昨日(2017年12月17日)のことだが、映画 「否定と肯定」 (2016年、英国)を見てきた。ホロコースト研究の歴史学者と「ホロコースト否定論者」との法廷対決を描いたドラマだ。歴史学徒のはしくれの私としては、見ないわけにはいかないという気にさせられたから見てきた。
米国の大学で教鞭をとるユダヤ系の女性歴史学者デボラ・リプスタット(・・字幕ではリプシュタットとなっているが、アメリカ人なので英語の発音リプスタットが正しい)が、「ホロコースト否定論者」である英国の在野の歴史研究者アーヴィングに名誉毀損で告訴された。アーヴィングは、リプスタットの著書で批判されたことを根に持っていたのだ。
英国人の「歴史捏造者」アーヴィングは、歴史家リプスタットとその著書を出版した出版社ペンギン・ブックスを名誉毀損で訴えるが、原告側に立証責任のない英国での裁判を選択する。英米法としてひとくくりにされがだが、英国と米国では相違点があるのだ。
米国人歴史家は訴訟に対して受けて立つことにする。ダイアナ妃の離婚裁判で勝訴を勝ち取った凄腕の弁護士チームとのタッグを組んで、被告側で「ホロコースト否定論者」の論拠を崩すことを裁判の目的とする。
法廷戦術としては、あえて陪審裁判ではなく判事一人の裁判を選択。きわめて複雑で研究に時間を要する「歴史的事実」がテーマになる以上、陪審制がふさわしくないと判断したためだ。英米法では、法廷弁護士(バリスター)と事務弁護士(ソリシタ-)は分業制である。
しかも、法廷闘争だが、当事者の被告(=リプスタット教授)には一言もしゃべらさない、ホロコーストのサバイバーにも証人として出廷させないという作戦を採用。原告の「歴史捏造者」がつけ込む隙を与えないためだ。はたして、この戦術は吉と出るのか、凶と出るのか?
はたして「歴史」は法廷で裁けるのか? いや、そもそも「歴史」にかんして裁判でシロクロ決着つけるこのの是非は?
そして、いかなる判決が下されることになるのか?
原題は Denial(否定)。ホロコーストの「否定」。実話にもとづいた法廷ドラマである。原作は、リプスタット教授自身が裁判の経緯を書いた『否定と肯定-ホロコーストの真実をめぐる闘い-』(山本やよい訳、ハーパーBOOKS、2017)である。
リプスタット教授を演じるレイチェル・ヴァイスは英国出身の女優。ユダヤ系ハンガリー人の家系で、両親はナチスの迫害を逃れて英国に亡命したという。その意味では、ユダヤ人としての歴史への向き合い方は、彼女自身のものであるのかもしれない。
ロードショー上映には間に合わなかったとしても、DVDあるいはネット配信等で視聴すべき映画だ。
PS 好評のためだろうか、TOHOシネマズの上映期間が12月29日まで延長されたようだ。(2017年12月23日 記す)
<関連サイト>
映画 「否定と肯定」 (2016年、)公式サイト
Deborah Lipstadt
https://en.wikipedia.org/wiki/Deborah_Lipstadt
<ブログ内関連記事>
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(2017年12月21日 情報追加)
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