足元を見よ! 足元の十字を見よ!
ふだんは目にすることもないだろうが、たまには足元に目を向けてみるとよい。日本中いたるところに十字を刻んだ小型の石柱が目に入ってくるはずだ。
上掲の写真は標識だ。境界線を明確にするための境界標識である。境界杭ともいう。一般にコンクリート境界杭が使用されている。
このタイプの境界標識のことを天面刻印、という。コンクリート境界杭の天面に十字が刻印されている。
前近代の日本では、道祖神がその役割を果たしていた。道祖神は旅情を誘うアイテムとして紹介されることも多いが、本来の役割は共同体の境界を明示し、外部からの侵入を防ぐことにある。だから道祖神は別名「くなどの神」ともいう。「くなど」とは「来るな」という意味である。
(道祖神のような道路標識 筆者撮影)
そう考えれば、境界標識に十字が刻印されているのは、明治時代以降にキリスト教が解禁されたからか(?)という考えるのも不自然ではないかもしれないが、おそらくこの十字はキリスト教とは関係ないだろう。交差点の十字路の十字か、あるいは「田」という漢字の「口」のなかの「十」ではないか?
日本マクドナルドの創業社長で戦後二本を代表する起業家の一人であった藤田田(ふじた・でん)の名前の「田」は、キリスト教徒であった母親の願いが込められているのだというエピソードがある。「口は災いの元」という格言が日本語にはあるが、息子がそうならないように、口のなかに十字架を入れたのだとか。そう本人がどこかに書いていた。
(田の字は口のなかに十字)
十字(クロス cross)は、そもそも交差するという意味だ。十字路は交差点の意味である。だから、道路標識や土地の境界線に十字の標識が使用されるのは自然なことだ。英語では、十字路も十字架もおなじく CROSS である。
境界と教会、なんていうと、ダジャレというわけではないが、少なくとも日本語人には同音異義語である。ある意味では似たようなものかもしれないというと言いすぎかも知れないが、ともに異物が出会う場所であることは共通している。境界は異人(=他者)と出会う場所、教会は現世と来世の出会う場所である。
ついでに書いておくと、左右のバーと上下のバーの長さが同じなのは「ギリシア十字」という。スイスの国旗はギリシア十字をもとにデザインされている。横木より軸木のほうが長いのが「ラテン十字」で、イエス・キリストが磔になった十字架をイメージしている。日本人がイメージする十字架は後者の方であろう。境界標識にお寺のマークである卍(まんじ)はない。当たり前といえば当たり前だが。
(スイス国旗はギリシア十字)
「ギリシア十字」と「田のなかの十字」は奇しくも基本的なデザインが同じだが、あくまでも偶然の一致である。偶然の一致としてはこのほかに、ダビデの星とカゴメがある。三角形と逆三角形の組み合わせのデザインだが、伊勢神宮の石柱にも刻印されている。カゴメは籠目(かごめ)であって、ユダヤ教のダビデの星とはまったく関係ないことは言うまでもないことだ。
足元の十字をめぐっては、話はいくらでも膨らませることはできるのだが、きりはないのでここらへんでいったん終わりにしておこう。
たまには足元を見ながら歩いてみるといろんな発見があるはずだ。ぜひおすすめしたい。
ただし、くれぐれも前方には気をつけるように!
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(2015年12月29日 情報追加)
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