2020年5月4日月曜日

『三万年の死の教え―チベット『死者の書』の世界』(中沢新一、角川書店、1993)ー 毀誉褒貶の多い著者だが、魅力的な内容の本であることは確かなことだ


新型コロナウイルスのパンデミックの外出自粛下、先月4月からFBで行われている「7日間ブックカバーチャレンジ」(*)。その7日目ということなので(途中で中断を余儀なくされたが)、本日(2020年5月4日)でいちおう最終日ということになる。「乗りかかった船」だから、そのまま漕ぎ続けて「彼岸」にまで行ってしまおうか? 


(*注)この件については、『法然の衝撃-日本仏教のラディカル』(阿満利麿、人文書院、1989)は、タイトル負けしていない名著。現在でもインパクトある内容だを参照のこと。以下、FBへの投稿をそのまま再録しておこう。


本日は、『三万年の死の教え―チベット『死者の書』の世界』(中沢新一、角川書店、1993)。 1993年に放送されたNHKスペシャル「チベット死者の書」に提供した台本を中心に書籍化したものだ。 現在は文庫化されている。

すでに四半世紀以上前となるが、あの当時、リアルタイムでこの番組を視聴して、インパクト受けた人は少なくないと思う。自分もその1人だが、『チベット死者の書』自体もいいが、この本もなかなか捨てがたい魅力がある。 

宗教学者の中沢新一氏は、この2年後のオウム真理教の事件(1995年)で激しいバッシングの嵐にあったが、それは当然の報い。因果応報であろう。 

宗教学者としてのスタンスというか、姿勢というか、あまりにも際どいものであったことは確かだ。うまく切り抜けたものの、現在でも釈然としないものが残る。情けないのは、中沢批判を回避した日本の仏教界である。 

まあ、そういう話題はさておき、この本にかんしては、問題がないとはいえないものの、魅力的な内容であることまで批判するつもりはない。

三部構成になっている。 

第一部 三万年の死の教え 
第二部 『死者の書』のある風景 
第三部 カルマ・リンパの発見 

付箋を貼ったままにしているのは、すごく気に入っているフレーズが紹介されているからだ。引用しておこう。 


老僧 お前にいい言葉を教えてやろう。インド人が考えたものだ。 
誕生の時には、あなたが泣き、
全世界は喜びに沸く。
死ぬときには、全世界が泣き、
あなたは喜びにあふれる。 
 かくのごとく、生きることだ。

仏教の「空」の思想の反映であるが、じつに素晴らしい詩句ではないか! 

このフレーズを知ってから、すでに四半世紀近いが、ときおり思い出しては、心のなかでそらんじてみる。死ぬのが喜びであれば、死ぬのも怖くなくなるのではないかな。 

さて、この「チャレンジ」も7日目となったわけだが、仏教でいえば7日目は「初七日」であり、7の二乗すなわち49は「四十九日」となる。 

人間の魂は死後49日を経て、「此岸」すなわち「こちら側の世界」から、「彼岸」すなわち「向こう側の世界」に移行するというのは、『チベット死者の書』で詳細に描かれているとおりだ。 

人類が蓄積してきた「智慧」は、ほんとうに素晴らしい。







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書評 『アースダイバー』(中沢新一、講談社、2005)-東京という土地の歴史を縄文時代からの堆積として重層的に読み解く試み

書評 『緑の資本論』(中沢新一、ちくま学芸文庫、2009)-イスラーム経済思想の宗教的バックグラウンドに見いだした『緑の資本論』

「宗教と経済の関係」についての入門書でもある 『金融恐慌とユダヤ・キリスト教』(島田裕巳、文春新書、2009) を読む 
・・宗教学者中沢新一には批判も多い。わたしも宗教学者・島田裕巳による批判はある程度までもっともなことだと考えている。にもかかわらず、中沢新一の語るコトバはきわめて魅力的だ。本人がどこまで自覚的なのかわからないが、ある種の人びとにとっては「ハーメルンの笛吹き」のような存在であるのだろう。これはほめコトバであり、同時に警告のコトバでもある。危険な魅力というべきか!?

書評 『オウム真理教の精神史-ロマン主義・全体主義・原理主義-』(大田俊寛、春秋社、2011)-「近代の闇」は20世紀末の日本でオウム真理教というカルト集団に流れ込んだ
・・「オウム真理教の主要メンバーたちは、わたしと同世代の1960年代生まれであったが、中沢新一や島田裕巳などオウム真理教にかかわった宗教学者たちはいずれも1950年代生まれであり、ちょうど一世代上にあたる。 著者の大田俊寛氏は1974年生まれの気鋭の宗教学者。1960年代世代であるオウム世代より一回り下の世代にあたる。中沢新一からは二世代下の世代にあたる。ある意味では、1960年代世代に対しても、1950年世代に対しても、ともに距離感をもって相対的に対象化できるポジションにあるといっていい。 本書は、オウム真理教的なものを批判するよりもむしろそれに加担した1950年代世代の宗教学者たちへの根源的な批判である」


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