2016年3月20日日曜日

書評『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(高野秀行 × 清水克行、集英社インターナショナル、2015)ー いまから500年前の室町時代は2010年代のソマリアのようなものだ


 『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(高野秀行×清水克行、集英社インターナショナル、2015)を読んだ。この本は面白い!

高野秀行氏は、「辺境もの」のノンフィクション作家。
清水克行氏は、室町時代を専門とする日本史研究者。

清水克行氏の本はいままで読んでなかったが、早稲田の探検部出身の高野秀行氏の「辺境ものノンフィクション」はじつに面白い

たとえば『ミャンマーの柳生一族』(集英社文庫、2006)『アヘン王国潜入記』 (集英社文庫、2007)などのミャンマーものや、『西南シルクロードは密林に消える』(講談社文庫、2009)などがそれだ。だが、2013年に出版された、『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)が面白いと評判だが、残念ながらまだ読んでない。

そんな二人が意気投合して行った対談がこの本だ。語りおろしを編集して一冊にしたものだ。

(カバーの袖から)

いまから500年以上前の室町時代がなぜ現代の日本人からみて理解しにくいのか、その理由がソマリアをはじめとするアジア・アフリカの発展途上国の現在と重ね合わせると、じつによく理解できるのだ。 この対談を読んでみると、この両者がじつによく似ていることには驚くばかりだ。

わたしも東南アジアを中心に、バックパック背負っていろいろ歩き回った人間だが、何度もウンウン、そうだそうだ、とうなずくばかり。逆にいうと、現代の「辺境」は室町時代のようなものなのだ、と。

室町時代の崩壊が始まり、価値観が完全に崩壊したのが「戦国時代」という約一世紀つづいた過酷な内戦時代である。

生存のための自衛組織として戦国時代に形成された「村」(ムラ)という共同体は、「高度成長期」を経てすでに融解擬似共同体であった「カイシャ」もまた、すでに生活共同体として意味合いが薄れ、失われた20年(?)のなか、バラバラの個人となった日本人は漂流している。

日本から「村」(ムラ)という共同体はほんとうに消えてしまったのだ。戦国時代以来の大転換期にあることはひていできまい。では日本人は、いったい何にたよって生きていけばいいのか?

そんな時代に生きる現代日本人が、これからどうやって生きていくのかを考えるうえで、同時代に存在するソマリアなどの「辺境」や、自分たちの歴史である「室町時代」というのは、なんらかの参考になるかもしれない。

歴史が役に立つとは、そういうことなのだろう。ほんとに面白い本である。




目 次

はじめに(高野秀行)
第1章 かぶりすぎている室町社会とソマリ社会
第2章 未来に向かってバックせよ!
第3章 伊達政宗のイタい恋
第4章 独裁者は平和がお好き
第5章 異端のふたりにできること
第6章 むしろ特殊な現代日本
おわりに(清水克行)


著者プロフィール

高野秀行(たかの・ひでゆき)
ノンフィクション作家。1966年東京生まれ。『ワセダ三畳青春記』で第一回酒飲み書店員大賞、『謎の独立国家ソマリランド』で講談社ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞。著書は他に『移民の宴』『イスラム飲酒紀行』『ミャンマーの柳生一族』『未来国家ブータン』『恋するソマリア』など多数。  

清水克行(しみず・かつゆき)
明治大学商学部教授。専門は日本中世史。1971年東京生まれ。大学の授業は毎年大講義室が400人超の受講生で満杯になる人気。NHK「タイムスクープハンター」など歴史番組の時代考証も担当。著書に『喧嘩両成敗の誕生』『大飢饉、室町社会を襲う! 』『日本神判史』『足利尊氏と関東』『耳鼻削ぎの日本史』などがある。


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・・この本では言及はないが、日本の戦国時代と同時代の「初期近代」の西欧もまた、現代のソマリアのような時代であったというべきだろう

ミャンマーではいまだに「馬車」が現役だ!-ミャンマーは農村部が面白い


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