2021年3月2日火曜日

書評『自閉症は津軽弁を話さない-自閉スペクトラム症のことばの謎を読み解く』(松本敏治、角川ソフィア文庫、2020)-言語の社会的機能についての考察を深めながらコミュニケーションの本質について考える

 

地方で生きている「自閉スペクトラム症」(ASD)の子どもが、なぜその土地の方言をはなさずに、アニメなどの視聴で習得した共通語でしゃべるのか、その謎を解くことで、人間とことばとの関係を「社会的関係性」の観点からさぐった研究成果を1冊にまとめたものだ。 

研究のきっかけと動機が面白い。帯にもあるように「夫婦喧嘩が発端の研究」である。著者の専門は障害児心理の大学教授、妻は臨床発達心理士。

「自閉症の子どもは津軽弁を話さない」という、臨床発達心理士の妻が現場観察から得た経験則は、はたしてほんとうか、もしそうだとしたらそれはなぜか、を探求した10年に及ぶ研究だ。 仮説をたてては検証し、またあらたな仮説をたてては検証を繰り返し、最終的に試論という形で結論に至る。それが科学(的研究)というものである。 

「意図」をキーワードに、言語を社会的相互作用のなかで捉えることで、なぜ自閉症児がアニメなどから習得した共通語をつかい、方言をつかわないかが解明されるのだが、結論もさることながら、結論にいたるプロセスが興味深いのだ。 

言語の社会的機能についての考察を深めながら、コミュニケーションの本質について考え、どうじに自閉スペクトラム症(ASD)についての理解も深まる内容。この本を読んで、はじめてASDについて、多少は知ることができた。 

「ですます調」をつかってわかりやすく書いているが、専門的な内容に踏み込んでいる専門書である。専門書であっても、こういう書き方もあるのだな、という感想をもった。


目 次

発端
第1章 自閉症は津軽弁をしゃべんねっきゃ
第2章 北東北調査
第3章 全国調査
第4章 方言とは
第5章 解釈仮説の検証
第6章 方言の社会的機能説
第7章 ASD幼児の方言使用
第8章 ASDの言語的特徴と原因論
第9章 家族の真似とテレビの真似
第10章 ことばと社会的認知の関係
第11章 かず君の場合
第12章 社会的機能仮説再考
第13章 方言を話すASD
第14章 「行きます」
第15章 コミュニケーションと意図
おわりに
引用・参考文献
謝辞
文庫版あとがき


著者プロフィール
松本敏治(まつもと・としはる)
1957年生まれ。博士(教育学)。公認心理師、特別支援教育スーパーバイザー、臨床発達心理士。1987年、北海道大学大学院教育学研究科博士後期課程単位取得退学。1999年、博士号取得(教育学)。2003~2016年9月、弘前大学教授。2011~2014年、弘前大学教育学部附属特別支援学校長。2014~2016年9月、弘前大学教育学部附属特別支援教育センター長。2016年10より、教育心理支援教室・研究所『ガジュマルつがる』代表。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


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