晴耕雨読というわけではないが、台風接近中の土曜日は読書に専念。2017年10月22日(日)は衆議院総選挙の投開票日だが、季節外れの超大型台風が日本列島を直撃している。
昨年末に購入したが未読だった『日本教の社会学-戦後日本は民主主義国家にあらず-』(ビジネス社、2016)を読む。
この本は、規格はずれの「知の超人」であった小室直樹氏と、おなじく在野の骨太の思想家であった山本七平氏の共同作業による共著。1981年に出版された本だが、長らく絶版となっていたものが昨年ようやく復刊されたものだ。
山本七平が提示した「日本教」というキーワードを、小室直樹が社会科学の観点から現実分析のツールとして鍛え上げた試みである。
「神学」という観点からみた「日本教」の分析はきわめて知的刺激に富んでいる。教義(ドグマ)、救済儀礼(サクラメント)、神議論(テオディツェー)。いずれも聞き慣れない用語だが、有効な分析概念だ。キリスト教徒で聖書関係の出版社を経営していた山本七平と、超人的ともいえる学者・小室直樹の対談形式だが、濃厚で濃密な内容で飽きが来ない。
「日本教」というのは、日本人が暗黙のうちに従わざるを得ない「見えない宗教」のようなものだ。仏教だろうが、キリスト教だろうが、結局は日本流に改造されてしまう理由がそこに求められる。マルクス主義もまた同様だ。
この観点から分析すると、近代以降の日本社会は「戦前」も「戦後」も基本的に変化していないとわかる。いままさに総選挙の最中だが、日本社会はほとんど何も変わっていないのだなと思わざるを得ない。だが逆にいえば、日本社会の基本的構造とメカニズムが理解するには、これ以上ないといっていいほどの分析ツールになっていると思う。
本書のなかで、なんといってもいちばん興味深いのは最終章である「第9章 日本資本主義精神の基盤-崎門(きもん)の学」で詳細に取り上げられている浅見絅斎(あさみ・けいさい)の思想だ。
浅見絅斎は、17世紀後半から18世紀にかけて生きた儒学者で独創的な思想家だが、その圧倒的影響が「明治維新革命」につながったとする議論。なぜか現在では、ほぼ完全に忘れ去られて顧みられることのない思想家だが、その「(政治的)正統性」にかんする議論が「尊皇思想」を生み出した点は、大いに注目しなくてはいけないだろう。
小室直樹と山本七平の両氏は、1980年代には当時の「知的ビジネスマン」(・・あえてマンと書いておく)に多大な影響力のあった人たちだが、すでに亡くなってから久しい。したがって、1981年に出版された本書の内容も、出版当時の時事的話題など部分的には古くなっている点は否定できないが、それでも内容的には現在でも十二分に説得力がある。
山本七平氏は、日本人を無意識に動かしている「空気」について最初に指摘した人として現在でも記憶されているだろう。さらに「日本教」という概念を提示した点も記憶されるべきだろう。
骨太な議論が好きな人には、ぜひ薦めたい本だ。
目 次
まえがき(小室直樹)
第1部 日本社会の戦前、戦後
第1章 戦後日本は民主主義国家ではない
第2章 戦前日本は軍国主義国家ではない
第2部 神学としての日本教
第3章 宗教へのコメント
第4章 日本教の教義(ドグマ)
第5章 日本教の救済儀礼(サクラメント)-自然、人間、本心、実情、純粋、序列、結婚
第6章 日本教における神議論(テオディツェー)
第7章 日本教ファンダメンタリズム
第3部 現代日本社会の成立と日本教の倫理(エティーク)
第8章 日本資本主義の精神
第9章 日本資本主義の基盤-崎門(きもん)の学
「まとめ」-あとがきにかえて(山本七平)
著者プロフィール
山本七平(やまもと・しちへい)
1921年東京生まれ。1942年、青山学院高等商業学部を卒業。野砲少尉としてマニラで戦い、捕虜となる。戦後、山本書店を創設し、聖書学関係の出版に携わる。1970年、イザヤ・ベンダサン名で出版した『日本人とユダヤ人』が300万部のベストセラーに。以後、「日本人論」で社会に大きな影響を与えてきた。その日本文化と社会を分析する独自の論考は「山本学」と称される。評論家。山本書店店主。1991年逝去。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
小室直樹(こむろ・なおき)
1932年東京生まれ。京都大学理学部数学科卒業。大阪大学大学院経済学研究科、東京大学大学院法学政治学研究科修了(東京大学法学博士)。この間、フルブライト留学生として、ミシガン大学、マサチューセッツ工科大学、ハーバード大学各大学院で研究生活を送る。2010年逝去。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
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