2010年6月3日木曜日

「三日・三月・三年」(みっか・みつき・さんねん)



        
 「三日・三月・三年」と書いて「みっか・みつき・さんねん」と読む。

 最近の若い人たちはあまり聞き慣れていないかもしれないが、私の世代の人間であれば、親や祖父母からかならず何度も聞かされたフレーズであると思う。

 いずれも「3」がつくこのフレーズ、「3」がマジックナンバーであることを意味している。

 三日(みっか)とは文字どおり三日間のこと。

 三月(みつき)とは三ヶ月のこと、日数でいえば約90日で、約100日弱となる。

 三年(さんねん)とは、月数でいえば 36ヶ月になるが、日数でいえば 1,095日、すなわち1,000日強となる。

 三日坊主の3日はさておき、三月(みつき)は100日弱三年(さんねん)は1,000日強と、いずれもキリのいい数字と対応している。

 大統領でも首相でも、はじめて執務を開始してから最初の100日間は、メディアからは「蜜月期間」として手荒な扱いは受けないのが通例である。
 経済改革の場面などでは、いわゆる「100日プラン」でショック療法を行うことが行われることがある。

 アラビアンナイトの「千夜一夜」や比叡山の「千日回峰行」など、1,000日単位のものも多い。日本の民話に「三年寝太郎」というのがあるが、これはずばり3年だ。


 自分自身の経験からいっても、「3」にまつわる具体的な経験があるので、紹介しておこう。


 ●留学してから3ヶ月で英語が突然聞こえるようになった経験(27歳)

 27歳のとき、留学して3ヶ月というのは、正確にいうと、サマースクールの英語講習が終わって、M.B.A.の授業が本格的に始まった9月からまる3ヶ月がたった後ということだ。悪戦苦闘の第1学期(first semester)が終わって冬休みになり、冬休み明けの第2学期が始まって学校にいったら、突然苦もなく英語が飛び込んでくるのを感じたのである。あたかも鳥のさえずりのように、すべてが聞こえてくるという、実に不思議な体験であった。

 ●就職して3年目にそれまでバラバラに存在していたものが一気につながるのを感じた体験(25歳)

 就職して3年目にそれまでバラバラに存在していたものが一気につながるのを感じた体験(25歳)も、実に不思議な体験であった。突然すべてがつながるのが、画像として網膜のなかで見えたのだ。ニューロン(神経細胞)のようなものが白い糸が粘菌のようにからみあていく動画であった。一気にすべてがつながってゆくのを体感した。そういう体験である。

 いわゆる開眼(かいげん)、いわゆる開耳(かいじ)といううヤツだろう。文字通り、眼が開かれ、耳が開く、という経験をさした表現のことだ。

 大学時代に合気道を修行していたとき、友人から借りたカッパブックスの『合気道入門』(植芝吉祥丸、972)に、合気道開祖・植芝盛平(うえしば・もりへい)が40歳のときに「黄金体と化す」という神秘体験をして、武道の開眼をした経験がイラストとともに書かれていた。 ある日突然すべてが静寂になって自分が黄金体と化しているのを感じ、澄み渡った空間のなかで鳥の声がきこえてくるという体験をしたとき、「我即宇宙」(われ即ち宇宙)という神秘体験をしたという。
 はじめてそれを読んだときは、ウソくさいなと思った。当時の科学少年はガチガチの合理主義の信奉者であったので。しかし、そういう経験を自分が体験すると、素直に受け入れる気持ちになった。そういうことは実際にあるのだ、と。

 江戸時代に儒仏道をあわせて、一般庶民向けの生活倫理を説いた、石門心学の開祖・石田梅岩(いしだ・ばいがん)も同様の開眼体験したようで、意外な感を受けたことがある。
 大学時代に受講した安丸良夫の「日本思想史」(?)授業で(・・ほとんど出席していなかったが)、期末試験の際に、友人からもらった安丸先生の論文抜き刷りに書かれていた石田梅岩の体験と合気道開祖・植芝盛平の体験をからめて書いたら、「A」をいただいた記憶をいま思い出した。

 日本の一宗一派の開祖は、みな同じような経験をしているようである。いや、世界的に共通した体験であろう。スピリチュアルといっていいのかもしれないが、ここではそれは留保しておこう。


 100日続ければ、1,000日続ければ・・・ということは、少し難しくいうと、「量質転換」ということになる。ある一定量の蓄積が質の転換をもたらし、次のステージへと進んでいくことになる。いわゆる壁や踊り場というものは、足踏みをしているように感じるこの期間のことを指しているのである。これをさしてクリティカル・マス(critical mass)と表現することもある。臨界点に達するまでの蓄積量のことである。
 100日なり、1,000日の蓄積があって、はじめて次のステージが見えてきて、一気に地平が開けるような体験をすることになるのだ。
 「地道」(じみち)こそ真の「王道」(おうどう)・・これ以外の成功法則はないといっていいのではないかと思う。
 成功への道にショートカットはない

 「石の上に三年」というコトバもあるように、「3」というマジックナンバー、これはまさに年寄りの知恵として、記憶しておくべきだと思う。
 そういえば、合気道では「受け身三年」といわれていた。受け身がキチンととれるようにならないと、投げ技の多い合気道はきわめて危険である。自分が受け身を取れないのは危険であり、また相手が受け身がとれるように投げないとまた危険である。
 それをさして「受け身三年」というのだろう。まさに「千日の修行」である。


 心理学の応用として、よく初対面の「はじめの3分」が重要だ、という話を耳にするが、あえて中期的な「3ヶ月」長期的な「3年」の話を書いてみた。

 「三日・三月・三年」(みっか・みつき・さんねん)は、科学的根拠はさておき、「経験知」として、「人生の知恵」としては、傾聴に値するのではないだろうか。

 何はともあれ、とにかく3ヶ月はがんばてみよう!
 続けるか、やめるかは、その後に考えたらいい。



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