先週月曜日(2011年7月4日)、「いまこそ高橋亀吉の実践経済学」(東洋経済新報社創立115周年記念シンポジウム第二弾)に参加してきた。
高橋亀吉(1894~1977)といっても最近の若い人には耳慣れぬ名前かもしれない。なんといっても、亀吉なんて、いまの時代にはほとんどいない、むかしの職人さんのような名前だ。じっさいのところ船大工の長男として生まれ、生家の衰退のため少年時代から丁稚奉公の日々を送ってきた、たたき上げの苦労人だ。
高橋亀吉は、その名前に似合わず、日本初の「経済評論家」として、民間エコノミストの大先達として、経済分野で論陣を張ってきた人物である。
戦後には自民党党首として短期間だが首相もつとめた石橋湛山(いしばし・たんざん)とならんで、東洋経済新報社の「顔」として活躍した人だ。
というわけなので、東洋経済新報社による案内文をそのまま引用して掲載しておいたほうが、情報としては正確でかつ有用であろう。
昨年11月、弊社は創立115周年を迎えました。
これを記念して高橋亀吉の三大著作集-『大正昭和財界変動史』『日本近代経済形成史』『日本近代経済発達史』-を復刊することにいたしました。
高橋亀吉は、1918年に東洋経済新報社に入社した後、1924年には『東洋経済新報』の編集長をつとめ、大正・昭和期を代表する言論人であり、日本で最初に経済エコノミストとして独立した経済評論の先達であります。亀吉の昭和金融恐慌の分析は、時代を超えて世界的な経済危機を読み解く最良の教科書となっております。
さて現在の日本経済はというと、高度経済成長後の「失われた20年」を経て、新興国の台頭など新たな局面への対応を迫られています。そのうえ今回の東日本大震災や福島第一原発事故によって、各分野で閉塞感が強まっております。亀吉が生きた時代と現代との類似性を指摘する声もあります。自由経済の本質を解き明かした亀吉の教訓を踏まえ、新たな成長と発展の可能性を探ります。
「東洋経済」を率いた言論人・石橋湛山の実像に迫った記念シンポジウム(2010年11月15日)は、満席のご好評をいただきありがとうございました。第2弾シンポジウムは、日本初の「経済評論家」高橋亀吉を取り上げます。
(*太字ゴチックは引用者(=わたし)によるもの)
当日のプログラムは以下のものであった。
プログラム概要
開会挨拶 13:30~13:45
基調講演(40分) 13:50~14:30
講演テーマ:「ケインズ、ハイエク、高橋是清、そして高橋亀吉」
講演者:田中直毅氏(たなか・なおき)国際公共政策研究センター理事長
特別講演(40分)14:35~15:15
講演テーマ:「国難来ル-エコノミスト高橋亀吉の闘い」
講演者:若田部昌澄氏(わかたべ・まさずみ)早稲田大学政治経済学術院教授
1965年生まれ。早稲田大学政治経済学術院教授。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、早稲田大学大学院、トロント大学大学院に学ぶ。早稲田大学政治経済学部助手、助教授を経て現職。著書に『経済学者たちの闘い』、『改革の経済学』、『危機の経済政策』(第31回石橋湛山賞)、『「日銀デフレ」大不況』、共著に『昭和恐慌の研究』(第43回日経・経済図書文化賞)、『伝説の教授に学べ!』他がある。
このあとにシンポジウムもあったのだが、時間の都合で退席したので省略させていただく。
田中直毅氏の話は高橋亀吉そのもの話ではないので、わたしにとってはどうでもいい内容だったが、早稲田大学の若田部昌澄氏の話は、高橋亀吉と石橋湛山と比較対照した面白い内容であった。
大学時代に経済学をちゃんと勉強していなかったわたしにとって、当時から「実践派エコノミスト」としてすばらしいと絶讃されていた『私の実践経済学』(高橋亀吉、東洋経済新報社、1976)は、社会人になってからそれほど時間のたっていなかった時期に、大手町の書店で購入して読んだ。
高橋亀吉は理論派ではなく、まさに実践派。現場でものを考えて自分の理論を構築した人である。
若田部教授はまさにこの点が、高橋亀吉の強みであり弱みであると指摘されていた。数々のハンディキャップを背負っていた高橋亀吉の刻苦勉励の人生にみる「情念の人」、これが「実践派」の姿勢につながり、魅力の源泉となったのであろう。
経済史にかんする膨大な著述を完成させた高橋亀吉には、『昭和金融恐慌史』(高橋亀吉/森垣 淑、講談社学術文庫、1993 単行本初版 1968)という著書がある。昭和2年(1926年)の「昭和恐慌」について書かれた本だが、読むとひじょうに有益な教訓を得ることができる。
高橋亀吉の著作は「生きた経済史」であり、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という格言を思い起こさせてくれるのである。
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