美術好き、とくに西洋美術のファンにとってはいうまでもなく、歴史ドラマや戦争映画が好きな人ならら、これは絶対に見るべき第一級のエンターテインメント作品だ。
キャッチコピーには、「これは、史上最大 最高額のトレジャー・ハンティング!!」とあるが、まさにそのとおりだろう。人気俳優のジョージ・クルーニーが主演を演じているだけでなく、監督・脚本・製作まですべて関与している。まさに非凡な才能と力量が発揮されたハリウッドの娯楽映画である。
生まれ故郷に美術館をつくるという独裁者ヒトラーの夢(妄想?)の実現のため、ナチスによって被占領地のベルギーやフランスから「戦利品」として略奪された絵画や彫刻。これらを奪還し、ユダヤ人を含めた元の持ち主に戻すという、知られざるミッションを帯びた特殊部隊の物語である。映画の冒頭に明記されているように、「実話にもとづく」(Based on a true story)映画化である。
原題は「モニュメンツ・メン」(The Monuments Men)という。これは、第二次大戦後期の1943年から戦後の1951年まで活躍した、連合軍の「記念建造物・美術品・古文書」部の隊員たちを呼んだものだ。「史上最大の作戦」であるノルマンディー上陸作戦のあと、かれらもまたノルマンディーから上陸する。
ヨーロッパ解放をなしとげた戦闘部隊とは異なり、「モニュメンツ・メン」の功績は長く埋もれたままになっていたが、2007年になってようやく(!)、彼らの功績を顕彰する公式決議が米上下院議会でなされ、ゴールドメダルが授与されたのである。
原作は、『ナチ略奪美術品を救え-特殊部隊「モニュメンツ・メン」の戦争』(ロバート・エドセル、白水社、2010)、映画公開にあわせて 『ミケランジェロ・プロジェクト-ナチスから美術品を守った男たち-』と改題されて角川文庫から上下二冊の文庫版として出版されている。
日本公開版が『ミケランジェロ・プロジェクト』となっているのは、ベルギーのブリュージュの聖母教会にあるミケランジェロの聖母子像の奪還がこの映画のハイライトだからだろう。
このほか同じくベルギーはヘントの祭壇画や、フェルメールやレンブラント、そしてモネなどの名品が破壊の危機から救出されたのである。残念ながらピカソなどヒトラーが「退廃芸術」としたものは火炎放射器で焼かれてしまっていたが・・・
日本公開版が『ミケランジェロ・プロジェクト』となっているのは、ベルギーのブリュージュの聖母教会にあるミケランジェロの聖母子像の奪還がこの映画のハイライトだからだろう。
このほか同じくベルギーはヘントの祭壇画や、フェルメールやレンブラント、そしてモネなどの名品が破壊の危機から救出されたのである。残念ながらピカソなどヒトラーが「退廃芸術」としたものは火炎放射器で焼かれてしまっていたが・・・
さまざまな要素がてんこ盛りに詰め込まれていながらスピーディーな展開。最後の最後まで、これでもかこれでもかとハラハラドキドキの場面の連続。そんな内容でありながら、紅一点の魅力的なフランス女性という例外を除いて、主人公たちがみな中年や初老の男性ばかり。美術史の研究者、美術館の学芸員や秘書、そして建築家や彫刻家など、およそ職業軍人とは程遠い存在なのも異色だろう。
学者が主人公になるトレジャー・ハンティングものの冒険活劇映画には、スピルバーグ監督の『インディー・ジョーンズ』のシリーズがあるが、同じくナチス時代を舞台背景にしているものの、主人公の考古学者の主人公はあくまでも架空のものである。これに対して、『ミケランジェロ・プロジェクト』に登場する学者たちはいずれも実在の人物たちで、あくまでも美術品を救い、ヨーロッパ文明が生み出してきたものを守るという使命感に支えられて「作戦」に参加した男たちばかりである。戦死者も出しているのだ。
政戦中のヨーロッパを舞台にしているだけに、ハリウッド映画でありながらヨーロッパ映画の重厚さを感じさせる。ドイツでもロケが行われているので、バイエルン州のノイシュヴァンシュタイン城への道筋など、美しい風景を堪能できる。
全編にみなぎるアメリカ的楽観性が、ハッピーエンドに終わる映画の後味をきわめて良いものとしている。「戦利品」としての美術品を、すべて持ち主に返還するなんていう発想など、ナチスやソ連だけでなく、当時のヨーロッパ人には想像もつかなかったのだ。理想に燃えていたアメリカの黄金時代をうまく描き出しているといえようか。その意味ではノスタルジー映画でもある。
第二次世界大戦では「モニュメンツ・メン」たちの活躍で、多くの美術品が破壊を免れたのであったが、その後の世界ではタリバンによるバーミヤンの巨大石仏の破壊や、イスラーム国(IS)によるイラクのパルミラ遺跡破壊など、貴重な遺跡が破壊されつづけている。もはや、70年後のいまのアメリカには文化破壊をとどめる熱意もチカラもないのであろうか、と嘆息してしまう。
それだけに、「モニュメンツ・メン」たちの存在は、さらに輝かしいものと感じられるのかもしれない。
<関連サイト>
映画 『ミケランジェロ・プロジェクト』公式サイト
The Monuments Men(オリジナル)公式サイト(英語)
The Monuments Men | Official Trailer #3 HD | 2014 (トレーラー英語版)
『ミケランジェロ・プロジェクト』ロバート・M・エドゼル著 著者インタビュー (PRESIDENT、2015年11月16日号)
(2016年5月26日 情報追加)
■フェルメール作品
「ルーヴル美術館展 日常を描く-風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄-」(国立新美術館)に行ってきた(2015年5月6日)-展示の目玉はフェルメールの「天文学者」
上野公園でフェルメールの「はしご」-東京都立美術館と国立西洋美術館で開催中の美術展の目玉は「真珠の●飾りの少女」二点
「フェルメールからのラブレター展」にいってみた(東京・渋谷 Bunkamuraミュージアム)-17世紀オランダは世界経済の一つの中心となり文字を書くのが流行だった
■美大の受検に二度失敗したヒトラー:芸術と独裁者
書評 『ヒトラーのウィーン』(中島義道、新潮社、2012)-独裁者ヒトラーにとっての「ウィーン愛憎」
書評 『叙情と闘争-辻井喬*堤清二回顧録-』(辻井 喬、中央公論新社、2009)-経営者と詩人のあいだにある"職業と感性の同一性障害とでも指摘すべきズレ"
■ヒトラーが「退廃芸術」として抹殺しようとした表現主義など
「ドイツ表現主義」の画家フランツ・マルクの「青い馬」
「チューリヒ美術館展-印象派からシュルレアリスムまで-」(国立新美術館)にいってきた(2014年11月26日)-チューリヒ美術館は、もっている!
書評 『ピカソ [ピカソ講義]』(岡本太郎/宗 左近、ちくま学芸文庫、2009 原著 1980)-岡本太郎の語る芸術論は、そのまま人生論となっている
■共演者マット・デイモンもまたマルチな才能の持ち主
映画 『インビクタス / 負けざる者たち』(米国、2009)は、真のリーダーシップとは何かを教えてくれる味わい深い人間ドラマだ
映画 『プロミスト・ランド』(米国、2012)をみてきた(2014年9月8日)-衰退するコミュニティ(=共同体)とプロミスト・ランド(=約束の地)
・・『ミケランジェロ・プロジェクト』では脇役のマット・デイモンは、この映画では主演でかつみずからが脚本を書きプロデュースしていいる
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