2024年12月21日土曜日

書評『ことばの番人』(髙橋秀実、集英社インターナショナル、2024)ー「校正」は「正書法」なき表記法をもつ日本語の宿命である!

 

『ことばの番人』(髙橋秀実、集英社インターナショナル、2024)という本を読んだ。ノンフィクションという形をとった、日本語を考察したエッセイのような読み物だ。

「校正」という行為を深掘りすることで浮かび上がってくる日本語の特性漢字かなまじりで(さらにカナとローマ字その他もろもろ)、しかも「正書法」なき日本語の宿命

わたし自身も、つい先ほどのことだが、来年1月にでる新著の「校正」で致命的になりかねないミスを発見。「どんなに・・」を「そんなに・・」と打ち間違えて入力していたのだ。どえらい違いである。

PCのキーボードの配列で、「D」と「S」が隣り合わせになっているがゆえのケアレスミステーク。それが「二校」まで気がつかなかったとは・・・。げに恐ろしきは「校正」なり。

著者は、出版業界の裏方である「校正者」の仕事に取材をつうじて迫り、ことばと日本語にかんする文献を縦横無尽に引用する。ファミコン世代でプログラムをさわっていた「校正者」の話には、なるほどと膝を打ちたくなる。

読み物として面白いのは当然だが、それだけでなく、本書じたいじつに緻密に「校正」を行なわれている。著者とその配偶者、そして出版社と外部のプロの「校正者」のワザと努力に感嘆すべきだ。

ことしの9月にでた本だが、11月には著者が亡くなっている。享年63歳、あまりにも早い死であるが、本書の「校正」を完璧にこなし、出版にこぎつけることができたので、もって瞑すべしというべきだろう。

デジタル化が進んでも、手書きの原稿がなくなっても、「校正」の仕事は消えそうにない。日本語の宿命ゆえある。

わたし自身にはまったく適性がないが、とはいえ「校正」という仕事は、日本語がある限り、消えてなくなることのない仕事でありつづけるようだ。日本語の宿命を逆手にとるわけだ。狙い目かもね。


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目 次
第1章 はじめに校正ありき
第2章 ただしいことば
第3章 線と面積 
第4章 字を見つめる
第5章 呪文の洗礼
第6章 忘却の彼方へ
第7章 間違える宿命
第8章 悪魔との戯れ
第9章 日本国誤植憲法
第10章 校正される私たち
あとがき 私は三島由紀夫ではありません
参考文献

著者プロフィール
髙橋秀実(たかはし・ひでみね) 
1961年、横浜市生まれ。東京外国語大学モンゴル語学科卒業。テレビ番組制作会社を経てノンフィクション作家に。『ご先祖様はどちら様』で第10回小林秀雄賞、『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』で第23回ミズノ スポーツライター賞優秀賞を受賞。その他の著書多数。本書出版後の2024年11月13日没。


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