2021年1月17日日曜日

書評『サピエンス異変-新たな時代「人新世」の衝撃』(ヴァイパー・クリガン=リード、飛鳥新社、2018)-腰痛もちは必読! 人類が生み出してきたた発展が急速すぎて人体の進化が追いついていないのだ

  
同時並行的に何冊も読んでいるので話が前後するのだが、『サピエンス異変-新たな時代「人新世」の衝撃』(ヴァイパー・クリガン=リード、飛鳥新社、2018)という本が面白かった。  

正直いって『サピエンス全史』なんかより、はるかに面白い!

そう言いたいところだが、この本の原題は Primate Change - How the World We Made is Making Us であって「サピエンス」の「サ」の字もでてこない。日本語タイトルは、柳の下のドジョウ狙いいか? Primate というのは「霊長類」のことだ。読者を釣るには最適なタイトルだろう(笑) 

そういう話は別にしても、内容はじつに面白い。

というのは、この本の内容を大胆に要約してしまえば、「人類が生み出してきたた発展が急速すぎて人体の進化が追いついていない」ということになるから。 

言い換えれば、21世紀の人類は「アタマでっかち状態でカラダの進化がおいついていない状態」だ。その状況が症状として端的に表れているのが腰痛。オフィスワークが中心になって、ずっと座り続ける生活が続けているが、これが「腰痛」の最大原因となっているのだ。コロナ下で、状況はさらに悪化しているかもしれない。 


「人新世」(アントロポセン)とは聞き慣れないが、地質学上のあらたな概念で、人間が地球環境に影響を与えるようになった年代をさしている。一般的には「産業革命」以降の時代を指しているようだ。周知のとおり、地球温暖化の最大原因である二酸化炭素(CO2)の排出量が指数関数的に増大したのは、18世紀末から19世紀半ばにかけて英国で始まった産業革命以降のことである。

二足歩行をするようになった霊長類(=プライメート)が進化して人類が誕生し、人類のなかで人間(=ホモサピエンス)が生き残ったわけだが、「農業革命」と「産業革命」、さらには「情報革命」を経て現在に至っている。いずれもホモサピエンスのアタマが作り出してきたものだ。

ホモサピエンスが経験してきた大きな革命ごとに、手足や指、背中や腰に大きな負担がかかるようになっている。 にもかかわらず、アタマが作り出した「文明」に、カラダの「進化」が追いついていないことに起因する症状に苦しめられている現在の私たち。 


座ってばかりいないで、立て!そして歩け! というのが、腰痛持ち(この本の著者もそうだという)にとってのアドバイスだ。 座りっぱなしが寿命を縮めるという話は英語圏では「常識」となっている。日本人も「常識」にしたほうがいい。 

腰痛だけでなく、さまざまな障害がなぜ発生するのか、形質人類学の知見と、19世紀英文学(・・まさに「産業革命」とその後の世界)を駆使して書かれたこの本は、とくに腰痛もちの人にはぜひ一読を薦めたい。私が編集者なら「腰痛もち必読!」というコピーを帯に入れたいところだが(笑) 

英語ならまだしも、日本語にするとつまらないジョークが多いのが困ったことだが(笑)、そこらへんは著者が英国人であることで免じてあげよう。 




目 次

プロローグ 私たちの身体に異変が起きている 
第1部 紀元前800万年~紀元前3万年
  すべては「足」からはじまった
 第1章 ヒトは「移動」で進化した
 第2章 「人新世」以前の身体 
第2部 紀元前3万年~西暦1700年
  「移動」をやめた人類に何が起きたか?
 第3章 人類は「定住」に適応していない?
 第4章 家畜は何を運んできたのか?
 第5章 古代ギリシア・ローマ人の警告 
第3部 西暦1700年~西暦1910年
  身体は経済そのもの
 第6章 腰が痛い!
 第7章 大気汚染
第4部 西暦1910年~現在
  動かなくなった人類に何が起きているのか?
 第8章 身体は現代の食生活に追いついていない 
第5部 未来
  ホモ・サピエンス・イネプトゥス(環境に適合しないホモサピエンス)
 第9章 超人類への扉を開ける「手」
エピローグ


著者プロフィール
ヴァイバー・クリガン=リード(Vybarr Cregan-Reid) 
英ケント大学准教授。専門は環境人文学と19世紀英文学だが、扱うテーマは人類史、古典文学、健康、環境問題まで幅広い。ケント大学の名物教授として学生に絶大な人気をほこり、2015年には同大の「ベスト・ティーチャー賞」を受賞。ガーディアン紙、インディペンデント紙、ワシントン・ポスト紙などに寄稿多数。 人類が生み出した文明の速度に、人類の進化が追いついていない問題を大胆に提起した本書『サピエンス異変』は、2018年秋の刊行と同時にBBCワールドサービスで番組化され(全3回)、フィナンシャル・タイムズ紙の2018年ベストブックに選出されるなど、大きな反響を呼んでいる。(出版社サイトより)


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