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「知識経営学」で日本発の理論を世界に向けて切り拓いた経営学者・野中郁次郎の知られざるロングセラーの名著が、『経営管理』(野中郁次郎、日経文庫、1985)である。
経営学を知らない人から、まず最初に1冊だけ読むなら何がいいか、といわれれば、私はいつもこの本を推薦しています。
なぜなら、すべての人にとって経営は「経営学」である必要はなく、重要なのは経営というものを知的に理解して、日々実践していくことに意味があるからです。
著者のその後の活躍(現在では、”ナレッジ・マネジメント”の大家として世界的に著名)を考えると地味な本ではありますが、本当に重要なことをコンパクトにまとめた本で、何度も繰り返して読むに耐えます。
「計画し」「リードし」「統合する」ことが経営管理の要(かなめ)であると。
著者が単なる学者でなく、サラリーマン生活9年のキャリアが随所ににじみ出ていると筆者には感じられることも、本書を推薦する理由です。
<初出情報>
■bk1書評「サラリーマン生活9年のキャリアが随所ににじみ出ている経営入門書−フレッシュマン諸君はまずこの本を読みなさい」投稿掲載(2001年3月28日)
目 次
まえがき
序章 経営管理へのアプローチ
1. 経営管理と組織論のマリッジ
2. 状況適応の経営管理
3. 経営管理の理論志向
第1章 組織構造の理解
1. クール・アプローチ-構造アプローチ
2. 組織構造の合理性
3. 官僚制の順機能と逆機能
4. 官僚制と状況要因
5. 組織設計の実際-事業部制、PM、マトリックス
第2章 個人と集団の理解
1. ウォーム・アプローチ一動機づけアプローチ
2. ホーソン工場実験
3. 個人の動機づけ理論
4. 集団主義の人間関係論
第3章 計画する
1. 戦略策定プロセス
2. 戦略的インテリジェンス・システム
3. エクスペリエンス・カーブ理論
4. 至上戦略としてのマーケット・シェアの拡大
5. 低マーケット・シェア企業の戦略
6. プロダクト・ポートフェリオ・マネジメント
7. GEアプローチ
8. 戦略策定と環境要因
第4章 リードする
1. リーダーシップ一「タスク」と「人間」
2. リーダーシップと状況要因
3. 制度的リーダーシップ
第5章 統合する
1. 組織の「分化」と「統合」
2. コンフリクト・マネジメント
第6章 経営管理の複合バランス
1. 状況適応理論のアプローチ
2. マネジリアル・アプローチ
3. 複合バランスと日本的経営
終章 経営管理を学ぶ人々へ
1. 経営管理の体系的な理解
2. 経営管理に大切な視点
参考文献
索引
著者プロフィール
野中郁次郎(のなか・いくじろう)
一橋大学名誉教授、クレアモント大学ドラッカースクール名誉スカラー、カリフォルニア大学ゼロックス知識学特別名誉教授。1935年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。富士電機製造勤務の後、カリフォルニア大学経営大学院(バークレー校)にて Ph.D 取得。南山大学、防衛大学校、北陸先端科学大学院大学、一橋大学大学院国際企業戦略研究科を経て現職。2008年の「世界で最も影響力のあるビジネス思想家20」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)に選ばれる(最新著書の略歴から転載)。
<書評への付記>
私はこの本を出版された年の1985年に読んだ。いまから25年以上前、四半世紀も前のことだ。
大学時代、社会学部にいて西洋中世史などやっていた人間が、いきなり金融系のコンサルティングファームに入社することになって、同じ大学の商学部経営学科にいた親友に、何かいい入門書はないか?と尋ねて推薦してもらったものだ。
そのときに推薦してもらった二冊のうちの一冊だが、たしかにまったくマネジメントのなんたるかを知らない人間が読んでもよくわかる内容だった。・・・・
「経営管理」とは、M.B.A. の B.A. に該当するものだ。B.A. とは、Business Administration の略である。野中郁次郎氏自身は、カリフォルニア大学バークレー校(U.C.Berkley)でM.B.A.を取得している。その後、博士号も取得している。
この書評はいまから10年前(!)に、創業間もないネット書店bk1に投稿したものだ。bk1も昨年創業10年を迎えて目出度い限りである。どんな会社であれ、10年間生き続けたということは賞賛に値する。まsない「継続はチカラなり」だ。
ネット書店は10年前には雨後の筍のように立ち上げられたが、いまでも生き残っているものはどれだけあるのだろうか。
現在は amazon 一人勝ちのように言われかねない状況だが、必ずしもそうではない。書評機能を充実させている点においては、bk1 は amazon に勝るとも劣らないものがある。
先に記した親友 S君はいまやもうこの世にいない。M.B.A.留学ということを、そんなことを考えたことすらない私に吹き込んでくれたのも S君だった。思い出となってしまった。
著者の野中郁次郎氏も、いまや一橋大学名誉教授。思えば、1980年代後半から90年代にかけてが、日本発の経営理論の黄金時代であった。サル学とならんで日本発の学問であったナレッジマネジメント。いまではすかりシステム屋さんの商売道具と化してしまっているが・・・。
野中教授の話も哲学的な話が多すぎて、現在では浮世離れしてしまっているようにも聞こえなくもない。
なんだか感慨にふけってしまうものがある。
これから随時、読むべき経営書を紹介していたいと思う。本というものは、新しければいいというものではない。ドラッカーも含めて「温故知新」と受け止めるべきか。
<ブログ内関連記事>
書評 『経営の教科書-社長が押さえておくべき30の基礎科目-』(新 将命、ダイヤモンド社、2009)
・・経営学者が書いた「経営学の教科書」ではない、経営者が書いた「経営の教科書」。ものの考えを整理し、深く考えるために、経営学者が書いた経営書が不要とまでは、私は言うつもりはない。
書評 『馬の世界史』(本村凌二、中公文庫、2013、講談社現代新書 2001)-ユーラシア大陸を馬で東西に駆け巡る壮大な人類史
・・「英国ではイタリアの馬術書の影響が深まるにつれて management(マネジメント)というコトバが生まれたという事実だ。英語の management はイタリア語の maneggiare から派生したそうだが、もともとはラテン語の manus(手)に由来するという。management とは馬を手で扱うことを意味したのだそうだ。経営は馬の世話から始まったのだ!」
(2014年5月11日 情報追加)
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