(明治大学博物館所蔵の「ギロチン」)
「明治大学博物館」(東京・お茶の水)にはじめて行ってきた。人間というものは、いつでも行けると思うと、いつか行けばいいさと思って、かえって行かないで過ごしてしまうものだ。自分にとっての「明治大学博物館」とはそういう存在のひとつであった。
今回、思い切って行ってみることにしたのは、「ギロチン」の実物を確認したかったからだ。ギロチンとは、手動で操作する処刑器具である。「フランス革命」で大活躍(?)したことで有名だ。ギロチンはこの大学博物館の目玉展示である。
明治大学博物館に「ギロチン」の現物があることは、けっこう有名かもしれない。旧刑事博物館が明治大学大学博物館として新装オープンする際に、さまざまな形で告知されていたからだ。調べてみると、博物館の開館は2004年、すでに13年前のことになる。ようやく長年の懸案事項を解決できたことになる。
明治大学に「ギロチン」の現物があるのは、説明書きによれば、1931年(昭和6年)に「明治大学創立50周年刑事展覧会」のために日本国内で組み立てられたものだという。だから、これはギロチンの本場であるフランス製ではなく、したがってじっさいに処刑に使用されたものではない。それでも、実物として日本で目にすることができるのはすごい。
■ギロチンの思想的背景は「フランス革命」の「平等思想」
21世紀の「現在」からみれば、ギロチンによる斬首は残酷な印象がつきまとうが、当時は一瞬のうちに行われるので苦痛が少ないはずだと見なされたのである。
18 世紀後半当時主流であった車裂きや斧による斬首とは違って、ギロチンには個人レベルの 技量の差による不確実性がなく、しかも身分差や貧富の差に関係なく「平等」に(!)実行で きるからだ。「人権宣言」(1789年)にもとづいた思想が背景にあるのだ。
たしかに、国王ルイ16 世や王妃マリー・アントワネットも、革命の中心人物ダントンも、恐怖政治を主導したロベスピエールもまた、多数の「平民」と同じく断頭台の露と消えた。革命の理念の一つである「平等」が貫徹されたわけだ。「自由・平等・友愛」が、「フランス革命」のスローガンであったが、フランスでは「平等」が強調されたのだろう。「自由」が強調される英国や米国との違いかもしれない。
(ギロチンの足元)
発明者のジョゼフ・ギヨタン博士は、「近代市民法」と「罪刑法定主義」の立場から、身分といった属 性ではなく、犯罪の種類によって刑罰が同等に下されるべきだ、という考えの持ち主であった。 まさに「近代」を体現したかのような思想である。ギロチンはフランス語でギヨティーヌ(guillotine)という。ギヨタン(Guillotin)から命名されたものだ。
ギロチンは、プロトタイプが完成してから改良につぐ改良が加えられた結果、フランスでは 革命中の1792年の採用から、なんと死刑廃止となる1981年まで200年間にわたって 使用されたらしい。
死刑制度に反対するEUであるが、その中核を構成するフランスでも、なんと36年前まで死刑は執行されていたのだ。
■「鉄の処女」は西欧中世の処刑道具
ギロチンのとなりに展示されているが「鉄の処女」である。ドイツ語では「アイゼルネ・ユングフラウ」(die Eiserne Jungfrau)、英語では「アイアン・メイデン」(Iron Maiden)という。日本語の「鉄の処女」はこれらの直訳である。
(「鉄の処女」 筆者撮影)
罪人をそのなかに入れて扉を閉めることが拷問となる仕組みである。扉の内側には多数の棘があり、罪人がなかで動くと釘が肉体に突き刺さって苦痛が与えられることになる。
だが、じっさいに拷問に使用されたのかどうかは不明なようだ。明治大学博物館の「鉄の処女」もまた、複製である。
(江戸時代の磔(はりつけ))
このほか、日本の江戸時代の刑罰、刑事関連の資料が豊富に展示されていて興味深い。実質的
に戸籍の枠割りを果たしていた「宗門改帳」の現物なども展示されている。
(「宗門改帳」の現物 筆者撮影)
明治大学は、そもそも1881年に「明治法律学校」として出発した。フランス法が中心に講義されていたのだという。ギロチンがあるのも、その関連なのだろうか。どの大学も、それぞれ特色があり、明治大学の場合は、法学が中心に発展した経緯が博物館の展示内容にもおおきく反映しているわけだ。
なにごとであれ、「現場・現実・現物」の「三現主義」でいくべきだからこそ、せっかくギロチンの現物が日本国内にあるのだから、一度は自分の目で見ておくべきだろう。「明治大学博物館」は、土日祝日も開館されており、しかも無料だ。
ただし、ギロチンは手で触れることはできない。そもそも刃物だから危ないしね。
<関連サイト>
「明治大学博物館」公式サイト
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