(任天堂の花札「都の花」より)
「いのしかちょう」というフレーズがある。花札用語である。
いのしし(=猪)、しか(=鹿)、ちょう(=蝶)の3枚の札のことである。それぞれ、はぎ(=萩)、もみじ(=紅葉)、ぼたん(=牡丹)の花の札に対応している。
もうずいぶん長く花札はやっていないが、花札だけは所有している。花札は庶民的なゲームだが、花札に描かれた図柄が日本の自然と王朝文化であるのがいい。日本以外では植民地時代に朝鮮半島で定着したようだが、もっと海外にも知られていい。
■花札と京都の任天堂
先日(2015年7月11日)、任天堂の岩田聡社長が55歳という若さで現役のまま病没された。
任天堂を NINTENDO にトランスフォームさせたのは、一族出身の先代社長の山内氏であるが、コンピュータゲーム路線を不動のものにしたのが抜擢されて42歳で社長に就任した岩田氏であった。奇しくもわたしと誕生日が同じ12月6日、この場を借りてご冥福を祈りたい。
いまでこそゲーム機メーカーで世界的に有名な NINTENDO だが、もともとは京都の花札屋である。わたしは一度だけ任天堂の本社を訪れたことがあるが、世界的なゲーム機メーカーという印象は感じられなかった。
任天堂の花札(!)は、マルフクの登録商標で現在でも販売されている。大統領の肖像画が、なぜかナポレオンであるのはご愛敬だ(笑) これは結構知られているネタだろう。(・・下掲の写真を参照)。
(任天堂の花札の大統領はナポレオン)
任天堂のサイトには、「花札の歴史・遊び方」というページがあるので、歴史の部分を一部引用しておこう。花札の歴史やゲームのやり方が書いてある。
花札の歴史は安土・桃山時代の「天正かるた」、江戸時代上期の「ウンスンカルタ」から、江戸時代中期に現在使用している花札ができたと言われています。花札ゲームの中でも2人でプレイする「こいこい」は、勝負勘・度胸・かけひき・冷静さを必要とする現代版知的ゲームです。
そもそも歌留多(カルタ)というのは当て字である。安土桃山時代にカードゲームが「カルタ」(=カード)というポルトガル語とともに南蛮文化として渡来したからだ。なぜ王朝文化が図柄のテーマになったのかはわからないが、花鳥風月のイメージとギャンブルの組み合わせが面白い。
(いの・しか・ちょう 任天堂)
■人口減少と反比例に増え続けるシカとイノシシ
農村人口の減少にともなって、シカやイノシシが増えつづけているというニュースは、もはやあたらしくはないが、シカとイノシシが花札の図柄として登場するというのは、考えてみれば面白いことだ。それだけ日本では昔から当たり前の存在であるのだろう。
里山から里に下りてくるイノシシ、野山の草を食い尽くすシカ。もはや、イノシシもシカも害獣との認識が一般化しているが、そもそもはともに神の使いである。信州の諏訪大社ではシカもイノシシも、ともに供え物として首が献上されていたらしい。狩猟民族としての側面が神事に残存しているのである。
イノシシは「ゐ」の「しし」の意味。「しし」とは肉のこと。つまりイノシシは駆除したら食べるものであったのだろう。ちなみにシカの肉のことは古語でカノシシという。「か」(=シカ)の「しし」(=肉)という意味。
王朝文化の精髄である百人一首には、「奥山に もみぢかきわけ鳴くしかの・・・」というシカを題材にした和歌があるが、なぜかイノシシを歌った和歌はない。ともに神の使いであったはずなのだが・・・。
そのイノシシがなぜ花札には登場するのか? 疑問を抱き始めると切りがないが、機会があれば本格的に調べてみたいものだ。
■参考: その他文明圏でポピュラーな野生動物
・・南インドで再興したタシルンポ寺から来日したチベット仏教僧たちによる「チャム」(チベット密教僧による仮面舞儀礼)。踊っているのは、仮面をかぶっているがチベットのお坊さんです。2009年5月8日撮影。「チベット・スピリチュアル・フェスティバル2009」(東京・新宿の常円寺)にて。2009年11月18日に筆者(=佐藤けんいち)がアップロードした映像。
日本では「猪と鹿」だが、チベットでは「牛と鹿」のようだ。
(2015年7月28日 記す)
<ブログ内関連記事>
辰年(2012年)の初詣は御瀧不動尊(おたき・ふどうそん)にいってきた
・・御瀧不動尊(千葉県船橋市)には、柵のなかで鹿が飼われている! 奈良公園とは違って雄鹿の角は切られていない
・・西欧ではキリスト教の布教により、鹿の位置づけはヒツジに比べて大幅に後退し、ついには角の生えた悪魔の象徴となる
■日本人の狩猟
・・この著者はシカもイノシシも狩る。しかも古来からの狩猟方法であるワナによって
・・農作物を食い荒らす害獣とみなされたシカやイノシシは、江戸時代の農民によって鉄砲で駆除されていた
■南蛮文化
■王朝文化
(2015年7月30日、9月13日、2016年3月9日 情報追加)
(2023年11月25日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2022年12月23日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2022年6月24日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2021年11月19日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2021年10月22日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2020年12月18日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2012年7月3日発売の拙著です 画像をクリック!)
end