最近やたら脳科学の話が多い。養老孟司や茂木健一郎などなど。
養老孟司は、解剖学の立場から"脳化社会"というコンセプトのもと、脳に重点のかかりすぎた現代社会批判している。『バカの壁』(新潮新書、2003)が一躍ベストセラーになった。もともとのアイデアはすべて『唯脳論』(ちくま学芸文庫、1998 原本:青土社、1989)に書かれている。
茂木健一郎は、「クオリア」というコンセプトで、感性の側面に重点をあてた脳研究の第一人者で、TVメディアでの出演も多く、アイドル並の露出度である。
しかし、なかには便乗ものとしか思われないような、"疑似脳科学"本というか、"エセ脳科学"本も氾濫している。流行りといってしまえばそれまでなのだが、大いに眉にツバつけて見る必要がある。具体的な名指しはしないが、読者は気をつけた方がいい。安直なつくりの本が多すぎるのだ。
"脳科学を応用した健康維持法"、なんてタイトルだと、おいおいまたエセ脳科学かい?、と突っ込まれそうだが、この方法論はその手のインチキではない。キチンとした理論的な裏付けと蓄積された科学的データに基づくメソッドだからだ。
先日、友人に誘われて「健康作り講習会」というものにでてみた。株式会社フェイスという、京都市に本社のある会社の主催である。携帯電話の着信メロディー技術開発で躍進した技術系ベンチャーで現在は東証一部上場企業だが、この会社にメディカル・コミュニケーション事業というものがあり、早い話が、携帯電話を利用した健康管理システムを推進している部門である。この部門の主催による無料セミナーであった。
このセミナーのメインテーマが、、"脳科学を応用したダイエット方法"なのであった。
講師を務められた名城大学の加藤幸久教授は、もっと穏健なテーマで講演されている。「より充実した健康指導の実際」、というのが講演タイトルであった。
内容を要約してしまえば、"脳科学を応用したリバウンドのないダイエット法"といってしまってよい。しかも非常に簡単だ。
毎日一定距離を歩くことを継続する、これに尽きるのである。なーんだ、そんなことか、全然目新しくないじゃないの、と思ったらこれが大間違い。
無理せず、安全、確実なダイエット方法といったらこの方法しかないかも知れない。いや、ダイエットなんて表現を使うからいけないのだろう。健康維持法であるというべきか。
毎日一定距離を歩くことを継続する、このための具体的な方法論として、携帯電話の活用となるわけだ。ここでフェイスの登場となる。
フェイスが開発した携帯電話のサイトに、万歩計で測ったその日のトータル歩数を入力、送信する。これだけだ。しかしこれによって個人データが蓄積し、かつグループ内でのランキングも判明するので、継続するための励みにもなる、というあんばいなのだ。
このセミナーに参加してデジタル万歩計(写真)までいただいてしまったので、さすがに逃げ道がなくなったというのが真相だが、私自身歩くのは好きだしまったく問題がないのだが、毎日継続して一定距離を歩くというのは、なかなか難しいことに気がつく。意志のチカラが必要なのだ。
ここで脳科学が登場するのである。意志のチカラに頼るのは、実際のところ普通の人にとっては簡単なことではない。医師のチカラに頼っていても健康維持にはほど遠い。歩くことを"生活習慣"にするためには何が必要か。
一言でいえば大脳生理学の応用である。加藤教授が強調しているのは、右脳・左脳といった脳機能の観点ではなく、人間が動物であるという観点つまり、進化論の観点からみた脳についてである。
下等生物から人間のような高等生物に進化するにしたがって脳の機能がパワーアップするのだが、人間の脳は脳幹+大脳旧皮質+大脳新皮質で構成されている。脳幹は生命維持に不可欠な本能のレベル、旧皮質は情動をつかさどる、いわばココロに関する領域、そして新皮質は思考をつかさどる、いわばアタマに関する領域である。
冒頭に養老孟司の"脳化社会"批判について触れたが、現代人はこの新皮質にかたよりすぎた生活を送っており、アタマで考えた世界に生きているのである。しかし、アタマでわかっていてもココロが納得しなかったら何事も心地よく取り組むことはできない。ココロがOKすれば楽しいから努力なしでも継続できるのである。
ただしココロがOKするまでは最低3ヶ月から半年必要で、1年以上継続できたらほぼ完全に定着する、という結果がデータとしてでている、らしい。ここまでくると生活習慣として毎日のウォーキングが定着し、ちょっと食べ過ぎても太らない体質になるようだ。つまりリバウンドがなくなるので、ダイエットを繰り返す必要がなくなるという。
話をきいていて思ったのは、経営コンサルティングに共通するものがあるなあ、ということだ。すでにこのブログでも書いている。
Senge教授のコンセプト learning organization(学習する組織) は非常に重要なものだと思いますが、change agent が去った後の組織で、「組織」としての「学習」を継続させることが、やはりなんといっても難しいようです。
意志のチカラでも、医師のチカラでもなく(・・この場合はコンサルタントですね)、いわば"生活習慣"とするために、無意識で行動するレベルまで落とし込むこと、これがもっとも重要なことなのである。
講演後、加藤教授とは少しお話をさせていただいたが、この感想に同意していただけたのはうれしいことであった。究極的にはコンサルタントが不要になることが、コンサルティングの目的なのであり、健康法の個人指導においてもそれはまったく同じなのである。
ただし、個人の集合体である組織はさらに難しい問題もあるので、より方法論的に磨き上げる必要があることはいうまでもない。
脳科学を応用した健康維持法、セミナーでデジタル万歩計も渡されてしまった私は、すでに"人間モルモット"と化している。生まれて初めて万歩計を使うことになったので、まさに万歩計初体験。
日々装着して歩数を稼ぎたい、と思っている毎日だが、昨日は合計8,054歩どまり、いやはや"万歩"の壁は厚いなあー
でもいいや、これで健康維持できれば儲けもんだな。そしたらみんなに吹きまくりますよ。なんせ歩くだけだから、まったくカネかからない"ダイエット&健康維持法"ですからねー
これぞまさに、クチコミ・マーケティングというわけだ。
(注)万歩計 pedómeter
pe⋅dom⋅e⋅ter [puh-dom-i-ter] –noun
- an instrument worn by a walker or runner for recording the number of steps taken, thereby showing approximately the distance traveled.
Origin: 1723; < F pédomètre, equiv. to péd- (learned use of L ped- foot (s. of pēs); see pedi- ) + -omètre (see -o-, -meter )
(出典:dictionary.com)
<付記>
本日やっと万歩超え達成:12,304歩です!(2009年11月7日 22時33分現在)
本日は天気が良かったので、散歩で 12,609歩達成。まあこれがいいとこだろう。ウィークデーは難しい(2009年11月8日)
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