『平安朝の生活と文学』(池田亀鑑、ちくま学芸文庫、2012)は、これ一冊を通読するだけで、平安時代の国文学、すなわち王朝文学の背景はすべてわかるスグレ本です。
高校で学ぶ古文は、『徒然草』や『奥の細道』などを除けば、『源氏物語』や『伊勢物語』、『枕草子』など王朝文学が大半ですので、古文の勉強のお供にはぜひ読んでおきたい一冊です。
平安時代の宮廷貴族や女官たちがどういう生活をしていたのか、どんな所に住んで、何を着て、何を食べていたのかについて、『源氏物語』や『枕草子』といった女性が書いたものを材料に取り上げて解説しています。
また、後宮制度や宮仕えの動機、結婚の制度・風習、懐妊と出産、美人の条件や教養、娯楽、疾病、医療、葬送、信仰まで、その当時の女性の人生のほぼすべてについて書かれた、いわば「読む百科事典」になっています。参考書としてだけでなく、知的好奇心を満足させてくれる、読んでじつにたのしい読み物になっています。
じつはこの本は、わたしの高校時代の愛読書です。当時は角川文庫からでていましたが、何度も何度も読んで熟読していました。
わたしが現在でも、王朝文学を原文のままで読めるのは、この本で得た背景知識があるからにほかなりません。「ですます調」の語り口調で書かれていますので、素直に読める内容です。
いまから60年も前に書かれた古い本ですが、いまでもまったく古さを感じさせません。
高校生なら、この本を繰り返し何度も読んで古文好きになってください。すでに高校を卒業されている方々は、ぜひもう一度、古文にチャレンジする際には、この本をよき伴侶としていただきたいものと思います。
現在に至るまで、何度も版を変えながらも読み継がれてきたということは、この本が名著であることの何よりも証拠となっているでしょう。ぜひおすすめしたい一冊です。
<初出情報>
■bk1書評「これ一冊を熟読すれば王朝文学の背景はすべてわかるスグレ本!」投稿掲載(2012年1月31日)
■amazon書評「これ一冊を熟読すれば王朝文学の背景はすべてわかるスグレ本!」投稿掲載(2012年1月31日)
目 次
平安京
後宮の制度
後宮の女性
後宮の殿舎
宮仕えの動機
宮廷の行事
公家の住宅
食事と食物
女性の一生
結婚の制度・風習
懐妊と出産
自然観照
女性と服飾
服飾美の表現
女性美としての調度・車輿
女性と容姿美
整容の方法
女性と教養
生活と娯楽
疾病と医療
葬送・服喪
女性と信仰
著者プロフィール
池田亀鑑(いけだ・きかん)
1896~1956年。東京帝国大学国文科卒業。大正大学、昭和女子大学、立教大学、東京大学などで教鞭をとる。ドイツ流の新しい文献学の方法を取り入れ、日本古典文学の文献学的研究を行なう。また、生涯を『源氏物語』の研究に捧げ、大著『源氏物語大成』(全8巻)を刊行。さまざまなペンネームを用い、多くの少年少女小説も発表。『池田亀鑑選集』(全5巻)をはじめ、多くの著書校注本がある(筑摩書房のサイトから)。
<書評への付記>
初版は1952年! 60年前!
亀鑑(きかん)というのは、お手本のこと。『デジタル大辞泉』によれば、《「亀」は甲を焼いて占ったもの。「鑑」は鏡の意》行動や判断の基準となるもの。手本。模範。「教育者の―ともいうべき人物」、とある。
好きでないと、なかなか古文を読むこともないと思いますが、ぜひこの本だけでも通読されることをおすすめします。
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