2021年4月3日土曜日

映画『スラムドッグ$ミリオネア』(2008年、英国)-この感動の映画の主人公は現代インド社会ではマイノリティのムスリムだ

 

昨年(2020年)の12月のことだが、ようやく『スラムドッグ$ミリオネア』(2008年、英国)を amazon prime video で視聴した。原題は、Slumdog Millionaire とほぼおなじである。

いい映画だということは、昨年4月に亡くなった亡父からも数年前にそう聞かされていたのだが、やはりそうだった。世評の高さに裏切りはなかったということだ。もっと早く視聴して、この映画の話題を父と語っておけばよかったな、という思いもある。

さて、この映画は、たとえありえないように見えるものだとしても、「幸運」というものは世の中に確実に存在するだけでなく、「幸運」はみずから引き寄せなければゲットすることはできないというテーマを、エンタテインメントとして表現したものといっていいだろうか。人生を賭けた大勝負に出るクイズ番組がタイトルの一部になっている。

具体的にいえば、インドを代表する大都市ムンバイのスラム出身の少年少女の物語である。

だが、インド人ではあってもマジョリティのヒンドゥー教徒ではない。マイノリティのイスラム教徒なのである。主人公の名前はジャマール、その親友の名前はサリーム。いずれもイスラム的な名前だ。そのことに気がつく必要がある。

このイスラム教徒という「属性」に注目して視聴すると、異なる印象がもたらされることだろう。

インドというとヒンドゥー教という連想があるが、パキスタンと分離独立したのちも、インドには現在でも1億人超のムスリムが暮らしている。だが総人口が13億人で、まもなく世界一となるインドではマイノリティに過ぎないのだ。

マイノリティであるがゆえの苦難。宗教がらみの、いわゆる「コミュナル暴動」の被害者となった子ども時代の主人公たち。暴動で親が殺され、孤児となってしまった主人公たちの数奇な運命と、生きるために必至な姿。見世物とするため薬品で盲目にさせられた子どもたち、かろうじて脱出した主人公たち。

そしてまたこの映画は、インドを舞台にしているがインド映画ではない。出演者はインド人で、映画ではヒンディー語と映画が使用されているが、英国人のプロデューサーと監督による英国映画である。

英国は植民地経営時代に「分割統治」の観点から、多数派のヒンドゥー教徒を牽制するためにムスリムを重視してきた。それもあって、英国に移民するパキスタン人も少なくない。インド人移民にもムスリムが少なくないだろう。

自動洗濯機のランドリーをテーマにした英国映画『マイ・ビューティフル・ランドレット』も、労働者階級の主人公の親友となったのがパキスタン移民家族のムスリムだった。英国とインド・パキスタンの関係は、あざなえる縄のごとし、じつに深いものがある。

映画『スラムドッグ&ミリオネア』もまた、英国とムスリムの関係についても考えてみるキッカケともなるだろう。なぜ英国人監督がインドを舞台にインド人ムスリムが主人公の映画を製作しているのだから。





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(2023年9月30日 情報追加)


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