2016年6月27日月曜日

「島国」の人間は「大陸」が嫌いだ!-「島国根性」には正負の両面があり、英国に学ぶべきものは多々ある



『島国根性を捨ててはいけない』(布施克彦、洋泉社新書y、2004)という本がある。意表を突いたタイトルで、まっとうな主張を行っている本だ。この本を11年ぶりに再読して、その内容にあらためて大いに納得している。

 「島国根性」の対語(ついご)は「大陸的」大陸に対する憧れや劣等感が「島国根性」ということばに表現されているようだ。「大陸根性」というコトバはない。著者は商社マンとしての15年におよぶ海外勤務を経験した結論として、「島国根性」の重要性を主張している。

著者によれば、「島国根性」は「農耕民的島国根性」と「海洋民的島国根性」の二つの側面がある。それぞれプラス面とマイナス面がある。著者の分類を紹介しておこう。

農耕民的島国根性
 プラス面: 緻密、正確、協調
 マイナス面: 偏狭、狭量、閉鎖
海洋民的島国根性
 プラス面: 積極性、好奇心、進取
 マイナス面: 身のほど知らず

海に囲まれた「島国」の住人である以上、日本人にも「農耕民的島国根性」だけでなく「海洋民的島国根性」の両者がある。後者の「海洋民的」な性格が解き放たれたとき、海外進出に大いに発揮されるが、ときに暴走しがちで制御できなくなった結果、大きな問題を発生させたと指摘している。戦前の大陸進出など、その最たる例だろう。

中国進出にかんしても沿海部だけにとどめて内陸に深入りするな、という主張はまったく賛同。「島国」の人間には、「大陸」内部の複雑な内部事情ははっきりいって理解不能なのだ。思い入れや思い込みに足をすくわれて失敗している日本企業は枚挙にいとまがない。

その意味で学ばなくてはならないのが「島国」の先輩格である英国だ。英国は海賊や海軍をつうじて「海洋民的島国根性」を大いに発揮させてきたが、植民地経営にあたっても内陸には深入りせず、現地の既存の支配構造を活用した「間接統治」を行った。「二重支配体制」といってもいい。大陸国フランスとの違いである。

この英国の特性は、かならずしも「島国」とは見なされていない米国も踏襲している。第二次世界大戦で無条件降伏させた日本を「間接統治」で占領したことは、日本人自身がよく知っていることだ。その結果、既存の官僚機構がそっくりそのまま解体されることなく継承されてしまったのだが・・・。

 基本的に「島国」の人間は「大陸」が嫌いなのだ。大陸に生殺与奪を支配されるのはことのほか嫌う。過去を振り返れば、欧州大陸を制覇した勢力は、つぎに英国を狙ってきた。ナポレオンしかし、ヒトラーしかり。だからこそ、大陸の動向には細心の注意を払い、影響を最小限にとどめようと苦心する。そのためには情報にはきわめて敏感で、英国が歴史をつうじてスパイ活動や情報工作にチカラを入れてきたことはよく知られている。

今回の「英国のEU離脱」(2016年6月24日)の心理的背景に「島国根性」があることは間違いない。こういう視点は、意外と大事なのだ。当たり前すぎて見落としがちな盲点である。

そう考えれば、「島国根性」、大いに結構じゃないか! 島というと孤立という連想をもつ人もいるだろうが、それは孤立主義ではない誰とでも付き合うが、過度に深入りしないという用心深いマインドセットのことでもある。それは人間関係だけでなく、国と国との関係でも同様だ。

しかし同時に、変わり身の早さも「島国」特有のものであることは、著者が言及しているキューバの事例からも明らかだろう。冷戦構造の崩壊後、ソ連という後ろ盾を失った社会主義国キューバはバチカンと関係を正常化した。つい最近の2015年には、オバマ政権下の米国とも歴史的和解を実現している。変わり身が早いのは、日本だけではないのだ。その心は、現実主義である。

日本は大きさからいえば、世界第4の「島国」である。「島国」に生きていることをふだん意識することのないほどの大きさだ。英国ほど大陸に近くはないが、それでも有史以来、大陸の影響をさまざまな意味で受けてきた。

「島国」のマインドセットのうち、「海洋民的」性格は重要だ。この点においては経験不足で失敗しがちな日本は、英国からまだまだ多く学ぶ必要がある。もちろん、反面教師としての学びも重要であることは言うまでもない。


目 次

まえがき
第1章 島国根性を捨ててはいけない
第2章 日本は最も恵まれた島国
第3章 がんばる世界の島国根性
第4章 島国根性と大陸根性
第5章 元祖島国大国・イギリス
第6章 グローバル時代と島国根性
あとがき

著者プロフィール


布施克彦(ふせ・かつひこ)
1947年東京都生まれ。一橋大学商学部卒業。総合商社に28年間勤務。その間、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ、アジア各地で約15年間の海外勤務。54歳でサラリーマン引退。現在ノンフィクション作家、大学非常勤講師、NPOコーディネーター、インド企業のエージェントなど、幅広い活動を行っている(本データはこの書籍が刊行された2004年当時に掲載されていたもの)。



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