『明治のサーカス芸人はなぜロシアに消えたのか』(大島幹雄、新潮文庫、2015)という本を一気読みした。じつに面白い本だ。
幕末に「開国」した日本だが、開国後いちはやく日本を飛び出して海外に出て行ったのは軽業師(かるわざし)たちだったのだ。いとも簡単に海を越えていったのは軽業師たちならではというべきか。
西洋のサーカスにはない日本の曲芸に目をつけた外国人プロモーターたちが、その国の外交官に働きかけ、日本政府に旅券を発行させ渡航させたのである。
この本に登場するのはロシアに渡った軽業師たち。サーカス王国のロシアにとってさえ、江戸時代に大流行していた日本の軽業や曲芸は驚異的だったのだ。海を渡った軽業師たちは、ウラジオストクからロシアに入国し、広大なロシア国内をサーカス団として巡業していたのである。
そんな彼らも日露戦争やロシア革命といった歴史の激動に巻き込まれている。日露戦争では多くの軽業師たちは帰国を余儀なくされたが、なかにはロシアに残った者もあり、ソ連になってからも生き抜いた人たちもいたらしい。なんとスターリンによる粛清の犠牲者もいたのだ。
ロシアを中心とした海外からサーカスを呼び寄せるプロモーター会社に勤務する著者による、執念の探索から生まれたノンフィクションである。
コトバなどできなくても、身に着けた芸さえあれば渡世できるということでありますね。知られざる日本人たちの軌跡はじつに興味深い。
目 次
プロローグ
第1章 日露戦争前のロシアに渡ったサーカス芸人
1. なぜ彼らは海を渡ったのか
2. ロシアで好評を博した日本人たち
第2章 追跡、謎のヤマダサーカス
1. 戦慄のハラキリショー
2. 山根ハルコのロシア放浪記
3. 極東サーカス-サーカスがつないだ日本とロシア
4. 帰ってきたイシヤマ
5. ジャグラー、タカシマ伝説
6. 戦争とサーカス
第3章 サーカスと革命
1. 山根ハルコの悲劇
2. アヴァンギャルドとタカシマ
3. イルクーツクのドクター・シマダ
第4章 粛清されたサーカス芸人
1. ヤマサキ・キヨシの運命
2. ナロフォミンスクからの手紙
3. パントシ・シマダの秘密
4. 究極のバランス芸
エピローグ
あとがき
著者プロフィール
大島幹雄(おおしま・みきお)
1953(昭和28)年宮城県生れ。早稲田大学第一文学部露文科卒。サーカス・プロモーター。アフタークラウディカンパニー(ACC)勤務。海外からサーカスや道化師を招聘し、日本全国での興行をプロデュースするほか、石巻若宮丸漂流民の会事務局長、早稲田大学非常勤講師も務める。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
『明治のサーカス芸人は なぜロシアに消えたのか』 シマダ・グループによる「究極のバランス」
・・著者が入手した貴重な映像! 『明治のサーカス芸人は なぜロシアに消えたのか』(祥伝社、2013)のカバーに登場するのがシマダ・グループによる「究極のバランス」。
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(2016年4月5日 情報追加)
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