2016年12月28日水曜日

安倍首相とオバマ大統領がともにハワイの真珠湾(パールハーバー)で戦没者を慰霊(2016年12月27日)

(NHKニュース報道よりキャプチャ)

2016年12月27日、安倍首相とオバマ大統領がともにハワイの真珠湾(パールハーバー)で慰霊した。

現役の首相として発の真珠湾訪問というのは、どうやら誤報だったようだが、それでも現職の日本の首相が、しかも現職の米国の大統領と一緒に慰霊を行ったということには大きな意義があると言うべきだろう。

オバマ大統領が生まれ故郷のハワイで冬期休暇を過ごす機会を捉えたということのようだ。もちろん、入念に準備は行われていたのだろう。記念日である12月7日でないことにも意味はあるかもしれない。オバマ大統領の広島訪問も2016年5月27日と記念日ではなかった

ちなみに複数の首相がじつは訪問しているようだが、吉田茂首相はサンフランシスコ講和条約(1950年)調印の帰国途上でハワイで訪問した際に真珠湾に立ち寄ったようだ。

当時は日本と米本土を結ぶ直行便は燃料キャパの関係から不可能だったので、中間地点のハワイに立ち寄ってで給油するのが当たり前だった。わたしがはじめてサンフランシスコに行った1991年には、残念ながら直行便は当たり前の存在だったので、じつは、いまだにハワイにいっていない。したがって真珠湾も訪問したことがない。

本題に戻るが、日本政府は、オバマ大統領の被爆地広島訪問とは、公式には関係ないとしているというものの、受け取る側としては、返礼に近いものだと考えるのが常識的な見方というべきだろう。つまり解釈は、日米双方の個々人にゆだねるということだ。

わたし個人としては、真珠湾攻撃に対する「謝罪」がなかったのは当然だと考える。日本は米国に追い込まれていたという事情があったことは否定できない。ローズヴェルト大統領としても、日本が攻撃を仕掛けてきたほうが、参戦に踏み切る大義名分を立てやすかったことも確かなことだ。

広島と長崎への非人道的兵器である原爆投下と、結果として宣戦布告通知の1時間前になってしまった真珠湾への奇襲攻撃は、本質において異なる。とても同等(equivalent)なものとは言い難い。

なぜなら、攻撃を仕掛けた側と攻撃を受けた側は非対称的な関係であり、これは真珠湾攻撃も原爆投下も(・・ほんとうは東京や神戸などの都市空爆による一般市民の無差別殺戮についても言及するべきだ)同様である。

とはいえ、日米同盟を継続する限り(・・個人的には、まだまだその必要性は強いと考える)、日米戦争の真相については、公式にはタブーとしなければならない事項は多々ある。

だが真相究明は継続されるべきだろう。時間がたてば、何事も変化する。日米同盟が100年後に存続していると考えるのは、あまりにもナイーブというべきだろう。残念ながら、たとえ「不戦」を誓っても、情勢次第ではわからない

30年前のことだって、もう正確には思い出せないのだから、30年後もまた当然である。すでに戦後70年を過ぎており、日米両首脳ともに戦後世代である。直接に戦争体験はないのだ。

いろいろ思うところもあるが、日米は死闘を繰り広げたからこそ、お互いを知ることができたのは確かなことだ。あとは、戦争体験のない世代がいかに関係継続を維持していくかに注力するかが、「いまそこにある危機」に対応するために必要なことである。





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2016年12月14日水曜日

アニメ映画『この世界の片隅で』(2016年、日本)を見てきた(2016年12月14日)ー ごく普通の一女性の目を通して見た、そして語られた「戦前・戦中・戦後」


アニメ映画 『この世界の片隅で』(2016年、日本)を見てきた(2016年12月14日)。東京テアトル70周年記念企画とのことだ。すばらしい内容なのだが、いかんせん全国的な映画館網での展開でないので、上映中の映画館が限定されているのがちょっと残念だ。

内容は、瀬戸内海に面した広島市の漁村に生まれ育って、その後、広島県の呉市に嫁いだ、ごくごく普通の一女性の目を通して見た、そして語られた、「戦前・戦中・戦後(少し)」を描いた作品。生活範囲は嫁ぎ先の家族と親族に限定される。庶民視点の「近代日本」といえるかもしれない。

NHKの朝の連続テレビ小説のような時代設定である。一人の女性の半生がテーマだが、主人公の「すず」は有名人でも何でもない。知られざる人物というわけでもない。海辺に生きた女性を描いた点は、現代の東北地方『あまちゃん』にも似ている。それが理由というわけではないだろうが、奇しくも主人公の声を担当しているのは、改名後の「のん」(・・本名は能年玲奈)である。主人公の声はこれ以外ありえないという思わされる。



主人公は、絵を描くのが大好きな、やわらかい印象の、のんびりやさん。 だが、嫁いだ先の呉は、瀬戸内海の軍港だ。戦艦大和が建造された海軍の町である。もちろん当時は、住民にとっても軍港は軍事機密であった。

どこにでもあるような近代日本の日本人の生活。それなりに,苦労も伴うが、穏やかな日々がつづいていた。だが、戦争が始まり戦争が長引くにつれ、直接は戦場にはならなかった日常生活にも、だんだんと影響が出始める。物資が不足がちになるだけでなく、戦死者も出るようになってくる。

そして軍港であった呉市にも行われた空爆と機銃掃射、焼夷弾投下。主人公もかけがいのない命を不発弾の炸裂で失い、しかも自分自身も大きな負傷を負ってしまう。空爆される側からの視点で描かれた映像を見ていると、昔の話ではなく、いまもなお世界中で被害にあっている人たちのことを想起してしまう。

原爆もテーマの一つであるが、被爆地の広島ではなく、広島から少し離れた呉で体験したという設定が、独特の距離感を生んでいる。

映画は敗戦では終わらず、しばらく戦後までつづく。日常生活を描いているのだから、人間は未来に向かって現在を生きていくのだから。

映画を見ていてつくづく思うのは、「近代日本」は、じつに無理に無理を重ねていたのだなあ、という感慨だ。人口の大半が農村や漁村に居住していた時代である。高度成長前の日本である。軍事産業もその一つである重工業と、前近代を引きづったままの世界が同時に存在する社会なのであった。

戦争もまた避けることのできない自然災害のようなものであった、というのが当時の庶民の感覚であったのだろうか。これは単純な反戦映画と受け取るべきではない。それはこの映画をじっくり見ればわかることだ。時代考証は徹底的に行われているという。

瀬戸内海を舞台にした、ゆったりとした時間の流れ。もちろん、気候も穏やかな瀬戸内海地方は、冷害による飢饉に苦しんでいた同時代の東北地方とは異なることもアタマには入れておきたい。

こうの史代氏による原作のマンガも、ぜひ読んでみたい。 原作は「漫画アクション」に連載されたものだという。大人向けの媒体である。

上映している映画館がまだ多くないが、ぜひ一度は見て欲しいと思う。かならずや静かな感動を覚えることだろう。見る価値のある映画だ。







<関連サイト>

『この世界の片隅で』 公式サイト




『この世界の片隅に』監督が語る、映画に仕込んだ“パズル”(上) 片渕須直・『この世界の片隅に』(ダイヤモンドオンライン、』

『この世界の片隅に』監督が語る、映画に仕込んだ“パズル”(下) 片渕須直・『この世界の片隅に』監督インタビュー

「この世界の片隅に」は、一次資料の塊だアニメーション映画「この世界の片隅に」片渕須直監督(前編) (日経ビジネスオンライン、2016年12月8日)

「本来は、アニメは1人で作れるものです」アニメーション映画「この世界の片隅に」片渕須直監督(後編) (日経ビジネスオンライン、2016年12月9日)


「この世界の片隅に」北米配給が決定!今夏、劇場公開へ(映画ニュース、2017年2月1日)

「この世界の片隅に」興収20億円突破、14週連続トップ10入り アメリカやフランスでも上映予定(ハフィントンポスト、2017年2月14日)

今こそアニメ『この世界』を見るべき理由 ジブリ作品への強烈なアンサー (岡田斗司夫、プレジデント・オンライン、2018年2月8日)

(2017年2月1日・15日、2018年2月9日 情報追加)



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オバマ大統領が米国の現職大統領として広島の原爆記念館を初めて訪問(2016年5月27日)-この日、歴史はつくられた

鎮魂!戦艦大和- 65年前のきょう4月7日。前野孝則の 『戦艦大和の遺産』 と 『戦艦大和誕生』 を読む

マンガ 『沈黙の艦隊』(かわぐちかいじ、講談社漫画文庫、1998) 全16巻 を一気読み

書評 『高度成長-日本を変えた6000日-』(吉川洋、中公文庫、2012 初版単行本 1997)-1960年代の「高度成長」を境に日本は根底から変化した
・・「高度成長」によって日本近代化は完了した。「高度成長」のビフォア&アフターの違いはきわめて大きい


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2016年12月10日土曜日

アニメ映画 『君の名は。』(2016年、日本)を見てきた(2016年12月9日)ー ラストシーンを見たら、またもう一度最初から見たくなる。そしてこの作品について語りたくなる


アニメ映画の『君の名は。』(2016、日本)をTOHOシネマズで見てきた。

流行り物は一度は自分の目で見て確かめておくべきだというビジネスパーソン的な不純(?)な動機からだが、『君の名は。』の観客動員数1500万人超、興行収入200億円(・・8月26日の公開から3ヶ月での実績)は目を見張る数字である。

こういう映画を見るには、週末の東京都心の週末は避けた方がいい。だから、ウィークデーの地方都市のシネコンで見る。

不純な動機から見ることにしたと書いたが、そんな動機の不純さは映画がはじめってからあっという間に消し飛んでしまった。最初のシーンを見た瞬間から、この作品にすっかり魅了されてしまったのだ。あまりにも美しい映像、リアリティあるディテールの細密な描写。CGを使用しているといっても、東京都心のマンションのベランダから見る東京も、地方の自然もまた、あまりにもリアルで美しすぎる。そして最初から最後まで駆け抜けるようなスピード感。



物語は、現代日本に生きる高校生男女の人格(あるいは、意識、または魂?)の入れ替えと、現実と夢そして時間と空間の交錯に翻弄されながらも、自分の「片割れ」を探しつづけるという「自分探し」がテーマなのであるが、現代人の常識から考えたら「ありえない設定」の物語だからこそ、リアル感あるディテールへのこだわりが徹底しているのだろう。

見る人によっていろんな解釈が可能だろうが、それは濃密に構築されて描きこまれた世界であるがゆえのことだ。下敷きになっているのは、男女の入れ替えをテーマにした日本中世の古典 『とりかへばや物語』であり、発想のインスピレーションは、和泉式部の和歌 「覚めでこそ 見るべかりけれ うつつにも あとはかもなき 夢と知りせば」と監督の新海誠氏はインタビューで語っている。1973年生まれの監督は中央大学文学部の出身だそうだ。

なるほど、この映画は、国文学や民俗学(・・とくに折口信夫)の素養があれば、深く楽しめる。主人公の一人である三葉(みつは)が現代に生きる女子高校生だが同時に実家は神社で巫女としての努めもあり(・・巫女はシャマン、魂の依り代であり、現実(うつつ)と夢、覚醒状態と睡眠状態、この世とあの世を「結ぶ」存在でもある)、神道スピリチュアリズム的な要素に充ち満ちている。

巨大隕石の墜落が強力な磁場を生み出し、そこが聖地になるということも、宗教学の素養があれば応用できる常識といっていいだろう。だから、映画のロケ地への「聖地巡礼」も誘発する。

男女の入れ替えも、現代風にいえばSFのテレポテーションが相互に起こった現象ということができるだろうか。自分の肉体に他人の意識が入り込む現象は、『源氏物語』の登場人物に憑依するする生霊(いきりょう)に前例があると考えてもいいかもしれない。

そもそも日本語の「アニメ」は英語の「アニメーション」の略語であり、アニメーションとは複数の静止画像を高速で連続的に動かすことで無生命の画像に生命を与える行為のことである。パラパラマンガがその原型だ。語源としてのラテン語のアニマ(anima)は、精気のことであり、目に見えない魂をさしている。

アニメが、日本的なアニミズムやスピリチュアリズムと親和性が高いのは当然といえば当然である。日本人がアニメ作品にリアルなドラマ以上に感情移入しやすいのもまた当然というべきだろう。だからこの映画のテーマも、まさに日本アニメの王道をいくものだといえるのかもしれない。



まあ、そういう小難しい話は別にして、日本人ならあまり違和感なく感情移入しながら見てしまうんじゃないかな。セリフも最初から日本語だしね。つくづく日本人で良かったと思う。何よりも情緒を重視し、細かいニュアンスや言語外のしぐさも含めて表現する日本型のコミュニケーションが展開されるわけだから、日本人ならすぐに「感じる」ことができるから。

ラストシーンには感動して目頭が熱くなった。ラストシーンを見たら、またもう一度最初からみたくなる。そしてこの作品について語りたくなる。そんな映画だ。

ぜひ一人でも多くの人に見て欲しいと思う。






<関連サイト>

『君の名は。』公式サイト(日本版)

『君の名は。』大ヒットの理由を新海誠監督が自ら読み解く(上)新海誠・映画『君の名は。』監督インタビュー (ダイヤモンドオンライン、2016年9月22日)
・・「『君の名は。』は、昔話の構造ではなく「夢と知りせば」という和歌がインスピレーションを与えてくれました。夢から覚めてなぜかさみしいという感情は、小野小町のいた平安時代から、いやそれ以前から今にいたるまで人の持つ共通の感覚だろうと思ったのです。そこで、「朝、目が覚めると、なぜか泣いている」と物語を始めることで、観客にも「それは分かる」という気持ちになってもらえるのではないかと考えました。」(新海監督の発言)


「君の名は。」、英メディア絶賛の理由は? 「ディズニーにはなしえない領域に……」 (Newspehre、2016年11月25日)

中国の若者は「君の名は。」のどこに共感するか 「金メダル」と「BL」と「村上春樹」と「孤独」と (福島香織、日経ビジネスオンライン、2016年12月14日)
・・日本人の反応と中国人の反応はまったく違うようだが、日本のアニメやマンガに親しんで育った「新世代」の「80后」(バーリンホウ)はそうではないないのかもしれない。

(2016年12月14日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

書評 『折口信夫 霊性の思索者』(林浩平、平凡社新書、2009)-キーワードで読み込む、<学者・折口信夫=歌人・釋迢空>のあらたな全体像

書評 『折口信夫-いきどほる心- (再発見 日本の哲学)』(木村純二、講談社、2008)-折口信夫が一生かけて探求した問題の解明

書評 『聖地の想像力-なぜ人は聖地をめざすのか-』(植島啓司、集英社新書、2000)-パワースポット好きな人、聖地巡礼が好きな人に一読をすすめたい
・・「(宗教学者の)著者による「聖地の定義」を掲載しておこう。 01 聖地はわずか一センチたりとも場所を移動しない  02 聖地はきわめてシンプルな石組みをメルクマールとする  03 聖地は「この世に存在しない場所」である  04 聖地は光の記憶をたどる場所である  05 聖地は「もうひとつのネットワーク」を形成する  06 聖地には世界軸 axis mundi が貫通しており、一種のメモリーバンク(記憶装置)として機能する  07 聖地は母体回帰願望と結びつく  08 聖地とは夢見の場所である 09 聖地では感覚の再編成が行われる」

書評 『河合隼雄-心理療法家の誕生-』(大塚信一、トランスビュー、2009)-メイキング・オブ・河合隼雄、そして新しい時代の「岩波文化人」たち・・
・・河合隼雄には『とりかへばや、男と女』という名著がある

「魂」について考えることが必要なのではないか?-「同級生殺害事件」に思うこと
・・「近代合理主義」の舌でうめいている魂の声に耳を傾けるべきだ

書評 『オーラの素顔 美輪明宏のいきかた』(豊田正義、講談社、2008)-「芸能界」と「霊能界」、そして法華経
・・日本的スピリチュアリティの源泉の一つが日蓮関連


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2016年12月4日日曜日

書評『2020年日本から米軍はいなくなる』(飯柴智亮、聞き手・小峰隆生、講談社+α新書、2014)-在日米軍縮小という外部環境変化を前提に考えなくてはならない


『2020年日本から米軍はいなくなる』(飯柴智亮、聞き手・小峰隆生、講談社+α新書、2014)は、インタビュー形式ですぐに読める本なので、いますぐに読んでおいたほうがいい。
    
2014年に出版された際は、タイトルに対して「まさか!?」というリアクションを感じたが、トランプ次期大統領の誕生でこの動きは不可逆のものとなりそうだオバマ大統領時代からすでに顕在化しているが、米国の財政事情は依然として厳しいのである。
  
なぜ、在日米軍が撤退するのか? 
    
それは、米中関係が悪化すれば、在日米軍基地が危険にさらされるからだ。沖縄の米軍基地だけではない。日本列島はすでに中国から発射されるミサイルの射程内にある。
  
在日米軍撤退には「なんと身勝手な!」、という感じがしなくもないが、在日米軍が日本防衛を主目的としていない(!)以上、当然といえば当然の発想だろう。なんといっても米軍の活動は議会によって左右されるし、つまりところ米国のタックスペイヤーの意志が反映する。
 
著者は、1973年生まれの日本人だが、退役米陸軍大尉で情報担当、すでに米国市民権を取得している。米軍の「中の人」だったわけで、発言には説得力がある。
  
在日米軍の段階的撤退はあくまでも米国の国家意思として行われるものだが、日本に与える影響はメリット・デメリットの両面があることは言うまでもない。
     
すでに「リスク分散」の観点から、グアムやフィリピン、オーストラリアへの移転が始まっている。
    
出版後の2016年にはフィリピンでヂュテルテ大統領が誕生し、情勢に変化はある。2020年というのはデッドラインではない。だが、在日米軍縮小という「外部環境」変化の方向性はアタマのなかに入れたうえで、日本の将来について考えるべきだろう。
  
アメリカという国は、やると決めたら強引なまでに物事を進める国であることは、日本人ならイヤというほど知っているはずだ。希望的観測は禁物である。





2016年9月には同著者による続刊 『金の切れ目で日本から本当に米軍はいなくなる』((講談社+α新書)が出版されている。

(内容紹介)
「次期大統領候補トランプは、選挙活動中に明言した。『日本は在日米軍駐留経費を出せ、出さないならば、撤退だ』。大統領になれば、彼は米軍最高司令官。「日本から撤退する」との命令が出てから、米軍高官が、「いや、その、何の撤退作戦計画もありません」では、許されない。「お前はクビだ!!」とトランプ大統領が、TVで言っていた有名な台詞が発せられるだろう。トランプのこの撤退発言が出た瞬間から、米軍内部では、日本撤退作戦計画が現実に立案されているらしい。軍隊は、如何なる事態への対応を考えておかなければならない。クリントンもまたしかり。就任してからでは遅いのだ。



著者プロフィール

飯柴智亮(いいしば・ともあき)    
1973年東京都生まれ。元アメリカ陸軍大尉、軍『事コンサルタント。16歳で渡豪、米軍に入隊するため19歳で渡米。北ミシガン州立大に入学し、士官候補生コースの訓練を修了。1999年に永住権を得て米陸軍入隊。2002年よりアフガニスタンにおける「不朽の自由作戦」に参加。2003年、米国市民権を取得して2004年に少尉に任官。06年中尉、08年大尉に昇進。S2 情報担当将校として活躍。日米合同演習では連絡将校として自衛隊と折衝にあたる。2009年年除隊。2011年アラバマ州トロイ大学より国際政治学・国家安全保障分野の修士号を取得。 (本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)






<関連サイト>

トランプの大統領就任とNATOの運命 (熊谷 徹、日経ビジネスオンライン、 2016年12月8日)
・・トランプ次期大統領の影響が及ぶのは日本だけではない。欧州もまた

(2016年12月8日 項目新設)



<ブログ内関連記事>

書評 『仮面の日米同盟-米外交機密文書が明らかにする真実-』(春名幹男、文春新書、2015)-地政学にもとづいた米国の外交軍事戦略はペリー提督の黒船以来一貫している・・「
この本のメッセージは一言で要約してしまえば以下のようになる。 ●「米軍は日本本土防衛のため駐留せず」

書評 『「普天間」交渉秘録』(守屋武昌、新潮文庫、2012 単行本初版 2010)-政治家たちのエゴに翻弄され、もてあそばれる国家的イシューの真相を当事者が語る

書評 『日米同盟 v.s. 中国・北朝鮮-アーミテージ・ナイ緊急提言-』(リチャード・アーミテージ / ジョゼフ・ナイ / 春原 剛、文春新書、2010)
・・沖縄本島に米軍将兵が多数駐留していることじたいが抑止力になるのだが

書評 『海洋国家日本の構想』(高坂正堯、中公クラシックス、2008)-国家ビジョンが不透明ないまこそ読むべき「現実主義者」による日本外交論
・・「時代の制約があるのは当然としても、本質においてはまったく古びていないことだ。たとえば日米安保条約について、現在の迷走する状況をあたかも予言しているかのような記述を目にしたとき、その透徹した「現実主義者」のまなざしには思わず恐れ入った。」

『日本がアメリカを赦す日』(岸田秀、文春文庫、2004)-「原爆についての謝罪」があれば、お互いに誤解に充ち満ちたねじれた日米関係のとげの多くは解消するか?
・・「アメリカの「黒船」による強いられた「開国」から始まった「近代日本」、アメリカの「子分」でありながら「親分」に刃向かったために徹底的に叩きつぶされた「近代日本」。原爆を投下されて無条件降伏させられた日本近現代史」

書評 『中国4.0-暴発する中華帝国-』(エドワード・ルトワック、奥山真司訳、文春新書、2016)-中国は「リーマンショック」後の2009年に「3つの間違い」を犯した

書評 『新・台湾の主張』(李登輝、PHP新書、2015)-台湾と日本は運命共同体である!
・・「台湾の価値は空母20隻に該当する」とマッカーサーが言ったとされるが、その間点からいっても日本と台湾の運命は一心同体だ

ノラネコに学ぶ「テリトリー感覚」-自分のシマは自分で守れ!
・・ノラネコですら!!



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2016年11月26日土曜日

キューバの「カストロ議長」死去(2016年11月25日)-「反米主義」のカリスマであったフィデル・カストロ

(「キューバ革命」におけるチェ・ゲバラ28歳(左)とカストロ33歳(右) wikipediaより)

キューバの「カストロ議長」が亡くなった。2016年11月25日のことだ。享年90歳。

ここで「カストロ議長」と書いた。ほんとうは「元議長」と書くべきなのだが、どうしても「カストロ議長」といいたい。現在は実弟のラウル氏が議長を務めているが、「カストロ議長」といえばフィデル・カストロ(1926~2016)のイメージがあまりにも強い

ついにというか、まだ健在だったのかというい感想を抱きつつ約四半世紀。冷戦崩壊によってソ連という後ろ盾を失いながらも、たくみに操縦しながらキューバをサバイバルさせてきたのは、ひとえにカリスマといってもよい「カストロ議長」の存在そのものがなせるわざであったといってよいだろう。

超大国アメリカの裏庭にありながら、向こうを張ってきた小さな島国の小国キューバ。1959年、フィデル・カストロはチェ・ゲバラとともに「キューバ革命」を成功させたことは、20世紀の事件として特筆に値するものと言えよう。なぜなら、北米が南米を経済的に支配する体制のなかで、「反米主義」の旗印の下に中南米が存在感を示すことができたのはキューバという存在があったからだ。

もちろん、「キューバ革命」によって難民となって米国に脱出したキューバ人は数十万人単位にのぼっている。とくに地理的に近い対岸のフロリダ州にはそういった亡命キューバ人コミュニティが存在し、半世紀の後の現在ではキューバ系移民は経済的にも政治的にもアメリカ国内で存在感を示すようになっている。歌手のグロリア・エステファンもまた亡命キューバ人の家に生まれた人である。

そういった亡命キューバ人からみれば、カストロ議長は不倶戴天の敵であろうが、カリブ海から遠い日本列島の住民にとっては、アルゼンチン出身の盟友チェ・ゲバラとともに革命を戦い抜いたヒーローとしての印象が強いのは当然といえば当然といえよう。キューバ革命を最終目的としないゲバラとは、結局たもとをわかつことになったのであるが。

日本はアメリカの同盟国であるから、冷戦期においてはキューバとは反対側の陣営にいた。ソ連圏のキューバは、ある意味ではソ連の別働隊として米ソ代理戦争の一翼を担ったことも歴史の汚点として記憶されるべきことだ。

ケネディ大統領時代の「人類危機の13日間」といわれた「キューバ・ミサイル危機」が平和裏に回避されたのちも、キューバはソ連の忠実な同盟国として、東ドイツとともに大きな意味合いを持ち続けたのであった。

とはいえ、ソ連は崩壊し「島国キューバ」は、劇的に転換する。反共の牙城であったバチカンと和解し、昨年2015年には宿敵のアメリカと国交回復する至った。この変わり身の早さは島国ならではのものである。

和解が成立する前から、「野球王国のキューバ」からはアメリカの大リーグにも、日本のプロ野球にも選手を供給、スポーツをつうじてキューバは親しみのある存在になっていた。若き日のカストロ議長自身がバッターボックスに立っている写真は有名である。

もちろんサルサなど音楽もそのなかに含めていいだろう。医療費が無料で、国家が医師を無料で教育していることも、大きく評価されてきた(・・ちなみに、ドラマ「ドクターX」の主人公・大門美知子はキューバの医科大学に学んだという設定になっている)。

「反米主義」のカリスマであったカストロ議長。毀誉褒貶あいなかばする存在であるが、20世紀を代表する人物の一人だったことは間違いない。まさに巨星落つ、というべきなのである。

さて、国民の支えとなっていたカリスマ喪失後のキューバはどうサバイバルしていくのか。キューバの良い点がそのまま残ることを祈りたいが、はたしてそれは可能かどうか・・・。

ご冥福を祈ります。合掌。


PS 個人崇拝を拒否したフィデル・カストロ

カストロ前議長の銅像建立禁止 遺言尊重、ラウル氏表明(朝日新聞、2016年12月4日)によれば、フィデル・カストロ氏の遺体は保存されずに埋葬され、銅像も建たない、という。なぜなら個人崇拝をさせないためだ。これは故人の遺言に基づくものだという。

社会主義国では、「革命」のリーダーで建国の父は、巨大な霊廟に遺体として保存され安置されるのが一般的である。レーニンしかり、毛沢東しかり、ホー・チミンしかり。キューバでも、カストロとともに戦ったチェ・ゲバラは讃えられているが、カストロはそれは望まないのだ、という。

そんなところに、フィデル・カストロという人の個性と人柄を感じるのである。

(2016年12月4日 記す)






<関連サイト>

米国に抗い続けた革命家の「イチ」(Facta、2017年1月号)

(2016年12月30日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

「島国」の人間は「大陸」が嫌いだ!-「島国根性」には正負の両面があり、英国に学ぶべきものは多々ある

「JFK-その生涯と遺産」展(国立公文書館)に行ってきた(2015年3月25日)-すでに「歴史」となった「熱い時代」を機密解除された公文書などでたどる
・・「展示の中心となるのは「人類危機の13日間」となったキューバ危機である。革命キューバの後見人であったソ連との核戦争の危機がかろうじて回避されたのが、1962年10月14日から28日までの行き詰まるような13日間であった。ケビン・コスナー主演で『13デイズ』として映画化されている。」

書評 『バチカン近現代史-ローマ教皇たちの「近代」との格闘-』(松本佐保、中公新書、2013)-「近代」がすでに終わっている現在、あらためてバチカン生き残りの意味を考える
・・冷戦時代、バチカンは、無神論で唯物論の立場に立つソ連を不倶戴天の敵と見なし、反カトリック的傾向の強い米国とあえて協力関係を結んでいた。




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2016年11月24日木曜日

「54年ぶりの11月の初雪」(2016年11月24日)-54年前は1962年(昭和37年)

(東京湾岸の千葉県船橋市にて筆者撮影)
   
本日(2016年11月24日)に初雪だ。東京都心だけでなく、東京都心への通勤圏である東京湾岸の船橋でも初雪だ。

すでに数日前から雪が予測されており、前日には雪の情報でもちきりであったが、じっさいに雪が降るのをこの目でみるまでは安心(?)できないものだ。天気予報では真夜中から降るとはいっていたが、早朝5時に起床した時点ではまだ降っていなかった。

降り出したのは、明け方になって気温が下がってからだった。11月に初雪とは!

「54年ぶり」という表現に反応してしまうのは、東京で前回の「11月の初雪」のあった1962年は、わたしが生まれた年でもあるからだ。今年2016年で、わたしは54歳になるということだ(・・誕生日は来月12月の6日なので、現時点では53歳)。

しかも、積雪となると、明治8年(1875年)に観測が始まって以来らしい。ということは、141年ぶりということではなく、もしかするとまったくの初めてのことになるのかもしれない。すくなくとも現在に至るまで観測データがないからだ。

以上、雪じたいは東京であっても、南関東全体であっても初雪であることには変わりない。

「54年ぶりの11月の初雪」、「観測史上はじめての11月の積雪」。54年前と同様、ことしの冬は寒いのかもしれない。とすると、地球温暖化で冬が寒くなくなったという言説には疑問を感じなくはない。
  
はたして真相はどうなのだろうか? これは、じっさいに12月、1月と体験してみるまではわからないことだ。


(追記)

翌日(2016年11月25日)の昼の情報番組「ひるおび!」(TBS)では、さっそくこの「54年ぶりの11月の初雪」について取り上げていた。

54年前は、先にも書いたとおり1962年(昭和37年)。わたしの生まれ年だが、この年に生まれた人だけでなく、当時の首相(=池田勇人)や当時の世相、流行歌などを知ると、じっさいはものごころついていなかったので直接は体験しているわけではないものの、なんだか懐かしい思いをした。

(TBSの「ひるおび!」で使用されていたパネル)

そして「初雪」以外にも意外な共通点があることも知った。初雪のあとは豪雪だったのだという。そういえば、子どもの頃に東京に移住してきたのだが、子どもの頃は東京でも大雪が降ったという記憶がある。

そして1962年(昭和37年)は「東京オリンピック」開催の2年前。ことし2016年(平成28年)は「東京オリンピック」」の4年前。これもなにかの符合かもしれない。


<ブログ内関連記事>

10月も終わりに近づいているのに朝顔が咲いている-秋なんだか夏なんだか・・・(2016年10月26日)

4年に一度の「オリンピック・イヤー」に雪が降る-76年前のこの日クーデターは鎮圧された(2012年2月29日)

78年前の本日、東京は雪だった。そしてその雪はよごれていた-「二・二六事件」から78年(2014年2月26日)

「東京オリンピック」(2020年)が、56年前の「東京オリンピック」(1964年)と根本的に異なること

子どもの歌 「こんめえ馬」は「戦後民主主義」が生んだきわめて良質な遺産
・・「1962年 岩波新書「日本の子どもの歌」にて代表作となる「こんめえ馬」(作詩:柳沢竜郎)を発表」

(2016年12月1日 情報追加)




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2016年11月9日水曜日

米国大統領選でドナルド・トランプ氏が劇的な逆転勝利(2016年11月9日)-米国はきょうこの日、ついに「ルビコン」を渡った

(NHKの報道番組より 勝利宣言するトランプ氏)

「ありえないこと」が起こる時代だ。いや、「ありえないこと」が何度もつづけて起こる一年だというべきだろうか。

英国が国民投票で、ありえないはずのEU離脱を選択したのはことし2016年の6月24日のことだった。そして、米国で、ありえないはずのトランプ大統領が誕生することになったのは、本日(2016年11月9日)のことだ。接戦の末の、まさかの逆転勝利であった。

全米の選挙人の獲得数は、ヒラリー・クリントン氏が218であるのに対し、ドナルド・トランプ氏は276と、過半数を超えての勝利である。米国の選挙制度では、国民投票と州ごとの選挙人獲得という二段構えなっているので、単純に総得票数だけで勝敗が決まるわけではない。州ごとに割り当てられた選挙人で勝敗が決まるのだが、州単位での勝利によってその州の選挙人が「総取り」できるという制度になっているのだ。だが、基本的に国民投票だといって差し支えない。

ことし2016年の2月、ある出版社の編集者との雑談で、大統領候補に名乗り出たドナルド・トランプのことが話題になったことがあった。編集者は「専門家はありえないと言っている」と語ったのに対し、私は「専門家は想定外の事象にかんしては、おうおうにして間違えるものだ。可能性がゼロとはいえない。なぜなら、浮き沈みは激しいがトランプ氏の知名度はすくなくとも米国では抜群だからだ」と答えたのであった。

そう答えたわたしでさえ、最終的にトランプ氏は勝てないだろうと踏んでいた最後の最後でアメリカの有権者は、さすがに良識的でバランスのとれた判断を下すだろうと推察していたからだ。

だが、アメリカの有権者は、トランプ氏を選んだこれは「民意」である。たとえポピュリズム(=大衆迎合政治)と誹謗されようが、それが「民意」であることに違いはない。それほどポリティカル・コレクトネスや、ヒラリー・クリントン氏が体現していた、平気でウソをつくワシントンの政治エリートやエスタブリッシュメントに、多くの有権者はウンザリしていたのだろう。

現時点では、投票行動そのものの詳細はわからないが、民主党のオバマ政権の8年にアメリカの有権者が NO をつきつけたことは間違いない。共和党と民主党という二大政党以外の「第3党」に投票した有権者も少なくなかったようだ。アメリカの有権者は、国際関係よりも国内問題としてトランプ氏を選択したのであろうが、それにしても日本国民としては複雑な気持ちをもつのも不思議ではない。

今回の米国大統領選のトランプ氏の「ありえない」劇的な逆転勝利、アメリカの有権者の過半数以上はトランプ氏に「賽を投げ」、トランプ氏とともに「ルビコンを渡って」しまったのだ。

 「賽(さい)は投げられた」というのは、古代の共和制ローマの軍人政治家カエサルの名言である。 「ルビコンを渡った」というフレーズも、同じくカエサルのものだ。意を決して、あらたなステージに踏み込んだときの決意を語ったものだ。

本日この日をもって、アメリカも世界も「ポイント・オブ・ノーリターン」を超えてしまったのだ。はたして、今後アメリカはどうなるのか、世界情勢はどうなるのか、いやアメリカの影響をもろにかぶる日本はどうなるのか・・・・?

 「ありえない」とはいえ、起きてしまったことは起きてしまったのだ。事実は事実であり、選挙結果がひっくり返ることこそ「ありえない」以上、選挙結果に過度の落胆や過剰な期待も抱かず、「事実」を「事実」として受け取ることが必要だ。

16年前に共和党のジョージ・ブッシュ氏が、最有力候補の民主党のアル・ゴア氏に競り勝った際のように、選挙不正が介在する余地のないほどの勝利である。トランプ氏が勝利宣言をする前に、ヒラリー・クリントン氏から敗北を認める電話が入ったことを披露していた。

「事実」を冷静に受け止めること、これがまず第一にしなくてはならない課題ではないか? 正直いって「まさか」の結果であったことは否定しないが、確率的にはゼロではなかったのであるから。

衰えつつあるとはいえ、いまだ超大国のアメリカである。その影響範囲は想像以上に広く大きい。もちろん、同盟関係にある日本は言うまでもない。ダイレクトに影響を被ることになる。しかしながら、日本国民にはアメリカ大統領選の投票権はない。だから、コントロール不能要因で撹乱されることになるのが、日本国民に不安感を引き起こすのだ。

とはいえ、2017年1月の就任までまだ2ヶ月の猶予時間があるし、就任してから3か月は一般にハネムーン期間であり、さすがにめちゃくちゃなことはしないだろうという期待もないわけではない。

過去の大統領も、例えばビル・クリントン大統領も就任後はリベラル色の強すぎる政策を打ち出して物議を醸したが、大統領職に慣れる従って「学習」していった。トランプ氏も、もともとアタマのいい人間であるから、「学習」能力も十分にある。最初は、ある種の試行錯誤は避けられないだろうが、ある程度まで進めば常識的な線に落ち着いてゆく可能性もなきにしもあらず。

もちろん、トランプ氏に投票した有権者は、そう簡単にワシントンの色に染まってもらいたくはないだろう。でなければ、オバマ大統領とは違う意味の「チェンジ」を求めてトランプ氏に投票した意味がない。トランプ氏が公約を実行するか「監視」が行われることになる。政治は妥協であるから、すべての公約が実行されることはない。しかも、自分の関心のない事項にかんしては、丸投げしてしまうのではないか?

いずれにせよ、アメリカ国民によって「賽は投げられた」のである。アメリカは「ルビコンを渡った」のである。「ポイント・オブ・ノーリターン」を超えたのである。2016年に明確になったあらたな潮流は、今回の大統領選の結果で確かな流れとして確認されることとなった。それはアメリカだけでなく、英国も含めた世界的な潮流である。潮目が変わったのである。

日本国民であるわれわれも、この「事実」を出発点に、「現実的」に行動をしていくことが求められるのである。

まずは落ち着いて、冷静に分析することから始めなくてはならない。トランプ氏は、日本でもすでに有名人なのであるから、次期大統領の虚像と実像を見極めることが課題となろう。わたしも含めて、ほとんどの人はトランプ氏の実像については知らないのである。イメージだけで議論をすることは、もうやめにするべきだ。







<関連サイト>

米大統領選 トランプ氏が勝利 「驚くべき番狂わせ」 (NHK, 2016年11月9日 17時34分)

なぜ「女性蔑視発言」をしてもトランプは支持されるのか (横江公美、プレジデント ウーマン、2016年5月号)

金、酒、女……ビジネスマン・トランプの素顔 (投資銀行家 山口正洋、プレジデント、)
・・トランプ氏はまったく飲まない。三度目の結婚であり二回の離婚経験があるが不倫の形跡はない。緻密なビジネスマン。

「トランプ氏はスシを食べず酒も飲まない」次期大統領の素顔知るヒロ・ニシダ氏の証言 (日経ビジネスオンライン、2016年11月16日)
「・・トランプ氏は、なにしろ仕事好きで、努力家で、すごく真面目で、いつも没頭していました。とにかく、マーケティング能力が非常に高い。どうやって、周囲の人とコミュニケーションを深め、引きつけるか。その能力にたけていると思います。ビジネスの交渉を通して感じたことは、トランプ氏は、過去のしきたりなど一切気にしないということです。アンフェアなことには、はっきりとノーと言う。逆に言えば、フェアで、お互いにウィン-ウィンの関係を築けるのなら、ドラスティックな変化を厭わない。」

貴族だったトランプがアジテーターに転向した理由 (町山智浩、ウェッジ、2016年11月10日)

今さらだけど、なぜトランプが勝利したか、しっかり検証していく(冷泉彰彦、Mag2News、2016年11月11日)。

Exit America’s Old Elite Insiders will be swept away unless they submit or change their games. (BloombergBusinessWeek, November 10, 2016)
・・Not since Andrew Jackson in 1828 has there been a president-elect who harnessed the public’s anger toward the Establishment the way Donald Trump has.(=エリートに対する大衆の怒りを結集したドナルド・トランプ大統領当選者は、1828年のアンドリュー・ジャクソン以来いない)。いわゆる「ジャクソニアン・デモクラシー」を振り返る必要があろう

日本人が知らない「トランプ支持者」の正体 米国人が「実業家大統領」に希望を託した理由 (脇坂 あゆみ :翻訳家、東洋経済オンライン、2016年11月11日)
・・「トランプがこだわるのは性別や人種、宗教ではなく、個人の能力と勝負への執念であり、『アプレンティス』ではむしろ性別、学歴といった一般常識にもあえて切り込み、最高の人材を発掘するという設定だった。」 起業家のピーター・ティールがトランプに巨額献金した理由もそこになるのか?

トランプが成し遂げた米国版ブレグジット 国民心理も選挙の展開も瓜二つ、相違点は波紋の大きさ (Financial Times、2016年11月15日)
・・意外なことに(?)英米は歩調を合わせて、あらたな潮流の先頭に立つことになった

「トランプ氏は真実を語っていた」 フランスの人類学者の分析とは(ハフィントンポスト、2016年11月17日)
・・「歴史家として見るなら、起きたのは当然のことです。ここ15年間、米国人の生活水準が下がり、白人の45歳から54歳の層の死亡率が上がりました。で、白人は有権者の4分の3です。 自由貿易と移民が、世界中の働き手を競争に放り込み、不平等と停滞をもたらした、と人々は理解し、その二つを問題にする候補を選んだ。有権者は理にかなったふるまいをしたのです。 奇妙なのはみんなが驚いていること。本当の疑問は「上流階級やメディア、大学人には、なぜ現実が見えていなかったのか」です。(エマニュエル・トッド)

「トランプ王国」を行く(朝日新聞)
・・ニューヨーク駐在記者による全米取材記録

A Message from President-Elect Donald J. Trump (YouTube、2016年11月21日)
・・大統領就任後の「100日プラン」についてトランプ次期大統領本人がベデオメッセージで表明。70歳だが新時代のツールをよく追加こなしている

(2016年11月11日・15日・17日・28日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

不動産王ドナルド・トランプがついに共和党の大統領候補に指名(2016年7月21日)-75分間の「指名受諾演説」をリアルタイムで視聴して思ったこと

veni vidi vici -ユーリウス・カエサル(Julius Caesar)

起業家が政治家になる、ということ

書評 『国力とは何か-経済ナショナリズムの理論と政策-』(中野剛史、講談社現代新書、2011)-理路整然と「経済ナショナリズム」と「国家資本主義」の違いを説いた経済思想書


1989年のベルリンの壁崩壊も11月9日

ベルリンの壁崩壊から20年-ドイツにとってこの20年は何であったのか?(2009年11月9日)


マインドセットのあり方

「希望的観測」-「希望」 より 「勇気」 が重要な理由
・・「希望的観測」(wishful thinking)とは、「そうあってほしい」とか「そうだったらいいな」という「希望」に基づいて判断を行うこと。ヒラリー・クリントン勝利の観測が強かったのは「願望」の投影。まさに「希望的観測」の最たるものであったことを戒めとしなくてはならない

「是々非々」(ぜぜひひ)という態度は是(ぜ)か非(ひ)か?-「それとこれとは別問題だ」という冷静な態度をもつ「勇気」が必要だ
・・「「是々非々というのは正しい大人の態度ではない。選挙であれば政策単位で投票するのではなく、一人の候補者に投票するのだから「是々非々」なんてありえないのだ」、と主張する人もいる。「一人の候補者に投票する」というのはただしい。だが、「政策単位で投票」行動を考えるべきである。属人的な意思決定ではなく、あくまでも「期待される成果」を選択基準とするべきではないか?」


■アメリカの政治と社会

書評 『追跡・アメリカの思想家たち』(会田弘継、新潮選書、2008)-アメリカの知られざる「政治思想家」たち
・・米国の政治思想地図が参考になる

書評 『反知性主義-アメリカが生んだ「熱病」の正体-』(森本あんり、新潮選書、2015)-アメリカを健全たらしめている精神の根幹に「反知性主義」がある
・・米国の「反知性主義」は「知性」そのものへのアンチではなく、「知性」が「権力」と結びつくことへの異議申し立てであることに注意!

米国は「熱気」の支配する国か?-「熱気」にかんして一読者の質問をきっかえに考えてみる
・・「オバマケア」をめぐる論争について2009年に考えたこと

映画 『アメリカン・スナイパー』(アメリカ、2014年)を見てきた-「遠い国」で行われた「つい最近の過去」の戦争にアメリカの「いま」を見る

アンクル・サムはニューヨーク州トロイの人であった-トロイよいとこ一度はおいで!・・「アンクル・サム伝説が生まれたのは、1812年の米英戦争(・・第二独立戦争ともいう)がキッカケ」

映画 『正義のゆくえ-I.C.E.特別捜査官-』(アメリカ、2009年)を見てきた
・・不法移民関連の内容

書評 『沈まぬアメリカ-拡散するソフト・パワーとその真価-』(渡辺靖、新潮社、2015)-アメリカの「ソフトパワー」は世界に拡散して浸透、そしてアメリカに逆流する
・・トランプの主張は、アメリカ全体を「ゲーテッド・シティ」に変えるという発想か?


日米関係

日米関係がいまでは考えられないほど熱い愛憎関係にあった頃・・・(続編)-『マンガ 日本経済入門』の英語版 JAPAN INC.が米国でも出版されていた
・・レーガン大統領時代の日米関係

「フォーリン・アフェアーズ・アンソロジー vol.32 フォーリン・アフェアーズで日本を考える-制度改革か、それとも日本システムからの退出か 1986-2010」(2010年9月)を読んで、この25年間の日米関係について考えてみる

『愛と暴力の戦後とその後』 (赤坂真理、講談社現代新書、2014)を読んで、歴史の「断絶」と「連続」について考えてみる

(2016年11月19日・23日 情報追加)


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2016年11月5日土曜日

最後の水戸藩主・徳川昭武の屋敷であった戸定邸(とじょうてい)をはじめて訪問(2016年11月4日)ー「維新の負け組」は後世に向けて文化遺産を残す

(戸定邸内部にて 徳川慶喜(トクガワ・ケイキ)から昭武への電信 筆者撮影)

最後の水戸藩主・徳川昭武の屋敷であった戸定邸(とじょうてい)をはじめて訪問してきた(2016年11月4日)。戸定邸は、千葉県松戸市にある。松戸は、江戸から水戸への街道筋にあり、しかも江戸川の舟運もある交通の要所であった。

いまからちょうど2年前のことになるが、千葉大学園芸学部を訪れた際、キャンパス内にある西欧式庭園を見学しながらも、敷地のすぐ近隣にある戸定邸については、その重要な意味を知らないために訪問しないで通り過ぎてしまった。
  
それからしばらくして、戸定邸のことが気にかかっていたので調べてみると、それは最後の水戸藩主・徳川昭武の屋敷であったことを知り、たいへん残念なことをしてしてしまったと思いながら現在に至っていたのだ。

というのも、徳川昭武は最期の将軍・徳川慶喜の実弟であるだけでなく、幕末に慶喜の名代(みょうだい)としてパリ万国博覧会が開催されていた当時のフランスを訪問し、そのままフランス留学を続けていた人であったが、その昭武に会計担当として随行したのが、のちの「日本資本主義の父」となった渋沢栄一であることを鹿島茂氏の著書を通じて知ったからだ。

その意味では、徳川昭武もまた渋沢栄一周辺の人物の一人であったのだ。じつに迂闊なことであった。


だから、その事実を知ったとき「しまった!」と思ったが後の祭り、松戸を訪問する機会がなかなかなかったので、現在まで至ってしまったというわけなのだ。


■純和風の「戸定邸」と洋風の庭園という組み合わせの妙

さて、戸定邸は今回はじめて訪問したわけだが、訪問してみてじつにすばらしいところだとわかった。現在は千葉県松戸市が管理しているが、もともとは個人の邸宅である。

だが、ナポレオン三世の第二帝政時代という、フランスの絶頂期をパリで過ごしたフランス帰りにしては、あらたに建築した屋敷を洋館ではなく純和風住宅にしたということが興味深い。中庭は純和風である。

(戸定邸の中庭 筆者撮影)

だが、江戸川と富士山を望む庭園には芝生が敷き詰められており、和風建築でありながら洋風庭園という趣向が、変わっているといえば変わっているといえようか。異質の組み合わせだが、コントラストというよりも、不思議に違和感がない。しっくり溶け合っている。

(富士山を望む、芝生が敷き詰められた洋風庭園 筆者撮影)

ちょうどいまの季節は菊の花の盛り、丹精込めて栽培されている鉢植えの白菊がじつに美しい。これらが芝生に映えて、和風と洋風の折衷美ともいうべき風情を醸し出している。

(丹精込めて育てられた鉢植えの白菊の花 筆者撮影)

最期の将軍・徳川慶喜は将軍職を退いたのち30歳で隠居、弟の昭武も29歳で隠居している。いずれも、じつに長い、長い「晩年」を過ごした人たちだが、その長い「晩年」を意味あるものとして生きたということは、高齢化時代の日本人にとっても示唆するものが多々あるのではないかと思うのである。

(屋敷内部から庭園を見る 筆者撮影)

もちろん、最終的には生前に名誉回復し侯爵となった徳川慶喜も、その弟の昭武もその次男・武定が子爵となっており、一般庶民とはほど遠い存在ではあることは考慮に入れなくてはならないだろう。


「維新の負け組」となった慶喜と昭武だが・・・

併設の戸定歴史館では、ちょうど「企画展 公爵・徳川慶喜家」が開催されていたが、大英帝国がバックについた薩長に対して、フランスがバックについた徳川幕府であったが、岩倉具視らによる「王政復古クーデター」の結果、「大政奉還」を行い、戊辰戦争では敗れ去って「負け組」となってしまったのは、まことにもって残念なことであったとしかいいようがない。

(戸定歴史館にて「企画展 公爵・徳川慶喜家」)

明治維新は1868年であったが、そのわずか2年後の1870年に始まった「普仏戦争」の結果、フランスはビスマルク率いる新興のプロイセン王国に敗れ去って、1871年に第二帝政は終わることとなる。

パリにおいてプロイセン王国を中心としたドイツ帝国の誕生が宣言され、「ドイツ統一」が実現した。その後にパリが陥落、ナポレオン三世はプロイセンの捕虜なって退位した。じつに変転きわまりない。めまぐるしい推移である。ナポレオン三世もまた「負け組」として、その後のわずか一年という短い「晩年」を亡命先の英国で過ごすことになる。

そう考えると、「勝ち組」の薩長が率いる明治維新後の日本が、「勝ち組」の英国とドイツをモデルに近代国家への道を邁進したことは、ある意味では当然のことであったかもしれない。

しかし、その英国とドイツも、「英独建艦競争」を経て1914年に勃発した第一次世界大戦において激突、その結果は共倒れとなり、新興の米国と革命によって誕生したソ連が表舞台に躍り出ることになる。

「盛者必衰」と「禍福はあざなえる縄のごとし」というフレーズが日本語にはあるが、「勝ち組」もまた永久に「勝ち組」にあらず、である。ソ連はすでに崩壊し、米国もまた衰退過程のなかにある。そして中国共産党もまた・・・?

「負け組」もまた、永久に「負け組」なのではない「負け組」は政治経済の第一線から退くことによって文化面での担い手となることもある。その意味では、徳川昭武もまた後世に「戸定邸」という文化遺産を残してくれたことになる。

だからこそ、「負け組」とされた側にもまた、目を向けるべきなのである。人間世界に勝ち負けは必定であるが、その両者を公平にみなければ、真に歴史を理解したことにはならないからだ。






<ブログ内関連記事>

千葉大学園芸学部にはイタリア式庭園とフランス式庭園がある-千葉大松戸キャンパスをはじめて訪問(2014年11月9日)
・・西洋式庭園の実学

書評 『渋沢栄一 上下』(鹿島茂、文春文庫、2013 初版単行本 2010)-19世紀フランスというキーワードで "日本資本主義の父" 渋沢栄一を読み解いた評伝
・・渋沢栄一は、徳川慶喜の実弟である徳川昭武のフランス留学に会計として随行し、近代資本主義のなんたるかを明治維新が始まる前に実地で学び取った。当時のフランスではサン=シモン流の産業主義が全盛期を迎えていた。

書評 『岩倉具視-言葉の皮を剝きながら-』(永井路子、文藝春秋、2008)-政治というものの本質、政治的人間の本質を描き尽くした「一級の書」
・・明治維新「革命」は結局のところクーデターで勝敗が決した。ロシア「革命」もまた同様にレーニンによるクーデターで

幕末の日本で活躍した英国の外交官アーネスト・サトウは日本人?-きょうは「佐藤の日」 ② (2016年3月10日)
・・英国は、薩英戦争(1863年)と下関戦争(1863年・64年)の結果、薩長の側につくことを決意

「日米親善ベース歴史ツアー」に参加して米海軍横須賀基地内を見学してきた(2014年6月21日)-旧帝国海軍の「近代化遺産」と「日本におけるアメリカ」をさぐる
・・横須賀基地にあるドライドックは、幕末からフランスの技術援助で建設された。五稜郭もまたフランスの軍事援助であったことは記憶に入れておくべき

いまこそ読まれるべき 『「敗者」の精神史』(山口昌男、岩波書店、1995)-文化人類学者・山口昌男氏の死を悼む

「敗者」としての会津と日本-『流星雨』(津村節子、文春文庫、1993)を読んで会津の歴史を追体験する


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