期に、筋萎縮側索硬化症(ALS)という不治の病に突然冒され、10年以上にわたって闘病生活を続けるという不幸に見舞われたユダヤ系ドイツ人哲学者フランツ・ローゼンツヴァイク

・・リハビリの作業療法で、生まれてはじめて習い覚えたパソコンに向かって、左手だけで書いた文章がまとまった文章が一冊に 記憶障害はないがしゃべれない状態


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