「アタマの引き出し」は「雑学」ときわめて近い・・日本マクドナルド創業者・藤田田(ふじた・でん)に学ぶものとは?

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2009年10月26日月曜日

書籍管理の "3R"




環境問題の3Rは、知っている人も多い思う。すなわち、Reduce、Reuse、Recycle の頭文字Rである。

 廃棄物を減らし(リデュース)、再使用(リユース)し、資源として加工し再利用(リサイクル)する。

 この3Rは、環境負荷の小さい順に並んでいる。リサイクルはリユースよりも余計にエネルギーコストを要するので、環境負荷が高い。


■ "3R"とは?

 企業の人事管理でも 3Rという表現を使う。すなわち、Recruit(リクルート)、Retain(リテイン)、Release(リリース)である。

 ただし、これは環境負荷の大きさとは関係ない。従業員の採用から退社までの一連の流れ(=フロー)をRで始まるコトバでまとめたものだ。

 採用(リクルート)し、確保し(リテイン)、退社させる(リリース)。かつての日本の大企業では、終身雇用という名の長期安定雇用が維持されていたので、退社させる、というのは懲戒免職など例外的な事象であったが、近年では適正なフローを維持するためには退社してもらうことも人事戦略の一環として位置づけられている。


書籍管理の "3R"

 本の管理を入手から廃棄までの一連の流れとして捉えれば、本を入手(リクルート)し、保持・所有(リテイン)し、手放す(リリース)と表現することができる。人の一生には限りがあるし、図書館だとて収容能力には限界があるから、メタボリズムの観点からリリースは避けて通れない。 

 蔵書も入手から、売却などによる廃棄までの流れの管理を定期的に行わないと、故草森紳一のような事態におちいる。また先日起きた札幌の事故のような惨事も免れ得ない。

 また、本の処分の方法論について考えてみれば、まず何といっても環境問題の3RのうちReduce が該当するが、収納するキャパシティを拡大するか、あるいは本を減らすかという二通りの方法が本来はある。

 前回の引越ではキャパシティを1.5倍に拡大した。整理するためのスペースが欲しかったためである。その過程でダンボール箱を約100箱分処分した。

 今回の引越ではキャパシティは逆に1/2に縮小した。縮小した収容能力において、さらに処分を余儀なくされたのは、やや誤算ではあった。すでに引っ越してきてから約25箱を処分した。現在まだ整理中であるが、最低10箱は処分することになる見込みだ。できれば20箱を目標としたい。それでもまだまだ多い。


天才的大学者はアタマのなかに蔵書をもつ

 世界的な言語哲学者・井筒俊彦は、戦前の若き日にアラビア語とイスラーム哲学を直接学んだタタール世界で随一の大学者を回顧して、司馬遼太郎との対談のなかで以下のようにいっている。出典は『司馬遼太郎対談集 九つの問答』(朝日新聞社、1995)

 その大学者はイスラーム世界の学者の伝統に従って、「・・本なんか読むのは第二次的で、まず、生きた自然、人間を見て、神がいかに偉大なものを創造し給うたかを想像する」(p.15)ために諸国漫遊し、日中戦争のさなか、日本に滞在していたという。

 井筒氏に対して、「・・おまえみたいなのは、本箱を背負って歩く、いわば人間のカタツムリだ。そんなものは学者じゃない。何かを本格的に勉強したいんなら、その学問の基礎テキストを全部頭に入れて、その上で自分の意見を縦横無尽に働かせるようでないと学者じゃない」(p.18)といわれたそうだ。コーランも、ハディースも、神学、哲学、法学、詩学、韻律学、文法学もすべてテキストとその注釈がアタマの中に入ってたらしい。

 タタール人の大学者から見れば、本なんか抱えこんでいる私のような人間は、"下の下"ということになってしまうが、それは当然だろう。人間の記憶能力には限界があるし、またHDD(ハードディスクドライブ)という外部記憶装置に恵まれている現在人は、もはや救いようのない存在かもしれない。

 国文学者・民俗学者の折口信夫も、万葉集のテキストは4,500首以上すべて暗唱できたというから、独創的な研究を残した、突出した天才学者というのは、多かれ少なかれ、抜群の記憶力をもっていたことは確かなことだろう。いちいち文献をひっくり返しているようでは、アタマの中で猛スピードでフル回転させることは不可能だからだ。


凡才でも「経験知」が集積していく

 しかし凡才といえども、長く一つのことに従事していると、経験知が集積していくので同じようなことも可能になる。いちいち文献をみなくても瞬間的に正しい結論を出せるのは、脳のこの機能のおかげだろう。ただし正確性に欠けるのは仕方あるまい。

 企業経営でも、自分が経営する会社の細々とした数字がたちどころに口をついて出るようでなければ、本当の意味で経営者ではない、といわれるのはこのことを指している。
 つねに一つのことを考え続けていることが、これを可能とするのである。すでに第一線からは引退しているが、現役時代のビル・ゲイツもそうだったという。

 このエピソードは、先に"生まれてから一度も本は手放したことがない"と豪語している男として紹介した、現在投資家として活躍する人の本に出ていた話だが、この人はひたすら収容スペースの拡大を行って対応している。カネのある人間にのみ可能な贅沢である。いや、もしかしたらそのためにカネを稼いでいるのかもしれない。

 しかしながら、この男とて、いずれ寿命がくれば自らの手ではなく、家族あるいは財産管理人の手によって、蔵書は解体されることになるのである。まこともって、"蔵書一代"、果たして彼はこのことを認識しているのかどうか。


『現代人の読書-本のある生活-』

 高校時代に買って、引き出しのなかに保管して、飴を舐めるように、何度も繰り返し目を通していた、紀田順一郎の 『現代人の読書-本のある生活-』(三一新書、1964)にこういうエピソードが載っていた。

 ある蔵書家の男の蔵書印には、「我が亡き後は売りてよね(=米)買え」と書いてあったそうな。私が好きなフレーズである。カネになる本でもあれば、残された家族の生活費くらいにはなるだろう。

 最初から売るつもりなら、蔵書印など押さない方がいいのに・・・と思うのは、さらなるリアリストの見解か。とはいえ、本には線を引いたり書き込みをしてしまうのは、私の長年のクセであり、やめられない。『現代人の読書』は、私がもっているのは1977年12月の第6刷、この本は買ってからすでに30年近くたっている。

 線は引いていないし、書き込みもしていないが、いまだにリリースせずにリテインしているし、また今後もリテインしつづけるだろう。内容的にはすでに古くなりすぎているのだが、実用的でありながら反時代的な志向性が好ましいからだ。とても29歳の人間が書いたものとは思えない内容である。年寄りが書いた本だとずっと思い込んでいたのだった。
 
 自分が買った本は、過去のある時点での記憶と結びついているものだ。であるがゆえに捨てがたいし、であるがゆえに捨ててしまいたい記憶にまつわるものもある

 個人蔵書もまた、一回限りの人生の軌跡である。






* 司馬遼太郎の井筒俊彦氏との対談「二十世紀末の闇と光」は、『十六の話』(中公文庫、1997)にも収録されている。

PS 読みやするために改行を増やし、小見出しを加えた。 (2014年2月13日 記す)


<関連サイト>

研究者の死後、蔵書はどう処分されるのか(保坂修司、Newsweek日本版、2019年7月10日)

(2022年8月3日 項目新設)


<ブログ内関連記事>

『随筆 本が崩れる』 の著者・草森紳一氏の蔵書のことなど
・・一橋大学の藤井名誉教授の蔵書処分の件について、私の大学時代のアルバイト体験も記してある。「蔵書一代」!

本棚が倒れて"本の海"に生き埋めになるという恐怖が現実に・・・

「東北関東大震災」(2011年3月11日)直後とその後-千葉県船橋市から
・・そして本が崩れた!

書評 『ヒトラーの秘密図書館』(ティモシー・ライバック、赤根洋子訳、文藝春秋、2010)

『ちょっと本気な 千夜千冊 虎の巻-読書術免許皆伝-』(松岡正剛、求龍堂、2007)で読む、本を読むことの意味と方法

書評 『松丸本舗主義-奇蹟の本屋、3年間の挑戦。』(松岡正剛、青幻舎、2012)-3年間の活動を終えた「松丸本舗」を振り返る
  
本日よりイスラーム世界ではラマダーン(断食月)入り
・・井筒俊彦訳『コーラン』について


*本文を読みやすくするために、改行の導入と関連記事の追加を行った(2011年2月4日)


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