2014年11月26日水曜日

「チューリヒ美術館展 ー 印象派からシュルレアリスムまで」(国立新美術館)にいってきた(2014年11月26日)ー チューリヒ美術館は、もっている!


「チューリヒ美術館展」(国立新美術館)にいってきた。「フェルディナント・ホドラー展」 と同時開催のこの美術展は、日本とスイスの国交樹立150年を記念するイベントの一環として開催されているものだ。

この美術展の感想を一言で言えば、「チューリヒ美術館は、もっている!」、とでもなるだろうか。

ポスターに掲示されているモネ、セザンヌ、ゴーギャン、ドガ、シャガールといった日本人好みの印象派とポスト印象派の画家たちや、ピカソ、ミロ、ダリ、ムンクといった20世紀の大物カンディンスキー、モンドリアン、キリコ、ジャコメッティといった現代美術まで網羅しているからだ。

(モネの「睡蓮の池、夕暮れ」がデザインされたチケット)

ポスターには登場していないが、スイスの国民画家ホドラーの作品も展示スペース一つ分が確保されている。ホドラー展とあわせて鑑賞すべきだろう。半券があれば互いの美術展は100円引きになる。スイス出身の画家ではこのほか、パウル・クレーやセガンティーニの作品も展示がある。

さらにいえば、わたしの好きなドイツ表現主義ではベックマン、さらにウィーン分離派のオスカー・ココシュカの展示もある。さすが、ドイツ語圏のなかでも特筆されるべき文化都市チューリヒの美術館ならではだな、と思わされるのだ。

(会場図面 水色が「巨匠の部屋」 黄色は「時代の部屋」)

ドイツ世界の文化都市といえば、ドイツのベルリンとオーストリアのウィーンはまず誰もが想起することだろう。そして南ドイツのミュンヘン、ミュンヘンから近いザルツブルクといったところだろうか。

だが、「ドイツ語」世界ということでいえば、チェコのプラハやスイスのチューリヒも入ってくるようだ。国書刊行会から1987年に出版された『ドイツの世紀末』というシリーズがあるが、全五巻の内容は、①ウィーン、②プラハ、③ミュンヘン、④ベルリン、⑤チューリヒ、となっている。

たまたま内容紹介のパンフレットがあるので、スキャンして掲載しておこう。『ドイツの世紀末Ⅴ チューリヒ-予兆の十字路-』(土肥美夫編、国書刊行会、1987)の紹介文には、ドイツ語圏におけるスイスとチューリヒの意味が書かれている。


スイスは、そもそもドイツ語圏とフランス語圏を中心に盟約で結成された連邦国家であり、しかも永世中立国である。民族主義(=ナショナリズム)の色合いの強いドイツやオーストリアとは異なるインターナショナルな風土がある。さらにチューヒりはスイスの他の都市と異なる性格があるという。

静かな湖畔にあるスイス最大の都市チューリヒとその周辺には、世紀末以来国内はもとより国外からも、圧政に追われ、ナショナリズムに病んだ思想家や芸術家たちが往来し、寄留し、あるいはまた転進していった。人文主義の伝統を背負うバーゼルと異なり、ここには重荷になるほどの伝統もなく、あらゆる文化の国際的な普遍主義が形づくられる。(*太字ゴチックは引用者=さとう)

チューリヒとはそういう都市なのである。芸術分野でみてもダダイズムを生み出した都市でもあるのだ。ダダというとパリという連想があるが、じつは第一次大戦中のチューリヒから生まれたものである。

チューリヒは、ビジネスパーソンにとっては、まず第一に「チューリヒの小鬼(=グノーム)たち」というフレーズで象徴されるファイナンシャル・シティー(=金融都市)だが、同時に芸術都市でもある。この関係は、英国のロンドン、米国のニューヨークは当然、イタリアの金融都市ミラノも同様だ。もちろん日本の東京もそうだ。資本が集中する都市に美術品が集積し、芸術都市としてのインフラも形成されるのだ。

チューリヒといえば国際金融都市チューリヒといえばレーニンの亡命地チューリヒといえばユング派心理学など、それぞれ連想するものは異なるだろうが、美術館もまたチューリヒを代表する施設のようだ。


「のようだ」と書いたのは、チューリヒには国際列車の乗り換え時間の数時間を利用して英語の市内ウォーキングツアーに参加しただけなので、残念ながらチューリヒ美術館には一度も行ったことがないからだ。

その意味でも、チューリヒ美術館の収蔵品の粋を鑑賞できる今回の企画展は、わたしにとってはありがたい企画であった。

ざっと駆け足で見るだけでもいい。行く価値のある美術展である。






<関連サイト>

「チューリヒ美術館展」
 ●東京展: 2014年11月26日~12月15日 国立新美術館(東京・六本木)
 ●神戸展: 2015年1月31日~5月10日 神戸市立博物館(神戸)


<ブログ内関連記事>

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