1964年10月1日に開業した東海道新幹線。本日(2014年10月1日)に50歳を迎えました。「新幹線世代」のわたしにとっては感無量です。
はじめて新幹線に乗った記憶は、1970年の大阪万博のとき。小学校二年生でした。その当時はすでに東京に引っ越しておりましたが、お盆の帰省とあわせて新幹線で新大阪へ! それ以前に乗っていたかもしれませんが、乳幼児だったためか残念ながら記憶にはありません。
1970年当時は、東京=新大阪間はすでに 3時間10分。現在では「のぞみ」の登場によって2時間台になっておりますが、東京=新大阪間は3時間という数字がものを考える基準になっております。
少年時代に愛読していたのがこの本。『スピード物語-夢をひらく技術-』(石山光秋、筑摩書房、1970)。「ちくま少年図書館7 想像の広場」(監修 湯川秀樹・松田道雄・臼井吉見)。
手垢で真っ黒になるまで読みふけった愛読書。思い出の一品として処分せずに手元に残してあります。わたしは当時、理科と数学にしか関心のない「理科少年」でありました。
箱の裏には以下のような説明文が書かれています。
東海道新幹線は鉄道にスピードを求める人びとの夢を実現させた。しかし、その建設の背後には、およそ100年にわたり、日本の鉄道技術開発のため血と汗を流した多くの技術者の苦心があった。技術は、それに情熱と創意をふきこむ人間があってはじめていきる。新幹線開発を技術的解説だけに終わらせるだけでなく、そこにたずさわった多くの人びとの情熱と苦闘また喜びを生き生きと描いた書物」(*太字ゴチックは引用者=さとう)
東海道新幹線の開業当時は鉄道技術の蓄積は100年でしたが、現在ではすでに150年ということになります。
東海道新幹線の開業で、鉄道技術の分野ではフランスとドイツにならんで世界のトップランナーとなった日本は、現在でも世界をリードする存在となっています。
技術というものが、いかに蓄積を不可欠とするものであるか語っているというべきでしょう。これは現在でも「輸入技術」を脱し切れていない原子力分野との大きな違いです。
『スピード物語-夢をひらく技術-』の「目次」を紹介しておきましょう。1970年当時の「理科少年」がどんな内容の本を読んでいたかの参考になるかもしれません。
著者の石山光秋氏は、「1926年、東京都に生まれる。東京工業大学電気工学科卒業。国鉄入社。現在、車両設計事務所新幹線担当次長」と著者略歴にあります。
はじめに-きょうも走る夜の試験車
夜明けの章-鉄道が誕生するまで
飛ぶ鳥のように速い乗りもの
0(ゼロ)標識からはじまる
駅をステンショと呼んだころ
20日の旅が一日で
希望の章-鉄道の少年時代
日本に合った鉄道を
全国の貨物列車、いっせにストップ
蒸気機関車の優等生C51型
煙はごめんだ
成長の章-電車時代はじまる
鉄道の暗黒時代をこえて
湘南電車は走る
つぎつぎとたてられるスピード記録
開発の章-新幹線をつくろう
まぼろしの弾丸列車
床下は特許でいっぱい
トンネルのなかの新幹線
便所のなかで汚物がとびあがった話
じゃまものはとりのぞけ
発車の章-いよいよ開通
おいらん車は走る
夜の街路をゆっくり走る
ついに試運転のときがきた
試作電車は今も働いている
全線いよいよ試運転開始
向上の章-新幹線をよりよくするために
感激の開通式
猛スピードの犠牲者
昭和40年1月6日の出来事
雪にうち勝って160キロ
とうとう3時間10分に
電車の天井から雨が降る
未来の章-夢のスピードを求めて
空気浮上の超高速鉄道
磁気浮上の超高速鉄道
重力利用高速列車
あとがき
日本と世界の鉄道知識
1970年当時は、SF全盛時代。あの頃はバラ色のの未来予測に満ち溢れていました。この本でも、「未来の章-夢のスピードを求めて」でリニア新幹線について取り上げられていますが、これほど実用化に時間がかかるとは誰が予想したことでしょうか。
とはいえ、リニア新幹線が実現に動きはじめた現在、はたしてほんとうに必要なのかどうか。これ以上のスピードがはたして必要なのかどうかという疑問もなくはありません。磁気が人体に与える影響、トンネルの多すぎる路線の安全性に問題はないのか、などなど。
理科少年や理科少女を一人でも多く生み出すためには、「夢のある技術」の話が一番だと思いますが、ほんとうに夢のある技術とはなにか、2014年現在では再考してみる必要があるかもしれません。
<ブログ内関連記事>
■新幹線と鉄道関連
書評 『「夢の超特急」、走る!-新幹線を作った男たち-』(碇 義朗、文春文庫、2007 単行本初版 1993)-新幹線開発という巨大プロジェクトの全体像を人物中心に描いた傑作ノンフィクション
書評 『高度成長-日本を変えた6000日-』(吉川洋、中公文庫、2012 初版単行本 1997)-1960年代の「高度成長」を境に日本は根底から変化した
・・東海道新幹線と太平洋ベルト地帯の工業化は「高度成長」のシンボルであった
書評 『「鉄学」概論-車窓から眺める日本近現代史-』(原 武史、新潮文庫、2011)-「高度成長期」の 1960年代前後に大きな断絶が生じた
■新幹線という近代化のシンボルと近代終焉
書評 『未完の「国鉄改革」』(葛西敬之、東洋経済新報社、2001)-JALが会社更生法に基づく法的整理対象となり、改革への「最後の一歩」を踏み出したいまこそ読むべき本
鎮魂!戦艦大和- 65年前のきょう4月7日。前野孝則の 『戦艦大和の遺産』 と 『戦艦大和誕生』 を読む
・・技術の観点からみた戦艦大和健三プロジェクトとその戦後への「遺産」
書評 『ものつくり敗戦-「匠の呪縛」が日本を衰退させる-』(木村英紀、日経プレミアシリーズ、2009)-これからの日本のものつくりには 「理論・システム・ソフトウェアの三点セット」 が必要だ!
書評 『原発事故はなぜくりかえすのか』(高木仁三郎、岩波新書、2000)-「市民科学者」の最後のメッセージ。悪夢が現実となったいま本書を読む意味は大きい
・・自前の技術ではないあ「輸入技術」であった原発の問題
「人間五十年 化天のうちを比ぶれば 夢幻の如くなり」(織田信長)-五十年を生きることのなかった信長、そして敦盛と直実を思う
・・信長とは違って、新幹線は50歳を過ぎて、なお意気盛ん!!
(2015年1月13日 情報追加)
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