2015年8月12日水曜日

映画 『ルンタ』(日本、2015)を見てきた(2015年8月7日)-チベットで増え続ける「焼身」という抗議行動が真に意味するものとは

(上部はルンタ、下部は「焼身」者たちの写真に祈る若い僧侶)

映画 『ルンタ』(日本、2015)を東京・青山のイメージフォーラムで見てきた。チベットで増え続けている「焼身」という抗議行動についてのドキュメンタリー映画だ。この映画が製作された時点で、すでに焼身したチベット人は127人(!)となっているのだという。

チベット民族の迫害については、欧米社会を中心に、日本でもある程度まで知られている。だが、情報は断片的にしか入ってこないので、なかなか全体像がつかめないのが現状だ。この111分のドキュメンタリー映画は、「焼身」という抗議行動そのものに深く迫っている

登場するのは、「ダライラマの建築家」と呼ばれる日本人建築家・中原一博氏。チベットの状況についてブログで発信し続けている人である。インドのダラムサラにあるチベット亡命政府関連の建築物の設計を担っている人だ。ダラムサラ在住でチベット語に堪能な中原氏が、「焼身」について語り、そして中国国内のチベット人在住地域の「焼身」現場を歩き、考える。

チベット人にとって、切って切れないチベット語とチベット仏教の関係民族を民族たらしめているものが、まずなによりも母語であること、そしてチベット語によって伝えられてきたチベット仏教の伝統を、世代をつうじて保持していくことの重要性については、少数民族として迫害されているわけではない日本人にはなかなか想像つかないかもしれない。

チベット民族から母語を奪い、仏教によって培われた民族の独自性を奪う、中国共産党による「エスニック・クレンジング」(=民族浄化)への抗議が、自己犠牲による「焼身」という形で行われているのだ。だが、なぜ「焼身」という形で抗議行動が行われるのか? 誰もが疑問に思うはずだ。

それはチベット人が仏教の教えを深いレベルで実践しているからなのだ。自らの身体を燃やしてしまうという「焼身」。これは単なる抗議行動というよりも、もっと深い意味がある。自らの肉体に火をつけて、自らを灯明(とうみょう)として世の中を照らすという行動なのだ。


人を傷つけることなく、自らを犠牲にすることによって覚醒を促す行動。これはチベット人だけに見られる行動ではないが、127人もの「焼身」者は尋常ではない。しかも報道されているような僧侶だけでなく、一般人もすくなくないのであり、男女を問わず若い世代が多いのだという事実に衝撃を受けるのは、わたしだけではあるまい。

中原氏は、「焼身」者のパーソナルヒストリーにも迫っている。このことによって、等身大のチベット人の若者たちの苦悩と決断を、映画を見ている者にも伝わってくる。

タイトルになっている「ルンタ」とは、チベット語で「風の馬」という意味だ。カラフルな布に印刷された「風の馬」の絵柄と経文は、チベット人の願いを乗せて強い風にはためいている。チベット人居住地域ではよく目にする光景だ。

これ以上の「焼身」者が増えることなく、一日も早くチベット民族の苦難が終る日を願う。その願いをルンタに乗せて、日本人だけでなく、世界中の人にぜひ見てほしいとつよく思う。




PS この映画にも登場する建築家・中原一博氏がブログで発信してきた内容が『チベットの焼身抗議 (太陽を取り戻すために)』として 2015年10月に出版された。(2015年12月11日 記す)





<関連サイト>

映画 『ルンタ』(公式サイト)

チベットNOW@ルンタ ダラムサラ通信 by中原一博







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・・ 「チベット密教僧による「チャム」牛と鹿の舞」と題して、YouTube にビデオ映像をアップしてある。ご覧あれ http://www.youtube.com/watch?v=jGr4KCv7sAA




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