これまでも自称他称をふくめて、「知の巨人」が現れては消えていった。なかには、「知の虚人」なんてレッテル貼られてしまった人もいる。
だが、松岡正剛こそ、正真正銘の「本読み」で、「知の巨人」といえるだろう。
自然科学を含めて、ほぼありとあらゆる分野のジャンルにまたがる本を読んできた人。
編集者であり著者。
私から見れば、仰ぎ見る巨人ではあるが、何よりも一般読者にもぐっと近づいたのは、まずはウェブで連載していた『千夜千冊』だろう。
そして、丸善丸の内本店における「松丸本舗」という理想の書店スペースをプロデュースする実験。その舞台裏を30分番組にまとめあげた、TBSの「情熱大陸」の出演。「編集者 松岡正剛」。
本に囲まれた、ああいう仕事場をつくりたいものだと思ったのは、もちろん私だけではないはずだ。
■『ちょっと本気な 千夜千冊 虎の巻-読書術免許皆伝-』(松岡正剛、求龍堂、2007)
『千夜千冊』は、知的世界の「千日回峰行」といってよいだろう。「千日回峰行」とは比叡山における荒行のことである。
このように、継続することで見えてくるものは、私は「三日・三月・三年」という文章で書いているが、それにしても「千夜千冊」、しかも一作家一冊というタガをはめての実行は、驚嘆を越えて壮絶でですらある。
新刊書もあるが、昔の本も縦横自在に取り上げた1,000回以上のすべてが、一年以上の再編集ののちに7巻の大冊となって書籍化された。全7巻で10万円弱、もちろん書籍版は購入せず、ときにウェブ版をネットサーフィンしながらよんだだけだが(・・ネット版ですらすべてを読んでいない)、よくこれだけ多岐にわたる本を、しかもこれほど深い読みができるものだちお感歎するのみである。
むかし文化人類学者の山口昌男が『本の神話学』(中公文庫、1977)で試みた「書評」のあり方とともに、松岡正剛の方法論は、ひそかに目標としてきたものである。
書評じたいというよりも、本の読み方として、本を単独の存在として読むのではなく、本と本、本と人、本と世の中全般・・と関連づけて読む読み方。
何よりも博学であることの重要性、これは山口昌男にも松岡正剛にも共通するものだ。あるいはここに立花隆を入れてもいいかもしれないが・・・
実は、私がこのブログでやろうとしている試みは、規模と中身ははるかに及ばないが、松岡正剛のやっていることを私なりにやってみようという試みなのである。これは、ここではじめて書くことだが・・・
もちろん、関心のあり方は松岡正剛と私とでは重なる面もあるが、そうでない面もある。たとえば、韓国朝鮮への関心、東南アジア、インド中近東世界への関心は、松岡正剛の場合、あまり多くないように思われる。 また、「情熱大陸」では、松岡正剛は食べるものに頓着しないようであったが、その点は私とは違いを感じる点だ。
『千夜千冊 虎の巻』の第5章では、松岡正剛の読書術も紹介されている。
松岡正剛自身の表現を使えば、①「暗号解読法」、②「目次読書法」、③「マーキング読書法」、④「要約的読書法」、⑤「図解読書法」、⑥「類書読書法」のそれぞれについて解説されている。
重要なことは、読む本の内容によって読むシチュエーションを決めること、著者や編集者の視点から目次を読むことである。
このような独自の読書法が編み出された背景には、なんといっても「編集者」としての本の読み方が大きく働いているようだ。
継続という時間的な意味での量も必要だし、場数を踏む、体験するという意味でも量が何よりも、ものをいう。
インタビュアー そういうのって、目をどうやって鍛えたらいいんでしょう?
セイゴオ たくさん見るしかないね。・・(中略)・・自分で見抜けるまでとことん見ることです。
インタビュアー それしかないですか。
セイゴオ うん、それだけ。(P.268)
これは書道について交わされた会話だが、それ以外の分野、たとえば骨董でも絵画でも、あるいはまたその他の専門分野でも共通であろう。
『千夜千冊 虎の巻』は最新のブックガイドであり、現時点における最終形である。「特別付録『松岡正剛スタンプラリー 全巻構成一覧』は、松岡正剛流の整理学、編集の見本ともなっている。
■『松岡正剛の書棚-松丸本舗の挑戦-』(松岡正剛、平凡社、2010)
丸善丸の内本店内の「松丸本舗」は、こんな本棚が欲しかったのだ!という木にさせてくれる日本では数少ないリアル書店である。
本との、ホントの出会いにおいて、書店や図書館のもつチカラはすさまじく大きい。
私の場合は、一橋大学小平分館図書館、国立本校の図書館、留学先のRPIの図書館、職場である総研や銀行調査部の図書室などなど。
とある機会に閲覧できた、琉球銀行調査部の図書室は沖縄本の一大コレクションだった。平凡社からでている『伊波普猷全集』を備えている銀行は、日本ではさすがに沖縄だけだろう。
書店では、南阿佐谷の「書原」ではいったいいくら散財したことか。
おかげで膨大な本を買い込み、本に埋もれて生きる人生となってしまったが、これこそまさに本望(ほんもう)である。ただし、実人生においてはさまざまな問題の原因になってはいるが、ここではあえて書かないでおく。
たとえ、電子書籍が普及しても、印刷媒体としての本の意味は変わらないのではないだろうか。
松岡正剛は過去にもさまざまなブックガイドを編集出版しており、たとえば『ブックマップ』(工作舎、1991)、『ブックマップ・プラス』(工作舎、1996)などは、南阿佐谷の書源で入手しては、耽読していたものである。もちろんいまでも価値のあるブックガイドである。
<関連サイト>
松岡正剛の千夜千冊・連環編
・・1330夜以降、ISIS本座に移行。こちらでは、経済学やリスクにかんする本が多く取り上げられているので、ビジネスパーソンにとっても興味を引くかもしれない。
松岡正剛の千夜千冊 放埓篇・遊蕩篇 - 目次
・・1329冊の総目録レファレンス。知の饗宴はリンク構造活用で縦横無尽に飛び回る。)
情熱大陸に出演した松岡正剛
・・この番組ではじめて松岡正剛の存在を知った編集者も多いとか。
松岡正剛の書棚|特設ページ|中央公論新社
<ブログ内関連記事>
書評 『日本力』(松岡正剛、エバレット・ブラウン、PARCO出版、2010)
書評 『脳と日本人』(茂木健一郎/ 松岡正剛、文春文庫、2010 単行本初版 2007)
書評 『ヒトラーの秘密図書館』(ティモシー・ライバック、赤根洋子訳、文藝春秋、2010)
・・「独裁者」は「独学者」だった!蔵書家ヒトラーのすべて
『随筆 本が崩れる』 の著者・草森紳一氏の蔵書のことなど
・・一橋大学の藤井名誉教授の蔵書処分の件について、私の大学時代のアルバイト体験も記してある
書籍管理の"3R"
・・本はたまるもの。どうやって整理するべきか。蔵書印の是非についても。
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