政治家も官僚もウソつきばかりという世の中だ。そんな状況のなかでは、こんなタイトルの本に目が行くことになる。
『なぜリーダーはウソをつくのか-国際政治で使われる5つの「戦略的なウソ」-』(ジョン・ミアシャイマー、中公文庫、2018)がそのタイトルだ。原著のタイトルは、Why Leaders Lie: The Truth About Lying in International Politics by John J. Mearsheimer 2011 日本語版はほぼそのちぃおくや句といってもいい。出来の良いタイトルは、あえて意訳する必要はないということだろう。
ここでいうリーダーとは国家指導者のことである。国家指導者が意図的にウソをつくことの意味について考察した興味深い内容の本だ。
国際政治学者の著者は、国際政治でつかわれるウソを以下の5つに分類している。
① 「国家間のウソ」(inter-state lies)
② 「恐怖の扇動」(fearmongering)
③ 「戦略的隠蔽」(strategic cover-ups)
④ 「ナショナリスト的な神話」(nationalist mythmaking)
⑤ 「リベラル的なウソ」(liberal lies)
国家指導者は他国との国家指導者とのあいだだけでなく、国民に対してもウソをつくことがある。だが、それは功利主義的にいって合理的な選択なこともあるので、かならずしもウソだから悪いとは言い切れないケースも少なくないのだ。
著者が引き合いに出しているケースでは、ケネディ大統領時代の「キューバ・ミサイル危機」(1962年)だろう。 じつはケネディはフルシチョフとのあいだで、キューバからのソ連の核ミサイル撤去の交換条件として、米軍がトルコの基地に配備した核ミサイルを撤去するという「密約」を結んでいたが、「密約」の存在はアメリカ国民には隠し通した。
だが、そのおかげでミサイル危機は回避され、冷戦が熱戦になることはなかったのであるから、結果オーライというべきなのだろう。これはウソの効用だ。 もちろんこの「密約」は現在では情報公開されているので、すでに歴史的事実となっている。
意外なことに国家指導者どうしはウソはつかないのに、自国の国民にはウソをつくことが多いという事実を著者は研究によって明らかにしている。
国家と国家のあいだに存在する世界は、「万人の万人に対する闘争」というホッブス的世界であり、「性悪説」を前提にしているのに対し、国家内では「性善説」とまではいかないまでも、民主義国家においては自分たちが選んだリーダーである政治指導者に対して基本的に信頼があるので、国民は政治家の言うことを信じやすいのである。もちろん、国民の政治指導者に対する信頼が失われたとき、政治家の言うことを誰も信じなくなりウソが突き通せなくなることは、現在の日本がまさにその実例であると言うべきだろう。
ウソのそれぞれについては、本文を読んでみることをおすすめしたい。著者が収集して分類した国際政治上の具体的なウソの事例が面白い。理路整然としてロジカルで明快な文章が、じつに読みやすい。日本語訳も読みやすい。
目 次
まえがき
イントロダクション
本書の狙い
本書の主な議論と構成
第1章 「ウソをつく」とはどういうことか
第2章 国際政治で使われるウソの種類
第3章 国家間のウソ
第4章 恐怖の煽動
第5章 戦略的隠蔽
第6章 ナショナリスト的な神話
第7章 リベラル的なウソ
第8章 国際政治で使われるウソの難点
第9章 結論
註
訳者解説
訳者あとがき
著者プロフィール
ジョン・J・ミアシャイマー(John Mearsheimer)
1947年生まれ。シカゴ大学のウェンデル・ハリソン特別記念教授。専門は国際関係論で特に安全保障分野。『大国政治の悲劇』で「オフェンシヴ・リアリズム」という国際関係論の理論を提唱。また中国の拡大を警戒する「米中衝突論」を主張し、2003年には米軍のイラク侵攻を批難してネオコンたちと対立した。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
訳者プロフィール
奥山真司(おくやま・まさし)
1972年生まれ。カナダのブリティッシュ・コロンビア大学卒業後、英国レディング大学大学院で博士号(Ph.D)を取得。戦略学博士。国際地政学研究所上席研究員、青山学院大学非常勤講師。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
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