この本は面白い。ほんとうに面白い。
帯に記された「ニートになれ。世界を終わらせろ。」というコピーに違和感を感じたなら読むべきだ。読めば一般読者の「仏教」観は完全にくつがえされるだろう。いや、へたに「仏教」について予備知識がなければ、逆にすんなり理解できるかもしれない。
『講義ライブ だから仏教は面白い』(魚川祐司、講談社+α文庫、2015)は、もともと電子書籍版として出版されたものを、加筆修正のうえ文庫本として書籍化したものだ。
著者は1979年生まれの「仏教研究者」。ミャンマーのヤンゴンで瞑想修行の実践を行いながら仏教教理の研究をすすめている。著者が「仏教徒」と名乗らないのは、特定の宗派の立場からする説法ではないからだ。
著者は、聞き手との対話の形式をつかいながら「初期仏教」、すなわちブッダ(=仏陀)が言っていることを仏教経典に即して解説している。聞き手の合いの手がちょっと過剰ではないかという気がしないでもないが、ライブという臨場感が伝わってくるのがよい。
この本で解説されていることは、いわば「仏教」のデフォルト、つまり「初期設定」なのである。その後の「仏教」の展開は二次創作的なバリエーションだから、この初期設定についてただしく理解しておくことが大前提になるのだ。
ミャンマーは、スリランカとならんでテーラヴァーダ仏教(=上座仏教)の中心地。テーラヴァーダ仏教は、「初期仏教」の特徴を現代までよく伝えているといわれる。
そのほかタイやラオス、カンボジアという「上座仏教圏」においては、「上座仏教」は、出家者ではなくても、一般民衆の思考に多大な影響を及ぼしている。
さらに、いまグーグルなどアメリカのIT系大企業で社員教育の一環として本格的に導入されている「マインドフルネス研修」は、「テーラヴァーダ仏教」のウィパッサナー瞑想法を応用したものだ。マインドフルネス(mindfulness)とは「気づき」の状態に満ちていることである。
日本の「大乗仏教」に慣れている人には、本書の内容はとんでもなく奇異な印象さえ受けるだろう。現代日本人の「常識」とは相容れないからだ。だが、「初期仏教」についての理解がないと、根本的な認識を誤ることにもなりかねないはずだ。
まさに「仏教はヤバい!」のである。最近の若者風にいえば、「ヤバい!」は「スゴい!」という意味になる。ヤバいほどスゴいということだ。その意味は、本書を読んでいけば実感できるはずだ。
まあ、だまされたと思って、読んでみることを強くすすめますよ。読み終えたとき、これが「仏教」のデフォルトだと理解していることだろう。
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目 次
はじめに
第1回 仏教はヤバいもの
第2回 仏教の核心
第3回 仏教の基本
第4回 無我と輪廻をめぐって
第5回 「世界」を終わらせるということ
第6回 仏教の実践
第7回 「悟り」はあるかないか問題
あとがき
解説: 宮崎哲弥
著者プロフィール
魚川祐司(うおかわ・ゆうじ)
1979年、千葉県生まれ。著述・翻訳家。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程満期退学(インド哲学・仏教学専攻)。2009年末よりミャンマーに渡航し、テーラワーダ仏教の教理と実践を学びつつ、仏教・価値・自由等をテーマとした研究を進めている。処女作『仏教思想のゼロポイント「悟り」とは何か』(新潮社)が話題となる。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
ミャンマー仏教書ライブラリー ~英緬仏教書の翻訳・公開~(著者のサイト)
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